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オーロラが自由を追い求める理由「音楽やダンスは生きてる意味そのもの」

Rolling Stone Japan / 2022年2月10日 20時0分

オーロラ

ノルウェーのシンガー・ソングライター、オーロラ(AURORA)が、今年1月にニューアルバム『The Gods We Can Touch』をリリースした。ギリシャ神話に影響を受け、そこに登場する神々を関連付けながら書いたという楽曲を15集めた、初めてのコンセプト・アルバムだ。これまでの彼女の作品は、ダークだったりヘヴィだったり、あるいはエレクトロニックなサウンドが幻想的に響いたりといったものが多かったが、今作は躍動感のあるリズムに乗って高らかに歌われる曲もいくつかあるなど、生命力漲るポップな作りに。彼女も言うように遊び心に溢れ、ダンスしながら聴くこともできる作品になった。その変化はどこからくるものなのか。ギリシャ神話から得た着想と新しいサウンドを合わせ、聴く者たちにどんな思いを伝えようとしたのか。オーロラに話を聞いた。



―COVID19のパンデミック以降、日本では海外アーティストのライブを観ることのできない状況が長く続いています。そんななか、あなたは昨年9月の「SUPERSONIC」に豪雨のなか出演し、たくさんの音楽ファンにパワーと癒しを与えてくれました。出入国の手続きが煩雑である上、日本滞在中の外出も規制されるなど様々な苦労があったことと思いますが、それを受け入れた上であのような素晴らしいライブを見せてくれたことに対して、まずはお礼を言いたいです。

オーロラ:私は日本が大好きだから、日本に行けるならなんだってする。たとえそれが1日の滞在だったとしてもね。もともと私はひとりでいるのが好きだから、隔離期間中のホテルでも楽しく過ごすことができた。持って行った本を読んだり、パズルをしたり。毎日Uber Eatsでラーメンを頼んで食べていたし、ツナマヨおにぎりもお気に入りの食べ物になったし(笑)。そうして日本のファンのみんなの前で歌うことができて、私自身、すごく感動した。魔法のような体験だったわ。みんながああいう繋がりを必要としていたんだと思うの。

―新作『The Gods We Can Touch』についてお聞きします。過去の作品はツアーの合間などに慌ただしく作られたそうですが、今回はベルゲン(ノルウェー南西部の都市)に近いロセンダルにある邸宅バロニー・ロセンダルに滞在し、集中してレコーディングされたそうですね。その場所からインスピレーションを受けたところもあるんですか?

オーロラ:1カ月間そこを借りきって制作したんだけど、本当にたくさんのインスピレーションをもらったわ。自宅とは違う別の場所に身を置くことは大事で、そうすると改めて自分を見つめ直すことができる。滞在中は毎朝、別世界にいるような気がした。400年昔にタイムスリップして、そのお城に住んでいる自分を思い描いたりして。周りに大きな山があり、大自然に見守られている気がしたの。すごく神秘的で、美しいところよ。

不完全さをもっと讃えていい

―そんな場所で作られた『The Gods We Can Touch』はコンセプト・アルバムで、どの曲もギリシャ神話に登場する神々に関連付けられています。そもそもあなたが神話に興味を持ったきっかけは?

オーロラ:ギリシャ神話もそうだけど、これは広い意味での宗教と人間についての作品。3年くらい前から宗教とその歴史について本を読むようになったのだけど、それがすごく興味深くてね。例えばこういうこと。遥か昔、人間は万物に神が宿っていると考えていて、土、木、水、全てを崇拝していた。それが時間の経過と共に、信仰は精神的なものから「やるべきこととやってはいけないこと」といった規範の文脈で語られるようになっていった。その過程で、ひとは地上にいる存在だった神を遠い天上へと遠ざけてしまったの。どうしてそうしたのか、私にはわからない。ただ、歴史を紐解くと、西洋諸国は決していいとは思えない行ないをたくさんしてきたのも事実で。そのこととひとが神を遠ざけたことは、関連しているのだろうかと考えてみた。私たち人類はいま、この地球を死に追いやっているでしょ。もし、いまでも地上のあらゆるものに神が宿っていると人間が信じていたら、果たしてこんなにも地球を壊していただろうかと考えたの。ひとが神を信じていたら、もっと自然を尊重したんじゃないかなって。そういう観点からギリシャ神話に興味を持った。ギリシャ神話は神のなかの人間くさい部分を上手く取り入れていて、どの神も決して完璧ではなく、どこか不完全なのね。そういう不完全さを私たちはもっと讃えていいんだって思ったの。



―『The Gods We Can Touch』……”私たちが触れられる神々”というタイトルは、そこから来ているわけですね。つまりギリシャ神話における神々が不完全であるように、人間も不完全で、その不完全さのなかにひとがどう生きていくかのヒントがあるんじゃないかと。ギリシャ神話を介在させながら、人間の哀しみや痛みや欲望や恐怖や情熱や願いや理不尽さを表現しようと試みた、これはそういう作品であると。

オーロラ:人間は不完全だからこそ面白いし、魅力的だし、素敵なんだと私は思うの。不完全だからこそ、私たちは自由でいられる。「あのひとみたいな容姿にならなければ」なんていう考え方には違和感があるし、「誰々と同じようになりなさい」という押し付けもおかしいわ。だって私たちはありのままで生きていいように生物的に組み込まれているのだから。そもそも「完璧」なんてものはないと思うのね。だから完璧を求めて自分に厳しくなりすぎるのはよくないし、ありのままの自分を恥ずかしいと思ってはいけないと思う。自分の容姿にしても性的指向にしてもそう。何かに対する「自信の持てなさ」は否定すべきことじゃなくて、むしろ大事なことだと思うの。

―先行シングルの「Cure For Me」は、コンバージョン・セラピー(主に同性愛者を異性愛者に矯正または転換させるために行なう転向療法のこと)にインスピレーションを受けて書かれた曲とのこと。「私は治療薬なんていらない」「どうか治そうとしないで」と繰り返し訴えてますね。この曲がまさにそうですが、”ありのままであれ”というメッセージは、あなたが音楽を続ける上でとても重要なものであるように感じます。自分らしくあり続けるのが難しくなっているこの世界で、だからこそそのことを強く伝えたいのだというあなたの思いが、このアルバムを作らせたんだなと思いました。

オーロラ:その通りよ。いまは誰もが周囲の目に晒されていて、どういうわけか世界に向けて自分を見せなきゃいけないといった強迫観念を持ちながら生きているひとも多い。携帯を通じてそれが容易くできるようになったからね。でも、みんなに自分をどう見せようかって考えること自体、不自然じゃない? 作りあげたり加工したりしてネットで自分を見せているうちに、それは実際の姿とは違うということを自分でも忘れてしまう。そのほうが怖いと私は思うのね。周りと違っていていいんだし、浮いてたっていいと思うの。どんなひとでも人生で必ず一度くらいは、自分は周りから浮いてるなって感じたことがあると思う。自分はどっかおかしいのかな、とかね。でもそれは普通のことだし、恐れる必要なんてない。私の音楽を聴いたひとが、「そんなふうに考えてしまうのは自分だけじゃないんだ」「自分は自分のままでいいんだ」って思ってくれたら嬉しいな。私自身、なかなか周りに溶け込めないでいた時期が長くあったから、余計にそう思うの。



―今作で、サウンド面に関してこだわったのは、どういうところですか?

オーロラ:遊び心を大切にするということ。自分のなかのあらゆる面を受け入れたくて、それにはいろんなサウンドを試してみるのがいいんじゃないかと思ったの。シリアスな面もあるけど、今回はユーモアもたっぷり入っている。私自身がそういう人間だからね。遊び心を忘れず、自由にいろいろ試して、生き生きとしたサウンドのアルバムにしたかった。

―以前ほどダークでヘヴィなサウンドではなくなったし、エレクトロニックなサウンドによる幻想的な表現も後退しているように感じました。それよりも、まさしく生き生きとしたサウンド、生命力や躍動感の感じられるサウンドが印象的で。曲によってはサンバやサルサのリズムを取り入れるなど、あなたの言うように遊び心が感じられる。そうした印象の変化は、意図したものだったのですか?

オーロラ:アルバムは常にそれまでと違うものにしたいと思っている。私の声やメロディーや歌詞には予め「オーロラらしさ」があることがわかっているから、それを包むサウンドに関してはいくらでも試せるなと思っていて。着る服を変えても、私の音楽にある魂は変わらない。だったらいろんな服を着てみたほうが楽しいからね。私は女性で、いろんな面を持っている。女性に限らず、みんなそうよね。だから同じことばかりするのではなく、あらゆる可能性を探求したいと思っているの。

「自由な遊び心」の背景にあるもの

―サウンドのみならず、歌詞にも変化が感じられます。2019年11月の初来日時にあなたに話を聞いた際、こう話していました。「4歳の頃からいつも死について考えていました。死という概念を深く理解したかった。私は死が怖いわけじゃなく、生き続けることのほうがむしろ怖いと思ったりもする」。実際のところ、以前の作品には死がテーマになった曲が多かった。でも今作では、生きている実感だったり、生命の強さだったり、こう生きたいという願いだったり、自分らしく生きることを抑えつけようとする世の中に対しての意志だったりが歌われている。あなたのなかで「生きる」ということの捉え方に何か変化があったのでしょうか?

オーロラ:少しあったわ。死についてはいまでもよく考える。自分の生き方や考え方の大きな部分を占めているから。全てのものがそうであるように、私の命もいずれ尽きる。できれば自分が人生に対して満たされた気持ちを十分持ってからであってほしいけどね。でも死は必ず訪れるわけで、その意識が生き方に大きな影響を与えている。死をイメージすることで、生きて経験する些細なことに意味を見い出せるの。今朝、私は紅茶を飲んで、その香りを楽しんだ。それもひとつの生きる意味だし、自然を見ること、風を感じること、空を飛ぶ鳥を目で追うこともそう。日々のどんな些細なことにも意味がある。でもそれをすごく重要なこととして捉えなきゃダメだと言いたいわけではないよ。煮詰まったときは、肩の力を抜いて、そこにいるだけでもいい。このアルバムではそういうことを歌っている。自分なんかダメだってずっと思っていたら、一度しかない人生を謳歌できないからね。ただ、生きて、匂いを嗅いで、味わって、踊るだけでいい。そういうことを伝えたかったの。



―COVID19のパンデミックによる世界の変化、人々の生活様式や考え方の変化が、今作のトーンやメッセージ性に繋がったというところもありましたか?

オーロラ:多少はあったと思う。アルバムを作るときはいつも、「アルバムが出た2年後はどんな世界になっているだろう」って想像してみるのね。今回も想像したんだけど、現在のパンデミックの状況を考えてみたときに、みんながこれから聴きたくなるのは明るくて自由で遊び心が感じられるような作品なんじゃないかなって思って。そろそろもう、ありのままの自分を讃え、互いを讃え合うことをしたいし、そういう気持ちになれる作品を聴きたいんじゃないかってね。パンデミックを経験して一回立ち止まったことで、私たちはいままで見えなかったことも見えるようになった。社会の問題もそうだし、自分の抱えていた問題も。そうして本当に大切なものは何かがわかるようになってきたってところはあると思うし、自分もそうで、そのあたりが作品に反映されたところはあるでしょうね。

―今回のアルバムはヴォーカル表現も多様で、いろんな声の出し方を試していますよね。自分の歌声に対する新しい発見もあったんじゃないですか?

オーロラ:うん。年齢を重ねるにつれて自分の声を自在に使えるようになってきたってところは確かにあって。いまはノルウェーのフォークミュージックを歌うときのように原始的な歌い方をすることもできるし、繊細な歌い方もできるし、オペラのように歌い上げることもできる。声は、私がこれまで手にしたどの楽器よりも魅力的な楽器だなって思うの。これからもっと幅を広げていきたい。どんな声の出し方ができるようになるのか、自分でも興味がある。



―ところでさっき「Cure For Me」の話が出ましたが、同曲のMVではクルクル変化する豊かな表情と可愛らしいダンスも印象的でした。ダンスはコレオグラファーによる振り付けがあったのですか、それとも自由に踊ってみた感じなんですか?

オーロラ:ほとんどの部分はフリースタイルで踊ったもの。緻密に計算しすぎず自由にやったほうが魔法が生まれやすいからね。とはいえ撮影にはYaniv Cohenというコレオグラファーもいて、ダンサーみんなが揃うように指揮してもらった。最後はみんなにも自由に踊ってもらったけどね。サビの部分でみんなで揃ってするダンスは私が昔から温めていたアイデアで、ティム・バートン監督の『アリス・イン・ワンダーランド』からインスピレーションを受けたの。退屈なパーティーで、退屈なひとたちに対して、アリスが「退屈なのは嫌。私は私」と訴えるときのダンス。「Cure For Me」にぴったりでしょ(笑)。

―確かに。ダンスもあなたにとっては、歌と同様、大切な表現なんですね。

オーロラ:もちろんそう。家でしょっちゅう踊ってるの。だって気持ちいいから。子供の頃は歩くより前に踊っていたくらい。ひとは遥か昔から踊ったり歌ったりしてきたし、本来踊ることが好きなはずなんだけど、街中でいきなり踊り出したりしたらヘンなひとだと見られちゃう。けど、踊りたくなったら踊ればいいって思うんだよね。音楽やダンスは感情と繋がっていて、人間が古来から持っていた何かを呼び覚ましもする。踊ったり歌ったりすることで、人間に限らずあらゆる生命と繋がれる感覚がある。音楽もダンスも私にとってはすごく美しくて、生きてる意味そのものって感じ。みんなも私のこのアルバムの、例えば「Giving In To The Love」や「The Innocent」や「Temporary High」なんかは踊りながら聴いてほしいな。「かっこよく踊れない」なんて思わないで。自分らしく自由に踊るのが一番いいんだから。そうすると自分らしく生きることの足枷になっているものがなんなのかもわかってくると思う。それを捨てて解放されるの。そしたらきっと、この世に自分が存在していることだけで素晴らしいんだって思えてくるから。





オーロラ
『The Gods We Can Touch』
発売中
配信・購入:https://umj.lnk.to/AURORA_TGWCT

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