岡村靖幸が禁断のエロスに取り組んだ『DATE』、当時のプロモーターが振り返る
Rolling Stone Japan / 2021年11月26日 11時30分
日本の音楽の礎となったアーティストに毎月1組ずつスポットを当て、本人や当時の関係者から深く掘り下げた話を引き出していく。2021年11月の特集は「J-POP LEGEND FORUM 再評価シリーズ第1弾 岡村靖幸」。2021年11月16日に初めてのアナログ盤『家庭教師』が発売になる岡村靖幸のEPIC時代を辿る。11月第3週のパート3は、当時のプロモーター、現在はソニー・ミュージックダイレクト制作部部長・福田良昭と、元EPICソニー、現在は音楽制作事務所株式会社ニューカムの代表取締役・西岡明芳をゲストに2ndアルバム『DATE』を再評価する。
田家秀樹:こんばんは。FM COCOLO「J-POP LEGEND FORUM」案内人・田家秀樹です。今流れているのは岡村靖幸さん「どぉなっちゃってんだよ」。1990年11月16日発売、4枚目のアルバム『家庭教師』の1曲目でした。今月の前テーマはこの曲です。
関連記事:岡村靖幸『yellow』、当時のプロモーターと未だ得体の知れない才能について語る
今月2021年11月の特集は岡村靖幸。1986年デビュー、今年がデビュー35周年、日本のブラックミュージックのパイオニア。作詞・作曲・編曲・プログラミング、全部1人で仕上げてしまうマルチクリエーター・岡村靖幸さんを聴き直してみようという1ヶ月。「J-POP LEGEND FORUM 再評価シリーズ第1弾」。
先週は1stアルバム『yellow』のご紹介だったのですが、今週は1988年3月に出た『DATE』の特集です。ゲストは先週に引き続いて当時の岡村さんの担当プロモーター、現在は音楽制作会社、株式会社ニューカムの代表取締役・西岡明芳さん。そして、その次の担当で今も『家庭教師』の担当、プロモーションもされています。福田良昭さん。お2人においでいただいております。先週のアルバム『yellow』は1987年3月で、今日の『DATE』が1988年の3月。ちょうど1年間経ちました。
西岡:当時、プロモーションとかいろいろなことをやっていたんですけども、いろいろなことがあってようやくアルバム『DATE』。2枚目に辿り着いた感じですね。
田家:このアルバムを2枚並べて気づくこと。まず何よりもジャケットが変わった。
西岡:そうですね。もう本当に俺だよっていう感じのイイ男です(笑)。
田家:カメラを凝視してね。シリアスな感じで「勝負してるぞ」という、自信満々な感じの表情です。その1年間で何が変わったか、この後いろいろお訊きしていくんですけど、1番変わったのはどんなところでしたか?
西岡:ちょっと先週言い忘れたんですけども、1stアルバムが素晴らしい出来だったんだけれども、彼がずっと先に行っていて、まだスタッフが追いついてない感じがしたんです。音楽的な部分もそうですけど、彼が考えていることとか、実行してることになかなかスタッフが追いついてなかったとあらためて思いましたね。
田家:先週のお話の中に随所にあった、当時のEPICには岡村さんのようなアーティストがいなかった。
西岡:それもそうですし、僕らも逆に彼によっていろいろな媒体を開拓するとか、新しいところに進んでいく形になっていった気はします。
田家:福田さんはこの時はまだ札幌の営業所にいたという。
福田:この時は東京に戻っていまして、洋楽の配属になって、洋楽のプロモーションをずっとやってた時代ですね。
田家:違うセクションにいて、『DATE』は意識されてました?
福田:知ってました。ただ、マイケル・ジャクソンとかシンディ・ローパーとか、すごい人たちのLPが出ていた状態だったので。
西岡:当時、洋楽と邦楽は本当に1つのフロアで切磋琢磨していた感じだから。
田家:そういう方がこのアルバム『DATE』をどんなふうに聴いていったのかも、後ほど伺えたらと思うのですが、西岡さんが選ばれた今日の1曲目、アルバム『DATE』の1曲目でもあります、「19(nineteen)」。
19(nineteen) / 岡村靖幸
田家:1988年3月に発売になった岡村靖幸さん、2枚目のアルバム『DATE』の1曲目「19(nineteen)」。
西岡:2枚目のアルバムを1年待って、いよいよ針を落とした瞬間。当時は針ですよね(笑)。
田家:針ですね(笑)。現物のアナログ盤もマイクの前にあります。
西岡:ジャジャジャジャーン、ジャジャージャン、ハアというため息。これでもう「うわ」って思うわけです。
田家:ハートを掴まれたっていうやつですね。
西岡:これから何が始まるのかなという、これは序曲に過ぎない感じ。期待感の持てるアルバムができたなという感じは一音聴いただけでもそんな感じがしました。
田家:『yellow』の時にはなかった女性の登場の仕方、女性があしらわれている歌。それがこのアルバムでは本当に増えましたもんね。
西岡:それがどういうものをテーマにしたかは別にして、逆に岡村くんが思っていて1stアルバムには出なかったものがダイレクトに全部吐き出された感じのアルバムになってますね。
田家:「19(nineteen)」も泣いている女のことを歌っているんですけど、〈泣き続けてよ〉とか、〈サイダーの様です 愛がこぼれる姿は〉という表現が岡村さんの女の子の扱い方と恋愛の中のセンチメンタリズムみたいなものがとてもよく出ているなと思って聴いていましたけども。
西岡:言葉の選び方1つ1つが新鮮だったし、新しいものの見方、岡村くんならではのものの見方と言いますか。そんな1つ1つ言葉が散りばめられている感じですね。
田家:そういう青春感の中に〈清純なんてほんのちょっと〉、〈大人の優雅な DATE〉、〈あなたのドレスのジッパー外して 撫でてみたい〉。
西岡:なんてやつだって感じですよね(笑)。
田家:ちょっと色っぽいと言うんでしょうかね。
西岡:そこの狭間というか、奥手ではないんだけど、頭で想像しているものとのギャップみたいなもの、それが言葉になると。そこが彼の母性本能をくすぐるところと言いますか、セクシーなところなのかもしれないですね。
田家:今日は西岡さんがアルバム発売前のプロモ用のカセットテープも持ってきてくださって、その中で岡村さんが自分で『DATE』というタイトルの話をしております。この話は曲の後にまたしましょうか。西岡さんが選ばれた2曲目がこの曲です。「Super Girl」。
田家:80年代ダンスミュージックだなって感じがしますね。
西岡:華麗な感じがしますね。
田家:とても華やかで明るい。
西岡:本当にマハラジャとか、インクスティックな感じで。
田家:これを選ばれているのは?
西岡:僕はその当時、プロモーションの中で、タイアップを自分で見つけてくるのをやっていたんです。たまたま僕の知り合いにアニメ制作会社の人がいて、その人と話した時に「今度新作が出るから、新しいアニメを一緒にやらないか」って話になって、それは『シティ・ハンター』というアニメで。この枠はほとんどEPICが後々やっていくことになるんですけど、スタートがTM NETWORKの『Get Wild』で。2ndシーズンのエンディングを探していた時に、じゃあ岡村くんでお願いしようかなと、とりあえず売り込んだんですね。もう出来上がっていた曲なんですけど、はめてもらったらジャストフィットして、『シティ・ハンター』のエンディングに決定した。当時レコードでリリースされた感じです。そういう意味では、岡村くんバージョンが決定したところでの僕の中での思い出があります。
田家:福田さんが『シティ・ハンター』で「そうそうそう」と言われておりましたけども。
福田:要はTMの『Get Wild』からスタートするんですよね。アニメとのコラボレーションみたいなのは当時、まだ時代の主流としてなかったような気がして。純粋なアニメソングはいっぱいあったんですけど、アーティストのオリジナルの曲がアニメの中で使われる。結構大胆なやり方は当時なかった気がしていて。それを西岡さんが先陣を切って見つけてきて、形にした。これはすごく大きなことだって、岡村くんのこととは別として思っていたんですよ。
田家:EPICのプロモーションの新しいベンチャー性みたいなものもそこに出てくる。
西岡:オープニングとエンディングが小比類巻とTMとか、そういう意味では大沢くんがその次をやったり、ほとんどEPICで勝手にやらせてもらいました。
田家:テレビということで言うと、「Super Girl」は『オールナイト・フジ』がモチーフになっているというのがありましたね。
西岡:そうですね。その前の年に岡村くんが最初に『オールナイト・フジ』にも出ていたりするんですけども、その時の様、そこを観ていろいろ感化されたんじゃないかな。
田家:岡村さんの中での『オールナイト・フジ』的なものは結構違和感を持って観ていたりしたんでしょうね。
西岡:違和感かどうかはあれなんですけどね。
田家:歌詞の中で〈21で仕送りもらってる〉みたいな、それは『オールナイト・フジ』に集まっているような女の子に対してのシニカルな視線もあったりするんだろうなと思ったんですよ。
西岡:たぶんそうですね、きっとね(笑)。
田家:「家庭教師」の中でも、30万という女の子の仕送り金額が出てましたけどもね(笑)。80年代前半の女子大生の生活観察という(笑)。
西岡:そうですね。そういうものを見てたってことだよね。
福田:うん。岡村くんの人間的なピュアなところがそこの目線なんですね。
田家:いろいろな女の子に対してピュアさを失わないで批判的に見たり、挑発的に歌ったり。
福田:そうなんです。ある意味こういう女の子うらやましいとか、こういう女の子はちょっとやりすぎなんじゃないの?みたいなのが、ピュアさを通して映されているのがすごく岡村くんっぽい感じがします。
田家:2枚目のアルバム『DATE』から西岡さんが選ばれた3曲目「Lion Heart」。これはアルバムの4曲目に入っています。
西岡:あーこういう岡村もありかなっていう曲ですね。
田家:3曲目に「生徒会長」という、ヘヴィメタキッズと生徒会長が対立する、まさに青春ドラマのような曲が入っていて。西岡さんにお持ちいただいた『DATE』発売時のプロモーションカセットテープの中で、岡村さんご自身が「今回のアルバムテーマは青春だ」と話をされてました。
西岡:ちょっとませた青春。魅力的なものとか、いろいろなものが目の前に現れていっては消えていくみたいな時代だというようなことをたぶん思っていたと思いますし。
田家:もう1つ岡村さんがカセットの中で話をされていることがあって、「タイトル『DATE』。恋愛の中で1番美しいのがデートの瞬間なんだ」。
西岡:そのピュアさはちゃんと持ち合わせているし、でもいろいろな知識もどんどん入ってくるだろうしって感じで。
田家:アルバムを聴いた時に、初めてのデートの時のように、いろいろなときめきを感じてくれればいいな。そのカセットは、こういう話をしてほしいと希望して作ったわけじゃないんでしょ?
西岡:全然ないです。彼に全部任せて。
田家:アルバム『DATE』という中で。メロディアスな岡村靖幸という意味で、特筆する1曲になっております。カセットテープの中で「今回のアルバムは自分でいろいろな楽器をやっているんだ」と言っていましたね。
西岡:そうですね。レコーディングスタジオに入っていろいろなことをやっていくうちに、自分でギターもピアノもやって、自分の理想とする音像に近づけたい気持ちもあったと思うので。あっという間に全部マスターした感じで、びっくりしました。
田家:自分で楽器を弾いて詞も曲も書いてというのは「Lion Heart」もそういう曲でしょうね。
西岡:きっと自分のやりたい音は自分でという感じになったんだと思います。
田家:西岡さんが選ばれた4曲目「いじわる」。
西岡:この曲で1番印象に残っているのが詞の世界観。よく聴いていただければ分かると思うんですけど、〈靖幸の〉って人称が出てくる。愛されたいなら靖幸のベッドでというダイレクトな感じで詞を作ってきた。中では染めている髪のことも当時のディスコに行った時の風景も書かれている。僕らは仕事も一生懸命やってましたけど、遊びも相当一生懸命やっていたんですね。
田家:いろいろなことの中にそこも入っているんですね(笑)。
西岡:その中の光景も全部浮かぶなって感じだったので、そういう意味合いで想い出深い曲。この曲を聴くと、ワクワクする感じがあります。
田家:「いじわる」、詞をじっくりお聴きください。ユカという女の子が出てきます。エッチな岡村ちゃんというイメージがこの曲で作られたのかもしれないと(笑)。
西岡:かっこいいね、でもねー本当に素晴らしいよなあ。たしかにこの曲をやる時には挑発行為的なものがあったかもしれない(笑)。
田家:福田さんが当時EPICの洋楽で手がけられていた向こうのアーティストのラブソング、特にブラック系の人の中にはエロティックな歌はかなりあったでしょ?
福田:あったと思いますよ。これよりも過激と言うとあれですけど、もともとブラックミュージックの歌詞って一部では艶めかしいというか。そういう詞がダイレクトにあったので、日本語っぽくこういうふうにした岡村くんは結構パイオニアだなと思います。
田家:日本のポップス、歌謡曲はそういうのを避けてきたところがありましたからね。その枠を越えた1曲と言ってしまっていいんでしょうね。
福田:いいと思いますね。
田家:『DATE』の中から10曲目、「イケナイコトカイ」。西岡さんが選ばれた5曲目であります。
西岡:今でもライブでも定番になっている「イケナイコトカイ」。これもいい感じで心を覚ましてしてくれるという感じで、そういう意味合いでの曲としては最高だと思いますね。
田家:アルバムの中にも「いじわる」の後に「DATE」タイトル曲があったり、「どうかしてるよ」、「うちあわせ」、「不良少女」っていう曲が並んでいて、プラトニックな曲もあれば、「うちあわせ」のような。家庭教師の原型みたいな曲もある。
西岡:だから混在しているよね。
田家:そのものズバリの「不良少女」があったりね。
西岡:そうです。1つ1ついいテーマがあった気がしますね。
田家:あらためて1988年なんだ、というのを考えながら聴いていただけたらと思うのですが、バブルの絶頂に向かう日本。誰もがどこかで浮かれていた。そういう恋愛事情。六本木でタクシーが停められなかった時代。さっきの「19(nineteen)」よりちょっと若い、中高生の女子に知らない世界があるんだよと見せてくれたアルバムでもあったんだろうなとも思ったんですね。
西岡:そうですね。当時こういうことを歌っていた人はそんなにいなかったよね。他のアーティストではね。ただ、それでもまだヒットというところにはいってないんですよね。それは本当にやり続けることでの途中経過かもしれないですけれども、彼はそういうところをテーマにして世に訴えてきた感じだから。
田家:1988年、1989年、BOØWYが解散したとか、プリンセスプリンセスが大ヒットしたとか。
西岡:その時代をEPICも担ったわけですけども、ロックの中で孤軍奮闘していた感じなのかな、岡村くんは。
田家:バンドにしてもシンガーソングライターにしても、セックスみたいなことをテーマにしてる人はいなかったですもんね。
西岡:ご法度というか、遠回しに言えても、直接言葉にする人はいなかったですね。
田家:それをあえてやったと考えると、再評価の意味がとてもあるのではないかと。それが今月の趣旨でもあるんですけどね。
西岡:全然色あせてない、今の時代で聴いても違和感ない感じで受け入れられるんじゃないでしょうかね。
田家:「イケナイコトカイ」というのは当時のそういう10代のこたちが思っていたことではあるんでしょうし。
西岡:そうですね。周りはバブルでわーっとなっている中で。
田家:大人たちはみんな遊び歩いてるじゃないかみたいな(笑)。そういう時代の歌だということを踏まえながら、あらためてお聴きいただけたらと思います。
田家:アルバムは11曲入りで10曲目が先程の「イケナイコトカイ」で、11曲目が「19才の秘かな欲望」。1986年の渡辺美里のアルバム『Lovin you』に書いた曲のセルフカバー。
西岡:美里ちゃんに書いた曲も本当にいい曲がいっぱいあって、デビューシングルからそうですけど、この曲も岡村くんならではの曲で、美里ちゃんにぴったりな曲でもあって。セルフカバーしてくれて僕らもうれしかったです。
田家:これも西岡さんにお持ちいただいたカセットテープの中で「デビュー前に書いた曲を入れたんだ」と言っている。
西岡:その頃からそういう曲を作っていたこと自体、本当に驚きですし才能が溢れていたんだなって感じがします。
田家:アルバムを作っている時にステージのことは想定しながら作っていたんでしょうかね。
西岡:どうですかね。この頃になると、そういう意識は強かったと思うし、ちょっとファンキーな感じとか踊りっていうことをキメキメだったり、ステージに何を持ち込んでこういうところでこういうふうにしたらという絵も浮かんでいて作っていたような気もしますね。
田家:そういう中でこの話はしておきたいってものは?
西岡:いろいろあるんですけども……(笑)。
田家:これはなんですか?
西岡:これは反省の色なしって言って、店頭発売する前に広告で打ったんです。岡村くんと言うと、イメージがなかなか掴みきれない中、ワルのイメージと言うと変ですけど、当時のEPICの中ではこっちの方向にいるアーティストとして見せたいという意味で洒落で作ったんですけども。岡村くんも反省の色なしって言われて、困っているというような話もしました。それだけのことをいくつもやらかしてきているわけなんですよね(笑)。当時としてはちょっと小さなことも大きくして伝えて、ちょっとこいつは僕らには手に負えないやつなんだよってことを音楽も含めて伝えたかったことで、反省の色なし岡村靖幸という(笑)。
田家:今日あらためて、ふと思ったんですが、この放送を本人が聴いたらどう思われるだろうと(笑)。
西岡:まあ、聴いてほしくないかもしれないですけど、僕は(笑)。彼の音楽はさっきから何度も言ってますけど、素晴らしいなと思うし、時間を経ても聴ける音楽なので。未だに35年経っても岡村が愛されている理由は曲もそうだし、分かる気がしますね。
岡村靖幸『DATE』ジャケット写真
田家:福田さんが『yellow』の時にちょっと後悔があるって言っていましたよね。『DATE』に関してはそういうのはありますか?
福田:シングルの時から全く関わっていなかったので、あらためて聴くとその後というか、彼のキーワード「青春」に足を踏み込んで、ティーンの時の青春を題材にして、20歳、21歳の岡村くん目線も入れながら青春を描いていくというか。ファンに共有していくというか。それが始まったアルバムなんだなと聴いているみなさんもとっくに分かっていると思うんですけど、青春はここからなのかというのはすごく感じています。
田家:そういうアルバムの最後に、自分がデビュー前に書いた曲のセルフカバーを入れたということですね。
福田:ボーナストラックが「19才の秘かな欲望」。やっぱりティーンなんですね。目線は19才。その時の岡村くんよりちょっと下の目線がちゃんと入った、彼流の青春ソングというか。究極の青春ソングはここから花開いていく、原石が一気に磨かれていく、そういう印象を僕はあらためて持ちました。
田家:「19才の秘かな欲望」はアナログ盤には入ってないんですね。
西岡:アナログには入ってなくて、CDにボーナストラックとして入っていたと思います。
田家:まだアナログ盤が残っていて、CDも両方出していた、カセットもあった。
西岡:3つありましたね。
田家:これは調べればすぐ分かることなんですけど、当時、ライブアルバムってあったんでしたっけ?
西岡:彼の単独のライブアルバムじゃないんだけど、「広島平和コンサート」が1987年にあって、1曲岡村くんが尾崎豊と「Young oh! oh!」を歌っていましたよね。のちに「Dog Days」がCD化されていて。あの時のライブ音源が入っていたと思います。それ以外はたぶんないよな。
福田:ないですね。
西岡:なんでないんですかね。
福田:少なくともEPIC時代はライブ映像にもフルでは残ってなくて、半分とか7割ぐらいの曲しか入ってなかったりもするので。ライブということに関して、もしかしたら何か彼の中であったんじゃないですか。訊いたことないですね。
田家:「19才の秘かな欲望」はライブなので、ライブ盤というのも聴いてみたいなと思ったり。
西岡:映像はたしかに残っているけども。
田家:これからまだ再評価の課題が残っているのかもしれませんが、来週は3枚目のアルバムということになりますね。お2人またよろしくお願いします。
西岡:こちらこそよろしくお願いします。
福田:はい、よろしくお願いします。
田家:「J-POP LEGEND FORUM 再評価シリーズ 第1弾」。11月16日に初めてアナログ盤の『家庭教師』が発売になる岡村靖幸さんのEPIC時代を辿る1ヶ月。今週はパート3。1988年に発売になった2枚目のアルバム『DATE』についてお送りしました。ゲストは当時のプロモーター、現在は音楽制作事務所ニューカム代表取締役の西岡明芳さん。そして現在の担当、ソニー・ミュージックダイレクト・福田良昭さんをゲストにお送りしました。流れているのはこの番組の後テーマ、竹内まりやさんの「静かな伝説」です。
アルバム『DATE』。禁断のエロス。セックスという言葉を使う時にどこかで躊躇してしまう、僕らのような人間ってまだいるわけで。そういうことをポップミュージックで真正面から取り組んだのが『DATE』だと思いました。1988年がどんな時代だったか。村上龍さんの『トパーズ』という小説がありました。風俗で働く女性が主人公だった連作の小説だったんですね。中には倒錯した性というのもテーマになったりして、時代に蠢いている人間の愛と欲望みたいな。それが赤裸々に描かれていて、ベストセラーになったんです。
つまり、1988年、1989年というのは日本の戦後史の中で世の中が最もエロティックで、きらびやかな年だった。そう考えると、『DATE』が違う光り方をしてくるなと思いました。音楽業界はエンターテインメントであり、華やかな世界ですから、そういう時代のど真ん中にあったと思うんですね。みんなどこか浮かれた生活をしていて、その中でデビューしたばかり20代前半のシンガー・ソングライター、とても多感な音楽の才能が溢れていた彼が何を見たのか、時代を感じていたのか、恋愛に対してどう思ったのかを歌ったアルバムというふうに考えると、歴史的な1枚だろうと思います。10代に向けた音楽として完成している。今の草食と呼ばれている少年少女にどんなふうに聴かれるんだろう。岡村靖幸さんは時代と人間というテーマで格闘したシンガー・ソングライターだった。あらためて彼の稀有な存在を感じた、そんなアルバムでありました。
左から、福田良昭、西岡明芳、田家秀樹
<INFORMATION>
田家秀樹
1946年、千葉県船橋市生まれ。中央大法学部政治学科卒。1969年、タウン誌のはしりとなった「新宿プレイマップ」創刊編集者を皮切りに、「セイ!ヤング」などの放送作家、若者雑誌編集長を経て音楽評論家、ノンフィクション作家、放送作家、音楽番組パーソリナリテイとして活躍中。
https://takehideki.jimdo.com
https://takehideki.exblog.jp
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月 21:00-22:00
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