King Gnuがツアーファイナルで表現した「喪失」との向き合い方
Rolling Stone Japan / 2021年12月24日 21時0分
10月29日に開幕した「King Gnu Live Tour 2021 AW」の全7会場14公演が、12月15日に終了。国立代々木競技場第一体育館にて開催されたツアーファイナルのライブレポートとライブから見えた2021年のKing Gnu評をお届けする。
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あらゆる感情がうごめく一夜だった。King Gnuが益々音楽シーンの最先端を切り拓いて、新しいバンド像や音楽観を示し続ける存在であることへの高揚感。なくなってしまったものに対する喪失感と、鼓動を止めずに身体中に血を巡らせていく野性的感覚を研ぐための揺さぶり。そして、1万1000人もの人間が集まったライブ会場で生まれるエネルギーへの感動。
Photo by Kosuke Ito
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2021年はアーティストたちにとって、なんとか全国ツアーを開催できる状況にはなった(とはいえ様々なリスクや懸念がつきまとう中であり、ツアーを開催するのもしないのも、アーティストにとっては常に苦渋の決断だった)ものの、これまでは新型コロナウイルス感染拡大防止対策の一環としてイベント開催時は「収容率50%、もしくは5000人(いずれか小さい方)」が入場者数の上限とされていた。そしてようやく、その規制は11月19日の発令によって緩和され、感染防止安全計画が認められた大声なしの公演は収容率100%で開催ができることになった。「King Gnu Live Tour 2021 AW」の最終公演となった国立代々木競技場第一体育館2デイズは、それぞれ1万1000人のお客さんが会場を埋め尽くして開催することができた。私にとっても満員のお客さんが広い会場を埋めている場でライブを観るのは1年10カ月ぶりで、開演30分程前に最寄りの原宿駅に着くと駅の女子トイレに長蛇の列ができているのを見て、そんな光景も大規模ライブならではの現象だと懐かしく思ったりしたものだ。
この日のKing Gnuは、素晴らしかった。ステージからほとばしるエネルギーが、終始とにかくすさまじかった。もちろんこれまでも、スキルフルなミュージシャンが集まるKing Gnuというバンドのライブは常にエネルギッシュで圧巻なものであったが、演奏する曲のどれもがさらに磨きがかかってより生き生きとした状態で鳴らされていたのだ。
Photo by Tomoyuki Kawakami
Photo by Tomoyuki Kawakami
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Rolling Stone JapanでのこれまでのKing Gnuやソングライター・常田大希のインタビューを振り返ると、2019年は息つく間もないくらい怒涛の日々を過ごし、「2020年は一回落ち着いて熱を取り戻したい」と言っていたところ、コロナという予期せぬ形で立ち止まらざるを得ない状況となり、そこからまたmillennium parade「FAMILIA」の制作などを経て、根本的な音楽への愛情や熱をバンドとして取り戻していったことを語ってくれていた。その上で、「泡」「BOY」『一途/逆夢』といった作品を一曲ごとにストイックにクオリティを磨き上げながら丁寧に作り上げ、夏にはフジロック・フェスティバルのヘッドライナーを務めて、そして秋からはツアーで全国をまわってきた。しかも国立代々木競技場第一体育館公演までは「収容率50%、もしくは5000人(いずれか小さい方)」という制限の中で、空席もあって観客は声を出せない状況でのライブを12本も成し遂げてきた。その制限というのはやはり、特にロックバンドにとっては思うようにライブの流れを運べないなどの壁にぶつかるほどタフなものであり、King Gnuにとっても決して楽にライブができる状況ではなかったはずだ。そんな状況を乗り越えてきたことも、バンドの4人と、さらにライブを作るスタッフチーム全員との結束力やそれぞれの筋力の成長と進化につながっていたのだろう。そうしたいくつもの要因によって、King Gnuは今まで以上に人間が奏でる音でエネルギーの爆発を生み出せるバンドになっていることが非常によくわかるライブだった。
「一途」を歌う井口の声と姿
この日のハイライトのひとつは、ツアーの中でも国立代々木競技場第一体育館公演のみで披露された、最新曲「一途」。冒頭でステージ上に設置された12枚のLEDパネルにミュージックビデオの特別映像が流れ、観客のテンションを最高潮に上げてから、何十台ものレーザーを縦横無尽に飛び交わせて、ギターの鋭いカッティング、ロールするドラムを轟かせる。『劇場版 呪術廻戦 0』の主題歌として書き下ろされた「一途」は、常田のルーツにあるTHEE MICHELLE GUN ELEPHANTやBLANKEY JET CITYの血を継ぎながらも、2021年にロックバンドとしての新しい像を提示する一曲だ。この演奏を見ていたとき、3年前の取材で常田が語っていたことを思い出したーー「俺がすごく憧れたバンドは、THE BEATLESにせよ、ロックのテンプレートを作ってきた人だけど、彼らはそれを生み出して進めてきた姿勢が『ロック』だったんだと思うんですよ。テンプレートをやろうとすることには『ロック』を感じない。『ロック』は姿勢だと思っていて、King Gnuはいわゆるロックバンドと言うより、その姿勢を受け継ぐ役割をしているんだと思います」。King Gnuはバンドの評価や社会的環境が変わっても、また、彼らに影響を受けたバンドが下の世代に出てきても、その信念を曲げずに常に今の時代にはまだないバンドサウンドやアート表現を創造し推し進める存在であり続けている。
メンバーの4人も、音響・照明などの演出チームも、曲に対する理解度と情熱がハンパなく高く、それぞれのスキルを信頼しあえている状態になっているのだということはライブの充実度からも想像が付く。そして、その中でも個人的に特筆したいのは、井口理(Vo, Key)の歌の表現のさらなる進化についてである。フジロックでKing Gnuのライブを観たときも、あの広い場所が静寂に包まれて井口が「白日」を歌い出した瞬間は、今も脳裏に焼き付いているほど惹きつけられるものがあった。また、10月に東京ガーデンシアターでmillennium paradeのワンマンライブ(「millennium parade Live 2021 "THE MILLENNIUM PARADE"」)を観たときも、巨大な鬼のオブジェに次々と刺激的な映像が投影される中、唯一映像演出なしで井口の歌が引き立っていた「FAMILIA」が特別印象的だった。この日も「三文小説」「The hole」をはじめすべての曲において井口の歌は心を掴まれるもので、裏声と地声をあれだけ滑らかに行き来して声楽的な歌もロックンロールも歌えるヴォーカリストは唯一無二だと改めて思わされた。いつも通りキーボードに身体を向けた横向きの状態で真っ直ぐ立つ姿が今まで以上に凛々しく見えて、昔のインタビューでは常田が作る曲に「くらいついていってる」と表現していたところから、歌や音楽への視座も役者業で鍛えた表現力も自信も格段に高めてきたのだろうと感じるほどだった。先述した3年前のインタビューで常田が井口の歌について「理は発声もちゃんとしてるからダーティ感が出ないんですよ。グランジ感というか。(中略)俺は、やっぱりダーティさがロックバンドとしてかっこいいと思っていたので」と話していたが、「一途」を歌う井口の声と姿からは、ロックスターとしての歌い方も矜持も獲得しているように思う。
Photo by Kosuke Ito
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常田大希の視線の先にあるもの
2021年、常田大希というソングライターは、「消えたもの」と「その先」に目線を置いた曲を多く残してきた。2月にリリースされたmillennium paradeの1stアルバム『THE MILLENNIUM PARADE』は「祭り」「弔い」「死者を祀る」がテーマだったし、『泡』も消えたものへの眼差しが中心にあり、「一途」も「最期」が目の前にある状態から綴られている。SixTONESに提供した「マスカラ」も恋の終盤に立ったところからの想いを描いた曲だ。常田がなぜ「消えてしまうもの」や「なくしてしまったもの」と「それをどう受け入れていくのか」といった目線を持って曲を作っているのかは『THE MILLENNIUM PARADE』リリース時のインタビューでも核心の一部を聞いているのでそちらを読んでほしい。いつの時代も優れたアートには生きる指針が宿るが、やはり今の時代にこそ、そういった視点から作られたアートに触れたいとこの日強く思わされた。人間は危うい生き物だ。いつだって、誰だって。調子よさそうに見える人が、急に糸が切れるように気力を失うことがある。それを今年も痛感する出来事がいくつかあった。2021年、やむを得ず閉店したライブハウスだってたくさんある。肉体がなくなっても魂は在り続ける、物体がなくなっても思い出は残る、というのはときに綺麗事のように思えてしまって、肉体がなくなれば、建物が取り壊されれば、思い出までもが壊されるような気持ちにすらなってしまう。それでも、King Gnuは、「BOY」「飛行艇」「Flash!!!」などが特に顕著だが、すべての曲の根本で、無様な格好でもいいから今を懸命に生きて、とにかく今を積み重ねていくことを肯定する。朝起きて寝るまでなんとなく流れていく時間に身を委ねるのではなく、社会のベルトコンベアに流されるのではなく、全身に血を巡らせて心臓の鼓動を動かせと伝えてくる。「Teenager Forever」を奏でればその3分間は10代の煌めきを思い出せるように、失ったものは曲の中に封じ込めていつでも解凍できるようにしたいという願いと、何かを残すことでなんとか人生を紡いでいけるのだということも感じ取った。「泡」では深く行けば行くほど真っ暗になる闇の怖さと神秘を、歌と演奏、水中や深海を表した映像、優しく動く青色のレーザーで表現。最後に演奏した「サマーレインダイバー」含め、「King Gnu Live Tour 2021 AW」ではあらゆる曲と表現手法から、消えていくものや喪失との向き合い方のヒントを手渡してくれるようだった。
King Gnuの2021年を振り返って締めくくり(まだ年内に『一途/逆夢』の作品リリースが控えているが、)、またmillennium paradeが『NHK紅白歌合戦』に出場する直前の今のタイミングで、これだけは改めて綴っておきたいと思うことがある。King Gnuは売れるためのバンド、millennium paradeはやりたいことをやる場所、という捉え方をされている場面を未だに見るが、King Gnuとmillennium paradeはそんな安易な位置付けではない。「一途」に表れているアティチュードを読み取ればわかることだが、常田大希が10代の頃から培ってきたロックバンドを愛する気持ちと野望と表現力を爆発させているのがKing Gnuであり、同じく自身の人生で培ってきたアンダーグラウンド的なアートを愛する気持ちと野望と表現力を昇華させているのがmillennium paradeだ。どちらにおいても、日本・海外関係なく、今の時代においてまだ見ぬ創造を生み出し、新しい世界を切り拓きたいという表現者としての確固たる信念があり、King Gnuとmillennium paradeはそれを一歩ずつ実現している。
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Photo by Tomoyuki Kawakami
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King Gnu Live Tour 2021 AW
国立代々木競技場第一体育館 2021年12月15日
SET LIST
1. 飛行艇
2. 千両役者
3. Vinyl
4. Sorrows
5. ユーモア
6. 白日
7. 破裂
8. Prayer X
9. The hole
10. 泡
11. Hitman
12. 三文小説
13. Slumberland
14. Tokyo Rendez-Vous
15. 傘
16. どろん
17. Flash!!!
18. Teenager Forever
EN1. BOY
EN2. 一途
EN3. サマーレイン・ダイバー
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