新進気鋭の若手俳優・須藤蓮が語る、「魂」を注ぎ込んだ初監督・主演作品への思い
Rolling Stone Japan / 2022年2月9日 17時0分
音楽、文芸、映画。長年にわたって芸術の分野で表現し続ける者たち。本業も趣味も自分流のスタイルで楽しむ、そんな彼らの「大人のこだわり」にフォーカスしたRolling Stone Japanの連載。新進気鋭の若手俳優、須藤蓮が初監督・主演を務め、台北金馬映画祭に公式出品となった映画が『逆光』だ。須藤と脚本を手がけた渡辺あやの二人が宣伝・配給を行っている完全自主制作映画。その制作の裏側と映画への熱い想いを語ってくれた。
Coffee & Cigarettes 34 | 須藤蓮
「映画監督になるつもりは全然なかったですし、そんなにたくさん映画を観てきたわけでもないんです、恥ずかしながら。そういう意味ではドラマ『ワンダーウォール~京都発地域ドラマ~』(以下『ワンダーウォール』)で出会った渡辺あやさんの存在が、僕にとってはとても大きくて」
『ジョゼと虎と魚たち』や『メゾン・ド・ヒミコ』、 NHK朝ドラ「カーネーション」などで知られる脚本家・渡辺あやが見出した25歳の新鋭、須藤蓮による初監督・主演作『逆光』。1970年代の広島県・尾道を舞台に若き男女の愛憎を描いた本作は、渡辺と須藤が自ら宣伝・配給まで行っている完全自主制作映画である。
「『ワンダーウォール』の撮影現場に立ち会った時、僕がこれまでずっと探してきた『本気でものづくりをする場所』というか、『自分のありのままを、本気でぶつけていい場所』をようやく見つけたような気持ちになったんです。おかげで撮影が終わってからは、しばらく途方に暮れてしまって。あれほどの体験ができる現場にはなかなか出会えず、自分自身を持て余しているような状態が続いていました」
慶應義塾大学在学中の2016年、「第31回 MENS NON-NO 専属モデルオーディション」でファイナリストとなり、翌2017年秋より俳優として活動を開始。そんな矢先に「人生を変えるほどの作品」に出会ってしまった須藤は、渡辺とまた現場を共にしたいとの一心で、自ら書いた脚本を彼女に送り意見を仰ぐなどしていたという。どこか師弟関係のような、不思議な交流を深めていくなか、「尾道で撮影するのはどうだろう?」と持ちかけたのは渡辺だった。
「LINEでメッセージをいただいた、その3日後にはもう尾道にいました(笑)。あやさんと合流して二人でシナリオハンティングを始めると、すぐに登場人物のイメージも浮かんできましたね。あとは腕のいいカメラマンと、腕のいい音楽家、それから腕のいい衣装部を全部自分で揃えたら(監督も)できるんじゃないかと」
©2021『逆光』FILM
そうして起用されたのは、須藤しぐま(撮影)、高橋達之真(衣装)、大友良英(音楽)という、かねてより須藤や渡辺と親交のあるクリエーターたちだ。
「自分に特別な才能がないぶん『この人と仕事がしたい!』というアンテナを常に張り巡らせていて。昔、古着屋でバイトしていたことがあるんですけど、自分自身にセンスがなくても『きっとこの人が、お店で一番センスがあるんだろうな』というのは分かるんです(笑)。それが今回、衣装を手掛けてくれた高橋(達之真)さん。須藤しぐまさんは、司法試験を諦めて俳優の仕事を始めたばかりの頃に『この人に撮ってもらいたい』と初めて思えた友人です」
須藤がフェイヴァリットに挙げるウォン・カーウァイや、トラン・アン・ユンの作品を彷彿とさせるコントラストの強い映像に、ヌーヴェルヴァーグ映画から飛び出してきたような登場人物たちのファッション、さらには心象風景を描くようなギターのアルペジオが、この作品のテーマである「永遠の一瞬」を彩っていく。
「コロナ禍で世の中がギスギスして、SNSを開けば毎日”正義”のぶつけ合いというか、意味と立ち位置の闘争みたいなものが繰り広げられていたじゃないですか。あれに心底疲れちゃって、『何の意味もない映画が作りたい』と思ったんです。あ、この映画が無意味というわけではなくて(笑)、意味に疲れない作品が作りたかったんですよね。例えば夏の陽光や、波しぶきの煌めき、氷が砕ける音みたいな、そんな”今、この瞬間”をフィルムに焼き付けたかった。そういうところから出発する映画を作ろうという話をあやさんとしていました」
そうした刹那的かつ美しい瞬間とは対照的に描かれるのが、まさに「正義」をぶつけ合うような、若者たちによる喧々諤々とした政治論争である。そして、これがあるからこそ、ただ水に飛び込んだり、タバコの煙を燻らせたりするだけのシーンがより美しく際立っている。
「政治論争のシーンも感覚的なショットも僕にとっては切実で。そういう自分の中にある世の中や正義に対する葛藤のようなものを、おっしゃるように”永遠の一瞬”が吹き飛ばしてくれないかなという気持ちがあったのかもしれないです」
それこそが、映画でしかなし得ないカタルシスともいえるだろう。しかも、吹き飛ばされるべきシーンもぞんざいに扱わず、細部まで細かく描き込んでいるからこそ「永遠の一瞬」にリアリティが宿っているのだ。
「実はあの論争シーン、『ワンダーウォール』のモデルになった京都大学吉田寮の方たちを呼んでいるんです。脚本には『核武装について論争する』とだけ書いてあったんですけど、自分自身も右とか左とかで割り切れない、ちょうどその狭間で揺れていた時期で。今よりももっと若い頃は、耳馴染みのいい言葉や政治的なイデオロギーにひたすら飛びついていたけど、実はその過程で排除したり攻撃していた意見もあったことに気がついて。割り切れるほど簡単な問題じゃないと思う、その”心の揺れ”をそのまま撮ってみようと思いました」
そうした須藤の心の揺れや割り切れなさは、登場人物たちにも投影されている。「物語が進むにつれて、見ている人の印象が変わっていくような作品にしたかった」と須藤は言う。
「例えば、冴えない女の子に見えていた文江(富山えり子)が実は、主人公・晃(須藤蓮)にとても信頼されていたり、誠実そうな印象だった吉岡(中崎敏)には、実は狡猾な側面があったり。天然キャラに見えたみーこ(木越明)が、ふと妖艶な表情を見せるように、人間ってそう簡単には割り切れないですよね。簡単に言語化できない”てざわり”のようなものを、この映画では表現したかった。だからこそ細部の描きこみにはものすごくこだわりました」
例えば音楽の入るタイミングや、セミの泣き声のボリュームひとつで作品の印象はガラッと変わってしまう。録音と整音はプロに任せたが、音のデータの”つなぎ”は自分で行った。「音でこんなに楽しめるのが、自分にとって一番意外でした」と、楽しそうに振り返る。
「僕、村上春樹の小説がすごく好きなんですけど、それは音楽的だからなんですよね。文体の心地よさで、スッと読めてしまうというか。そういうところを『逆光』でも目指しています。それから三島由紀夫の小説も。脚本自体はものすごくシンプルで質素だけど、それを映像や衣装などできらびやかに装飾していくことで、三島由紀夫が小説でやろうとしていたことに近づけないかなという思いもありました。『作品における社会的意義』とか、そういうのはバカなのでよく分かんないんですけど(笑)、『このショットがあるだけで、この映画はOK』と思わせるような、そういう瞬間を捉えたいと思いながらずっと撮っていましたね。普段、映画を観る習慣のない人がたまたまこの映画を観て、『ストーリーとかよく分からないけど、なんとなく心地良くて最後まで観ちゃった』みたいなことが起きたら最高にうれしいです。あとは、今回グッズとかにめちゃくちゃ力を入れたんですよ。映画業界が今、手を抜いているところにマジで魂を注ぎ込んだらどうなるか、とことん挑戦しています(笑)」
そう言いながら、ハイライトに火をつけた須藤。『逆光』にもタバコを吸うシーンが頻繁に出てくるが、それもある意味では挑戦的だ。
「例えばドラマの撮影でも、『あってもなくてもいいなら、なくていい』みたいな感じでなかなか吸わせてもらえなくて。吸っていてもおかしくない登場人物でも、吸わない選択肢を取ってしまうことには喫煙者として違和感がありますね。僕が好きな映画には、めっちゃ喫煙シーンがあるんです。それこそ『花様年華』のトニー・レオンとか、最初から最後までタバコ吸ってるし(笑)。そういう映像に憧れているから、『逆光』でも、つい先日ようやく撮影が終わった『blue rondo』(須藤の監督2作目)でもひたすらタバコを吸っています。煙の演出も、それで表情を隠したり、逆に美しくしたり、いろいろなことができるじゃないですか。映画の中でのタバコの見せ方は、これからも工夫しながら映画の中で撮り続けていきたい……そう、まだまだ監督は続けるつもりですよ!」
>>撮り下ろし写真&劇中写真はこちら
須藤蓮
東京都出身。慶應義塾大学在学中。スターダストプロモーション制作1部所属。「第31回 MENS NON-NO 専属モデルオーディション」ファイナリスト。2017年秋より俳優として活動を開始し、京都発地域ドラマ『ワンダーウォール』に主要キャストの1人として出演。東海テレビ・フジテレビ系全国ネット「おいハンサム‼」(2022年1月8日スタート)出演予定。
©2021『逆光』FILM
『逆光』
渋谷ユーロスペース公開中、
2022年新春アップリンク吉祥寺他全国順次公開
制作・配給:FOL
出演:須藤蓮 中崎敏 富山えり子 木越明
脚本:渡辺あや
監督:須藤蓮
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