岡村靖幸『靖幸』、当時のプロモーターと岡村ワールドについて語る
Rolling Stone Japan / 2021年11月30日 19時2分
日本の音楽の礎となったアーティストに毎月1組ずつスポットを当て、本人や当時の関係者から深く掘り下げた話を引き出していく。2021年11月の特集は「J-POP LEGEND FORUM 再評価シリーズ第1弾 岡村靖幸」。2021年11月16日に初めてのアナログ盤『家庭教師』が発売された岡村靖幸のEPIC時代を辿る。11月第4週のパート4は、当時のプロモーター、現在はソニー・ミュージックダイレクト制作部部長・福田良昭と、元EPICソニー、現在は音楽制作事務所株式会社ニューカムの代表取締役・西岡明芳をゲストに3rdアルバム『靖幸』を再評価する。
田家秀樹:こんばんは。FM COCOLO「J-POP LEGEND FORUM」案内人・田家秀樹です。今流れているのは岡村靖幸さんの「どぉなっちゃってんだよ」。1990年11月16日に発売になった4枚目のアルバム『家庭教師』の1曲目、初めてのアナログ盤として先日発売になりました。今月の前テーマはこの曲です。今月2021年11月の特集は岡村靖幸。1986年デビュー。今年がデビュー35周年。去年35年目の新作アルバム『操』を発売したシンガーソングライター。作詞・作曲・編曲・プログラミングまで全部1人で仕上げてしまうマルチクリエイター。日本のブラックミュージックのパイオニアの1人でもあります。
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今月はあらためて岡村靖幸さんを聴き直してみようという1ヶ月。「J-POP LEGEND FORUM 再評価シリーズ第1弾」。岡村さんは1986年から2001年までEPICソニーに在籍して5枚のオリジナルアルバム、ベストアルバムとセレクションアルバムをそれぞれ1枚ずつ残しています。今月はその5枚のオリジナルアルバムを毎週1枚ずつ取り上げていこうという1ヶ月。今週は1989年7月に発売になった3枚目のアルバム「靖幸」のご紹介。ゲストは先週に引き続いて、当時岡村さんの担当プロモーター、現在は音楽制作会社株式会社ニューカムの代表取締役・西岡明芳さん。そして次の担当・福田良昭さん。現在ソニー・ミュージックダイレクトの部長さんで「家庭教師」の担当でもあります。こんばんは。
西岡明芳:こんばんはー。よろしくお願いします。
福田良昭:よろしくお願いいたします。
田家:3枚目になりましたー。
西岡:いよいよ。
福田:来ましたよ。
田家:来ましたか。そういうアルバムのタイトルが『靖幸』。
西岡:これびっくりしましたよね。
田家:アルバムのジャケットがピンクで。
西岡:「え! ピンク!?」って感じはあるかもしれないけど、岡村くんでピンクは何の違和感もないなって感じはあったと思いますけどね。
田家:アルバムのクレジットに「プロデュース、コンポーズ、アレンジ&パフォームby岡村靖幸」。名前だけ漢字になってましたけどね。
西岡:ここまでずっと自分がセルフプロデュースして、3枚目にしていよいよ岡村ワールド、やりたいことを全部彼がやるという意味合いでは最高のアルバムに仕上がっていると思います。
田家:これが僕なんだという自画像みたいな意味も込めて、そういうタイトルをつけたんでしょうね。どこが自画像なのか、今日はじっくりお話を伺っていこうと思いますが、西岡さんが選ばれた今日の1曲目、アルバムの1曲目でもあります、「Vegetable」。
田家:岡村靖幸さん3枚目のアルバム『靖幸』の1曲目「Vegetable」。
西岡:先程お話になっていたようにアレンジとか、よく聴くといろいろなものが綿密に絡まっていてトップにふさわしい曲。ここでいよいよ始まるぜ、お前らちょっと行くぜっていう感じのシュプレヒコールにも聴こえる曲ですね。
田家:所謂ファンクって感じじゃないですもんね。ラグタイムとかホンキートンクみたいなものとか入ってる。ロックンロールですもんね。〈愛犬ルー〉とか、〈パック売りの烏龍茶〉とか、〈ピーマン にんじん ナッツ 食べなくちゃ〉とか、このへんは自分のことなんでしょうかね。
西岡:うん、たぶん(笑)。どういう生活をしていたかはちょっと僕らにも分からないけども。あの頃を考えると、ちょうどバブルの頃ですかね。コンビニがあって、いろいろなものが意外と豊富に周りにある生活の中で彼も過ごしていたんじゃないかなと思うので。それを1つ1つ題材にしたのではないかなと思うんですけど。
田家:福田さんはこの曲をどう思いますか? 先週までは洋楽セクションでしたもんね。
福田:そうです。これでようやく洋楽からこっちに移ってきたんですけど、とにかくね、洋楽ですよ、言葉が。愛犬ルーもそうなんですけど〈うまい うまい うまい〉のフレーズとか、今ヘッドフォンで聴いていると歌詞は結構入ってくるんですけど、ラジカセとかで聴いていると語感が洋楽のフレーズに聴こえるんですね。要するに英語で歌っているような語感でなめらかに聴こえてくる。最近はこういう文字の置き方をする方がいっぱいらっしゃるんですけど。当時、桑田さんとか佐野さんとか、その後桜井さんとか、こういう置き方をしてなおかつ作品としてきちんと成立させる人たちが多いんですけども。
田家:まだ桜井さんデビューしてないですもんね。
福田:ええ。これはそのへんの方々と比べても「Vegetable」はそういう意味ではワードは洋楽かもねって。言葉の意味よりは言葉の響きというか。
田家:今週と来週はそういう話になるかなと思っていたのですが、今おっしゃった言葉のリズムとか、言葉のメロディの乗せ方とか、そういう意味では比較する対象があるとしたら桑田さんだけかもしれないなと思ったりもしてました。
西岡:佐野くんも近いところがすごくあると思うんだけども。
田家:岡村さんはもっとアナーキーなところがありますもんね。西岡さんが選ばれた2曲目はこれですね。アルバムの2曲目でもあります、「ラヴ・タンバリン」。
西岡:〈君が好きだよ〉、彼が男の子たちに自分の気持ちをちゃんと伝えなきゃだめなんだよってことを言っていると思うんですけども、彼のテーマになっているところをシンプルに出した。で、すごくメロディアスだし、ポップだし、すごく綺麗な曲だし。
田家:さっきの「Vegetable」の〈愛犬ルー〉は別に〈愛犬ルー〉じゃなくても、〈I canなんとか〉でもいいみたいな、英語日本語的な作り方があるとしたら、もう一方にちゃんと言葉を意識しながら書いている曲と両方あると。
西岡:そうですね。それは後者の方ですね。
田家:〈心に住んでる修学旅行が育つんだ〉。これは素晴らしいですね。
西岡:ほんと思いつかないですよね(笑)。そういうことがぽっぽ出てくる、天才としか言いようがないかもしれないですね。
田家:〈雨が降る日は 長靴の中に水たまりがありゃまだ10代〉。こういう青春、思春期の表現というのが。
西岡:1つ1つの映像が彼の中で残っていたのかもしれないですし。
田家:〈このバラ持ってTVの 男達の様に 告白タイム〉。これは『ねるとん』もあって。
西岡:『ねるとん』ですねー(笑)。いろいろなことを僕らも思い出せてくれますよね。
田家:そういう意味では当時の風俗とかテレビに流れている番組も反映されています。
西岡:そんな話をよくしました。当時で言うと、『オールナイト・フジ』の話とか、この女の子はかわいいとか、そんな他愛もない話を仕事の合間には話した覚えがありますね。
田家:アレンジもプログラミングも音は全部彼が入れている。コーラスだけチャカさんが参加している。そういう打ち込みみたいなものは先生がいたりしたんでしょうか。
西岡:先生がいた話は聞いたことないですし、全部自己流というか、スタジオの中でマニピュレーターの方とか、いろいろな方と出会ってその中で自分で学習していったのではないかなと思いますけども。
福田:これ以外の曲もそうなんですけど、『DATE』の時に「青春LP」というキーワードがあったんですけど、これぞ「青春LP」って感じがして、それっぽい曲に僕は思えます。
田家:「青春LP」でありながら、これは僕なんだという自画像的な。
田家:『靖幸』の4曲目「友人のふり」。西岡さんが選ばれた3曲目。この曲は?
西岡:岡村くんと言えばファンキーなナンバーもそうですけど、切ないバラードが必ずアルバムの中に何曲か入ってますが、このアルバムの中でも至極のバラードと言いますか。メロディアスであり、切ないとか、いろいろなものを感じさせる良いバラードだなと思いまして、好きな曲です。
田家:アルバムの中で1番素の感じがしますもんね。この曲もやっぱり歌詞に惹かれまして、〈でもいつでも僕 君の味方さ〉、〈岩場のデッキチェアーで 君のリボンに見とれてたら 僕の指を噛んだのは何故?〉。これ拍手ですよね。この一行。うわー色っぽいなと思って。
西岡:これは何からインスパイアされたのかな。
田家:岡村さんがビートルズと松田聖子とプリンスの三角形の中に僕がいるというのがヒントになって、あらためて聴いていたら、松本隆さんが作詞した松田聖子さんにこういうフレーズが結構ある。君のリボンに見とれてる。そしたら君が僕の指を噛んだ。僕の指を噛んだのがなぜ? これは松本隆ですよ(笑)。
西岡:その通りですね(笑)。 僕も松田聖子は担当していて、デビューから「赤いスイートピー」までが僕の担当だったんですけど。そういう意味では岡村くんが松田聖子を好きだというのは僕にとってもすごくうれしいことで、彼に影響がちょっとでもあったんだなと思って、当時うれしかったですね。
田家:この曲の中で〈あんまりもてなかった方だし 臆病で正直じゃないから〉。これは自画像なのかなと(笑)。
西岡:彼はなかなか自分で言い出せなかったり、告白できなかったり、思っていてもなかなか自分で言ったりできないところはあったみたいで。それをこういう新曲にして訴えていたんだと思います。
田家:綺麗なストリングスだなと思ったのですが、これは清水信之さんが手がけられていましたね。福田さんはこの曲についてどう思われました?
福田:繰り返しになっちゃうんですけど、彼のピュアな目線。もともと持っているピュアな感覚をそのまま表しているのと、まさに青春映画のワンシーンですよ。
田家:主演映画があったんですってね。
福田:『Peach』ですね。
田家:『Peach どんなことをしてほしいのぼくに』。このメインテーマが「友人のふり」だったと。この映画は今観ることはできますか?
福田:観れますけど、何年か前にDVD BOXを作って入れたんですけど、完売状態なんです。
田家:西岡さんが選ばれた4曲目、アルバムの5曲目「聖書 -バイブル-」。聖書と書いて、バイブル。
西岡:これは本当にじっくり聴いていただきたいけど、身体を動かしてもいいし。聴き応えもありますし、ちょっと詞は岡村ちゃん絶好調という詞になっていますので。
田家:〈Teenagerのあなたが なんで35の中年と恋してる〉っていう(笑)。
西岡:そうなんですよ。僕らも当時そのくらいの年齢だったので、何言ってんだって感じもあったんですけどね。それと中に出てくる〈Crazy×12-3=me〉。あの方程式は未だに解けてないよね。
福田:解けてないですね(笑)。
西岡:なんだろこれって思いながらもずっと30年くらい経っちゃったから。
田家:35の中年は妻帯者なわけで、Teenagerのあなたがあんな男と恋していいんですかという、そういう憤りが感じられたりもする(笑)。
西岡:世の中的に言うと、バブルなのでこういうところにいろいろな形で目が向けられるのはたぶんあったと思うので、そこは自然と岡村くんの中にもそういう情報が入った中でということがあると思いますけども。
田家:アルバムをずっと通していくと、岡村さんのある種の正義感みたいなものが必ず見えますね。
西岡:そうですね。やっぱりこうじゃなきゃいけないという感じ。でも、自分はそこにまだ到達していないから、でもそういうことに騙されちゃいけないんだよとか、ちゃんとしなきゃいけないんだよってことは道徳的な部分を訴えていますよね。
田家:だから強がったりとか、背伸びしたりとか、自分を悪ぶってみたりとか、いろいろな面があって。でも根底にあるのは正義感でしょうね。そんなことしていいの? みたいな。
西岡:ちゃんとしなきゃだめだよ、女の子とはってことですよね。ここの前も話しましたけども一歩、二歩も三歩も先に行っている岡村くんなのでこの先どこへ行くのかなという感じもありましたけど、プロモーションしがいのある曲だなと思っていました。
田家:福田さんの中でこの曲で思い出すことはありますか?
福田:ちょうど僕が来週いらっしゃる近藤さんの導きでDVD BOXを作ったことがあって、その打ち合わせの時にあったツアーだったと思うんですけど、「聖書 -バイブル-」のコンプリートバージョンと所謂コンパクトバージョンと2曲をライブでやったんですよ。シングルに立ったパフォーマンスとフルバージョンに立ったパフォーマンスと両方やっていて、これ一体何なんだろうな、でもどっちもかっこいいんですけど。こういうことって、結構ライブを観てるんですけど初めて。
田家:たしかに一回のライブで両方やる人はあまりいませんね。
福田:打ち合わせの時の食事の席で開口一番に本人に訊いた覚えがあるんですよ。その時は本人は答えは出してくれなかったんですけど、よく気づいたねみたいな(笑)。
西岡:当時、これ12インチシングルにして洋楽と一緒にディスコ回ってかけてくださいって言ってプロモーションした覚えがあるんですよね。
福田:欲しいですね、12インチ(笑)。
田家:それもやっぱり再発しないといけませんね(笑)。まだ掘り起こさなければいけないものがたくさんある。
田家:アルバムの6曲目「だいすき」。今日は当時のプロモーター・西岡明芳さん。そして2代目、バトンタッチしたプロモーター、現在の担当でもあります。福田良昭さんの2人にお越しいただいているのですが、今週も西岡さんがいろいろなお土産をお持ちくださいました。今日お持ちくださったのはハートマークのピンク色の。
西岡:このマークがこのアルバムからトレードマークというか。
田家:アイコンみたいなね。
西岡:これも未だに使われているやつかもしれないんですけど、彼っぽいでしょ(笑)。なかなか収納しにくいパッケージで、嫌がられるパッケージかもしれないけど岡村くんとして最高なものが出来上がったと思います。
田家:ピンクのCDですもんね。もう1つ番組表のようなものもあります。
西岡:これは当時EPICがちょうど10周年を迎えた年でもあって、いろいろなことをやろうかという意見がありまして。僕がやりたかったのがEPICのアーティストが全部、例えばラジオのパーソナリティになって、24時間それぞれが番組を持っていろいろな番組を作ったらおもしろいなという企画が通りまして。NACK5という放送局が開局するという情報とその試験電波が流れるタイミングがあったものですから。これに合わせて、番組を24時間分、佐野くんは佐野くんで、美里は美里でと、みんなパーソナリティになっていろいろな番組を作ろうと。その中に岡村くんの番組はどういうものをやろうかと言った時に「だいすき」っていう曲が出来上がるまでを番組にして。
田家:ドキュメンタリーみたいな?
西岡:ドキュメンタリーみたいな感じなんですけど、実は岡村くんのインタビューとスタジオに入って、最後にリミックスをして出てきたところで「どうだった?」ということをインタビューする番組を『レコーディング白書』と名付けました。
田家:次に発売になる岡村靖幸BOXにはそれも入るかもしれないですね(笑)。福田さんの中でこの曲で思い出すことはどんなことですか?
福田:あらためて聴いてみると、子どもたちのコーラスの使い方はここから始まるんですかね。そこからいくつかキッズのコーラスを使った曲があると思うんですけど、これが最初じゃないかなとなんとなく、間違っていたらごめんなさい。そこから始まるので、耳の覚えている感覚がすごくいい感じですね。気持ちいいというか。
西岡:本当にポップな曲だし、メロディアスだし、みんなで口ずさめる曲でもありますし、みんなに愛される曲だよね。
田家:「だいすき」の『レコーディング白書』、NACK5のドキュメンタリー残ってるかなあ(笑)。ちなみにNACK5は関東で私がレギュラーをやっている放送局でもあるので訊いてみようかなと思いましたが、『靖幸』の6曲目「だいすき」でした。
田家:流れているのはアルバムの8曲目「Boys」。ボイスパーカッションで始まっている。
西岡:ボイパですよね。この頃からボイパやっていたとしたら、本当にすごいなと思います。
田家:これを選ばれているのは?
西岡:出だしから一発でやられちゃったって感じの曲ですね。リズム隊も含めて。この印象にすごく残る「コンコンコン」ってものとか、1つ1つの言葉が耳に残って気持ちいいなって感じですよね。
田家:アレンジド&パフォームドby自分っていうのじゃないとなかなかこういうものはできないかもしれませんよね。さっきの「だいすき」を女の子のためにと歌っていましたが、これは男の子の歌ですもんね。当時の男の子の最先端、コンピューターゲーム。
西岡:そういう生活でしたよね。夜は彼も寝ないでやっていたのかもしれないですけど。
田家:この曲のテーマの1つが成長だろうと思ったんですね。〈大人になる前にまず、立派な子供になろうよ〉っていうのがいいなと思って(笑)。
西岡:いいですよね(笑)。僕らもあらためて見返すと、いろいろなことを教えてくれていますよね。
田家:恋愛とは何か、純情ということがもちろん彼の歌のテーマにはずっとなっているんでしょうけど、これは大人と子供という意味で象徴的な曲でもあるんだなと思ったんですよ。〈電車の中で漫画を読む親父ぐらいの人を あーダサイんじゃないのかなあ〉と言っている。
西岡:教育的指導ですよね(笑)。
田家:漫画が流行っていたりしたから、漫画を電車の中で読むのが物分りのいいお父さんだと見せたがるみたいな35歳の中年もいたのかもしれない(笑)。
西岡:でも当時の世相というか、そういうことがいろいろ僕らも今聴くと思い返されてしまって、その後、みんなファミコンを電車でやっちゃこれは目が悪くなるからだめよって感じになっていく。その前ぐらいなタイミングですよね。
田家:アルバムのタイトルの『靖幸』には自画像的な意味があるんだろうと思ったのですが、〈僕たちの生き方って正しいのかな?〉とか、〈子供を育てられるような立派な大人になれんのかなあ?〉 っていう。これも素直だなと思ったんですよ。
西岡:ここでそれまでの恋愛とか、青春とかっていうところから徐々にアルバムの中での変化というか、この曲で聴くことができるので。まあ、ちょっと驚きますけども。
田家:福田さんが前作の『DATE』をまさに青春そのものと言われましたけど、『DATE』の中の青春と『靖幸』の中の青春はちょっと違いますよね。
福田:違いますね。もちろん、真っ只中にはいるんですけどたしかに気持ち的とか、精神的な成長というのはこの中で既にあったり、この曲なんかそうなんですけど。それが『家庭教師』に移っていくんですよね。またさらに成長して。過程と言うと、ちょっと言葉は違うのかもしれないんですけど、岡村くんの気持ちというか、感情というか、言葉と言うというか。そういったもの、芯の部分が作品の中で成長していく。それを『DATE』、『靖幸』、『家庭教師』って繋げて聴いていくと、そのへんがよく分かるんじゃないかなと思いますね。
田家:成長三部作であり、青春三部作である。
福田:だと思いますね。
西岡:音楽的な部分でもそうだと思うんですよね。詞の世界観もそうだし、どんどん成長していることが垣間見える。すごいですねこの三部作は。
田家:アルバムの10曲目「Punch↑」には〈戦争なんか おきたらどーすんだよ〉って歌詞もありました。ちゃんとこの国はっていう批評的な世の中に対しての目がありますよね。
西岡:あるねー。本当にいろいろなことを見ていたし、いろいろなことを感じていて、すごいと思いますね。それしか言いようがないな。
岡村靖幸『靖幸』ジャケット写真
田家:西岡さんはこのアルバムで離れるんですよね?
西岡: EPIC内なんですけど、変わることになります。残念ではあったんですけど、そういうことで言うとこの三部作で福田くんにバトンタッチという感じだと思います。
田家:福田さんはバトンタッチされた時はどう思われたんですか?
福田:とてつもない才能の持ち主だし、『家庭教師』で申し上げたかもしれないんですけど、僕でいいのかなっていうのはまず最初の感情でしたね。僕みたいな人間が彼の音楽をプロモーションで伝えられるのかみたいな。申し訳ないかもしれないという思いがすごい強くて、必死になって彼についていこうと思ったような気がします。
田家:そういう意味で『DATE』、『靖幸』、『家庭教師』この3枚。『yellow』もそうですけど、EPIC時代の岡村靖幸さんがちゃんと世の中に評価されている感じはありますか?
西岡:評価ってその時代で評価されるものもあれば、後々評価されるものもあると思うんですけど、僕らはあの頃はEPICという中でこれからいろいろ何が起こるんだろうと、すごく楽しい気持ちもあるんだけど岡村くんの成長に僕らがどうやってついていくというか、そういう部分も非常にあったし。みなさんにその場で伝わったかどうかは僕らも分からないんですけど、今こういう形でまた岡村くんがちゃんと評価されている。やはり地道なものがこういう形で愛されていくという意味で言えば、すごくいいことを僕らも協力できたなと感じがしますね。彼自身の音楽にそれだけの力があるのは当たり前の話なんですけどね。
福田:正直言うと、僕の口からはきっとちゃんと伝えられていないというか。僕の時代はおそらくEPICからはきちんと伝えられるべきことが伝えられていない、広げられるところが広げられてないふうに反省しています。それを補って余りあるぐらい田家さんみたいな方とか、岡村くんをリスペクトするミュージシャンの方とか、クリエイターの方とかが遥かに的確な言葉で彼の音楽を今までずっと伝えてくれているんですよ。こういうアーティストって実はいそうなんだけど、本当に少なくて。どこかでその声が途切れたり、ちょっと曲がって伝わることがあるんですけど、彼の音楽の良さ、彼のアーティストの魅力がすごくいい言葉でずっと30年以上伝わっているのは彼の素晴らしさだと思いますね。
田家:来週は最終章になるのですが、福田さんは来週も登場いただきます。
福田:はい! お願いします。
田家:西岡さんありがとうございました。
西岡:ありがとうございました。
田家:流れているのはこの番組の後テーマ、竹内まりやさんの「静かな伝説」です。
『靖幸』の最後に「バスケットボール」という曲が入っているのですが、〈僕はまるで 誰もいない教室の 机に書いてある 意味のない落書きさ〉って歌詞があったんですね。どこか痛々しいなという一行でありまして。先週は1988年の話をしましたが、1989年というのは日本の株価が史上最高を記録した年なんですね。つまり、経済的に言うとバブルの絶頂期が1989年でそこから後退期に入っていくわけです。1988年、1989年というのはバブルに向かっていく日本が1番浮かれていた時代で。青春というのも、その中に巻き込まれていったわけですね。世の中が変わっていく中で若者たちの在り方もそれにつられて、激変していった。
あらためて岡村さんの80年代後半はバブルに翻弄された多感な才能という1つの例かもしれないなと思ったんですね。とても感受性の強い、才能のある、表現力のある、そしていろいろなことを学びたいと思っている若者が目の前の激変する風景、出来事、生活模様にいろいろなことに考えて、それを作品にしていって根幹にあったのが青春だった。『靖幸』の後に90年に4枚目のアルバム『家庭教師』が出るんですね。あらためて思うのがこの型破りさ。類型とか、前例がない、いろいろな音楽が全部ここに集まっていて自分の音楽になっている。当時の岡村さんのインタビューの中に「ちゃんと分かってもらえるのは10年後、20年も後だと思う」という発言がありました。『靖幸』そして『家庭教師』から30年が経ったわけです。来週は最終週をお送りします。
左から田家秀樹、福田良昭、西岡明芳
<INFORMATION>
田家秀樹
1946年、千葉県船橋市生まれ。中央大法学部政治学科卒。1969年、タウン誌のはしりとなった「新宿プレイマップ」創刊編集者を皮切りに、「セイ!ヤング」などの放送作家、若者雑誌編集長を経て音楽評論家、ノンフィクション作家、放送作家、音楽番組パーソリナリテイとして活躍中。
https://takehideki.jimdo.com
https://takehideki.exblog.jp
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月 21:00-22:00
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