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塩田明彦と向井秀徳、「人生がシンクロしている」二人が語る映画とロックの融合

Rolling Stone Japan / 2022年1月26日 17時30分

塩田明彦と向井秀徳

映画にロックを使ったからといって、そこにロックの精神が宿るわけではない。いかにロックを物語に溶け込ませ、映画的に表現するのか。それは作り手にロックと映画の両方に対する理解がないと難しい。そんななか、映画監督とミュージシャンの見事なコラボレートで、映画にロックの息吹を吹き込んでいるのが『麻希のいる世界』だ。音楽の才能を持ちながらも周りから孤立している女子高生、麻希。そんな彼女に惹かれていく由希。そして、由希に想いを寄せる同級生の祐介。そんな3人の人間模様を描いた『麻希のいる世界』は、音楽が添え物ではなく、キャラクターとしっかりと結びついて重要な役割を果たしている。

監督を手掛けた塩田明彦は、『どろろ』(2007年)、『さよならくちびる』(2019年)などヒット作を生み出す一方で、『害虫』(2002年)、『カナリア』(2005年)といった作品が海外の映画賞を受賞して作家性も高く評価されてきた。これまで、草野マサムネ、大友良英、秦基博、あいみょんなど、様々なミュージシャンが塩田の作品に音楽を提供してきたが、20年間にわたって交流を続けてきたのが向井秀徳だ。向井はNUMBER GIRL、ZAZEN BOYS、KIMONOSなど様々なバンドでの活躍に加えて、『少年メリケンサック』(2009年)、『ディストラクション・ベイビーズ』(2016年)などサントラも数多く手がけてきた。『麻希のいる世界』では、ヒロインの麻希が歌うオリジナル曲「排水管」を書き下ろし、ギターの演奏や歌い方も指導するなど、音楽面で様々なアイデアを提供した。今回で3度目の顔合わせとなった塩田と向井は、どのようにしてロックと映画を融合させたのか。長年に渡って刺激を与えあってきたという二人に話を訊いた。


『麻希のいる世界』予告編、主演・日髙麻鈴が向井秀徳による劇中歌「排水管」を歌うシーンも

ーお二人が初めて一緒にやられたのは『害虫』でした。どういう経緯だったのでしょうか。

塩田:音楽をどうしようかと考えていて、音楽プロデューサーの北原京子さんに相談したんです。ジョン・スペンサー・ブルース・エクスプロージョンみたいに激しいギターが鳴っているイメージなんだけどって。そしたら、北原さんが「じゃあ、NUMBER GIRLじゃないですか」って。僕はNUMBER GIRLのことは知らなかったので、1stから順番に聴いていって『SAPPUKEI』を聴いたら頭の中で鳴り止まなく鳴っちゃったんです。

向井:塩田さんから話が来たのは『NUM-HEAVYMETALLIC』ができた頃でしたね。アルバム制作でテンションが上がっていて、その勢いで映画用の曲を作った。今思うと、どういう曲にするのかとか、監督と具体的に話をした記憶がないですね。

塩田:それは向井さんが「映画音楽ってやったことがないから、思いつくままにやっていいですか?」って言ったんですよ(笑)。僕の頭の中ではNUMBER GIRLが鳴ってたからそれでいいかと思って。

向井:まあ、それでNUMBER GIRLらしくやって、それが「I Dont Know」という曲になったんですけど、ワンコードで押し切って、そこにドラムが畳み掛ける。NUMBER GIRL暴走中!みたいな曲になったんです。セッションしている時に新しい手応えを感じて、曲が完成した時は実に爽快でした。



ーシーンにぴったりハマってましたね。宮崎あおいさんが演じるヒロインの感情の動きが、そのまま曲になったようでした。

塩田:あのシーンでかける曲、ということで頼んだわけじゃないんですよ。ところが、かけてみると映画の流れと曲の流れがあっていて時間もぴったり、という奇跡的なことが起こったんです。

向井:映画にBGMとして乗っかっているのではなく、映画の世界に我々の音楽が入り込んでいけた気がして嬉しかったですね。

忌々しい脚本、呪詛のようなロック

ーそして、『害虫』公開後にNUMBER GIRLは解散。『カナリア』ではZAZEN BOYSの「自問自答」が使われます。

塩田:環七を歩きながら『SAPPUKEI』を聴いていたら、ひたすらどこかを目指して走っている少年の姿が浮かび上がってきたんです。それが『カナリア』の始まりでした。そして、物語を考えているうちに「自問自答」が聞こえて来たんです

向井:そうだったんですか。NUMBER GIRが解散した後、ゼロからバンドを始めたいと思って、それがZAZEN BOYSになるんですけど、その時に意思表明をするつもりで「自問自答」を作ったんです。まず、最初にこの曲を歌わなければ、と思って。それに塩田さんが反応してくれた。

塩田:当時日本に生きている若者たちすべてが心の奥底に抱えている怒りとか呪いのようなものが、向井さんの体を通して溢れ出ちゃったっていう感じの曲でしたね。

向井:社会を刺すみたいな言葉もいっぱい入っていますけども、あくまでも自己確認っていうか、自分の立ち位置って今どこなんだ? みたいなことを歌いたかったんですよ。

塩田:でも、表現として強いと自分のことを歌っていても世界が追いかけて来ちゃう。いろんなものを引き寄せてしまうんですよね。特に歌にはそういう力があるような気がして。僕は「自問自答」を聴いた時、『カナリア』の主人公の叫びに聞こえたんです。それでこの曲を映画に使わせもらえませんかって相談したんです。


向井秀徳

ー「自問自答」はエンディングに流れますが、サントラは大友良英さんでしたね。

向井:「自問自答」は映画用に録音し直したんですけど、その際に大友さんが参加してくれて、その作業がすごく刺激的でした。大友さんのように偉大なキャリアがある方と、自分の曲で絡むというのは初めてで勉強になりましたね。

塩田:大友さんはジャズの人だから、向井さんと一緒にやってうまくいくかどうかわからないな、と思っていたんです。でも、大友さんは劇伴をやっていたんで、まったく大友さんの手が入らないのもどうなんだろう、と思って。向井さんが大友さんと一緒にやることを拒否したら、僕が大友さんに話をしようと思っていました。

向井:大友さんはジャズといっても、もっとフリーフォームで音楽をやられていて、そのなかにパンクが根強くある。だから一緒にやって違和感はなかったし、新しい扉が開けた気がしました。


塩田明彦(©SHIMAFILMS)

ーその後、向井さんは『ディストラクション・ベイビーズ』(2016年)のサントラで、ジャズ・ミュージシャンとセッションされましたよね。『害虫』『カナリア』を経て、お二人のコラボレーションは今回の『麻希のいる世界』で3度目になります。

塩田:以前、向井さんが「NUMBER GIRLで解散が決まっているなかでツアーをしたのは辛かった」とおっしゃっていたことがあったんです、それが印象に残っていて、『さよならくちびる』のアイデアのひとつになっていたんです。そしたら、『さよならくちびる』が公開した時にNUMBER GIRLが復活した。向井さんと僕の人生がシンクロしているような気がして、また向井さんと仕事がしたいな、と思っていたんです。それで『麻希のいる世界』の脚本を書き始めて、麻希が歌うのは呪詛のようなロックだと思った時に、これは向井さんだ!と思って脚本を送ったんです。

向井:脚本を読んでみたら、(ヒロインの)二人の人生が実に忌々しいんですよ。禍々しい、と言ってもいいかもしれない。そこに塩田作品の匂いを感じましたね。


『麻希のいる世界』より(©SHIMAFILMS)

ー監督のなかで曲のイメージはあったんですか?

塩田:胸の奥にある呪詛が吹き出したような曲にしたかったんです。そのイメージに近かったのが向井秀徳アコースティック&エレクトリックの「はあとぶれいく」だったので、最初、向井さんには麻希に「はあとぶれいく」を歌わせたいって相談したんです。本当は曲を作って欲しかったんですけど、急に動き出した企画だったので時間がなくて、お願いしにくかったんです。

ーそういえば、麻希は劇中で向井秀徳アコースティック&エレクトリックの「ざーざー雨」を、自作曲として口ずさみますね。

塩田:「はあとぶれいく」に関しては、向井さんに「その曲は全然違うエモーションで作ったものだから、その曲を使うのは違うんじゃないか」と言われて。それで「今から曲を作る時間ありますか?」と訊いたら、「あろうがなかろうが作らにゃいかんでしょう」って言ってくれたんです。まさに渡りに船というか、ありがたかったですね。

向井:まあ、麻希だったらアコーステイック・ギターじゃなく、テレキャスでガシガシ刻むようにして歌うだろうな、というのはすぐに思いつきました。そして、シンプルなエイトビート。歌詞はキャラクターを意識しすぎないようにしました。意識するとありきたりな歌詞になってしまいそうで。そこで「排水管」という言葉が出てきた時は、これ、いいんじゃないかって思いました。自分の歌詞で使ったことがない言葉だったし。

塩田:歌詞についても何も言わなかったんですけど、「排水管」っていう曲名を聞いた時に勝利を確信しましたね。

キャラクターの本質を突いた「演出」

ー麻希役の日髙麻鈴さんが歌う時、ギターの弾き方や歌い方に関して向井さんから指導はあったのでしょうか?

塩田:日髙さんはもともとエレキは弾けるんですが、向井さんに指導してもらいました。「ドロップDチューニングから始めなきゃいけない。これが大事なんだ」って、向井さんが言ってましたね。

向井:普通、バンドマンはレギュラー・チューニングで始めるんだけど、この人(麻希)は6弦を1音下げるんです。そこでまず時空を歪ませてリフをおっぱじめる。この人は絶対そうするだろうと思ったんですよ。6弦をグワーンと落とさないと麻希のハートは震えない。

塩田:なんかもう、生き様ですね(笑)。あと、日髙さんはミュージカルの舞台の経験があって歌えるんです。本来は透き通った伸びる声なんですけど、「排水管」を歌う時はそうじゃない。向井さんが「濁音で歌え」って言っていたのを覚えてます。彼女も必死にそれに応えようとしてた。


『麻希のいる世界』より、麻希役の日髙麻鈴(©SHIMAFILMS)

ー時空を歪ませるギターと濁音の歌声。向井さんは具体的に麻希の人物像を捉えていたんですね。

塩田:あと、さすが音楽家だな、と思ったことがあって。麻希が作った「排水管」を、祐介がアレンジを変えていくじゃないですか。そのくだりで、祐介は麻希のような才能はないけど、真剣に音楽に向き合っているし、テクニック的にうまいことを表現したかったんです。ただ、それをどう表現すればいいのか。シナリオの段階では計算していなかった。ところが向井さんは「排水管」のメジャー・ヴァージョンとマイナー・ヴァージョンを用意してくれたんです。そして、最初に麻希が歌う時はメジャー。祐介がアレンジした時はマイナーを使ってくれって言われて「なるほど!」と思いました。それはある種、向井さんの演出ですよ。

向井:演出というほどのことではないですけどね。最初に麻希が歌うメジャー・コードは非常にシンプルでパンキッシュなんですよ。簡単に弾けるけど、そんなに気楽な曲じゃねーぞ!って感じで歌う。マイナー・コードになると、アルペジオのリフが入ったりして曲に彩りが加わってドラマティックになる。それは祐介の作為なわけです。そうやって色分けすればわかりやすいんじゃないかと思ったんですよ。

塩田:いやあ、さすがです。それをやるかやらないかでは大違いですから。

ー祐介がアレンジした曲に麻希がダメだしするじゃないですか。あそこに二人の音楽に対する向き合い方の違いがわかりやすく表現されていますよね。

向井:祐介が作ったデモもすげえ良いと思うんですよ。何が不満よ? 麻希って(笑)。でも、そのズレが二人の違いで。

塩田:祐介のヴァージョンは巧過ぎる。麻希には祐介のキャラクターの本質を突いていてほしかったんです。それが良い曲であっても、私が求めているのは巧さなんかじゃないっていう、極端な言い切り方を麻希にしてほしかった。


『麻希のいる世界』より、祐介役の窪塚愛流(©SHIMAFILMS)

ー祐介の部屋にニュー・オーダーやステレオラブのレコードが飾ってあるじゃないですか。そういうものからも祐介のキャラクターが伝わってきますね。サウンドにこだわるマニアックなタイプなんだって。

塩田:祐介は才能があるかどうかはわからないけど、音楽に対しては真剣ですごく背伸びしている。青春ロックを見下しているタイプ。だから、祐介がやっている音楽はインストにしたいんですけどって向井さんに相談したら、「監督、それはシューゲイザーですよ」と言われて。僕はシューゲイザーというものを知らなかったんです。そしたら、その場で向井さんが、「多分、祐介のキャラクターはEマイナーですね」ってテレキャスをジャラーンと鳴らしてくれて、「それだ!」って思いましたね。

ー祐介のバンドの演奏を聴くと、音楽聴いてるやつだなって伝わりますね。インストでアンサンブルで聴かせるし。

向井:あれはあれでカッコいいから、祐介を否定する気にはなれないだよな(笑)。

塩田;案外才能あるんですよ。少なくともアレンジャーとしてはすごくいい線いってる。

ダークブルーな二人

ーこの映画では音にも驚きました。効果音も含めて録音やミックスがすごく良い。祐介のバンドの演奏を聴いた時、エレキ・ギターの生々しさにしびれました。

向井:高校生のバンドが音楽室で鳴らしている空気感がすごく出ていましたよね。私はこの映画に存在する「音場」にすごく反応したんです。なかでも風の音。ずっと風がヒューッと鳴ってるんですよ。海辺でも街の中でも。

塩田:この映画に限らず、僕の作品はノイズ過多なんですよね。乱暴なノイズがあちこちで響いている。最初に徹底的にそういう音作りをしたのが『害虫』でした。あの映画は風を意識していて、自分のなかでは「鉄風」だと思っていました。

向井:鉄の風が吹いている?

塩田:そう。今回は鉄成分は主にギターに集中していますけど、足音ひとつ取ってもじゃりじゃりと響く。すべての音がざわついている感じというのは最初からイメージしていました。

向井:監督の映画は音を通じて世界が見えてくる。そこに塩田明彦の匂いみたいなものが漂っているんですよ。私はそういう作り手の個性が伝わる映画が好きですね。


『麻希のいる世界』より、由希役の新谷ゆづみ(©SHIMAFILMS)

ーちなみに、向井さんが感じる塩田監督の「匂い」というのはどんなものですか?

向井:色でもいいですか? 色ならダークブルーですね。

塩田:それは濁りと深さを秘めているということ?

向井:重厚感ですね。重苦しいっていうことじゃなく、どしっと世の中を見据えているように思える。塩田さんは重厚で分厚い人。

塩田:そんなことないよ(笑)。

向井:本人の印象というより、映画を通して感じることですけどね。塩田さんの映画はダークブルーの匂いがする。

ー塩田監督は向井さんの音楽から何を感じますか?

塩田:う〜ん。なんて言ったらいいのかわからないけど、強さ、かな。向井さんがかっこよく色で表現したから答えようがない(笑)。

向井:監督も色で言ってくださいよ。どんな色ですか? 占いの館みたいになってきたけど(笑)。

塩田:……鉄錆の色かな。

向井:おお。錆びてますか?

塩田:ZAZEN BOYSになってからは多少変わったと思うんですけどね。でも、向井さんにも黒さと青さは感じますね。


『麻希のいる世界』より(©SHIMAFILMS)

ーダークブルーな二人。だから相性が良いのかもしれませんね。

塩田:これは本当に不思議なんですけど、いつも音楽には恵まれるんですよ。常にいい音楽が手に入る。これは自慢しても良いことかもしれないですね。

向井:映画の音楽を作っていて楽しいのは、監督と一緒に世界を作れることなんです。塩田明彦という人がいて、その人が作り出した少女がいて、物語がある。私は「その少女がどう歌うのか?」というのを考えるのではなく、その少女に反応したんです。少女に同化したわけじゃなく、塩田さんに反応した。だから、塩田監督が誰かに声をかけた時点で映画作りは始まるんじゃないかと思いますね。



『麻希のいる世界』
2022年1月29日(土)より渋谷ユーロスペース、新宿武蔵野館ほかにて公開
出演:新谷ゆづみ・日髙麻鈴・窪塚愛流・鎌田らい樹・八木優希・大橋律・松浦祐也・
青山倫子・井浦新
監督・脚本:塩田明彦
製作:志摩俊樹・山口貴義
撮影:中瀬慧
劇中歌:「排水管」(作詞・作曲:向井秀徳)、「ざーざー雨」(作詞・作曲:向井秀徳)
製作・配給:シマフィルム株式会社
2022年/日本/89分/5.1ch/アメリカンビスタ1:1.85/DCP/英題:The World of You
©SHIMAFILMS
公式サイト:https://makinoirusekai.com/

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