ノラ・ジョーンズが語る、クリスマスに捧げた「孤独を癒す歌」の真意
Rolling Stone Japan / 2021年12月21日 19時30分
『ビギン・アゲイン』『ピック・ミー・アップ・オフ・ザ・フロア』と、近年は乾いた質感で痛みや哀しみ、先の見えなさを表現したオリジナル・アルバムが続いたが、ノラ・ジョーンズにとっての初のクリスマスアルバム『アイ・ドリーム・オブ・クリスマス』は、ずいぶん久しぶりに「あたたかなノラ・ジョーンズ」を存分に味わえるもの。こういうノラ・ジョーンズを待っていたというひとも少なくないだろう。
プロデューサーに、前2作にサックス・プレイヤーとして参加していたレオン・ミッチェルズを起用。シャロン・ジョーンズ&ザ・ダップ・キングスの初期メンバーで、2015年にはダン・オーバックが始めたジ・アークスに参加し、アロー・ブラックほか様々なアーティストのプロデュースも手掛けるマルチな才人の彼が、ノラと共作もしながらアルバムをハートウォーム方向に導いた。2月にデビュー20周年を迎えるノラ・ジョーンズは、彼とどのようにクリスマスアルバムを作り、そしていまはどんなモードでいるのか。また2022年にはどんな活動が期待できるのか。かなり久しぶりとなる日本向けインタビューをお届けする。
―『アイ・ドリーム・オブ・クリスマス』には、クリスマスソングのカバーとあなたの手によるクリスマスソングが、およそ半々ずつ収録されています。カバー曲は世に数多あるクリスマスソングのなかから、どのようなところにポイントをおいて選んだのですか?
ノラ:純粋に私の好きな曲、歌いたい曲、歌えそうな曲を選んだの。家族のフェイヴァリット・ソングだった「ブルー・クリスマス」は絶対に歌わなくちゃと思っていた。逆に「ホワイト・クリスマス」は当初は歌う予定じゃなかったんだけど、スタジオワークが早く終わって時間が余ったときに試しに歌ってみたら、すごくいい感じになって。それで入れることにしたのよ。
―『アイ・ドリーム・オブ・クリスマス』は今年10月にリリースされたわけですが、つい先頃(12月4日)にはオリジナルのクリスマスソングをさらに3曲加えたデジタル・デラックス・エディションがリリースされました。その3曲は通常盤を作り終えたあとに作ったものなんですか?
ノラ:そう。そもそも『アイ・ドリーム・オブ・クリスマス』はアナログのレコードを出したくて作ったものだったのね。でもアナログ盤となると、製造の工程上、全てを早めに提出しなくちゃならなくて。それで一回まとめたんだけど、全ての作業が終わったあとにタイトル・トラックの「I dream of Christmas」ができてしまった。自分のなかでクリスマスをやめられなくなっちゃったのね(笑)。だからさらにまた曲を作って。あともう1曲、入れられずにとっておいた曲があったんだけど、最終的に「それもこれも入れちゃえ!」ってなったの。
―『ビギン・アゲイン』『ピック・ミー・アップ・オフ・ザ・フロア』と続いたオリジナル・アルバム2作は、乾いた質感の曲が印象的でした。とりわけ『ピック・ミー・アップ〜』はコロナ禍で先の見えなくなった世界を生きねばならなくなった私たちの耳に、リアルかつ痛切に響いてくる曲が多かった。それに対して『アイ・ドリーム・オブ・クリスマス』は、悲しさや厳しさのトーンよりも優しさやあたたかさを感じられる作品になっていると思います。そのあたりは意図してのことですか?
ノラ:楽しいアルバムを作りたいとは思っていた。マジカルな雰囲気の音を使ったりして、ファンタジーに浸っているような曲を作るのは、実際すごく楽しかったわ。でも、全部が全部楽しい曲というわけではなく、このアルバムにはほろ苦い感じの曲や、複雑な感情を歌った曲もある。クリスマスソングには、何かを切望したり、哀しい気持ちになったりする曲もいっぱいあるでしょ?
―そうですね。また、コロナ禍においてのあなたの願いが書かれているように感じられる曲もありました。例えば1曲目の「クリスマス・コーリング」では”音楽を聴いて ダンスして 笑って 揺れて ハッピーなクリスマス・ホリデイにしたいな”と歌われている。7曲目「イッツ・オンリー・クリスマス・ワンス・イヤー」では”友達みんなに会えなくて 去年はとても辛かった あなたのいないクリスマスは それほど明るいものにはならないわ”と歌われている。コロナ禍でなかなかハッピーな時間を持てないけど、せめてクリスマスくらいは……という願いから書かれたのでしょうか。
ノラ:クリスマスが近づくと、何かを心待ちにして気分が高まったり、ひととの繋がりを改めて感じたり、ノスタルジックになったりするでしょ? そんな気分がコロナ禍で家にこもっているときに恋しくなったのね。きっと、多くのひとたちがそうだと思う。いまあなたが言った2曲はどちらも比較的早くに書きあがった曲で、「もし自分がクリスマスアルバムを作るとしたら、こんな感じのものを作りたい」と思いながらできたもの。音楽、それからホリデイそのものを心待ちにしている感覚を曲にしたかったの。
―8曲目「ユーアー・ノット・アローン」では、最後に”were not alone(私たちは孤独じゃない)”と歌われますが、それはコロナ禍で孤独に過ごすひとたちに向けてのメッセージにも聞こえます。この曲の歌詞こそ、あなたがいま、特に歌いたかったことなんじゃないかと考えたのですが、どうでしょう。
ノラ:この曲は最後にできあがったもの。偶発的にスタジオでできた曲だった。でも、あとになって考えると、昨年(2020年)、私が「悲しいな」と感じたことを歌っているようにも思える。昨年のパンデミック中のクリスマスを、私は子供たちと夫と過ごしていた。でも、ひとりきりで過ごさなくちゃならなかったひとも多かったわけで。私の友達の何人かもひとりでクリスマスを過ごしていたので、私は「会いたいな」って思っていた。そういう気持ちが、この曲や、このアルバムを作ることに繋がったんだと思う。
プロデューサーと二人の盟友について
―今作はプロデューサーにレオン・ミッチェルズが迎えられています。『ビギン・アゲイン』『ピック・ミー・アップ〜』でそれぞれ2曲ずつテナー・サックスを吹いていましたが、今作でプロデューサーに起用した決め手はなんですか?
ノラ:決めたのは、彼がいい音楽をたくさんプロデュースしているから。まず彼のプレイリストを友達が送ってくれて、すごく気に入ったので、「一緒に曲を書かない?」って連絡してみたの。ちょうどクリスマスアルバムを作ることを考え始めたときだったので、「一緒にクリスマスソングを書いてほしい」と伝えたのね。以前から彼とは気が合ったし、上手く私の手助けをしてくれるひとだと感じていたから。
―前作『ピック・ミー・アップ〜』はあなたのセルフプロデュース作品でしたが、今回は初めからプロデューサーを立てようと考えていたのですか?
ノラ:自分で作ることもできると思ったけど、今回は私が求めているサウンドを具現化してくれるひとがいたほうがいいなって思って。サウンドの方向性を導いてくれるひとが必要だった。レオンなら楽曲の持つノスタルジックな感触を残しながら、新鮮な何かを生み出してくれるだろうと思ったの。彼はいろんな楽器ができるので、一緒にアレンジのアイデアを出して、その場で一緒にプレイして試すことができた。「ここにこういう音を重ねてみよう」なんて感じで作っていくのは、とても楽しいことだったわ。止めることができなくなったくらい。
―具体的には、どのように制作を進めていったんですか?
ノラ:サウンドの方向性の参考になりそうな音源を互いにプレイリストにして送り合い、折り合いのついたところで、私がピアノを弾いて歌ってみた。それからドラムのブライアン・ブレイドとベースのトニー・シェールと一緒にスタジオに入って演奏し、それをレオンに聴いてもらって、どう思うか彼の意見を聞いて演奏し直して。それをまたレオンに聴いてもらって……。そうこうしているうちに完成してしまった感じ(笑)。
―ブライアン・ブレイドとトニー・シェール。あなたとはデビュー当時からのお付きあいとなるふたりですが、それほど絶大な信頼をおく理由は?
ノラ:彼らとプレイすると、よりいいプレイをすることができるの。必ず何かしらインスピレーションを受けるし、ほかにない特別な波長を感じることができる。ブライアンは歌詞をなぞるように演奏するドラマーで、ものすごいグルーヴを感じるわ。もちろん人間的にも最高だし。トニーはベースも素晴らしいけど、ギターもプレイして、しかも独特のグルーヴがある。ふたりとも、とにかく耳を澄ませて音をよく聴くの。私たち3人のプレイには特別な相互作用がある。互いのプレイのエネルギーに触発され、それによってグルーヴとかインプロヴィゼーションが生まれる。誰とでもそうなるわけではなく、そういうのって特別なことなのよ。そして、このレコードからもそういう特別さを感じてもらえるはず。
―あなたのヴォーカルについてお聞きします。5曲目の「クリスマスタイム」はソウルバラードで、あなたの太い歌声の響きが印象的でした。近年の作品……例えば『ビギン・アゲイン』収録の「イット・ワズ・ユー」や、2019年のシングル「アイル・ビー・ゴーン」といったスロー曲でもあなたのソウルフルなヴォーカルが印象的でしたが、そうしたソウルフルでディープな歌いまわしと響かせ方は、意識的に獲得したものなのでしょうか。それともライブを重ねるうちに自然とそういう歌い方ができるようになったのでしょうか。
ノラ:私はいろんなことにトライするし、ときには自分の領域を超えたようなことも頑張ってやってみるけど、ヴォーカルに関しては意識的にアプローチすることがないの。歌い方について、あまり考えたりはしない。だから、時間が経つうちにそういう歌い方ができるようになってたってことなんでしょうね。
―ソウルフルな歌唱法に限らず、デビューから20年の間にヴォーカル表現の幅がすごく広がったように思うんです。ツアーを重なたことの成果なんですかね。
ノラ:常に自分の道を歩いてきた、ってことじゃないかしら。まあ、誰もが自分の道を歩むわけだけど……。いろんなジャーナリストから「どうしてあなたはそんなに冒険心に溢れているんですか?」とよく訊かれるんだけど、私はただ単にいろんな物事に対してオープンでいたいだけ。新しいことを躊躇せずにやるし、いろんなひととコラボレーションするし。あらゆることに対して心を開き、意欲的にやってみる。そのことが自分を向上させてくれている気がするわ。実際にやってみるまで何が起こるかわからないし、どういう結果になるかもわからない。でもそれが面白いんだし、常に未知の世界を受け入れられる状態でありたい。冒険心を持って、恐れずなんでもやってみるミュージシャンでいることが好きなの。これからもそうしていくつもり。だって、それは私にいい結果しかもたらさないから。
デビュー20周年に向けて
―これまでだったら、ご自身のツアーが終わると、リトル・ウイリーズ、プスン・ブーツなど、仲良しのミュージシャンたちと組んだ別プロジェクトでの活動を楽しんでましたよね。そこでまたアウトプットして、刺激も受けて、そこからまたソロ活動に集中するというのがいいサイクルになっていたと思います。ところがコロナ禍になって、そうした課外活動もできなくなってしまった。そのことはあなたの創作活動にどう影響しましたか?
ノラ:それは今回のアルバムに表れているんじゃないかしら。久しぶりに数人のミュージシャンと会ってプレイすることを懐かしく感じたし、新しいひとともプレイできたし、すごく楽しかった。いまはアルバムを作ることが私にとってのクリエイティヴな活動なんだと実感できたの。前の年(2020年)は本当に大変だったから……。とはいえ、パンデミック中にもいくつかのチャレンジをすることができた。毎週、Facebookのライブストリーミングで4曲くらいプレイし続けたのは、いままでやったことのない新しい試みだった。曲を演奏して、それをみんなと共有するのがとても楽しく、気持ちが安らいだわ。それに世界中のひとたちの愛を感じることができた。確かに友人たちとのライブやツアーはできなかったけど、その分、いままでやったことのなかった新しい経験をすることができてよかったと思うの。
―実際、パンデミック以降も、あなたは少しも活動を止めませんでした。ご自宅からのライブストリーミング、無観客のオンラインライブ、それにアルバムもオリジナルの『ピック・ミー・アップ〜』とライブ盤と今回のクリスマス盤、3作もリリースしました。常に何かを人々に届けたい、届けなくちゃといった使命感のようなものもあったりするのでしょうか?
ノラ:そんなことはまったく思わなかった。どれも自分自身のためにやったことで、それは私に喜びをもたらしてくれた。もちろん人々に届けることができたことには感謝しているわ。お返しに愛をもらえるのだから、最高だし、中毒性がある(笑)。私は音楽をすることが大好きで、その大好きなことしかやっていない。子供を育てるのは好きよ。食事を作るのもね。それと同じように音楽が好きで、唯一、私がずっとやってきたことなの。
―来年(2022年)の2月で、デビュー20周年ですよね。つまり20年前の今頃はデビュー直前だったわけですが、そのときの気持ちを覚えてますか?
ノラ:とてもハッピーで、ワクワクしていたわ。できあがった1stアルバムに対して満足していたし、それが大成功したのも嬉しかった。振り返ると、自分はすごくラッキーな人間だと思う。音楽を作るのが好きだし、自分の仕事が好き。その好きなことをずっとやれているんだから、ラッキーだとしか思えないし、この先あと20年、30年、40年くらい続けていけたらいいなって思う。けっこうワイルドな道筋だったけど(笑)、こうして活動を続けられていることを、ありがたく思っているの。
2002年のパフォーマンス映像
―辛かったことはありませんでした?
ノラ:誰でも仕事や人生で辛いことはあるし、もちろん私にもそういう瞬間があった。でもこうして大好きなことを続けられているのだから文句は言えないと思う。自分が何を求めているかはわかっているのだから、気に入らないものが出てきたら、気に入るように整えるだけ。そうやって流れに乗り続けていくのが大事なんじゃないかな。
―デビュー20周年となる2022年の活動について、現段階で言えることがあれば教えてください。
ノラ:いままでリリースしてなかったエキストラの楽曲がたくさんあるので、それらを出していく予定なの。振り返って聴いてみると、けっこうよかったりするから。それと私の2022年の抱負は、気分よく、平和でいること。たくさん音楽をプレイして、子供たちとも遊べて、健康でいること。夢はオーディエンスを前に、ステージで演奏すること。パンデミック以降、オーディエンスの前でプレイすることをしてないから、2022年の夏こそはオーディエンスの前で、バンドでプレイしたいわ。
―いつかまた日本でも観られる日が来ることを願ってます。
ノラ:ありがとう。私も早くそういう日が来ることを願ってるわ。
ノラ・ジョーンズ
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『アイ・ドリーム・オブ・クリスマス デラックス・エディション』
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