ボノボが明かす、曲作りのプロセス「ダンスフロアの反応ほど貴重なフィードバックはない」
Rolling Stone Japan / 2022年1月12日 18時30分
2017年の前作『Migration』が全英チャートのトップ5入り、米ビルボードのダンス・アルバム・チャートでは1位を記録。いまや世界的プロデューサー/DJとなったボノボ(Bonobo)ことサイモン・グリーンにインタビュー。ジャミーラ・ウッズ、ジョージ、ジョーダン・ラカイなども参加した最新作『Fragments』(1月14日リリース)を大いに語る。
現役のDJを続けるエレクトロニック・プロデューサーも少なくないが、ボノボもその一人だ。彼はよく、制作途中の作品をクラブへ持ち込んで試運転させることがある。スタジオとクラブをいわば「フィードバックループ」として利用することで、作品のエッジに磨きをかけながらムラを排除して、彼特有の穏やかながらダンサブルな楽曲に仕上げていくのだ。「平日に作った曲を、週末にクラブで流してみるのが、いつものやり方さ」とボノボは言う。結果として「ダンスフロアで曲が全く乗らない瞬間が実感できる。これほど貴重なフィードバックはない」という。
熱狂的なディスコループに迫力のあるキックドラムを加えて流せばクラブ全体が盛り上がるだろう、などと安易に考えがちだが、実際は違う。「自分でも思いもしなかった曲に対して、大きなリアクションを受けることも多い」とボノボは続ける。「”来たぞ、これこそがクラブ受けする曲だ!”と自分で思った作品ほど失敗する」という。逆に「さほど自分でも期待していなかったパートで、ものすごく盛り上がったりする」とボノボは語る。
ただし今は、「明らかに大して力を入れていなかった部分を大化けさせる奇跡」を生み出せた環境から、かなり長い時間遠ざかっている。ボノボは過去18カ月間のほとんどを、コツコツとニューアルバム『Fragments』の制作に費やしてきた。彼のいつもの曲作りのプロセスがひっくり返されてしまったのだ。全てのクラブが休業中だったため、ダンスフロアからリアルタイムのリアクションを得ながら自分の楽曲を評価するという、いつものやり方で進められなかった。「去年はクラブでの試運転ができなかったから、まるで暗闇の中にいるようだった」という。「”これ以上は自分で確かめようがないから、どうかうまく行ってくれ”と願うだけだった」
しかしボノボは、何も気を揉む必要はない。まもなくリリースされる『Fragments』は彼自身の最近の作品と同様に、静かな滑り出しから優雅に盛り上げて行くいつものスタイルだ。彼は、曲の最も盛り上がるクランチーなパートですら静かなサウンドを貫きながら、ビッグルームのファンを魅了してきた。まるで、池の水面を派手に波立たせることなく静かに水を切りながら跳ねて行く小石のように。ダンスミュージックといえば激しく波打つイメージだが、ボノボの場合は例えるならシュッとしたさざ波のようだ(唯一の例外は、トータリー・イノーマス・エクスティンクト・ダイナソーズとのコラボで2020年にリリースした「Heartbreak」だろう。ノリの良いブレイクビーツに快活なディスコ・ヴォーカルが絡み合う楽曲で、正に「クラブカルチャーの歴史的瞬間へのオマージュ」だった)
偶然から生まれたダイナミクス
ボノボの過去2作品と同様、『Fragments』も瞑想的な音から始まり、多くの楽曲にビブラートの効いたストリングスを多用している(アレンジャー/コンポーザー/マルチ奏者、ミゲル・アトウッド=ファーガソンの影響が大きい)。アルバムの中でボノボは、慣れ親しんだ静かな場所へ何度も帰って行く。アルバムのラストを飾る「Day by Day」は、ストリングスに包まれた子守唄をカディア・ボネイが歌い上げた。ジャミーラ・ウッズとのコラボで先行リリースされたクールなソウル曲「Tides」では、ハープのサンプリングを毎回微妙に変えてプログラミングした「小さいループ」を使って、魅力的なメロディーに仕立てている。
『Fragments』の全体を通じて、ハープは重要な役割を果たしている。「今回のアルバムは、ハープ奏者(ララ・ソモギ)とのセッションから始まった」とボノボは言う。「特にハープ用に作り込んだパートがあった訳ではなく、ただハープの音源が欲しかっただけだった」と彼は明かす。ボノボは、コラボするミュージシャンに予め楽譜を渡して演奏してもらうのではなく、彼らがスタジオで出してくれるさまざま音源を集めて、後で料理するタイプだ。「ピッチを調整したり拡張したりして音を操るのが得意なんだ」とボノボは言う。「アルバムの最初から全体を通じて、ハープ奏者とのセッションから得られたさまざまな断片が散りばめられている」
ボノボのDJセットにマッチした心地よい曲「Closer」には、過去の作品からの音源がサンプリングされている。ボノボは、自身がプロデュースしたアンドレヤ・トリアーナの2010年のデビューアルバム『Lost Where I Belong』から、彼女の囁くような歌声を抜き出した。「過去の音楽からのサンプリングは、かなりメタな感じだ」とボノボは言う。「”これを使ってもいいかな?”と考えたりもするが、自分の作ったビートにしっくりフィットした」となれば、迷う必要はない。
プロデューサーのオフリン (OFlynn)とのコラボレーションによって生まれた「Otomo」は、アルバム中で最もループが合う一方で、最も落ち着きのない曲でもある。オフリンは、「Mesablanca」(2019年)に代表されるようなフィジーで爆発的なハウスを得意とする。2人のパートナーシップは、偶然から生まれたものだった。「ある合唱団のサンプリング音源があって、ラウドに展開してから元に戻るような構成にしたかった。でもどうやって実現したらいいか迷っていた」とボノボは説明する。「以前から自分のDJセットでオフリンの曲を使っていたこともあって、思い切って彼にコンタクトしてみた。彼とは知り合いではなかったが、第三者のアドバイスが欲しかったのさ。彼には、この曲を仕上げるために何かアイディアはないか尋ねてみた」
ボノボから楽曲向けのファイルを受け取ったオフリンは、曲を「ダイナミックにシフト」させてボノボを驚かせると同時に、大いに喜ばせた。「行き詰まった時は、客観的に見られる第三者の大局的なアイディアが重要だという良い実例だった」とボノボは付け加えた。
2021年の夏、世界中のダンスフロアが本格再開へ向けて一歩を踏み出した。ボノボもDJ業に復帰して、「Otomo」を自分のセットに組み入れた。「評判は上々だった」と彼は言う。「誰もこの曲の正体を知らないが、既に受け入れられた感触を得た。いい感じだ」
ボノボ
『Fragments』
2022年1月14日リリース
国内盤CD:解説付き、ボーナストラック1曲収録
CD/LP+Tシャツセットも販売(数量限定)
詳細:https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=12132
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