ドージャ・キャット密着取材 傍若無人なポップスターの知られざる素顔
Rolling Stone Japan / 2022年2月8日 19時0分
米ローリングストーン誌の表紙を飾った、ドージャ・キャットのカバーストーリーを完全翻訳。昨年6月にリリースされた『Planet Her』が全米チャート21週連続トップ10入り(最高2位)、第64回グラミー賞では主要3部門を含む計8部門にノミネート。快進撃が止まらない新時代のアイコンについて、前後編合わせて2万字超のボリュームで掘り下げる。こちらは前編。
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できればやりたくないこと
11月中旬、カリフォルニア州ユニバーサルシティにある民泊用住居にてドージャ・キャットと向き合っていた筆者は、「I Saw Her Standing There」のパンクカバーを聴きながら、彼女が作ってくれたロブスター&キャビアの絶品ブリトーをあっという間に平らげた。元カレについて語る合間に、彼女は常に持ち歩いている蛍光色の電子タバコをふかす(「チョコレートとセックス、あとこの馬鹿げた電子タバコだけはやめられないのよね。でもそれ以外は必要ないの」)。前作と昔の恋人について1時間ほど語った後、彼女は唐突にミニーマウスのケースに入れたiPhoneに目をやり、「ちょっとごめん」と言ってトイレに向かった。
筆者がキッチンで立ったままメモを取り、ロブスターの身の切れ端を食べ、自動開閉式のゴミ箱の使い方がわからず四苦八苦していると、彼女が戻ってきてこう言った。「喉と鼻の調子がすごく悪いの」。まるで巻貝の笛で呼びつけられたかのように、彼女のマネージャーたち(全部で4人おり、そのうちの2人が建物の別室に滞在していた)が慌てた様子でキッチンに入ってきた。
「大丈夫ですか?」と筆者は尋ねた。
「うん、大丈夫」と彼女は話す。「心配してくれてありがとね」。そう言い残して、彼女はどこかへ行ってしまった。
彼女のチームが予約したこの民泊物件で、筆者たちはディナーを取りながら数時間ともに過ごすことになっていた(「あたかもここに滞在してるように振る舞えって言われてるんだけど、実際に寝泊まりしてるわけじゃないもの。ただの民泊よ。私は誰も自宅に入れたくなかったから。気を悪くしないでね」。まな板の上でチャイブをみじん切りにしながら、彼女はそう話していた)
彼女は過酷なスケジュールのせいで疲れ切っていると明かしていた。一昨日はDay N Vegasフェスティバルに出演し、昨日ロサンゼルスに戻ってマネージャーの誕生日パーティーに遅刻しながらも顔を出し、先送りにされていた写真撮影をこなした。当然のごとく今日は二日酔いがひどく、さらには生理がきていることを筆者と一緒に嘆いていた(後日ビデオ通話をした時に、当日彼女が高熱を出していたことを知った)。彼女を病院に連れて行くことにしたマネージャーの1人が、筆者に高級そうな水のボトルを手渡してこう言った。「帰り道のお供にどうぞ」
ドージャはスタジオでの制作を楽しみにしているが、「他にやらなくちゃいけないつまんないこと」のせいでそれが叶わずにいるという。まさに人気の絶頂にある現在の彼女は、やらねばならない仕事を山ほど抱えている。アンダーグラウンドでの活動が長く、デビューアルバムは批評家たちから評価されながらも商業的な成功には程遠かったが、彼女はパンデミック初期に発表した非の打ち所がないディスコトラック「Say So」でブレイクし、同曲を収録した2ndアルバム『Hot Pink』はTikTokでの人気に後押しされる形でチャートの頂点に立った。2021年6月には官能的なアフロポップ「Woman」から、洗練されたトップ40ヒット「You Right」「I Dont Do Drugs」、レトロなR&B「Need to Know」(泥酔していた時にスタジオで書いた曲だという)まで、バラエティ豊かでありながら一貫性のある傑作『Planet Her』をリリースした。11月にはグラミー賞の8部門で候補として選出されており、ノミネート数は全アーティストの中で2番目に多い。
彼女はポップ界のスーパースターに求められる条件をすべてクリアしてきた。煌びやかなミュージックビデオ(彼女はトリートメントの大半を自身で作成している)、オリジナルコスメ用品のローンチ、数々のブランドとのスポンサー契約、ゴルチエやトム・ブラウンのドレス姿でのアワード出席、Vogueでのメイクアップ&スキンケアのコツ伝授、複数のマネージャー、そしてクリエイティブディレクターや振付師からビデオグラファーまで擁する一流の人材のみで構成されたチーム。飼い猫のAlexとRayさえも今では有名であり、ドージャのペットが悪い宇宙人にさらわれてしまう「Get Into It (Yuh)」のミュージックビデオにも出演している(厳粛なオーディションを経て決定された誘拐される猫の選出基準は、「ダーティで狂った目をしている奇妙な猫」だったという)
彼女ができればやりたくないこと、それは取材だ。惑星タントラからやってきた性別不詳のエイリアンという仰々しいペルソナを掲げているドージャだが、周囲の人々によると彼女は内気な性格だという。実際に会ってみると、彼女は礼儀正しいが慎重なタイプであることが伝わってくる。「Get Into It (Yuh)」の撮影リハーサルが行われていた北ハリウッドのスタジオで初めて顔を合わせた彼女がハグをしてくれた時、10年ぶりの同窓会で再会した大学時代の天敵で、自分が太っていないことを憎々しく思っているであろう相手に接しているかのような警戒心を感じた。
「イケメンから質問攻めにされたり、普段からつるんでる仲間に『高校時代にハマってたものは?』とか訊かれるのならオッケーなんだけど」。彼女はそう話す。「でものんびりしたい日に、ベッドから渋々這い出してどっかに出向いて、同じような質問に何度も答えなきゃいけないんだから、そりゃ疲れるわよ」
ドージャが躍進した理由
ドージャのマネージメントチームは、彼女が成功した理由を2つ挙げる。1つめはラッパーおよびヴォーカリストとしての圧倒的才能と変幻自在のスキルだ。「『Bottom Bitch』のようなパンクトラックを歌いこなせるラッパーはそうはいない。ポール・アンカをサンプリングするようなセンスの持ち主もね」。そう話すのはマネージャーのLydia Asratだ。別れを歌ったアンセム「Aint Shit」を例にとってみても、ドージャはハスキーな唸り声からアニメのキャラクターのようなファルセットに瞬時に切り替えてみせる。彼女の歌を聴いていると、スタンドアップコメディをやっていた70年代のロビン・ウィリアムズを思い出す。彼女は曲作りの際に、もう一人の自分を作品にゲスト参加させるつもりでヴァースを書いているという。「そうすることでアトラクションのようなスリルが生まれると思うの」
皮肉なことに、彼女がラッパーなのかポップアクトなのかという議論を繰り広げているポップファンたちの間で、ドージャの多能ぶりは争点となっている。彼女はそのことについて、「Twitterをやってる子供たちが好きそうなトピックだけど、本当はそんなこと誰も気にしてはいない」と話している。それでも、彼女がそういった声に苛立っているのは確かだ。「私のことをラッパーじゃないなんていうやつはどうかしてる」と彼女は話す。「何も分かっちゃいないのよ」
彼女が破格の成功を収めたもう1つの要因は、ハイパーで洗練されたイメージが求められる今という時代に、奇妙で予測不可能な存在であることを恐れない姿勢だ。Instagram Liveで「エロいから」という理由で買ったベージュのネコ耳をつけてトゥワークを披露し、TikTokではダミ声で頭空っぽの男性をネタにしながら、ロン・ウィーズリーのウィッグをつけてセクシーなダンスを見せつける。熟練のShitposter(クソカキコ愛好家)である彼女は、「おまんこからおしっこ」「私のお尻は反則」など、くだらない内容を定期的にツイートしている。
一方で、時に露骨なほど過激な内容を投稿する彼女は、これまでにソーシャルメディア上でたびたびトラブルを起こしている。アール・スウェットシャツとタイラー・ザ・クリエイターの描写として同性愛者を蔑視する表現を用いたり、ドージャがベッドに寝転がってNワードを口にするTinychatの動画がリークされた際には白人至上主義者たちとの交流が噂され、ラッパーのN.O.R.Eは「脚を見せながら人種差別の会話に加わる女」と批判した(実際のところ、チャットルームにいた他のメンバーが白人至上主義者であるという証拠はない)。より最近では、パンデミックの最中にケンダル・ジェナーの誕生日パーティに出席したことを非難するファンに片っ端から食ってかかり、彼女の行動を批判したある人物に対しては「黙れ醜いババア」とツイートした(現在は削除されている)
こういった行動によって、ドージャ・キャットは「極めてオンラインな存在」とみなされるようになったが、彼女はこれを真っ向から否定する。「私がインターネットの申し子だったことは確か」と彼女は話す。「でも最近は距離を置いてる。独りで退屈してたら、Twitterで2時間くらいぶっ通しでツイートしたりするけど」
2021年11月23日、ロサンゼルスにて撮影
Photograph by Kanya Iwana for Rolling Stone. Fashion direction by Alex Badia. Produced by Brittany Brooks. Hair by JStayReady at Chris Aaron Management. Nails by Saccia Livingston. Makeup by Ernesto Casilla at Opus Beauty using Pat McGrath Labs. Set design by Robert Ziemer. Styling by Brett Alan Nelson for the Only Agency. Dress by Alexandre Vauthier Couture. Earrings and rings by Swarovski. Opening image: Dress by Alejandra Alonso Rojas. Earrings by Archive Margiela.
しかし、彼女の最近の作品はそういったネット上でのイメージとは異なり、より洗練されたものが多い。「当初、彼女はSoundCloudラッパーたちと比較されがちだった。ラップをするという理由で、ニッキー(・ミナージュ)やカーディ(・B)が引き合いに出されていた」。そう話すのは、彼女の弁護士兼マネージャーのJosh Kaplanだ。「僕の考えは違うけどね。彼女はレディー・ガガのようなタイプに近いと思う」
ドージャのチームは、彼女がネット上でリアルな自分を晒すのを恐れないことを大きなアドバンテージだと見なしている。アーティストの大半がただ途方に暮れていたパンデミックの最中に、彼女は頻繁にInstagram Liveで生配信し、曲を書き、Alexaに「フォレスト・ウィテカーがうんこするときの音を再生して」と命令し、フォートナイトにハマり、ランニングするたびにそれをファンに報告していた。「彼女はインターネットの達人だ」。彼女のマネージャーのGordan Dillardはそう話す。「それはパンデミックの最中に、彼女が頭角を現した3つか4つの理由のうちの1つだ。あの日々においてアーティストの命運を左右したのは、インターネットのスキルだった」
チームはドージャが躍進した理由について、彼女が本当の自分を隠そうとしないからだと強調する。しかし、ファンに対して黙れとツイートする重度中二病患者の彼女が、ポップスター製造装置の中でいつまでじっとしていられるのかは疑問だ。また、彼女が何かを犠牲にしてスターダムを維持しようとするかどうかも読めない。
父親は不在、母親はヒッピー
ドージャと親しい人々のほとんどは、彼女のことをドージャとは呼ばない(猫とマリファナが好きだという理由で決めたアーティスト名に複雑な思いを抱いている彼女は、過去に改名することを何度か検討したが、マネージャーの説得により断念したという。「マリファナ中毒のヒッピー女だと思われてるけど、それは事実じゃない」と彼女はそう話す。「ドージャ・キャットってポケモンのキャラの名前みたいだって、こないだ(『SNL』で)ネタにされてた。気にしてないけど、本当はすごく気にしてる」)。本名をアマラ・ドラミニ(Amala Dlamini)という彼女のことを、友人たちはアマラと呼ぶ。
グラフィックデザイナーの母デボラ・ソーヤーと、南アフリカ生まれの俳優兼ダンサーの父ドゥミサニ・ドラミニの2番目の子供であるドージャは、ユダヤ系の建築家で画家でもある母方の祖母と暮らすためニューヨーク州ライに移り住んだ(一家は厳格なユダヤ教徒ではなく、ドージャはロブスターを食べてクリスマスを祝っていたという)
ドージャは父親に接する機会のないまま成長し、今でこそソーシャルメディアで繋がっているものの、実際に会ったことは一度もないという。彼について知っていることは、母親から聞かされた内容だけだ。彼女の母親はニューヨークでブロードウェイの舞台に立っていた相手の男性と出会い、短い間交際していたが、あちこちを飛び回っていた彼は彼女やそのきょうだいと過ごす時間がなかったという。「ちょっと混乱してた」。彼女は当時のことについてそう話す。「周りの子はみんなパパと一緒にいるのに、私は会ったこともなかったから」
子供の頃からの親友の1人であるGabrielle Hamesは、父親の不在は彼女の人格形成に大きく影響していたと話す。「いつか会いに来てくれると彼女はずっと信じてたけど、相手はいつまでたっても来なかった」。Hamesはそう話す。「『お父さんはアフリカで舞台に立ってるけど、きっと会いに来てくれる』って彼女は言ってた。でも、彼女が彼に会うことはなかった」
Photograph by Kanya Iwana for Rolling Stone. Outfit by KNWLS. Earring by Wasee. Rings by German Kabirski.
ドージャが8歳になるかならないかの頃、デボラ(後にサンスクリット名のIshwariを使うようになる)は子供たちを連れてサンタモニカの山岳地帯に移住し、伝説的ジャズミュージシャンのアリス・コルトレーンが率いたコミューンSai Anantam修行所に入った。デボラは山々に囲まれた穏やかな暮らしを求めていたが、「落ち着きのない子供だった」というドージャはそういった環境に馴染めなかった。「とにかく禁欲的だった」。彼女は修行所についてそう話す。「私のきょうだいは気に入ってて、友達もたくさんできてた。でも私には、友達と呼べる子はほとんどいなかった。食べたいものが食べられなくて、子供らしいことが何もできない、そういう毎日。肩にスカーフを乗せてないといつか神様に見放される、そんな感じだった」
一家はその後、アッパーミドルクラスの人々が多く住むロサンゼルス郊外の町、オーク・パークに移り住んだ。そこでHamesの母親と親しくなったことをきっかけに、デボラは宝石づくりに励むようになった。Hamesの姉のAlexis Hainesは、時々ドージャと彼女のきょうだいの面倒を見てくれた(彼女たち姉妹は後にE! Reality TVシリーズの『Pretty Wild』に出演している。またHainesは、映画『ブリングリング』で描かれたセレブの豪邸を狙った強盗事件に関与した疑いで逮捕され、1カ月間刑期を務めている)。「私たちはいわゆる鍵っ子だった」とHainesは語っている。「母親がヒッピーだったからか、はっきり言って過剰な自由を与えられてたと思う」
ドージャと彼女のきょうだいは、住んでいた地域において数少ない(あるいは唯一の)混血の子供だった。「私の見た目はみんなと違ってた。髪の毛も」。彼女はそう話す。「地域の人々は人種差別的で、失礼で無遠慮で奇妙だった」。彼女が子供の頃に仲良くしていたのは白人やユダヤ人ばかりで、きょうだいは彼女に黒人の友達がいないことをからかっていた。Hainesはドージャに頼まれて、彼女の髪に頻繁にストレートアイロンをあてていたという。
Hainesによると、ドージャのきょうだいの悪行は「家庭内での主なトピック」となっていたという。「彼女自身の気持ちに配慮する余裕はなかったのかもしれない」とHainesは話す。「彼女はエネルギーを持て余していて、あの手この手で注意を引こうとしていたけど、すごくスウィートでいい子だった」
ドージャがラップを始めたのはHainesが彼女の面倒を見ていた頃で、Hainesはそれを自身のMySpaceにアップするようになった。ドージャが育った環境では、常に音楽が流れていた。きょうだいは50セントやNasに夢中で、母はエリカ・バドゥやアース・ウインド・アンド・ファイアーが好きだったほか、修行所で行われていたパワフルな読経にも家族でよく参加していた。「ラップが得意だってことは自覚してた。自分に才能があるって感じたのは、それが初めてだった」。彼女はそう話す。
歌うことについてはそこまでの自信が持てず、彼女は今でも不安を覚えることがある。歌の指導をしていた叔母の勧めで、キャンドルに灯した火を揺らすことなく歌う練習を繰り返していたドージャは、彼女のきょうだいが通っていたロサンゼルスのパフォーミング・アート高校の入学オーディションに合格する(彼女が歌ったのは『リトル・マーメイド』の「Part of Your World」だった)
ドクター・ルークとの関係
16歳の時に高校を中退したドージャは、ADHDの症状がその主な理由だったと説明する。「周囲がどんどん先に進んで、自分が置いてけぼりにされてると感じてた」。彼女はそう話す。この頃、ビートに自分の声を乗せることに夢中になるなかで、彼女は自身のアーティスト性に目覚めていったが、一方で問題も抱えていた。「完全に引きこもりになってた。広場恐怖症の傾向があるのかどうか知らないけど、少なくとも当時はそうだと思ってた」と彼女は話す。「一歩たりとも外に出たくなかった。かと思えば、家でじっとしてられなくて四六時中外をほっつき歩いてることもあった」。彼女はマリファナを吸いまくり、YouTubeでビートを漁っては、曲を作ってネット上で公開していた。そして、そのうちの1つだったトリッピーなアンビエント調のドリームポップアンセム「So High」が、長期的なコラボレーターとなるYeti Beatsの目に止まる。
現在では、ドージャは「So High」を聴くたびにむず痒くなるという。「歌詞のいい加減さは、私が書いた曲の中でもトップクラス」と彼女は話す。しかし、あの曲を聴いたYetiはその才能に「衝撃を受けた」という。「音質はお粗末だったけど、声は圧倒的だった」。彼はそう話す。ドージャがエコー・パークにある彼のスタジオに出入りするようになると、彼はそこが彼女にとって心のオアシスであり、家庭での様々な問題から逃避できる場所であることを悟ったという。「こんなことを言うと怒られるかもしれないけど、当時の彼女は心を閉ざしてた」と彼は話す。「スタジオは彼女にとってのシェルターだった。彼女との出会いに運命めいたものを感じていた僕は、ドージャを必死で説得して毎日スタジオに連れてきては、彼女がクリエイティブになれる環境を作ろうとしていた」
Yetiとのコネクションを介して、ドージャはポップ界の大物ドクター・ルークがRCAの傘下に立ち上げたKemosabe Recordsと契約する。2014年、彼女は同レーベルからデビューEP『Purrr!』をリリースした。「So High」で彼女はメインストリームで成功を収めることの意味を知ったが、ミュージックビデオで描かれたヒンドゥーのイメージは一部の人々の怒りを買った。当時、彼女は自分が幼い頃にヒンドゥーの教義を実践しており、修行所で過ごした日々にインスパイアされたと説明したが、現在ではあのミュージックビデオを作ったことを後悔している。「私にもう少し知恵があれば、あれはやらなかったと思う」。彼女はそう話す。「多くの人々にとって神聖なものに対しては慎重になるべきだし、軽い気持ちで扱うべきじゃないと思う」
以降数年間、ドージャはクリエイターとしてスランプを経験する。ツアーや曲作りは続けていたものの、膨大な量のマリファナを吸っていたという彼女は「あまりに不健康な生活で、一旦全部ストップする必要があった」と話す(現在の彼女はマリファナを断っている。「ドラッグは一切やらない。酒は浴びるほど飲んでるけど」)。「しばらくの間、彼女は曲作りをやめていた。彼女は自分を見つめ直そうとしていたし、レーベルは彼女の動向には無関心だった」とKaplanは話す。
この頃、ドクター・ルークとケシャの法廷闘争が加熱していたことはおそらく偶然ではない。同スキャンダルが勃発したのは、ドージャがKemosabeと契約した直後だった(ドクター・ルークの代理人はこのトピックに対するコメントを拒否している)。キャリアを通じてドージャは様々な批判に晒されてきたが、ケシャが「薬物を投与されレイプされた」と主張する同プロデューサーとの繋がりを非難する声はとりわけ大きかった。彼のシーンへの復帰(「Say So」への参加によって2020年にグラミー賞にノミネートされたほか、今年は3部門でノミネートされており、そのうちの2つは『Planet Her』での仕事によるものだ)がドージャの成功に支えられていることは間違いない(ドクター・ルークはケシャの主張を否定し、彼女を名誉毀損で提訴した。ケシャは2016年に訴訟を取り下げたが、ドクター・ルークが起こした裁判は現在も継続している)
この投稿をInstagramで見る Rolling Stone(@rollingstone)がシェアした投稿 ドージャはドクター・ルークとの関係について公の場で語っていないが、彼女が彼と仕事をすることを擁護する意見に感謝の気持ちを示し、彼女がKemosabeと契約したのは彼が2014年初頭にケシャから訴えられる前だと主張するファンのツイートに「いいね」している(YetiのInstagramのアカウントでは、ドージャとYetiがRCAとのミーティングに出席した2013年の写真が確認できる)。ドージャを客演に迎えたスウィーティーの女性へのエンパワーメントアンセム「Best Friend」等のヒット曲に、ドクター・ルークは作曲者としてクレジットされている。スウィーティーは彼と曲を共作することは契約上の義務だったと主張しており、今後彼と仕事をするつもりがないことを暗に示していた。
筆者は彼女に、スウィーティーと同じ考えかどうか、つまり彼と今後仕事をするつもりがあるかと訊いた。「あまり答えたくない質問ね」。彼女は口重そうにそう言って、しばし押し黙る。「彼とはもうしばらく仕事をしていない」と話した後、彼女は再び沈黙した。「彼はひどいことをしたって言われてるけど、それが本当かどうかなんて私にはわからないし」
「それとは?」と筆者。
「それは重要じゃない」。彼女はそう言った。「確かなのは、彼に疑惑がかけられてるってこと。でも、なんていうか、どうでもいいって感じ。将来的に彼とまた仕事をするべきかって言われたら、私はそう思わない。それは確か」。わずかな沈黙を挟んで、「彼との仕事を引き受けたのは、私が優しいからよ」と彼女は話し、乾いた笑い声を発した(本誌がコメントを求めたところ、ドクター・ルークの代理人は「ルークはアマラの才能と、2人で作り上げた作品を誇りに思っている」とした上で、彼が「数多くのアーティストの代表曲やヒット曲を手がけており、今後も活動を続けていく。それが彼の日常であり、生み出した作品が世に広められることは、彼自身と音楽業界が享受すべき利益です」と回答した)
数週間後、ドージャはルークに対するコメントのアップデートを送ってきた。「あのインタビュー以来、私が考えていることを伝えておきたくて」。代理人を介して送られてきたメールにはそう記されていた。「ルークに関する質問に対する私のコメントを読んだ人は、彼が不当に糾弾されていると私が考えているように解釈するかもしれないと思った。はっきりさせておきたいのは、私が確かなことは何も知らなくて、他人のことに首を突っ込みたくないってこと。私の曲のクレジットに間違いはないけど、私はそれ以外のことについて誤解を招くようなことは何も言いたくない」
また彼女は先のインタビューで語った内容について、こう説明している。「過去に私の功績を他人(特に男性)のものにしようとした、一部の人々に対する個人的な感情が影響していた」。さらに彼女はこう続けている。「若い女性として、自分が得るべき権利のために戦うのは大切なことだと思う。私が言いたかったのはそういうこと」
「Say So」への複雑な思い
2018年に『Amala』がリリースされた直後、ドージャ・キャットはフラストレーションを感じていた。Roc Nationに所属していたマネージャーが辞任し、レーベルは彼女のことを気にかけていないように思われた。そして『Amala』のツアーが始まる直前のある日、プロデューサーのトロイ・ノカが彼女にウェス・モンゴメリーの「Polka Dots and Moonbeams」のサンプルを送り、彼のアルバムのためにビートを作ってほしいと依頼した。ツアー用の衣装として牛のコスチュームを購入したばかりだった彼女は、送られてきたサンプルをベースにして、Instagram Liveでファンと一緒に「Mooo!」を作り始めた。さらに彼女は、子供の頃に使っていた寝室をグリーンスクリーン代わりにしてミュージックビデオも作った。ハーフトップ姿でチーズバーガーを食べながら、ゆさゆさと揺れるアニメーションの乳房の前で踊るそのビデオは、性的で馬鹿げたユーモアを好み、問答無用のヴォーカルスキルを備えたドージャ・キャットという存在を体現していた。
ドージャは「Mooo!」以外にもノベルティソングを残している。過去には彼女の喘ぎ声をフックにした「Nintendhoe」(Asratはこの曲が彼女のブレイクのきっかけになると思っていたという)を発表し、以降も簡潔なシングル「Waffles Are Better Than Pancakes」(「パンケーキなんて大嫌い/クソまずいから」という呪術のようなアウトロが印象的)をリリースしている。セクシーな牛に扮したノベルティソングがきっかけとなってレーベルが彼女に注目するようになったことについて、彼女は気にしていないと答えた。「最初からくだらないジョークのつもりだったし、そんなの明らかでしょ。でもリスナーに楽しんでもらえる曲にしたかったし、実際そうなったから」
「Mooo!」の成功によって、彼女はアーティストとしての可能性を証明してみせた。「あれが注目されるきっかけになった」とYetiは話す。「僕らはシリアスな曲も作ってたけど、世間はああいう彼女が好きだから、そういう部分をもっと見せていくべきだと思った」
Photograph by Kanya Iwana for Rolling Stone. Bracelets by Alexis Bitter. Earrings, necklaces, and rings by David Webb.
ポップ界の何でも屋というドージャのイメージは、『Hot Pink』によって一層強まっていく。「アルバムをRCAのチームに聴かせた時、みんな唖然としてた」。Kaplanはそう話す。「曲を聞いた途端、誰もがその可能性に気づいてた。過去に何度か会っていた人々も、ようやく僕の名前を覚えてくれたよ」。アルバムはTikTokで無数のトレンドを生み出し、特にパンデミックの最初の数カ月間は破竹の勢いを見せた。例えば官能的な「Streets」は、赤いフィルター越しに廊下で思わせぶりなポーズを取るTikTokのシルエット・チャレンジを生み出した。
やがて、ナイル・ロジャースの「Good Times」のギタープレイにインスパイアされたというディスコとポップラップのハイブリッド「Say So」が生まれる。同曲はパンデミック中期に見られた現実逃避のムードやチープなディスコポップの再燃を後押しし、TikTokでヴァイラルヒットしたコケティッシュなダンスを生み出した(ドージャは後に、そのクリエイターであるHaley Sharpeを同曲のビデオに出演させている)。彼女は「Say So」について、母親が住む家で受け取ったビートをLogicで再生しながら、歌詞とメロディを適当に呟いていた時に生まれたアイデアが元になったと語っている。ドクター・ルークは同曲の共同作曲者および唯一のプロデューサーとしてクレジットされており、後者にはTyson Traxという別名を用いている。ある業界人は、彼がこの1曲によって完全にシーンに復帰したと主張する。それ以降、彼はダベイビーやザ・キッド・ラロイ、そしてスウィーティーの作品を手がけている。「彼は再びスーパースターたちと仕事をするようになった。その年に彼が携わった唯一のヒット曲、それが『Say So』だった」とその人物は話す。
ドージャは別の理由で、同曲に対して複雑な思いを抱いている。広く拡散されたある動画では、彼女がステージで「Say So」をプレイする際に呆れた表情を浮かべる。「何だかすごく悲しくって、マンネリでうんざりしてた」。パンデミックの最中にZoomで同曲のパフォーマンスを披露することについて、彼女はそう語っている。「前はあの曲がやりたくて仕方なかったのに、いつの間にか好きな曲の1つぐらいになってた。実際にファンの前でプレイできない不満もあって、気づけばネガティブな思いの方が強くなってた。『この曲は私が思い描いた夢を現実にしてくれるはずだったのに』ってね。それで何だか複雑な気持ちになったの」
【後編を読む】ドージャ・キャットが語る、「ポップ界の問題児」としての本音と葛藤
From Rolling Stone US.
ドージャ・キャット
『Planet Her (Deluxe)』
発売中
完全生産限定盤:CD+Tシャツ / ¥5,940(税込)
通常盤:CD / ¥2,420(税込)
日本盤CD購入リンク:https://SonyMusicJapan.lnk.to/DojaCatPlanetHerDeluxeJPRJ
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完全生産限定盤は、ヤング・サグの2ndアルバム『PUNK』のジャケット写真を手掛けた19歳の新進気鋭日本人アーティスト=K2による描き下ろしイラストTシャツを封入(※TシャツはLサイズのみ)
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