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ナラ・シネフロ、UKジャズの謎多き新鋭が語る「音楽を奏でるのは瞑想的なこと」

Rolling Stone Japan / 2022年1月13日 18時0分

ナラ・シネフロ

ナラ・シネフロが名門Warpから発表したデビューアルバム『Space 1.8』は、昨年大いに話題になった。彼女はUKジャズ・シーンとも交流があり、ハープとモジュラーシンセを奏でるカリブ系のベルギー人ミュージシャン。ガーディアン紙やPitchforkが絶賛し、ロンドンの人気ラジオ局NTSのレジデンスを務めるなど、その音楽性はすでに高く評価されているが、肝心のキャリアについては今も謎に包まれたままだ。「Space 1」「Space 2」「Space 3」……という曲名もよくわからないし、ネット上を検索しても、アーティストとしての情報や本人の発言はほとんど見当たらない。

1月14日にリリースされる『Space 1.8』国内盤CDのライナーノーツを執筆することになり、彼女に取材を申し込もうと考えた。上述したような事情もあって難しそうにも思われたが、紆余曲折を経てインタビューが実現した。自分で言うのもなんだが、かなり貴重な記事になったと思う。

Zoom越しで話した彼女は人当たりが良く、びっくりするほど話好きで、音楽の話ならいくらでもできると言った印象。彼女の音楽は生演奏とプロダクションの稀有なバランスで成り立っていて、その楽曲はどこまで天然で、どこまでが理詰めなのかわからない。掴めそうで掴めないその構造こそが魅力なのだが、そんな音楽を作れてしまう理由が少しだけわかった気がする。




―子供のころ、音楽を始めた時の話を聞かせてください。

ナラ:音楽はいつだって身近なものだった。当たり前に音楽が家でかかっていたから、それを全部吸収して、自分も音楽をやるようになった。リビングルームにピアノがあって、3歳の時には、ピアノの鍵盤に夢中になって、簡単な曲を耳で聞きながら弾くようになった。それと、住んでいた家が木々で囲まれていて、庭に出ると、向かいに大きな森があった。鳥がたくさんいて、朝からたくさんの鳥たちが唄ったり、会話していた。いろんな種類の鳥がいて、それぞれが違うメロディーを口ずさんでいて。子供の頃はそんな鳥たちの唄声を聞きながら多くの時間を過ごした。

そんな鳥たちの声や、家でかかっていたレコードの数々、音楽好きだった両親の影響で、気づいたらいろいろな楽器を始めていた。6歳の時には母親にバイオリンを弾きたいとお願いした。スズキ・メソードから始めて、8歳の時にフォーク・フィドルも少しやって、バグパイプも数年習ったのを覚えている。あとはアコーディオンとか。世界中のあらゆる楽器を試したかったから。バイオリンの当時の先生がすごく厳しくて、「譜面の通りに弾くように!」といつも言われたせいで、「もう絶対に譜面通りになんか演奏したくない!」と思うようになった(笑)。そのお陰で、耳で聞いたものを演奏することができるようになった。シンセとハープに行きついたのはそこから何年も経ってから。

―これまでに高校や大学などで音楽を学んだことはありますか?

ナラ:16歳の時から高校でジャズを学んで、18歳の時に音大に進学したんだけど、卒業はしなかった。でも、1年半在籍して、ハーモニーや実技の授業をいろいろ受けたり、世界中の音楽について学んだ。そこからロンドンの大学に移ったんだけど、アルバムを作るために学業は一旦お休みにしようと決めて退学した。今でもいろんなことを学んでるから、毎日が大学の延長だとは思っているけどね。

―ハープの演奏に関してはどうやって身に着けたのでしょうか?

ナラ:高校の時に誰にも言わずハープを弾いていた。そして数年前にロンドンに移住してからも1台レンタルして、また誰にも言わずに弾いてた。最初は友人に頼まれてジャズ・オーケストラで少し弾いていたら、それを見た人にも頼まれて、気づいたらいろんな人に声を掛けてもらうようになってた。もともとは部屋で一人でハープを弾く時間が大好きだったからやってただけなんだけど。

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―モジュラー・シンセサイザーを使うようになったきっかけは?

ナラ:キーボードにしてもモジュラー・シンセにしても、使っている人を見ると「うわぁ、凄い!」と思っていたから、シンセはずっと欲しかった。私が生まれ育ったベルギーには、大きなレイヴ・カルチャーがあって、アンダーグラウンドのクラブ・シーンも充実している。ラジオをつけても、少なくとも10年前まではシンセを使ったポップ・ミュージックで溢れていた。そういう音楽を聴いて育ったのが大きいと思う。それらはずっと私の生活の一部だったから。

でも、音楽に取り入れるようになったのはかなり遅かった。一番の理由は機材を買うお金がなかったから。最初は18歳の時に最初のコンピュータを買って、AbletonやLogicを覚えた。その1、2年後からe-bayで一番安いシンセを毎日探すようになって、ある日、凄く安い値段でProphetを買ってから全てが変わった。それが2017年。2018年に4台のモジュールを買って、今、所有しているのはほんの数台って感じ。

ナラ:私は以前、ライブ・サウンドのエンジニアリングを勉強したことがあったから、どうやって信号を送るとか、そういうことは全て自分でやって覚えていったし、問題があったら、それも自分で考えて解決したりしてた。何か問題があったら、どうしたら上手く信号を送れるか解決策を自分なりに考える。人に「それをやったら駄目」と言われるよりも、自分でやってみて覚えるのが凄く楽しかった。もちろんYouTubeの動画もたくさん参考にしたけど。つまり、シンセは『Space 1.8』を作りながら独学で身につけたってこと。生まれて初めて手に入れた、たった4台のモジュールと1台のシンセだけを使って一枚のアルバムを作ったということでもある。シンセ作品を作るとなったら、巨大なラックに乗った無数のシンセが必要だとみんな思っているかもしれないけど、私の場合は限られた中で自分ひとりで作れたのも良かったと思ってる。

―では、あなたにインスピレーションを与えたモジュラー・シンセサイザーの演奏者がいたら教えてください。

ナラ:私にとってのヒーローはハービー・ハンコック。彼のシンセの使い方は本当にさりげなくて、まるで絨毯のようで耳に心地いい。14歳の時に初めて聴いた時、「何これ⁉︎」と思ったし、別次元だと思った。彼の名作は聴くだけで誰もが多くのことを学べると思う。シンセやキーボードの使い方がとにかく奥深くて、お手本のようだから。

自由で感覚的な曲作りのプロセス

―『Space 1.8』はタイトルも不思議な感じがしますが、このアルバムのコンセプトや、そのコンセプトを思いつくに至ったきっかけなどを教えてください。

ナラ:毎日が充実していた時期でもあって、1曲レコーディングするたびに、それぞれが特別な瞬間に思えた。聴きかえすとその時ならではの部屋の雰囲気や季節が聴こえてきて、曲によっては夏を感じたり、秋や冬眠の準備を感じたりもした。全曲のデモを聴き返した時に、それぞれの曲が別々の「部屋」みたいに感じられて、ヘッドホンで聴くとその時の部屋に戻った気分になる。だからこれらの曲を”Room 1”、”Room 2”、”Room 3”と呼ぶことにした。それに、どの曲も全く違うサウンドだったことに驚いた。バンドの演奏だけの曲もあれば、シンセだけの曲もあって「こんなにバラバラの曲ばかりでどうするの?」とも思った。だから、それぞれを独立している「部屋」に例える感じが気に入ったのもあると思う。そこからさらに「Room」を「Space」に変えた。「部屋」というよりも、「空間」のほうが近いと思って。そう決めたのが2018年12月だった。

―ここに収録された音楽はすごく自由で、様々な分類や境界を感じさせないものです。だからこそ、どうやって作曲したのか、どう制作されているのか、とても気になります。作曲のプロセスの話も聞かせてもらえますか?

ナラ:曲によって全然違う(笑)、その都度、新たな冒険をするような感覚。作曲した時期もバラバラ。「Space 2」と「Space 4」のように、私がピアノで作曲したものを譜面に起こして、友人でもある素晴らしいミュージシャンたちにスタジオに来てもらって、彼らに曲の雰囲気を説明して、私が指揮をしながらレコーディングしたものもある。

一方で、即興でその場でできた曲もある。「Space 3」は、まずエディ・ヒック(サンズ・オブ・ケメットのドラム)やウォンキー・ロジック(ロンドンのビートメイカー)と一緒に、色々なアイディアを弾いてみるところから始まった。シンセやドラムのアイディアを思いつくままに弾いてみて、それを持ち帰って、聴き返して、「これは面白そう」と思ったものを編集したり、加工したり、シンセを足して、ミックスしている。

そして「Space 1」や「Space 5」、「Space 7」は一人で部屋でシンセをいろいろ重ねて、ハープを加えたり、さらにシンセを加えたりして作ったもの。この手の曲は凄く短時間でできることが多い。その場のノリでね。例えば「Space 7」は、10分でできたと思う(笑)。本当にあっという間。「Space 5」も1時間か2時間だったと思う。

でも、「Space 1」は段階的だった。コードのアイディアを夏に思いついて、そのコードを秋に試して、それにドラムやクリックを使ってハープを重ねてみて、そのハープを後で速めてみたり。でも「Space 1」はあまりいい曲じゃないと思ってたから、当初アルバムに入れるつもりじゃなかった。数カ月後後に友達に聴かせたら、「このサウンドいいよ!」と言ってくれたんで、「だったら入れようかな」ってなった(笑)」

―10分とか1時間で生まれた曲は、インプロビゼーションで作ったみたいな感覚なんでしょうか。

ナラ:「Space 7」の場合は、ちょっと特殊な状況だった。アルバムを繋げてくれるインタールードみたいな曲が欲しくて作ったから。特に「Space 6」から「Space 8」へとつないでくれる橋渡し的なものが欲しかった。でもけっこう難しくて。アイディアはあったんだけど、アルバムを一つにまとめる「これだ」という曲がなかなかできなかった。マスタリングの前日になってもまだ「Space 7」はできていなかったんだけど、とりあえず先に出来上がった他の曲を12時間掛けてスタジオでミックスして、その日はすごく疲れて家に帰ったんだけど、家についたら自分の部屋で瞑想をしてみることにした。「どうか曲が降りてきますように」って祈りながら(笑)。その瞑想を終えて、立ち上がって、10分であの曲を書いて、そのまま寝た(笑)。翌日、それをリック(・デイヴィッド:エンジニア)に聴かせたら「これ、いいじゃん」と言ってくれたんだけど、あまりに早く書けた曲だから、自分では今でも確信がなくて、人が好きだって言ってくれるのが未だに信じられてない曲でもある(笑)。

―それは面白い。リックの直感にすべて委ねたってことですね。「Space 1」も友達の意見に委ねてるし、このアルバムはそういう委ねることにも意味があったのかもしれませんね。では、「Space 5」はどうですか?

ナラ:「Space 5」のときは、正真正銘のトランス状態だったと思う。いい感じだって思いながら、モジュールでサウンドを幾つか作ったのを覚えている。気づいたら別世界に行っていて、私じゃない別の何かが残りを書き上げていた。あっという間の出来事だった。この時もまた完成したらそのまま寝て、翌日か翌週に聴き返してみたら「これ、私が書いたの?」と信じられなかった(笑)。素の状態だったら「Space 5」みたいな曲はできなかったんじゃないかな。自意識が全くない状態が生んだ曲だと思う。



―あなたのサウンドはすごく特殊な音像だと思います。録音やポストプロダクションなどの部分で、これまで特に研究したプロデューサーやコンポーザーはいますか?

ナラ:私はかなりのオタクで、音楽を聴いてると、「どんな機材でこれを作ったんだろう」と考えることが普通にある。音楽が大好きだから、1日何時間も音楽を聴いて過ごすし、出会ったレコードもとにかく何でも聴いてみる。音楽を聴く時は、音楽そのものを聴くんだけど、気に入ったミックスだったり、心地いいと思ったミックスがあると、検索して、どんなコンプレッサーを使ったかとか機材を調べることもある。でも、自分ではシンプルにとどめておきたいから限られた機材しか使わない。使うものが増えると、プロセスが無限になってしまうから。でも心地いい音をみつけた時は、「何を使うとこういう音になるんだろう」と考えるし、「ドラムの音に余裕を持たせているからなのか」「低音域を上げているからなのか」「ヴォーカルのミックスはどうやっているのか」……その曲のミックスを自分なりに分析にしてみる。だから、対象となる特定のプロデューサーとかはいないことになるかな。

あとはアルバム制作中、レコード店で働いていて、今も働いていて4年目になるんだけど、その影響も大きかった。

―NTS Radioでのあなたの選曲が素晴らしくて(トラックリストはこちら)、ジャンルや時代も地域も幅広くセレクトされているし、すごく好きだったんです。レコード店で働いていたんですね。

ナラ:そう、そこでは60年代、70年代、80年代の音楽ばかり聴いていた。当時のレコードのミックスが大好きで、音を聴くと奏者が全員同じ部屋にいるのが伝わるし、楽器同士の呼吸が混ざり合っているのが好き。ドラムがピアノの真横にあったりするし、しかも全てアナログ・テープに録っている。今のものと比べても、全然こっちのほうがいい音って私は思ってしまう。「何が起きてるの?」って(笑)。いつから楽器を個別の部屋でバラバラに録るようになって、それが当たり前になったのかって思う。だから今作でもハープをレコーディングする時は、ドラムの真横に置いたり、ピアノをドラムの真横に置いたりして、敢えて間違ったやり方で録ってる。間違ってるかどうかよりも、自分で実際に聴いた感覚を大事にしたかったから。


NTS Radio「NALA SINEPHRO LONDON, 06.02.21」のミックス音源

共作者たちの貢献、音楽と瞑想について

―『Space 1.8』には多くのジャズ・ミュージシャンが参加していて、素晴らしい演奏を聴かせてくれているのが印象的でした。彼らとはどういった経緯で知り合ったのでしょうか?

ナラ:みんないい人たちばかりで、私の冒険に付き合ってくれて心から感謝している。私にとっては初めてのアルバム制作で、友達に「どんな作品になるの?」と聞かれても、「自分でもわからない!」という状態だった。それでも、彼らは私を信頼してくれた。本当に感謝しているし、今ではみんな友達。

アルバムを作り始めたのは随分と前になる。レコーディングは2018年8月から始めて、2019年6月にマスタリングをしたわけだけど、アルバムに入れる予定じゃなかった「Space 4」は2017年8月に録ってる。その数カ月前からロンドンに住むようになって、ヌバイア・ガルシア、ジェイク・ロング(マイシャのリーダー、ドラム)とライル・バートン(ロンドンの鍵盤奏者、エマ・ジーン・サックレイなどと共演)に参加してもらって、それがきっかけで彼らと友達になった。ジェイクとジェームズ・モリソン(エズラ・コレクティヴのサックス奏者)はもともと仲が良くて、エディ・ヒックとウォンキー・ロジックは彼らの友達だったから力を貸してくれた感じ。シャーリー・テテ(マイシャのギタリスト)は一番仲のいい友達の一人で、彼女は精神的にもずっと支えてくれた。彼らは私以上に私の音楽を信じてくれて、方向性に確信が持てなくなり、最初のセッションの前に不安になって「レコーディングしないほうがいいんじゃないかな」と私が言うと、ジェイクは「いや。絶対にレコーディングしなきゃ駄目だって。スタジオに行こう」と背中を押してくれたこともあった。


ナラ・シネフロは、ヌバイア・ガルシアのリミックス集『SOURCE ⧺ WE MOVE』にも参加

―そのミュージシャンたちが参加している「Space 2」では全員がピアニッシモで演奏しています。サックスはサブトーンを使っていたり、ピアノもかなりの部分を右手だけで演奏していて、左手は時折加える演奏をしています。ドラムも微かなシンバルとハイハットだけです。全員の演奏のニュアンスが素晴らしく、この曲が求めるフィーリングを的確に演奏しているように感じました。こういう場合は演奏者にどんなリクエストをしたら、こんな演奏をしてくれて、こんな曲が出来上がるのでしょうか?

ナラ:「Space 2」を初めて聴いた時、「みんなわかってくれた!」と思ったのを覚えている。まず、曲を譜面に起こすことで生まれる魔法がある。音符とともに「ここをクレッシェンド」「ここは抑えて」といった指示を書くことができるから。あと、このレコーディングではみんな初見で演奏している。だから例えば、ピアノを弾いたライルにとっては、初めて弾くコード進行なのが聴いてわかるし、ソロ・パートにしても弾きながら曲を発見している感じが伝わってくる。実は2テイク録ったんだけど、採用したのは初見のほう。譜面を渡して、弾きながら曲の世界観を知ってもらうという魔法もあったと思う。

この時、私はみんなが集まってくれたところで、譜面を渡してから曲の雰囲気を説明したんだけど、みんなには「レモン・ドリズル・ケーキがインスピレーションなんだ」と伝えたのを覚えている。私はケーキが大好きで、彼らに「物凄く美味しいケーキを食べるのを想像して欲しい。食べ終わった時に込み上げる感覚」と説明した。普通の人だったら「はあ?」ってなると思う。でも、みんな口を揃えて「なるほど。わかった」と言ってくれて本当に嬉しかった。みんな繊細な感性を持っていて、こちらの意図を完璧に把握してくれて、曲を書いた時に頭の中で鳴っていた通りにできた。つまり、最高のレモン・ドリズル・ケーキを1テイクで弾いてくれた(笑)。だから、本当に特別な曲になったと思う。

そして、この曲のレコーディングの時、私は指揮することで自分が思い描いている楽曲を彼らに伝えている。あと、録音する時にはその部屋の雰囲気も実は凄く大事で、レコーディング当日も、部屋にアロマ・オイルのディフューザーを置いたり、照明も工夫して、温かい雰囲気を演出して、料理も出したのを覚えている。



―さっき瞑想をしたと話してましたが、あなたの生活の中に瞑想があって、それは作品にも関与していますか。

ナラ:関係していると思う。私にとっても、多くの人にとっても大事なことだと思うし。植物や動物にとってもそう。動物のほうが人間よりも瞑想的な状態にいると思う。人間の場合、手に負えなくなると、そういう状態になかなか戻れないこともあるけど。アルバム制作中は、普段よりも多くそういう精神状態にアクセスしたと思う。そもそもハープやシンセを演奏することも、私にとって非常に瞑想的なこと。なぜなら演奏中は完全に集中している状態が多いから。コロナ禍はいつものルーティーンを変えないといけなくなって、1日30分くらいしか瞑想できていないんだけど、制作当時は朝1時間、夜1時間、1日2時間くらいやってて、生活の大きな部分を占めていたのを覚えている。

うまく言葉で説明できないんだけど、あの数カ月間は常に雲のなかにいるような感覚というのかな。さっきも言ったように私にとって音楽を奏でるのは瞑想的なこと。だから音楽をやった上で更に瞑想も実践することで、よりいっそうその感覚が増していた時期だったわけ(笑)。特に今作では、ありのままの自分を正直に表したくて、それをするには限りなく自分らしいものを作るしかないと思っていた。だから、そういう音を出すために、瞑想的な状態に自分を置くことで、音楽をそのまま通り抜けさせてあげることを考えた。自意識に邪魔されることなく、音楽を伝える媒介になり切ろうとした。そうしたら、シンセの前に座ると、自然に音楽が降りてくるようになった。つまり瞑想は、私をそういう状態にさせてくれるためのツールだったと思う。



―『Space 1.8』の制作中によく聴いていた音楽はありますか?

ナラ:アルバム制作中は、音楽が湧き出るような状態に自分を持っていくために、実はあまり音楽を聴いてなくて、無音の状態が好きだった。頭の中で既にたくさんの音楽が鳴っているから(笑)。ストリングスのパートや何かメロディーがどこからともなくふと思い浮かぶ。例えば朝ごはんを食べている最中にサックスのパートが思い浮かぶと、ピアノのところに行って書き留める、あるいはレコーダーに録っておく。そのためには無音の状態のほうが頭の中で音が鳴りやすい。音楽を聴いている時は、聴くことに集中してるから、音を思い浮かぶことが減ってしまうのもあると思う。

それから制作中は、自分と似たような音楽をあまり聴かないようにしている。影響を受けたくないから。あと言えるのは、例えば有名レストランの熟練シェフが実はマクドナルド好きだったりするように、私も自分とは真逆の音楽を聴くのが好きだったりもする。例えばリアーナの「Work」があの年一番聴いた曲だったし、カーディ・Bもたくさん聴いた。アルバム制作中にたくさん聴いたのは、コリーヌ・ベイリー・レイの『The Heart Speaks in Whispers』。あのアルバムの温もりが大好きだから、2019年に『Space 1.8』のエディットを終えた後、彼女のアルバムを1カ月間ずっとリピートで聴いた。どこに行くにもあのアルバムを聴いてた。同じ作品ばかりずっとリピートで聴くのはよくあって、今も同じ8曲をずっと繰り返し聴いている。

レコード店でも働いているから、そこで聴いたサウンドも吸収していると思う。それがメロディーやアイディアの膨大なデータとして私の中に蓄積している。でも、一番大事なのは、音楽を聴くことを楽しむことだと思ってる。だから、自分自身の音楽を出す時は、楽しめるように音を詰め込み過ぎないことを大事にしている。

―あなたの音楽は似てる音楽が浮かばないものなので、その答えは納得しかないですよ。

ナラ:そう言ってくれてありがとう。



ナラ・シネフロ
『Space 1.8』
2022年1月14日リリース
国内盤CDには柳樂光隆(Jazz The New Chapter)による解説書が封入
詳細:https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=12260

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