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ポールとリック・ルービンが語る、『マッカートニー 3,2,1』とザ・ビートルズの普遍性

Rolling Stone Japan / 2021年12月28日 19時0分

ポール・マッカートニーとリック・ルービン (C)2021 MPL Communications, Inc.

ポール・マッカートニーがリック・ルービンを迎えて、ザ・ビートルズやソロ活動を振り返る6部構成のドキュメンタリー・シリーズ『マッカートニー 3,2,1』がディズニープラスにて配信スタート。二人が同作や『ザ・ビートルズ:Get Back」について語り合った貴重インタビューをお届けする。

ポール・マッカートニーの様々な側面は、既に広く知られている。マッシュルーム・カットをしたチャーミングな若者、60年代のシーンを切り拓いたアヴァンギャルドなイノベーター、髭を蓄えた良き夫にして父親、そしてロックンロールの生ける伝説。しかし『マッカートニー 3,2,1』で描かれているのは、筋金入りの音楽オタクという知られざる彼の一面だ。伝説的プロデューサー、リック・ルービンとの対談という形式を取っている本作では、2人がビートルズの音楽にじっくりと耳を傾け、曲にまつわるエピソードを語り合ったり、些細なディティールについて解説する。かつてないタイプの本ドキュメンタリーは、ビートルズのファンに衝撃を与えた。「曲の1つ1つに、それを書き上げるまでの物語が存在するんだ」。マッカートニーは本誌にそう語った。「幸いにも、僕はそのディティールまで覚えてるんだよ」



ポールとリックに共通する点は、過去を振り返ることなく、絶えず前進し続けていることだ。リックによると、それは音楽における「スピリチュアルな道のり」の一部だという。マッカートニーは現在、過去に類を見ないほどのクリエイティビティの爆発を経験しており、屈指の出来だった2018年作『Egypt Station』と2020年作『 McCartney III』はどちらもNo.1ヒットとなった。そして今現在、フィービー・ブリッジャーズ、ベック、アンダーソン・パーク、セイント・ヴィンセント、ブラッド・オレンジといった若き才能を集結させた『McCartney III Imagined』は本国で大ヒットを記録している。50年以上前の出来事を描いたドキュメンタリーで世間の話題を集めながら、新譜をチャートの頂点に送り込めるアーティストは、彼をおいて他にいない。

ポールとリックの両者はZoomでの3者インタビューに応じ、ドキュメンタリーの制作過程について本誌に語ってくれた。ポールは座り心地の良さそうなソファに腰をかけ、スナックとコーヒーを手にしていた(「食べながらの取材になるけど、大目に見てよ。僕は食べながらでもちゃんと話せるから。ジェラルド・フォードとは違ってね」)。一方、リックはどこかのビーチにいた。物理的な距離は何千マイルと離れていたが、2人穏やかでフレンドリーな間柄は画面越しでもはっきりと伝わってきた。それは2人の笑い声にもはっきりと現れている。ドキュメンタリーでも見られたように、過去に経験した出会いや出来事に言及しながら進められる2人の会話は、まるで2人が歩んできた道のりを辿るミステリーツアーだ。

曲を聴くたびに必ず発見がある

-『マッカートニー 3,2,1』は公開されるやいなや、大きな反響を呼んでいます(編注:アメリカでは2021年7月より配信)。

ポール:そうみたいだね、あちこちからフィードバックをもらってるよ。「こないだ『3, 2, 1』を観たよ」って、会う人みんなから言われる。こないだ話した時にリックにも言ったけど、あれって作品っていう感じがしないんだ。僕らの他愛ないおしゃべりを観てるみたいだって言われるけど、それってまさに事実なんだよ。

-シナリオを用意せず、2人がただ語り合うというミニマルなアプローチにしようと決めた経緯は?

リック:自然とそうなったんだ。何を撮るのか、どう使うのかも決めずに、ただインタビューの様子を撮影した。結果的に、それがありのままで形で成立したんだ。僕らの意向を挟む余地自体がほとんどなかったんだよ。

ポール:音楽について話すということ以外、事前に何も決めていなかったんだ。最初にリックと電話で話した時に「あなたのベースプレイに着目したい」って言われて、面白くなりそうだと思った。それを切り口にしつつ、いろいろと掘り下げていくつもりらしかったんだ。だから実際に会った時点では、僕のベースプレイが作品に与えた影響について語る予定だったんだけど、そこからテーマを広げていったんだよ。

-自発的だったということですね。

リック:そうだね。現場の様子をそのまま伝えているんだ。

ポール:誰かと音楽の話をするのって楽しいからね。相手がリックのような、そんじょそこらの人とは比べ物にならない知識を持った人なら尚更だ。彼の考えは確かな経験に裏打ちされてる。要するに僕らは、共通して好きなトピックについて、それぞれの考えを述べ合ってただけなんだよ。

-トピックとなる曲の中には、かなり意外なものもありますよね。リックが「Babys in Black」の名前を挙げた時には心底驚きました。個人的に最も好きな曲の1つなんですが、まさかあれが取り上げられるとは思わなかったので。

ポール:(笑いながら)僕も驚いたよ。

リック:私はあの曲が大好きなんだ。それにあの曲は、ジョンとポールが始終ハモりながら歌っている曲の好例でもある。曲の一部だけじゃなく、全編でハモってるんだ。あの曲が3拍子だってことを、私は言われるまで気づかなかった。それってすごく面白いと思うんだよ。ビートルズの音楽は多くの人にとって人生の一部になっているから、いろんなものの基準になっている。あの曲も、私にとってはそういう絶対的なものなんだ。私は3拍子がどういうものか知っているけれど、物心がつく前から聴いていた「Babys in Black」はそれでしかなく、3拍子かどうかなんてことを考える余地はなかった。ポールが指摘するまで、私はビートルズの曲が特定のフォーマットに当てはまるという考え自体を持っていなかったんだよ。

ポール:ワルツのファンキーな感じが気に入ってたんだ。「Babys in Black」が冷たくてダークな3拍子の曲になっているのは、スクリーミン・ジェイ・ホーキンズの「I Put a Spell on You」を意識しているからだよ。リックが指摘したように、エヴァリー・ブラザーズの影響を受けてる。曲を書いてると、ごく自然に高音のハーモニーが浮かぶんだ。その方が何かとスムーズに進むからね。

リック:曲を聴くたびに、必ず新たな発見があるんだ。本当にすごいことだよ。これらの曲が存在していることに、心から感謝しているよ。


©2021 MPL Communications, Inc.

-「Here, There and Everywhere」等、発表当初はヒットしなかったものの、後年になって魅力が再発見された曲も数多くありますよね。

ポール:僕はすごくロマンチストなんだ。それは男と女のロマンスに限った話じゃない。僕を夢中にさせるのは、愛情に満ちていながらも、どこか冷静で穏やかな一面もあるような曲なんだ。何かに対する愛を自覚すること、それが曲作りの最初の一歩になることが多いね。

リック:「Here, there and everywhere」のフレーズを思いついた時のことを覚えていますか? とても詩的で美しいですよね。

ポール:思い出せないな。基本となるアイデアを思いついて、次のヴァースをどうするか考えるっていう、典型的なパターンだったんじゃないかな。そこで躓くことって多いんだよ。最初のヴァースに満足したからと言って、次のヴァースが同じくらいいい出来になるとは限らないからね。

ポールとジョンの信頼関係

-作品の中で、あなたは他のビートルたちに対してとても好意的なコメントを寄せています。例えばリンゴに対しては、「彼は僕らの気分を高揚させてくれた」と語っていたり。

ポール:そうだね、だって事実だからさ。リンゴの前のドラマーをけなしているわけじゃないんだ。彼は上手だったし、やるべきことをしっかりこなしてくれた。でも、リンゴはマジックを起こすことができたんだ。彼と初めて一緒にプレイした時のことは、今でもはっきり覚えてるよ。はっきり言って、僕らは最初は懐疑的だった。でも彼がドラムを叩いた瞬間、思わず鳥肌が立ったんだ。こう思ったよ、「彼で決まりだ。これがこのバンドのラインナップだ」。事実そうなったわけだけどね。

-あなた方はどちらも数多くのコラボレーションを経験していますが、相手の優れたところを引き出すのが得意だという点が共通していると思います。

ポール:僕らはラッキーなんじゃないかな。場所やフィールドは違っても、リックと僕が辿ってきた道のりには共通点があると思う。幼い頃に音楽に感化されて、自分と同じような経験をした人と巡り会うという点においてね。リックの場合はデフ・ジャムの創設がいい例だよね。あれはどういう経緯で実現したんだろう?

リック:人と運の両方に恵まれたんです。関わった人全員が心から音楽を愛していて、何かしらのメリットを求めている人間はいなかった。あのプロジェクトがヒップホップの黎明期に成功を収めるなんて、誰も思っていなかったんです。ポール、あなたにはまだ話していませんでしたが、自分たちがしていることに自信を持つようになったきっかけのひとつは、あなたがあるインタビューで「デフ・ジャムの作品をよく聴いてる」と発言していたことだったんです。ビートルズの音楽を聴いて育ったけれど、多くの人が理解できない音楽を作っていたニューヨークのいち大学生だった私にとって、それはものすごく大きな意味を持っていた。デフ・ジャムのことを知っているとは夢にも思わなかったし、ましてや作品を聴いてくれているなんて考えたこともなかったので。

ポール:僕らが幸運だったことは確かだけど、運っていうのは情熱が引き寄せるものだと思う。幼い頃、僕は父の世代が聴いていた音楽が好きだった。コード進行が魅力的で、父が楽器を弾くのを聴くのも大好きだった。そうするうちに情熱がどんどん強くなって、結果的にそれがジョンやジョージとの出会いをもたらしたんだ。互いに引き寄せ合うようにして、同じ情熱を持った仲間と巡り会ったわけだよ。そういう人たちと出会えたという意味で、リックも僕も幸運だったんだ。

リック:コラボレーションは、相性次第でプロジェクトをすごくエキサイティングにする。素晴らしいケミストリーを持ったバンドとの仕事は、まさにマジックとしか言いようがない。あれ以上に素晴らしい経験はないですよね。

ポール:それも情熱によるものなんだと僕は思う。同じ情熱を持った誰かと、力を合わせて何かを作り出そうとする。僕の場合、最初のコラボレーション相手はジョンだった。多くの言葉を交わさなくても、僕らは意思疎通を図ることができた。ある曲の中に僕が好きになれない、あるいは気に食わないラインがあったとして、ジョンは僕の表情からそういう思いを読み取ってくれた。それを代弁するように「この部分は良くないと思う。やり直そう」って彼が切り出してくれて、僕らは問題を解決することができた。そういう関係を築く上で最も大切なのは、何を成し遂げようとしているのかをお互いが把握することだと思う。お互いがそういうプロセスを好んでいるから、自ずと解決策が見えてくるんだ。

僕があるラインを思いついたとして……例えば初期のケースだけど、「I Saw Her Standing There」で、僕は当初”彼女は17歳、ミスコンに選ばれたことはない”っていうラインを歌うことになってた。僕は「ミスコン(beauty queen)」っていう言葉に違和感を覚えていたんだけど、隣にいたジョンが同じように感じているのがわかったんだ。それで僕らは、どちらともなく「その部分は変えるべきだ」って言い出した。結果的に「君にはピンとこないかもしれないけど」っていう、ずっと良いラインに置き換えられることになったんだよ。

ニール・ヤングにこの話をしたことがあるんだ。ハリウッドのウォーク・オブ・フェームとか何とかいうところで、僕らは何かのイベントに出席してた。あのフレーズがもともとミスコンだったってことを話すと、彼は「へぇ、面白いね」って言ったきりで、特に気に留めていないようだった。でもその夜、確かMusiCaresのイベントだったと思うんだけど、彼が「I Saw Her Standing There」をプレイして「彼女は17歳、ミスコンに選ばれたことはない」って歌ったんだ。やらずにはいられなかったんだろうね、すごくニールらしいよ。実際、かなりいい感じだった。でも僕はやっぱり、作り直したバージョンの方が好きだな。



-その一方で、あなたが「Hey Jude」を聞かせた時に、歌詞を変えるなとジョンから言われたという有名なエピソードもあります。

ポール:そのことははっきりと覚えているよ。僕はロンドンの自宅の最上階にあった部屋で、自分で色を塗ったピアノを弾いてた。僕のすぐ後ろには、ジョンとヨーコが並んで立ってた。冒頭のフレーズから始めて、”君がすべきことは、その肩の上にのしかかってる”っていうラインを歌った直後に、軽く振り返って「この部分は後で変えるから」って伝えたんだ。その直後に交わしたやりとりは、僕とジョンの関係を物語ってると思う。彼はこう言ったんだ、「いや、変えなくていい」。まるで命令するかのようにね。「一番いい部分じゃないか、変える必要なんてない」ってね。「いやいや、まるで気に入ってないから変えたいんだ」って返したけど、ジョンは「いや、変えちゃダメだ」って言って譲ろうとしなかった。その瞬間、彼のいう通りだと僕は思い直して、そのラインを採用することに決めた。お互いのことを心底信頼していなければ、そういうことってできないものだよ。

ロマンを見出そうとする習慣

-先ほどおっしゃっていたように、あなたはいろんな意味でロマンチストだと思います。そういった面がはっきりと現れている「Two of Us」のような曲は、あなた以外の誰にも書けないと思うんです。

ポール:前にも話したけど、愛車のアストン・マーティンにリンダを乗せてロンドン郊外を走っていた時のことを、僕はすごく鮮明に覚えていて。彼女は知らない道を走るのが好きだった。僕の場合は出来たばかりのガールフレンドだったけど、大抵の男性は恋人とドライブする時、道に迷わないかどうか不安に思うものだよ。ロンドンはニューヨークみたいに、道路が碁盤の目状になっているわけじゃない。ストリーサムを走っているつもりが、いつの間にかハリンゲイに入っていたりするんだ。でも彼女が「道に迷うのって楽しいじゃない」って言うから、僕はそうだねって答えてた。

ロンドンを出て、小さな駐車場がある場所に行き着いたんだけど、そこには小さな森があって、僕らは中に入ってみることにした。当時いつもそうしていたように、僕はギターを持っていたんだけど、そこで自然と曲が生まれてきたんだ。歌詞は少しだけ詩的にアレンジしているけど、基本的にはあの場所にいた僕らのことをそのまま歌ったもので、あっという間に出来上がった。

-他の男性が注目しない女性に惹かれて、その女性のことを曲にする「Another Day」も、ファンの間ですごく人気があります。その女性を見つめながら、彼女の物語を紡いでいくという、とてもユニークなソングライティングが印象的です。

ポール:うん、それはきっと、僕に覗き趣味があるからだろうね。今じゃ捕まってしまうかも。というのは冗談で、僕はただ人を観察するのが好きなんだ。そのテーマで写真を撮りためたこともあって、「Indentations」っていうタイトルなんだ。きっかけになったのは女性が服を脱ぐ時に、ブラの紐が小さな突起に見えたことだった。ただ一緒にいるだけじゃなくて、愛する女性をじっと見つめていれば、些細なことが愛おしく思えてくるものだよ。コーヒーを飲むところだったり、書類を片手に仕事に出かけていく姿だったり、相手が1日のうちに見せるいろんな顔の魅力に気がつくんだ。

リック:身の回りで起きていることに注意を払うというのは、とてもスピリチュアルなコンセプトだと思う。マインドフルネスというのはそういうことだから。

ポール:その通りだね。

リック:周囲で起きていることにエンゲージし、何かを学ぶ際のプロセスを通じて注意を払うというのは、精神修養法の基本ですよね。私たちは関心を持つことで、自分にとって必要な情報を得ているから。

ポール:僕は何かと細かな点に気がつくんだ。そのせいで相手に恥をかかせてしまうこともあって、「まさか君が気づくとは思わなかった」なんて言われるたびに、「僕は目ざといからね」って答えてる。ちょっと脱線するけど、昔ジョージ・マーティンは艦隊航空隊にいたんだけど、彼はパイロットではなくてオブザーバー(観察者)だったんだ。他の隊員たちの行動に常に注意を払い、必要な部品なんかを迅速に供給するのを手伝っていた。彼にこう言ったことがあるよ。「まさにプロデューサーだ。いろんなスキルを把握して、指揮をとり、隊員たちをプロデュースしている」

-些細なことに喜びや驚きを見出すあなたの在り方はソングライティングにも現れていて、「Penny Lane」はその好例です。あの曲を聴いた誰もが、あの場所をとても身近に感じるはずです。

ポール:ジョンと僕にとって、ペニー・レーンは慣れ親しんだ場所だった。知っての通り、あれは実在するバスの終着点なんだ。ジョンの家に行くにはまずペニー・レーンまで行って、そこから別のバスに乗り換える必要があった。ジョンが僕に会いにくる時にも同じルートを通ってたから、僕ら両方にとってすごく馴染みのある場所だったんだ。ソングライターをやってると、そういうことがふと記憶の中から蘇ってくるんだよ。「今思えば、ペニー・レーンってすごく素敵な名前だ。ウィルムスロー・ロードなんて名前よりもずっといい」。あれもきっと、物事にロマンを見出そうとする習慣から生まれてきたんだね。

ペニー・レーンにまつわるあれこれはみんな、僕とジョンにとって馴染みのあるものばかりだ。歌詞に出てくる散髪屋は、イタリア系のBiolettisっていう店だった。そういう具体的な事柄を2人の間で共有できていたことは、曲作りをスムーズにしてたと思う。ストロベリー・フィールズも素敵な名前だよね。救世軍が運営していた孤児院の名前だったんだけど、エーリュシオンのような楽園を思わせる響きがあるだろう? まずジョンが”知ってるよ、多分ね、いや、確かだ(I think, I know, ah yes, I know)”っていう、スタッカートの効いたあの奇妙で独特なフレーズを思いついた(実際の歌詞は”I think, er No, I mean, er Yes but its all wrong.”)。一体どんな曲にするつもりなんだろうと思ったけど、すごくジョンらしくてクールだと思った。想像がつくだろうけど、彼のアイデアにはいつも驚かされてばかりだったね。”知ってるさ、わかるよ、僕の木に登ったら理解できるかもね(I think, I know, I mean, maybe up in my tree)”(手を叩いて笑う)。もう「何が言いたいのか、はっきりとわかるよ!」って感じだよ。それでも、彼はしっかりと形にしてみせた。

ディティールを聞き分ける才能

リック:「Penny Lane」のメロディがどんな風に生まれたかは覚えていますか? 実に凝ったメロディですよね。

ポール:どちらかというとコードじゃないかな。僕にとってはコード進行が全てなんだ。ラジオか何かで聴いた「Send in the Clowns」が好きで、スティーヴン・ソンドハイムと会ったことがあるんだ。作曲の方法なんかについて語り合ったんだけど、「君のプロセスはどんな感じ?」って聞かれて、僕は「特に決まっていないけど、いいと思えるコード進行をいつも探してる」って答えた。「Penny Lane」にはすごくピンと来たのを覚えてるよ、確かCマイナー7thだったんじゃないかな。例によって、僕は自宅で例のピアノを適当に弾いていたんだ。その時はジョンとヨーコはいなかったけどね。あのメロディは、あのコードを鳴らした時に自然と出てきたんだ。

ビートルズの初期の曲のほとんどでは、ジョンとジョージがアコースティックギターを弾いて、僕がベースを弾き、リンゴがドラムを叩いてた。アコースティックギターだけを抜き出して聴いてみると、ハーモニクスがうっすらと聞こえるんだ。そんな時はそれをそっと抜き出して、前に持ってくればいい。ギターはいつもメロディを生み出そうとしているんだよ。僕の役目はそれを後押ししてあげることなんだ。

リック:それもやっぱり、ディティールを聞き分けることができるあなたの才能を示していると思います。大抵の人は表面のコードに気を取られてしまうだろうけれど、あなたはそのハーモニクスの中にメロディを見出したわけですね。

ポール:自分ではあまり考えたことがなかったけど、きっとそうなんだろうね。それってビートルズの魅力のひとつだったと僕は思ってる。少しでも気になることがあれば「ちょっと待って、今のは何?」って言って作業を中断して、納得がいくまで徹底的に突き詰める。僕は数えきれないほどのセッションを経験してきたけど、プロデューサーがテープをうっかり逆再生して、「チャーリー、テープの向きが逆だよ」「あっ、すまない」みたいなやり取りを交わして、何もなかったかのように事を進めていくケースを何度も見てきた。

でも、僕らはそうじゃなかった。「いや、ちょっと待って。今の感じ、一体何なんだろう?」って。音をあえて逆再生するなんて、当時は誰も考えたことがなかったんだ。今でこそ常套手段になっているけど、録音した音を逆方向に再生するとどんな風に聞こえるのか、あの頃は誰も知らなかった。大抵の人が単なる間違いだとして片付けてしまうものに、僕たちは「これって面白いじゃないか」って反応したんだよ。

リック:私も同感です。デフ・ジャムのプロジェクトがどのように始まったのかというさっきの質問ですが、まさにそれと同じパターンなんです。私たちは、自分たちが思い描いたことがそのまま形になるとはまったく考えていなかった。会話は所詮、ただの会話でしかない。その軌跡を描くというドキュメンタリーの企画もあったけれど、どれも私たちが感じていた興奮を捉えることができていないように思えて。どの作品も、私たちが何を思い描いていたかという部分しか表現できていなかった。本当に注意を払っていれば、それが何になろうとしているのかを見極めることができる。でもそれが何になるのかを予め知っていたら、それ以上のものには決してならない。

ポール:その通りだね。まったくもって同感だよ。


©2021 MPL Communications, Inc.

-楽曲におけるあなたの女性の描き方は、時代のはるか先を行っていたと思うんです。あなたの曲に出てくる女性は内的生活や記憶、アイデア、思想を有しています。そういった女性を描いていた男性のソングライターは、当時決して多くありませんでした。

ポール:同じことをいろんな女性から言われたよ。「自覚してるかどうかわからないけど、あなたは女性についての曲をたくさん書いてるわね」ってさ。女の子という言葉に置き換えてもいいかもしれない。鳥についての曲も多いんだけどね。でも確かに、僕は昔から女性の方が男性よりもクールだと思ってた。女性は特別な存在だと思っているし、今もそれは変わらない。何と言っても、あらゆる命は女性から生まれてくるわけだから。それはどう転んでも、僕にはできないことだ。そういう意味でも、僕は常に女性という存在に敬意を払ってきたつもりだよ。

-あなたがたは2人とも、未来にフォーカスするという姿勢を貫いています。過去数年間で、ポールは『Egypt Station』『McCartney III』という傑作を発表しました。過去に囚われることなく、絶えず自身をインスパイアし続ける秘訣は何でしょう?

ポール:”僕はここまで戻ってきて、自分よりも先にいる”っていうラインを過去に書いたんだけど(「The World Tonight」のこと)、とても誇りに思っているんだ。リックには共感してもらえるんじゃないかな。君は好きなことに没頭して、気づけば大きなことを達成していたけれど、勝因は自分でも把握していない。でもそれって、音楽やコードに夢中だった僕と同じケースだと思うんだ。

ソンドハイムと話した時に、僕が「コード進行を考えるのが好きなんです」って言うと、彼は驚いている様子だった。僕はそれまで、誰もがコードを鳴らしながら曲を書いているんだと思ってた。でもそれ以来、「他にどういう方法があるんだろう? 自然に思い浮かぶのかな?」なんて考えるようになって。でも、考えすぎるのは良くないんだ。考えるのをやめて手を動かす、その方がうまくいくと僕は思ってる。

-それは先ほど話題に上った、マインドフルネスというテーマにも通じると思います。今この瞬間を生き、自分の周りで起きていることに注意を払うということを、多くの人があなたの曲から学んだと思います。

ポール:うん、父からよく言われたんだ。「今すぐ行動しろ。Do it now, D-I-N」ってね。それってレーベルの名前にするべきだって、以前からずっと思ってたんだ。どうだいリック?

リック:今すぐやりましょう(Do it now)。

『ザ・ビートルズ:Get Back』に思うこと

-『ザ・ビートルズ:Get Back』についても聞かせてください。当時取るに足らないと思われていた瞬間の数々が大きな意味を持つことになったわけですが、人々が今それを求めているという事実に驚きを感じますか?

ポール:そうだね。どうでもいいと思っていたことに、皆が興味を示しているわけだからね。失われたはずの自分の物語の一部に関心を持ってもらえるっていうのは、やっぱり嬉しいよ。

作品に使われているかどうかわからないけど、ビートルズの初期のセッション(「One After 909」)でこんな事があったんだ。僕らがみんな階下にいて、プロデューサーは上階にいた。その日、僕は自分のピックを持ってくるのを忘れて。僕とジョンが好んで使っていたやつで、僕らはプレックって呼んでた。プレックを持って来るのを忘れたと僕が白状すると、彼は「どこに置いてきたんだ?」って言った。「ホテルに置いてきちゃったんだ。スーツケースの中かどこかだと思う」って僕がいうと、彼はこう言った。「まったく、おっちょこちょいだな」

当時の自分たちの姿が見られるのはいいものだよ。取るに足らないことでも、僕らが歩んできた道のり全体の一部として捉えれば、それが重大な意味を持ったりするんだ。

リック:いちファンとして、ビートルズのことを少しでも多く知りたい。それはもう絶対に。何かを好きなると、どんな些細なことでも知りたくなるものだから。情報源が限られているものだと、その思いは一層強くなる。ビートルズの場合だと13枚のアルバムしかないわけだから、それ以外のものはまさに天からの贈り物です。私は若い頃からビートルズのブートレグやアウトテイク、スクラップなんかを集めていますが、もはや外典のようなものです。

ポール:そういう人々にはきっと、ピーター・ジャクソンが撮ったあの映画を楽しんでもらえると思う。彼が厳選したそういったものが、あの作品にはたくさん使われているから。あれを観れば、あるストーリーが完結するのを感じると思うよ。当時の日常の取るに足らない瞬間の数々が、物語の欠けていた部分を補完するんだ。60時間にも及ぶ映像の編集作業にも音を上げなかったのは、彼が僕らの物語とそれらの素材に敬意を払ってくれていた証拠だよ。その60時間をまるまる経験したいっていう人も、きっといるんだろうけどね。

(リックとインタビュアーの両方が手を上げる)

リック:ここに2人いますよ。

ポール:でもリックが言ったように、これは限られた素材から作られたものだ。こういう時、僕はよくピカソの作品を引き合いに出すんだ。彼の歴史はある時点で始まり、ある時点で終わっている。青の時代の作品を好む人もいれば、キュビズムの作品の方が好きだという人もいる。僕は両方好きなんだ、どちらも彼の作品だからね。彼のちょっとした落書きみたいなものにさえ、僕は魅力を感じる。それってビートルズも同じなんじゃないかと思うんだよ。

リック:取るに足らないものがヒントになることってありますよね。ピカソのちょっとした落書きを見て、彼の絵画からは知り得なかったことを理解したり。

ポール:その通りだね。『Get Back』のルーフトップ・ライブのシーンで、ジョンが曲の歌詞を忘れてしまう場面があるんだ。適当にごまかそうとする彼のすぐ足元で、誰かが歌詞を書いた紙を彼の方に向けてる。僕はあのシーンが好きなんだ、彼だって完璧じゃないんだってことを示しているからね。撮影しているにも関わらずああいうものを用意させたのは、ジョンが自分の不完全さを敢えて示そうとしていたからだ。こういったディティールからジョンの素顔が浮かび上がって来ると思うし、それはバンド全体にも言えることだ。その意味でも、こういう部分に光を当てられたことを嬉しく思ってるよ。

(ポールの妻である)ナンシーによく話していることがあるんだ。初めて会ったのは10年前で……話していて思ったけど、出会ってからもう10年も経つなんて信じられないな。とにかく出会ったばかりの頃、「さっき妹に会ってきたの。楽しかったわ」っていう彼女に、僕はこう言ったんだ。「もっと詳しく話してよ。妹に会いに行って、そこで何があったのか教えて。何か食べたかい? どんなことを話したの? ディティールが知りたいんだ」。僕はそういうタイプなんだよ、ストーリーの詳細まで知りたくなる。それはもう無数に存在するんだよ、気の遠くなるほどにね。幸いなことに、僕はそういうのをよく覚えてるんだ。

リック:あれだけの映像素材が残されていたというのは、本当に素晴らしいことですよね。『ザ・ビートルズ・アンソロジー』を初めて観た時、携帯電話のなかった時代にこれだけの映像が残されていたっていうことに、ものすごく驚かされたんです。非現実的で、目を疑うとはこのことだなって。

ポール:きっとまだどこかに眠っているはずだよ。ビートルズが忘れ去られないのは、それも理由の1つなのかもしれないね。知られていない一面がまだ残されていて、人々がそれを発見し続けてる。僕はいつも、みんなが全部知っているものだと思い込んでしまいがちなんだ。人は年をとると、「僕は同じストーリーを延々と繰り返しているのだろうか?」って自問するようになる。そういう時、僕はいつも自分に「君はどうやってジョンと出会った?」って問いかけるんだ。適当に話をあつらえることはできない。もしかしたら、過去に話した内容と少しだけ違うことを言えるかもしれない。いずれにせよ、僕は誰かに語りかけることをやめない。「えっ? 君は夢の中で『Yesterday』を聴いたの?」みたいな反応が相手から返ってきた時には、そのストーリーをまた繰り返してる。「この話、本当に聞いたことないの?」って感じだけどね。

でも本当に、まるで知らない人もいるんだ。若いリスナーも増えているけど、彼らが知らないことってたくさんあるんだよ。だからこそ、『3, 2, 1』みたいな作品に意味があるんだ。アーティストのリチャード・プリンスは音楽が好きなんだけど、昨日彼に会った時にこう言ってたよ。「あんな風にテンポを下げることで『Come Together』が生まれたなんて、まるで知らなかったよ」

あれは素晴らしい企画だったと思う。リックと膝を交えて話すことができて、とても楽しかった。あれなら何時間だって続けられるよ。デフ・ジャムのこととか、リックが初めてプロデュースしたレコードのこととか、その時のセッションの様子とか、聞きたいことも聞けずじまいだったけど、それはまた次の機会にとっておくことにしよう。



ドキュメンタリー・シリーズ『マッカートニー 3,2,1』
ディズニープラスにて全6話独占配信中
出演・製作総指揮:ポール・マッカートニー、リック・ルービン
監督:ザッカリー・ハインザーリング(『キューティー&ボクサー』)
©2021 MPL Communications, Inc.
公式サイト:https://www.disneyplus.com/ja-jp/series/mccartney-3-2-1/7R6sKzCe6axn


©2021 Disney ©2020 Apple Corps Ltd.

ドキュメンタリー作品『ザ・ビートルズ:Get Back』
■監督:ピーター・ジャクソン
■出演:ジョン・レノン、ポール・マッカートニー、ジョージ・ハリスン、リンゴ・スター
ディズニープラスにて全3話独占配信中
Part 1: DAY1〜7(157分)/ Part 2:DAY8〜16(174分)/ Part 3:DAY17〜22(139分) トータル:約7時間50分
公式サイト:https://disneyplus.disney.co.jp/program/thebeatles.html

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