米でCD売上が17年ぶりに増加、CDの長所を考えてみた
Rolling Stone Japan / 2022年1月26日 7時45分
コンパクトディスク(CD)にはアナログ盤のようなロマンもMP3のような利便性もないが、今でも音楽に没頭するには理想的なフォーマットらしい。
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2021年、アメリカでCDの売上が17年ぶりに増加した。これはアデルによるところが大きい。彼女のニューアルバムは89万8000枚のCDセールスを記録。最後にCDがこれほど売れたのは、アッシャーやアシュリー・シンプソン、フーバスタンクが活躍していた時代だった。現在の稼ぎ頭はアデル、BTS、テイラー・スウィフト。アナログ盤のブームが象徴するように、全体的に物理的メディアが復活しているというのもある。かつて「完璧なサウンドを永遠に聴ける」ことを保証したガジェットに、音楽ファンが再び傾倒しているのはなぜだろう?
CDはロマンとは一切無縁だった――すべては機能。アナログ盤ほど色気はないし、クールでもなければ、感覚に訴えるわけでもなく、セクシーでも魅惑的でもなかった。傷やひびに聴き手の人生が刻み込まれた古い傷だらけのアナログ盤を愛でるのとは違い、必ずしもCDに思い入れを感じることはなかった。手持ちの『スパイス・ワールド』や『ライフ・アフター・デス』のCDの音は、他の誰かのCDと変わらなかった。
だがCDは便利だ。とにかくそれに尽きる。ディスクを入れて、再生ボタンを押すと、音楽が響きわたる。効率的にグルーヴを届けてくれるので、かつてないほどの人気を博した。20分ごとに裏面にひっくり返さずとも、かっこいい音楽を1時間じっくり聞きたいと思ったら、CDはまさにうってつけだ。これまでよりも大音響で、音楽に没頭する空間を与えてくれる。
80年代にCDが登場すると、専門家たちは不満を並べた(あまりにも味気ない! 人間味に欠ける!)。だがファンは、70分強の音楽を一つに凝縮したディスクを愛した。アナログ盤と比べて手間やトラブルが少ないのも、レコード針やトーンアームの共振に煩わされたくないライトリスナーには大きな利点だった。プレイヤーをプログラムして、不要な曲を飛ばすこともできた(ヴァン・モリソンの『アストラル・ウィークス』は、「ヤング・ラヴァーズ・ドゥー」がないほうがずっといい。あくまでも私見)。スキットを飛ばして、ヒップホップのお気に入りの曲だけを爆音で鳴らすこともできたし、どんなアルバムもカスタマイズして自分だけのオリジナルバージョンを作ることもできた。例えばビートルズの『リボルバー』。9-13-7-4-14-5-3-12-10-1-8-2-11-6の順にプログラムして、再び9曲目と14曲目をリピートする。まったく違う体験になること請け合いだ。
マニア向けから、広く愛される名盤へ
CDには独特の魅力がある。長尺の音楽にこれほど優しいフォーマットは他にない。CDがあったからこそ、『ペット・サウンズ』『アナザー・グリーン・ワールド』『Heart of the Congos』『アストラル・ウィークス』はマニア向けではなく、広く愛される名盤になった。リー・”スクラッチ”・ペリーがメインストリームでもてはやされるようになったのもCDのおかげだ。CDになる前から有名だった『カインド・オブ・ブルー』のようなLPも、CDで改めて話題を呼んだ。CD時代から生まれた傑作――ディアンジェロの『VOODOO』やレディオヘッドの『Kid A』、ミッシー・エリオットの『スゥパ・ドゥパ・フライ』――も、ストリーミングだったらコケていただろう。
だが、CDはNapster全盛期の後に停滞した。MP3はCDと比べると音は小さいが、便利で(たいてい)無料だった。だが、ここでおかしな事態が起きる。当時ダウンロードした音源は、膨大なデータの山に埋もれてしまったのだ。この時代をエスクァイア誌のデイヴ・ホルムズ記者は、「消された年月」という名言で評した。ホルムズ記者もこう記している。「2003年から2009年の間に購入したものは、充電器が見つからなくなって埃を被ったiPodか、3世代前のMacBookの中に眠っている。カイザー・チーフスの1stアルバムをまるごと購入したにせよ、99セント出して『ライオット』だけを買ったにせよ、もう二度と手にすることはできない」
世間が物理メディアの愉しみを再発見している理由のひとつに、ストリーミングカルチャーはどこか儚いという点があげられる。「所有」する音楽はどれも企業側の気まぐれに左右される。数年前、MySpaceはサイトにアップロードされた楽曲をすべて、ボタンひとつで誤って削除してしまった。おそらく次の標的は写真だろう。
物理メディアはアーティストの稼ぎとも直結する。ここが他のフォーマットよりも秀でている部分だ。廉価で、迅速に生産できる。しかし昨今、アナログ盤に関しては生産工場の不足ゆえに消費者のLP需要に追いつかない状態だ。アナログ盤復活の先陣を切ったのはインディーズアーティストだが、彼らもアナログ供給不足のあおりを受けている。工場側は大手レーベルのヒット曲の合間をぬってインディーズのアナログをプレスするため、アルバムリリースまで1年以上待たなくてはならないことも多々ある。
2000年代、イギリスのNME誌は毎週アンケートを行って、話題のバンドに「アナログ派? CD派? MP3派?」と質問した。たびたび取り上げられるジョークだが、CDを選んだ者はゼロ、9:1の割合でアナログ派だった。たしか1人だけ、Art BrutのメンバーがCDを推していた。だがその本人も「一番好きなジェームズ・ボンドにジョージ・レーゼンビーを選ぶようなものだよね」と認めている。
CDが栄華を誇った時代の音楽セールスが史上最高額に達したのは疑いようのない事実だ。これほど見事にファンから20ドル札をもぎ取るオーディオデバイスは他になかった。今見ても驚くような数の人々が、デジタルディスクを買いに走った。90年代は誰もが「レコードショップ」(大半のレコードショップにはレコードは売っていなかったが、「CDショップ」なるものは存在しなかった)に通いつめ、棚を漁り、なにやら変わったものを持ち帰っては、最後まで聴きとおした。すぐに聴き飽きるストリーミングとは違い、時間と感情のエネルギーを要した。「あっそ」という反応スイッチをオフにして、どんなに奇妙な音も流れるままに耳に入れた。そうやってファンはドイツのサイケデリックや日本のプログレ、西アフリカのスクース、キングストン・ダブにハマっていったのだ。
あなただけの特別な70分
BOXセットは言わずもがな――長い歴史を持つアーティストやジャンルを掘り下げるには最高の発明品だ。レイ・チャールズの『The Birth of Soul』、1998年のザ・ナゲッツのBOXセット、そして『The Anthology of American Folk Music』。1994年にRhinoからドゥーワップのBOXセットがリリースされたおかげで、親世代はようやくボタンひとつで気軽に大学時代のお気に入りソングを聴き、リビングで踊れるようになった。
それでも人々はアナログ盤の方がイケてると熱っぽく語ったが、実は裏ではCDを聴いていた。1994年、パール・ジャムは「Spin the Black Circle(黒い円盤を回せ)」と歌っているが、彼らを世界最大級のバンドにしたのは銀色の円盤だった。ビースティ・ボーイズは名盤『イル・コミュニケーション』の冒頭2分で、「俺はいまだにレコードを聴いてる、CDなんか使わねえ!」と息巻いているが、本人たちも知っている通り、実際は誰もこのアルバムをレコードで聴いたりはしないだろう。
ファイル共有サービスNapsterを考案した2人の男、ショーン・パーカーとショーン・ファニングは大のCD愛好家で、エレクトロ・トランスやトリップホップを中心に頻繁にCDを買い込んでいた。筆者も2000年初期にローリングストーン誌の特集記事で2人を取材したが、独身だった彼らの住まいはCDが天井までうずたかく積まれていた。そう、2人はMP3など聴いていなかった――彼らはNapsterを、購入すべきアルバム探しの手段だと考えていた。彼らが予想できなかった――誰も予想できなかった――のは、世間がMP3にのめり込んだこと。ZShare、Megaupload、Gnutella――あの時のアーティスト、あの時のライブは現在どこにいってしまっただろう?
たしかに、CDにはごまんと不満の種があった。無駄の多いプラスチックケースなど、パッケージは面倒だった。なかなか取れないテープを上からはがすのは最悪だった。始めのころは、万引きしにくくするためだけの目的で12×6インチのボール紙のスリーブ、いわゆる「ロングボックス」で包装されていた。人々が不平をこぼすのも当然だ。EMIのサル・リカタ社長も、笑い種となった1989年のビルボード誌に「なぜCDのロングボックスを使い続けるのか」という論説記事を書いた。あまりのばかばかしさゆえに、スパイナル・タップは1992年のアルバムを18インチの「超ロングボックス」入りでリリースし、「どのCDパッケージよりも、貴重なリサイクル資源をふんだんに使用した環境に配慮した商品です!」と謳った。だが時代の流れは変わり――今ではインターネットでLPを買うと、ロングボックス6枚分のパッケージで送られてくる。
紙の書籍と同じように、物理的なディスクは物語の奥底へと誘ってくれる。たしかに、CDにはアナログ盤ほど色気はない。アナログマニアがしばしば「お皿」とか「白盤」とか「ドーナツ盤」と呼ぶような、カッコいい別名もない。棚に飾るのであれば、12インチのLPのスリーブのほうがスタイリッシュだ。実際CDが優れている点は唯ひとつ、音質だ。その点では実にいい仕事をしている。だからこそ今も健在なのだ。CD以外では埋められない特別な70分が胸に刻まれている、という人も中にはいるのだ。
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