原田珠々華が語る、不安の中でも“光”を見失わず歌い続ける理由
Rolling Stone Japan / 2021年12月22日 17時0分
シンガーソングライターの原田珠々華が2ndミニアルバム『光の行方』を12月22日(水)に発売する。アイドルグループ・アイドルネッサンスの活動を経て2018年にソロデビューした彼女にとって2年8か月ぶりの作品となる今作は、アレンジャーに作編曲家の守尾崇、さよならポニーテールを迎え、「わたしに着替えて」では音楽プロデューサーのヤマモトショウとの共作にも挑戦しており、前作の躍動感溢れるバンドサウンドとは打って変わって煌びやかなポップスとバラードが印象的なミニアルバムとなっている。変化の激しい10代後半、さらにコロナ禍ということもあり、アーティストとしての自分自身を見つめ直したという今作について話を訊いた。
―『光の行方』は、前作の1stミニアルバム『はじめての青』から2年8か月ぶりの作品となります。リリースを控えて率直にいまどんな想いを持っていますか。
作品のリリースを一番待ってくださっていたのはファンの方々だと思っていますし、音源化している曲が少ないので、「早く音源化してほしい」という声をたくさん聴いていたので、自分が約3年間やってきたことが、1つにまとまった形で世に出せるのはすごく嬉しいです。
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―力強いバンドサウンドだった前作とは印象が違いますし、楽曲から原田さんご自身の変化も感じ取れます。
そうですね。この年齢ということもあって、けっこう移り変わりが激しくて。もう1年前に作った曲は今の自分には作れない、みたいな曲が多いです。それと、その時々で聴く曲も変わっていて、それに影響を受けているのかなって思います。ヤマモトショウさんと共作した「わたしに着替えて」はアイドルっぽいポップな感じになっているんですけど、それは、実際最近アイドルの曲をよく聴いているというのもあるんです。
―以前から聴いているアーティスト、最近聴いているアーティストをそれぞれ教えてもらえますか。
一番最初は、憧れもあって星野源さんから始まっています。その後、バンドを聴くようになったりして、Cody・Lee(李)とか、メジャー、インディー問わず聴いています。アイドルだと最近は≠ME(ノットイコールミー)を聴いたり、幅広く聴いている感じですね。
―そこで刺激を受けたものが曲作りに反映している?
曲作りもそうですし、自分の外見とかもそれで変わって行ってる気がします(笑)。結構影響を受けがちなんですよね。
―じゃあ、ファンの方はこの約3年間で相当な変化を感じているでしょうね。
きっと、変化したなと感じていると思いますし、私の知らないところでいろいろ受け取ってくれていると思います。
―その間の多くがコロナ禍と重なってしまったわけですが、どんな思いで過ごしていましたか。
もともとは、人と違うことがしたいと思って芸能を始めたんですけど、いざこの歳になると、人と違うことをしているからこそ、将来がとても不安で。みんなが就職とかインターンとか、そういうことを言ってると、「自分は大丈夫だろうか?」ということが現実味を帯びてきて。今まで夢だったことが本当に明日のことみたいになっているので、とにかく不安な感情が大きかったですね。それと、私だけじゃなくて、他のアーティストの方もそうだったと思うんですけど、ライブができないとなると、「自分はただ普通の人間なんだな」って気分が落ち込むことが多くて。ただ、私は「もっとやらなきゃ」とか、自分を追い込んだり生き急ぐようなところがあるので、コロナ禍でライブがストップして、自分を見つめ直す期間ができたのは個人的にはすごくよかったのかなと思います。
―そういうご自分と向き合って、落としどころは見つかったんですか?
結局、自分が足を止めたら終わってしまうものなので、自分の原点回帰というか、星野源さんがコンスタントにやっていた配信ライブとかを見たりとか、「自分はこういう音楽をやりたくてやってるんだな」ということを思い出したりしてました。
―原田さんの中で、音楽の原体験で強く残っているものってありますか?
神聖かまってちゃんの「ロックンロールは鳴り止まないっ」という曲がすごく好きで。この前、気分が落ち込んでいたときに、大学に行く電車の中でたまたまシャッフルで流れてきて、本当に泣いちゃいそうになって。ずっと鳴りやまないものがあるっていうか、その鳴りやまないものが止まってしまったらそれこそ終わりだと思うんですけど、そういうものが自分の中で鳴り続けているから、自分も今歌いたいと思っているんだなって思いました。
―今作には、そういったここ数年の思いも反映されているんじゃないかと思いますが、タイトルの『光の行方』は最後の曲「光合成」からとっているんですか?
一番わかりやすく光について歌っているのは「光合成」なんですけど、全体を通しても光に通じるものがあるんじゃないかなと思っていて。直接的に光について歌っていなくても、希望が光に例えられたりとか。不安定な光だからこそ、絶対行きつく先があると思っているんです。全部通して聴いたときに、一番合っている言葉は『光の行方』なのかなと思いました。
―「光合成」はどんな思いで書いた曲ですか。
ちょっと気分が落ち込んでいるときに書いた曲です。コロナ禍で、SNSを見るときに自分と同い年とか同世代の人がどんどん先に有名になっていくのを見ていて、「自分は何ができるんだろう?」ということを見つめ直していて、何を発信していけばいいかわからなくなってSNSも止まってしまっていたんです。だけど、「自分は良い曲を書いて行くのみなんだな」って思ってツイートをしたんです。そのときに思いついて書いた曲で、歌詞を全部書いたときに、これは「光合成」というタイトルが合うかなと思いました。
―まさに ”私だけ取り残されたような日々”という歌詞に葛藤や自問自答が表れていますよね。この曲を含めてミニアルバムとして1枚にする上では、どんなことを考えて5曲を並べたんですか。
この作品を作るために曲を作っていったわけじゃなくて、本当にライブでやっていた曲を集めたものがたまたま1つにまとまっていたという感じです。「こういうことを歌いたい」とか、「こういうことを伝えたいからこういう曲を書こう」というのがすごく苦手で、自分から出てくるものを素直に書いたら、「こういうものが書きたかったんだな」って気付くみたいな感じが多いんです。なので、そのときそのときの感情を書いていったら、この5曲になりました。「わたしに着替えて」以外は、全部ライブで披露している曲です。
―「わたしに着替えて」は、ダンサブルでポップな曲ですが、ヤマモトさんとはどのようなやり取りをしましたか。
まずはZoomで「はじめまして」って挨拶させてもらって、「こういう曲を作っていきましょうね」というよりは、「好きなものはなんですか?」って、カフェで話している感覚でのやり取りをしました。ヤマモトさんは「スターウォーズ」が好きだったり、私は喫茶店巡りが好きだったりとか、そういう話をお互いに話しながら、「喫茶店めぐりっていいね」とか、そこから広げていった感じですね。
―ヤマモトさんが「スターウォーズ」が好きで、原田さんは喫茶店巡りが好きっていう話をまとめるのって大変じゃなかったですか(笑)。
「私も「エヴァンゲリオン」が好きで」みたいな、全然まとまりのない会話で(笑)。私のスタッフさんとヤマモトさんが「スターウォーズ」の話で盛り上がって、私は全然わからないっていう(笑)。
―この曲の歌詞は、自己を確立していくような内容にも思えます。
そうですね。私は、自分に合ったものや好きなものを日常の中でどんどん集めていって、未完成のまま完成に近づいていくタイプなので。最初から出来上がっている人よりは、いろんな人が共感してくれるような、みんながそれぞれを好きなものを見つけていくっていうことを思って書きました。
―冒頭の”おしゃれに着替えているけど これって本当のおしゃれなんだっけ”という歌詞が面白いですね。
流行りとかに合わせて着飾っていても、自分の中でのおしゃれと人の中のおしゃれって違う部分もあると思うんです。やっぱり自分の好きな格好をしたり、自分が好きな音楽を聴いたりとか、そういうことが本当のおしゃれなんじゃないかなっていうのは、私もヤマモトさんも感じていたことでした。
―「秘密」は、さよならポニーテールのマウマウさんがアレンジを担当しています。これはどうやってできた曲ですか。
さよならポニーテールさんのことは好きでよく聴いて、この曲を作っているときに、「これはさよならポニーテールさんに歌ってもらいたいな」みたいに思っていて。スタッフさんにも「この曲さよならポニーテールさんぽいね」って言われて、私もそんな感じで作ったことを話したら、「アレンジをお願いしてみようか?」という話になって、実際にアレンジしてもらうことになったんです。もともとは弾き語りの曲なんですけど、曲の中でも、歌い方をいつもと変えてみたり、ちょっと高めに出す声とハスキーに出す声を重ねたり、いろいろと試行錯誤して作りました。この曲はミニアルバムの中でもすごく好きで、アレンジが上がってきたのを聴いた瞬間に、すごく良くなってると思いました。さよならポニーテールさんが関わってくれたからこそ、どんどん良くなっていったんだなと思うので、それこそ一番気に入っている曲です。
―”君”に向かって歌っている印象ですが、どんなテーマで書いた歌詞なんでしょうか。
いろいろ言えると思うんですけど、実際に私が作りながら考えていたのは、「アイドルとファンの関係性」みたいなことなんです。わかり合えるはずはないけど、でもお互いにわかり合いたいみたいな気持ちだったり。私がアイドルからセカンドキャリアでシンガーソングライターをやっている中で、アイドル時代の私とシンガーソングライターの私に切り替えられないというファンの方の声も聞くんです。そういう感情について、私が一方的に諭しているような感じです(笑)。
―ファンの人に対する気持ちって、アイドル時代と今とでは原田さんの中では変化しているんですか?
私の中ではあんまり変わってないんですけど、ファンの人の方が感情とかの移り変わりは激しいかなって思っていて。今のファンの方は、アイドル時代の私を知らない人が多いですし、きっとアイドル時代を好きだった人は、やっぱりあの頃のままの私を思い浮かべてると思います。私の中では、みんなそれぞれの好きな部分があったり大切だったりするんですけど、今はなかなか私から会いに行ったりはできないので。ちょっとそういう切なさもありつつ、元気でいてくれればいいなと思っています。
―そういうファンの人の声って、SNSでチェックします?
昔よりは少なくなったんですけど、昔からエゴサする方でした。
―アイドル時代の原田さんを知らないファンが多いということは、SNS上で見る反響も変わってきますよね。
いまだに、アイドルをやっていたと言うと驚かれます。活動していく上で、応援してくださる方やフォロワーの方はどんどん増えていますけど、それで有名になったとか実感はなくて。「この9千人とか1万人っていう人たちが、本当に存在するのだろう?」っていう風に思ってます(笑)。
―それは、ライブができずに「自分はただ普通の人間なんだな」と思った感覚と近いんじゃないですか。
私は、8歳ぐらいから芸能活動をしていて、そこから絶えず芸能に携わるお仕事を日々してきていたので、コロナ禍で半年以上何もなくて、家でぐーたらしている日々だったので、自分を過大評価していた部分もあって反省したりしたんです。それこそ、SNSでこんな大勢の人が私のことを知ってるなんて変な感じだなって思ったりはしました。
―その結果、「良い曲を書くしかないんだ」って、自力で辿り着いたというのはすごいですね。
それはやっぱり、ファンの方がかけてくれた言葉とかが大きかったのかなって思います。
―後半の3曲は守尾崇さんがアレンジを務めていますね。
守尾さんは、スタッフさんがもともと関わりがあって、そのご縁でお願いすることになったんです。
―それぞれ、どんな方向性でアレンジしていったんですか。
「帰路」は、”おもちゃ感”を出したかったです。この曲の弾き語りを聴いたことがある人は、もっとバラードっぽいしっとり悲しい曲調になると思っていた方がほとんどだと思うんですけど、私はガチャガチャしたり色々な音が入っていたりして欲しかったので、そういう感じでお願いしたら、想像通りの音を守尾さんが作ってくれました。「プラチナ」と「光合成」は、バンドサウンドを強くしてほしいと言っていて。とくに「プラチナ」は、お客さんが50人ぐらいし入らないギチギチの状態の狭いライブハウスでバンドでやってる感じを出したかったので、ベースを強めをしてもらったり、ギターリフを入れてもらったりしました。「光合成」はとにかく壮大にサビで広がる感じを出してもらいたくてお願いしました。
―完成した1枚は、原田さんにとってどんな作品になりましたか。
自分のアーティスト人生の中で、この作品が作れたからいつ世界が終わってもいいぐらいな感じで(笑)。本当にいろんな方に聴いていただきたいという気持ちはあるんですけど、自分が満足できる作品が作れて良かったなと思っています。
―2022年1月から、アルバムを引っ提げてのカフェライブツアーが開催されます。どんなライブになりそうですか?
以前からやっているライブなんですが、カフェなので雰囲気も良くて、お客さんはハンバーガーを食べていたりドリンクを飲みながら、近い距離で楽しんでもらっています。これまで回数を重ねてきたんですけど、もうちょっと来てくれる人と仲良くなりたいなと思っているので、MCでお話したりしたいですね。私もそれこそお客さんみたいな気持ちで、単純に楽しみたいですし、あたたくてアットホームな空間になればいいなと思っています。
―アーティストとしての夢や目標はありますか?
いろんな方に自分の曲を聴いてもらえるように、私自身も成長しないといけないなと思ってます。あとは、自分の好きな曲をどんどん作っていきたいです。「こういうステージに立ちたい」ということもあるんですけど、それよりも”光”を見失わないように、自分の核になっているものを大事にして、とにかく自分の”好き”を貫いていきたいなと思っています。
<リリース情報>
原田珠々華
『光の行方』
2021年12月22日リリース
発売・販売元 タワーレコード株式会社
価格:2200円(税込)
=収録曲=
1. 秘密
2. わたしに着替えて
3. 帰路
4. プラチナ
5. 光合成
Official HP:https://www.haradasuzuka.com/
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