岡村靖幸、最新アルバム『操』までを当時のプロモーターとV4代表が語る
Rolling Stone Japan / 2021年12月21日 7時0分
日本の音楽の礎となったアーティストに毎月1組ずつスポットを当て、本人や当時の関係者から深く掘り下げた話を引き出していく。2021年11月の特集は「J-POP LEGEND FORUM 再評価シリーズ第1弾 岡村靖幸」。2021年11月16日に初めてのアナログ盤『家庭教師』が発売された岡村靖幸のEPIC時代を辿る。11月最終週のパート5は、当時のプロモーター、現在はソニー・ミュージックダイレクト制作部部長・福田良昭と、現所属事務所・自主レーベルV4の代表取締役社長、アルバム『操』のプロデューサー、ディレクター・近藤雅信をゲストにアルバム5th『靖幸』から最新アルバム『操』を再評価する。
田家秀樹:こんばんは。FM COCOLO「J-POP LEGEND FORUM」案内人・田家秀樹です。今流れているのは岡村靖幸さん「どぉなっちゃってんだよ」。1990年11月16日に発売になりました、先日31年振りに初めてアナログ盤になった4枚目のアルバム『家庭教師』の1曲目。今月の前テーマはこの曲です。
関連記事:岡村靖幸『靖幸』、当時のプロモーターと岡村ワールドについて語る
今月は5枚のオリジナルアルバムを毎週1枚ずつ取り上げて聴いていこうということで始まったのですが、今週は1995年12月に出た『禁じられた生きがい』と2020年4月に出た新作アルバム『操』。2枚のお話をしていこうと思います。当初はEPIC時代の5枚のオリジナルアルバムご紹介の1ヶ月という趣旨で始まったのですが、やっていくうちに再評価という言葉が自分で気になってきまして。過去の人をあらためて見直すと認識されるのだとしたら、それは本意ではないなと方針を変更して、やっぱり最後は最新アルバム、最新シングルの話を訊いていこうということになりました。ゲストは先週に続いてソニー・ミュージックダイレクトの部長、4枚目のアルバム『家庭教師』から担当になって、今の岡村さん担当でもある福田良昭さん。そして、今の所属事務所自主レーベルV4の代表取締役社長、アルバム『操』のプロデューサー、ディレクター・近藤雅信さん、お2人をお招きしております。
福田良昭:こんばんは! よろしくおねがいします。
近藤雅信:毎度いつも呼んでいただいてありがとうございます(笑)。
田家:1ヶ月間近藤さんのキャリアを特集したこともありましたが、先日アナログ盤になった『家庭教師』はお2人がタッグで動いて誕生したということになりますよね?
福田:というよりは、大プロデューサーの近藤さんがいらっしゃいますので。基本は近藤さんのアイデアというか、近藤さんが発信されることをどれだけ実現できるかが僕らの使命です。
近藤:すごく良いものができました。
田家:ジャケットの真ん中に丸い穴があって、そこが鏡になっていて手に取ると自分の顔が写る。これは近藤さんのアイデアだって1週目でおっしゃっていましたもんね。『禁じられた生きがい』は1990年の『家庭教師』から5年振りに発売になったオリジナルアルバムで、この時も福田さんが担当されていて。
福田:僕は『家庭教師』から始めて、このアルバムが出るまで5年ぐらい。ある意味辛抱の日々というか、才能がきちんと花開くのをひたすら待っていた時期で。その間にも、シングルも当然出ていますし、ライブもやっていましたから。とは言いつつも、岡村くんとの距離が離れた時代ではなく、むしろ僕がやっていた時期で言うと1番近くにいた時代だったような気がします。
田家:そんな話を追々伺えたらと思うのですが、近藤さんは『禁じられた生きがい』が出た時は東芝EMIのプロデューサーですよね。
近藤:この頃って小沢くんや布袋くんをやっていた時期で。曲だと「サレンダー」とか「ポイズン」、黒夢の「BEAMS」とか、高橋幸宏さんの『フェイト・オブ・ゴールド』っていうアルバムを持っていたりというセクションの制作部長をやっていたんです。
田家:『禁じられた生きがい』の記憶はおありになります?
近藤:ありますね。EPICソニーは業界の中でも友だちが多くて、その中でも話を聞いたりしてました。
田家:近藤さんがお作りになった去年のアルバム『操』はアルバムチャート2位で、岡村さんのキャリアの中で最高位だったのですが、今年は新曲も発売になりました。今日の1曲目は3月に発売になった岡村靖幸さんのシングル「ぐーぐーちょきちょき」をお聴きいただきます。
田家:おもしろい曲ですね。この曲については後ほどまた伺おうと思っているのですが、岡村さんは今年はツアーもありましたもんね。
近藤:去年から延び延びで2回延期して、やっと今年の春10本ちょっとできました。
田家:今年のツアーでもEPIC時代の曲「カルアミルク」、「大好き」とか、「あの娘ぼくがロングシュート決めたらどんな顔するだろう」とか入ってましたね。
近藤:いつも基本のところでそういう曲は入れていますね。古い、新しい関係なくアレンジもどんどん進化していますし、普遍性みたいなものをいつも提案できるかなと思っています。選曲に関しては本人が自分で考えてやってます。
田家:先週の話の中で福田さんが「バイブル -聖書-」をシングルバージョン、アルバムバージョン両方やったことがあると話をされていましたね。
福田:よく覚えてますね。福田さん記憶力すごいですよねー。
田家:そんな話も織り交ぜながら、ゆっくりと話を進めていきたいと思います。
田家:お聴きいただいているのは1995年12月に発売になった5枚目のオリジナルアルバム『禁じられた生きがい』の中の「パラシュート★ガール」。福田さんが選ばれた1曲目です。
福田:事前にシングルカットしている曲なんですけど。
田家:1992年にシングル盤です。
福田:岡村くんのワードのチョイスと語感、響き。それが聴いていると洋楽というか、英語詞みたいに聴こえるという話を先週したかと思うんですね。これもそれに近いものかなと思っていて、なおかつそれが言葉の意味を持たないわけではなく詞としてきっちり成立して、岡村靖幸流の歌詞、表現になっているというか。その象徴的な1曲だなと思って選ばせてもらいました。
田家:このシングルが出てからアルバムまで3年あるわけですもんね。
福田:僕らとしては、まあいずれできるんじゃないかなと思っていたんですけど。
田家:『家庭教師』のことを第1期の終わりと話していた岡村さんのインタビューもありましたよ。
福田:そこから第2期岡村靖幸の行き着くべきところ、向かうべきところを定めていた5年間なのかなという感じもしますけどね。
田家:今回の1ヶ月、岡村さんの特集をやるにあたって参考資料として1番役に立ったのが『ユリイカ』という雑誌で。2013年7月に出た岡村靖幸特集。その中でバルボラさんという人が当時の世の中とのことを克明に書いておりまして、『家庭教師』から『禁じられた生きがい』の岡村さんの試行錯誤の中に、バブルの崩壊という世の中の変化があったのではないかと書かれていたんですよ。
近藤:バブルって日本の社会的には1994年、1995年ぐらいで弾けているじゃないですか。音楽産業自体は弾けたのが1998年なんですよね。だから、まだ残り香というか、自分のいる業界とバブルが弾けちゃってる社会との狭間の時ですよね。
田家:そんなことを思いながらお聴きいただけたらと思います。ホーンとコーラス以外、全部自分でやってるんですよね。
福田:そうですね。
田家:これもいろいろな要素が入ってますもんね。
福田:近藤さんももしかしたらお手元にあるのかもしれないですけど、「パラシュート★ガール」のまだ世に出ていないアザーミックスが存在します。2003年頃にBOXを作った時にEPICから同時にベスト盤を出す企画がちょっとあって、それはポシャったんですけど、その時のそのボーナストラックで岡村くんが作りかけたのかな、持っている別ミックスがあるって言って。それを探すからって1日スタジオに入って、仕上がったのが1個あるんですよ。
田家:近藤さんはそれをご存知なんですか?
近藤:いや、知らないですね。
田家:先週もこういう話がありましたね。まだ出してないものがたくさんあるってことですね。
福田:分からないですけど、たぶんそうだと思いますね。90年代後半から2000年代の初頭ぐらいまでの間に作った、もしくは作りかけた音は持っているんじゃないかなって推測です(笑)。
田家:アルバムの5曲目「妻になってよ」。これを選ばれたのは?
福田:聴いた時に衝撃的だったので(笑)。主人公は20代半ば、まさに詞にあるように。表現がダイレクトですよね。切ないは切ないんですけど〈妻になってよ〉ですから、これまでの青春恋愛とはちょっとステージが違う。そういう歌詞でこういうメロディだったので、聴いた時にものすごい衝撃を受けて。実はこれ、シングルカットをしようかって話が当時あったんです。かなり冒険的なところだったと思うんですけど、所謂僕らで言う編成会議があって、そこには上がっていて型番ももらっていたんです。せっかくなので近藤さんにも訊きたいんですけど、この曲ってシングルカットしてたらどう思います?
近藤:これぞイケるって曲と繋げて出しちゃうかも。「スーパー★ガール」とか。カウンターとして出すみたいな。出し方の物語があればいいじゃないですか。
田家:出し方に物語があるかどうか、いい言葉ですね。
福田:当時近藤さんとちゃんと深く知り合っていて、言葉をもらっていたらもうワンプッシュできたかもしれないですね(笑)。
田家:EPICの編成会議ではそういうストーリーが生まれなかった(笑)。
福田:生まれなかったですね(笑)。
田家:この曲は全部自分ですね。プロデュースド、コンポーズド、アレンジド&パフォームドby岡村靖幸という1曲です。アルバムの1曲目「あばれ太鼓」はどこか和風な感じがあるでしょ。
福田:うっすら記憶なんですけど、もともと歌詞が入るために作っていたんですけどインストとしてもすごくクオリティが高いしいけるんじゃないかというので、最後にこれを入れるって決まった曲だったかと思います。
田家:さっきお聴きいただいたシングルの「ぐーぐーちょきちょき」がどこか和風だったりもしたので、そういう流れがあるのかなとも思ったり。
近藤:「ぐーぐーちょきちょき」はNHKのみんなのうたがあってできた曲なんですけど。
田家:あ、じゃあこの話はまた後ほどにしましょう(笑)。アルバムの作り方で苦労されたことはあったんですか?
福田:作りながら次の岡村靖幸の行き着く先じゃないけど、それを模索して結果的には整えているというか。決してオムニバスではないですね。
田家:流れているのはアルバム8曲目「Peach Xmas」。この曲を選ばれているのは?
福田:直接岡村くんには関わらない1人の男としての主張があって選びました(笑)。要は歌詞にも出てくるように12月になって、ソワソワする男子が今やいるのかな? という疑問もあったりして。今、秋から冬にかけてのイベントってハロウィンがかなりフィーチャーされていて、クリスマスが今の若者の中で最大のイベントじゃなくなっている思いがしてまして、60歳手前の男として。クリスマスにソワソワドキドキしていた感覚は、青春している人たち、青春したい人たちには持っていてほしいなというか。せっかくいろいろな環境が和らいで来ましたし、今年の12月はちょっとだけソワソワしてほしいなという(笑)。
田家:今の人向けにね(笑)。これはアルバムが発売された後にシングルになっているわけで、誰もがクリスマスソングを出したがった、このアーティストのクリスマスソングがあるといいよねみたいな雰囲気が蔓延していた時代ですもんね。
福田:そうですね。実を言うと、発売が延期になっているんですよ。12月に出たんですけど、パッケージ関連で言うと、当時近藤さんは本当によくご存知だと思うんですけど、CDパッケージを作るにあたって特別な仕様を争っているというか、何が1番すごいの? みたいなのがあった時代で。この初回仕様のパッケージって実は薄いダンボールを最終的にタコ糸で十字に結んでいるんです。このタコ糸結びというのが実は、7万枚ぐらいを何十人かの人たちが工場で一気にやるんですけど思いの外時間がかかって(笑)。
アルバム『禁じられた生きがい』ジャケット写真
田家:延期せざるをえなかった(笑)。パッケージということで言うと、『禁じられた生きがい』はジャケットがそれまでとは違いますもんね。色使いとかデザインとか。
福田:光が当たると色がちょっと変わってくる。特殊な印刷技術。
田家:『家庭教師』の時はご本人があまり取材を受けたくないのでやっておいてよということで、福田さんが代わりにメディアの対応をされた。『禁じられた生きがい』の時はどうだったんですか?
福田:あまり変わらないです(笑)。条件に合致したところは出るし、出られずに僕ができるところはやっていたという。
田家:「Peach Xmas」について、取材でどんな話をされたんですか?
福田:プロモーション的なところで思い出したのはNHKのクリスマス特番に彼が出ることになって、それがきっかけでこれを作った記憶があるんです。発売は1995年12月ですけど、その前にNHKのクリスマス特番があったんです。その時に彼がクリスマスの曲を歌いたいって言ったんですね。でも、彼は当然カバーもやらないし、彼の持ち曲でクリスマスっぽい曲はなかったはずで、これを作ったんですね。彼らしいというか、サービス精神というか、どうせやるならクリスマスだからクリスマスの曲やるよという。
田家:この『禁じられた生きがい』がEPICで最後のオリジナルアルバムになったわけで、あらためて福田さんの中でどんなアルバムですか?
福田:当時、アルバムを手にした時には若干の重みって言うんですかね。何かの重みみたいなものを感じた記憶がうっすらあるんですけど。
田家:『家庭教師』とは違うところがありますね。そういう青春感が違いますよね。
福田:重いというのは捉え方によってはネガティブになるんですけど、そうじゃなくて重みですよね。
田家:大人になったということなのかな。
福田:そういうアルバムなのかなって、つくづく感じた曲ではあるんですけど。今こうやって何曲か聴いてみて、重みはあるもののポップアルバムとしてはすごく優れている感じはあらためてしますね。
田家:近藤さんは頷いていますけども。
近藤:「Peach Xmas」は僕が東芝にいる頃に聴いて、衝撃的で。この曲は悔しかった。ポップソングとして完成形だと思ったし、本人も作家からデビューして自分でソロでという流れの中での1つの完結点だなと思ったし。この曲は東芝で出したかったと当時思った。
田家:いい話だなあ。クリスマスソングのスタンダードとしてこの曲は再評価されるべきですね。『禁じられた生きがい』から福田さんが選ばれた3曲目「Peach Xmas」でした。
田家:2020年4月発売、8枚目のオリジナルアルバム『操』の1曲目「成功と挫折」。音の感じが違います。今月のテーマの1つ「再評価」という言葉は過去の作品について使っているわけではなく、今の存在を再評価するための入り口なんだということで、後半は2004年から岡村さんを手がけている近藤雅信さん。事務所とレーベルの社長さんです。近藤さんが選ばれたのはこの曲ですね。
近藤:個人的な趣味で選びました。ファンクでメタリックでうねうねする感じが大好きなんですよ。
田家:2004年当時、それまではユニバーサルのデグジャムレーベルのトップだった。2013年に独立して事務所とレーベルを立ち上げられて、2016年にアルバム『幸福』、2020年に『操』を出されて。EPIC時代の岡村さんについてあらためてどんなふうに思われますか。
近藤:EPICという会社はとても特殊なレコード会社だと思っていて。ロックレーベルなんですけど、実はロックはいろいろな要素があるわけで。所謂アンチ歌謡曲というスタンスも非常に表層的な部分であって、実は岡村くんのプロデューサーである小坂洋二さんも、もともと渡辺プロダクションで布施明さんのマネジメントをやられたり、大沢誉志幸さんとか松岡英明さんは渡辺プロ系のヒップランド、当時はノンストップだったのかな、そこにいたりもしましたし。渡辺出身のディレクターも何人かいましたよね。そういう歌謡曲のノウハウを知っていて、その上で俺たちはカウンターカルチャー的なもの、自分たちの試合をやるみたいなレーベルだった。そこが従来のレーベルとちょっと違っていたんですよね。それを後押し、システムを作ったのは丸山茂雄さんでしょうし、岡村靖幸というアーティストはそういった意味では作家から育てていって、ソロでアルバムを出していくという、渡辺プロ的なセンスを持っていた人たちが昔やっていたことをこっちのフィールドで展開していたというタイプなんですよ。岡村くんもそういう意味では松田聖子がとても好きだったり、デビューする時には詞は松本隆さんとかユーミンに書いてほしいと小坂さんに言ったそうで。小坂さんに「君は何を言っているんだ」と怒られたそうですけど(笑)。
田家:先週そういう話をしたんですよ。
近藤:小坂さんってとても本がお好きな方だと思うんですけど、「こんな本を読みなさい」、「あんな本を読みなさい」って話もする中で自分で歌詞を学んでいったというか。小坂さんという素晴らしい師匠を得て学んでいったのが作品の一連の流れだと思うんですよね。僕がやったというのはその延長線上ですね。EPIC時代の仕事は外で見ていたんで、彼のやりたいことを微調整して世の中にプレゼンテーションするみたいな仕事を僕はやっているという自覚ですけどね。
田家:ちょっと微調整をした。
近藤:微調整。それはコピーワークとか、ジャケットのプレゼンテーションとか、世の中への見せ方。違和感なのかな、よく分からないですけど、ちょっとそういうのを加えてみたという立ち位置なんですよね。
田家:作品そのものは岡村さんそのものがずっと流れていることは変わらないという。
近藤:一貫していると思います、彼は。楽器を触っていてもやることは全く変わらないという印象なんですよね。
田家:1つの作品を語る時にチャートはそんなに意味があるわけではないという考え方もあるでしょうし、それも1つの結果なんだという考え方もあるわけで。2016年に発売になった『幸福』がアルバムチャート4位。当時オリジナルでは最高位。『操』は2位でそれを超えて、岡村さんのキャリアの中で1番チャートの順位が上なわけですよね。そういう意味では過去を超えたことになりますよね。
近藤:福田さんとか僕とか西岡さんの世代はレコードビジネスはオリコンとかミュージックラボとか、ああいう音楽業界でチャートで入るのがとても大事なことで。昔とてもお世話になった筒美京平さんが言ったんですけど、『ザ・ベストテン』に何曲か入ってないと眠れないって言うんですよ。うわーっと思って、そんなふうに俺はなってないなと当時思って。その時のチャートがある以上は絶対に入れなくちゃいけないと僕は強く思いますね。
田家:それを果たしているということですよね。
近藤:ポピュラーミュジックは売れてなんぼだから、どうしてもいつも入れたいですね。
田家:福田さんは『操』をどんなふうにお感じになりました?
福田:あくまで印象ですけど、彼がクリエイティブなことをずっと積み重ねてきたそこの厚み。それが近藤さんと出会って、近藤さんの手法、マインドが注入されることで新しさは絶対に失わず、厚みみたいなものがどんどん積み重なっていく。僕にしてみると、偉そうな言い方をすれば理想的なアーティストになっているのかなという感じはします。
田家:今年の3月に発売になった「ぐーぐーちょきちょき」。さっきおっしゃったみんなのうたがあって。
近藤:こんな仕事をやりたいなって、田家さんでも僕でも福田さんでもイメージする時があるじゃないですか。みんなのうたは来てほしいなって心の底でずっと思っていたんですね。本人の中でもみんなのうたって、当時の「北風小僧の寒太郎」とか、子どもの頃みんな聴いていた思い出の番組で。その中で本人が作ったのがこういう曲になりましたという曲なんですけど。岡村くんはポップの先輩たちに敬意を持っていて、その中の1人に大滝詠一さんがいますが、大滝さんの作る音頭に対するオマージュみたいなものもあるのかなと僕は思ってます。本人は口にしてませんけど、ああいったアーティストの作品を聴いていますし、そういう気持ちがあってこういうふうな音頭も作ってみたのかなと思いますけどね。
田家:これは「ナイアガラ音頭」に対するリスペクトだったりする。ジャンケンがモチーフだったんですかね。
近藤:そういう日常的にあるものだけど、どうピックアップするのかは表現者のおもしろさなので、ジャンケンというのも岡村靖幸が取り上げるとおもしろいですよね。
田家:今、NHKで番組をやってらっしゃいますけど、あの番組の趣旨が「現代を生きる私たちに役に立つ歴史を学びたい」。これはどんな意図だったんですか?
近藤:これは福田さんもよくご存知のように本人は学びたい精神が旺盛なんですよ。その一環です。
田家:歴史学者とか呼んだりしているんでしょ?
近藤:河合敦先生という方にいらしていただきましたし、これからも学びシリーズはいろいろな形で番組でやると思います。企画はいろいろ進行しています。
田家:それは音楽に反映すると思われますか?
近藤:音楽に反映するのかどうかは分かりませんけど、本人が興味があることは追求したいんじゃないですかね。僕は彼と仕事を始めてからいろいろなものを教えてもらいましたし、もともと僕はドキュメンタリー映画とか全然観なかったんですけど、彼は好きで。いろいろなドキュメンタリー映画を教えてもらったりとか。
田家:そういう近藤さんが選ばれた今月最後の曲、アルバム『操』の中の曲ですね。「ステップアップLOVE」。
田家:この曲は1ヶ月間の締めくくりとして選んでいただいたわけではなくて、アルバム『操』から2曲お願いしますという中の1曲なのですが、今月最後の曲になりました。この曲を選ばれたのは?
近藤:福田さんがやっている頃、岡村くんは酒を飲まなかったと思うんですけど、90年代、岡村くんは吉川晃司くんと尾崎豊くんと3人でよく夜に移動していて、僕も何度かすれ違ったことがあって。吉川くんと尾崎くんは結構社交的でちょっと酔っ払ってるし、寄ってきてうわーとか来るんですよ。ふと奥を見たら、岡村くんは別のところに1人でポツンと座っているんですよ。あまり酒も飲まなかったから、2人は弾けているんだけど岡村くんは静寂な感じで。僕が仕事を始めてからはちょっと飲むようになって、最近は結構飲むんです。それとともにいろいろなところへ行く機会も増えて、交流もいろいろ増えていって、ミュージシャンの友だちとか。社交的になっていったんじゃないかなと思っていて、それとともにラジオなんかでもそうですし、雑誌でも対談をするようになったりとか。福田さんがやっている頃とはそのへんがちょっと変わってきたのかなと。社交も結構するようになったし、というところからコラボレーションもできるようになっていったんですよね。
田家:今の曲はDAOKOさんが一緒に歌ってます。
近藤:そうですね。これはDAOKOがいるレコード会社の人からオファーを受けてやったんですけど、全体のプロデュースは川村元気さんという、僕も1回お仕事してみたいなと思っていた方ですし、何よりもDAOKOちゃんも非常に魅力的なミュージシャンだったのでやらせていただいたんですけども。とても良いチームワークでとても良い仕事ができたなという見本みたいな曲だと思います。
田家:今月のテーマの「再評価」という言葉について、お2人はどんなふうに考えてらっしゃるかで終わりましょうか。
福田:と言っても、僕の中ではデビューの時から評価はそんなに大きく変わっているわけではなくて、あらためて評価するというよりは今この時点の岡村靖幸くんの素晴らしさをすごく強く感じます。
近藤:本人はきっといろいろな音楽を子どもの時から聴いていて、良い作品に山程出会っている人間なので、良い作品を残していくことに関してはとても興味がある、強い意志を持っていると思うんです。良い作品は良い仕事に繋がっていかなくちゃいけないし、とにかく良い仕事をしていくということだと思うんですよね。その中で評価がブレないようにしていく。そのへんが結構大事なことかなと思いますけどね。
田家:それは我々にもラジオをお聴きのあなたにも言えることなのかもしれないと思いながら1ヶ月を終えたいと思います。ありがとうございました!
近藤:ありがとうございました!
福田:ありがとうございました!
田家:「J-POP LEGEND FORUM 再評価シリーズ第1弾」11月16日に4枚目のアルバム『家庭教師』が初めてアナログ盤で発売された、岡村靖幸さん。今週はパート5、最終週。1995年のアルバム『禁じられた生きがい』と2020年の『操』。2枚のアルバムについてお送りしました。流れているのはこの番組の後テーマ、竹内まりやさんの「静かな伝説」です。
1986年から1995年のアルバムまでを辿ってみました。2013年以降の話はとても短かったのですが、ソングライター、クリエイターとしては今の方が輝いているのではないかなという印象がありました。もちろん、EPIC時代のアルバムは生々しかったり、輝かしかったり、岡村さんがとても赤裸々に息づいていると言ってもいいと思うんですけども、今の方がアーティストとして地に足が着いているのではないのではないか。人間としてもということでしょうね。これはなんだろうと思ったら、青春の呪縛から解き放たれたのではないか。
近藤さんが最後に尾崎豊、吉川晃司、岡村靖幸という3人の名前を挙げてくれたので、その話で締め括ろうと思っているんですね。青春の呪縛。青春に名声を手に入れてしまった、1番輝いてしまった人がそこからどう逃れるか。それをどう卒業していくかということが果たせなかったのが尾崎豊さんではないか。岡村さんはそれを克服して、本来彼が持っていた力、今まで出していなかった面、当時は備わってなかったいろいろな養素をあらためて自分のものとして発表しているのがこの10年間なのではないか。岡村靖幸の才能はこれからもっと評価されていくはずです。というような話であらためて彼のことを見直してみていただけるとうれしい。そんな1ヶ月でした。
左から田家秀樹、福田良昭、近藤雅信
<INFORMATION>
田家秀樹
1946年、千葉県船橋市生まれ。中央大法学部政治学科卒。1969年、タウン誌のはしりとなった「新宿プレイマップ」創刊編集者を皮切りに、「セイ!ヤング」などの放送作家、若者雑誌編集長を経て音楽評論家、ノンフィクション作家、放送作家、音楽番組パーソリナリテイとして活躍中。
https://takehideki.jimdo.com
https://takehideki.exblog.jp
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