ビッグ・シーフが語る、バンドの絆と探究心「私たちの音楽は道しるべであってほしい」
Rolling Stone Japan / 2022年2月15日 12時0分
カバナーズ・ボール・ミュージック・フェスティバル2021に出演した際のビッグ・シーフ。(左から)バック・ミーク、ジェームズ・クリヴチェニア、エイドリアン・レンカー、マックス・オレアルチック。(Photo by Sacha Lecca for Rolling Stone)
ビッグ・シーフ(Big Thief)が4ADより2枚組最新アルバム『Dragon New Warm Mountain I Believe in You』をリリース。今日のUSインディーロックにおける最重要バンドが、家族と呼ぶバンドメンバーの絆、ノンストップで傑作をつくり続ける背景、ストリーミング時代における自分たちの役割を語る。
※2022年7月26日追記:ビッグ・シーフ待望のジャパン・ツアー、即日完売となった東京の追加公演が決定。詳細は記事末尾にて。
ビッグ・シーフのエイドリアン・レンカー(Vo,Gt)は、自身のバンドの楽曲がカフェで流れると眉をひそめる。「あの曲をレコーディングしたときは、とてつもなくラディカルで荒削りだと思ったことを覚えている。まるで、何かを破って開けるような感覚だった」と彼女は言う。「でも、いまこうしてカフェで聴いてみると、周囲のモヤモヤとすっかり同化してしまった。そこにはもう、ドラマはない」
ほかの場所はもとより、とりわけ多くのカフェでビッグ・シーフの楽曲を耳にすることが増えたのは、ここ数年のことだ。2019年に『U.F.O.F.』と『Two Hands』という2枚のアルバムを世に送り出した4人組の実験的なフォークロックバンドであるビッグ・シーフは、公演のチケットを完売させ、グラミー賞にノミネートされ、その道中で避けられない逆風にさらされる、インディー・ロック界の寵児となった。
「モチベーションあふれるアーティスト集団の成功を目の当たりにするのは、本当に嬉しいことだ」と、ウィルコのフロントマン、ジェフ・トゥイーディーは語る。トゥイーディーはビッグ・シーフの古参ファンだ。「ビッグ・シーフが素晴らしいバンドである理由のひとつとして、(リリースされる作品)がどれもとんでもなくハイレベルであることが挙げられる」
2月11日リリースの2枚組最新アルバム『Dragon New Warm Mountain I Believe In You』(全20曲収録)のレコーディングほど、ラディカルで荒削りな印象を与えるプロセスは存在しないだろう。アメリカでロックダウンが敷かれた2020年の陰鬱な夏に、レンカー、バック・ミーク(Gt)、ジェームズ・クリヴチェニア(Dr)、マックス・オレアルチック(Ba)の4人は、5カ月にわたってレコーディングを行った。レコーディング・セッションは、西はアリゾナの砂漠、コロラドの山々、ロサンゼルスから、東はアップステイト・ニューヨークまで、アメリカを横断する形で行われた。そのプロセスは探検さながらの様相を呈し、気づく頃には、タイトルトラックの氷柱が割れる音をメンバー自ら録音していたほどだ(「(氷柱の音は)実際、あの年の冬にあの場所に閉じ込められた、つまりは蓄積されたエネルギーなの」とレンカーは話す)。
ノンストップの芸術的アウトプット
こうして生まれたアルバムは、さまざまなテクスチャーを純化させてひとつのステイトメントにまとめ上げる、というビッグ・シーフの特技の集大成のような印象を与える。ロックでエネルギッシュな「Little Things」、ドラムマシンのビートがポップな「Wake Me up to Drive」、素朴なフォークソング「Certainty」が、ひとつの大きなテーマのもとに融合しているのだ。「エイドリアン(・レンカー)のソングライティングには、多種多様な側面がある」と、ニューアルバムのプロデューサーを務めたクリヴチェニアは言う。「『すべてを収録できたら、どんなに素晴らしいだろう』と思ったほどだ」
トラウマ、失恋、自然に関する感動的な物語と、音楽と歌詞の両方の観点から見て新しい”軽さ”がニューアルバムの至るところに散りばめられている。この”軽さ”は、ニューアルバムの前面に押し出すことに徹底してメンバーがこだわったレンカーのソングライティングを支える要素でもある。クリヴチェニアは、レンカーが捨て曲とみなした「Spud Infinity」を聴いたときのことを振り返る。曲の中でレンカーは、「フィニッシュ」と「ポテトクニッシュ(訳注:マッシュポテトや野菜などが入ったマンハッタン名物の伝統的なユダヤ料理)」で韻を踏んでいるのだ。「聴いた瞬間、『エイドリアン、泣けてきたんだけど』って思ったよ」とクリヴチェニアは言う。「すると、『でも、ガーリック・ブレッドって歌ってる。歌詞にガーリック・ブレッドは、さすがにナシじゃない?』という返事が返ってきた」
「Spud Infinity」は、シンガーソングライターのトウェインことマット・デイヴィッドソンのフィドルの音色をフィーチャーした、収録曲の中でも軽快でルーツ色の強い楽曲だ。こうした側面は、ビッグ・シーフがいままで明かしてこなかった音楽的関心を表している。「バック(・ミーク)と初めて会ったとき、アイリス・デメントやジョン・プライン、ブレイズ・フォーリーをきっかけに仲良くなった」とレンカーは言う。「深いところで私たちを結びつけているものなの」
その間、ビッグ・シーフが”自己”という内的な感覚を失うことはなかった。「一人ひとりが、ビッグ・シーフらしさを測るバロメーターを持っている」とクリヴチェニアは言う。「楽曲の中には、聴き直して『ワオ、これを聴いたらみんなぶっ飛ぶね……でも、ビッグ・シーフらしくないな』という感想を抱かせるものもあった」
2016年のデビュー以来、ビッグ・シーフは驚くほど多くの作品をリリースし続けている。コロナ禍で多くのアーティストがロジスティクス面とクリエイティブ面の両方で壁にぶつかったときも、4人中3人のメンバーがソロLPを発表した。ニューアルバム用にレコーディングした楽曲は、ざっと数えて45にのぼる。少なくとも、もう1枚アルバムが出せるほどのボリュームだとクリヴチェニアは言う。「それぞれのメンバーには、『あの曲がボツになるなんて、信じられない』と思った曲が4つくらいあるはずだ」
レンカーは、こうしたほぼノンストップの芸術的アウトプットが良くも悪くもビッグ・シーフの成功に貢献したことを誰よりもひしひしと感じている。ビッグ・シーフの音楽がハイエンドなカフェのBGMに使われるようになり、音楽ストリーミングサービスのプレイリストを通じて消費されるにつれて、レンカーは今日の音楽業界におけるビッグ・シーフの役割に対してますます慎重になった。そんなレンカーは、この業界を「根本的に不完全で、多くの場合において有害」なものと見ている。
こうしたパラドックスは、2000年代初頭〜中頃にNYブルックリンを拠点にボヘミアンな活動していたレンカーとミークから生まれたバンドには、いかにもふさわしくない。ビッグ・シーフほど音楽づくりを愛する素朴なアーティスト&フォーク集団が、ストリーミング時代のインディー・ロックというはしごの上位、ひいては消耗品としてのコンテンツという地位を受け止めることなど、果たして可能なのだろうか?
「私たちはマシーンの一部で、まだ理解できていない」とレンカーは言う。「でも私は、こうした状況を根本から変えたいと願っている。この業界、そして音楽や芸術の世界の内側から、何らかの方法で別の風潮を生み出す手助けがしたい……。この業界は、男性が支配する、白人至上主義的なもの。だから人々がジェンダーや肌の色、性的指向といった固定観念に縛られない空間を創出したい。これは、生涯をかけて追求する価値のある仕事だと思う。でも私は、まだ半分も理解できていない」
バンドという「家族」の旅
現代の生活に対するレンカーの不安は、新曲「Simulation Swarm」にもいくらか投影されている。レンカー曰く、「Simulation Swarm」は、ほかのソングライターであれば1枚のアルバムをつくり上げるほど濃密な一連の体験に基づいているのだ。そのひとつは、2020年5月にブルックリンの病院に4日間入院したこと。7年間のツアー生活を経て、レンカーの身体はとうとう悲鳴を上げた。ほかにも、2020年の傑作ソロアルバム『Songs』の着想源になった別れ、レンカー自ら「カルト教団」と呼ぶアメリカ中西部の分離主義者のコミュニティで過ごした幼少期や、会ったことのない実兄アンドリューについて(2017年のアルバム『Capacity』の収録曲「Mythological Beauty」など、過去にもレンカーは兄について歌っている)。
「Simulation Swarm」は、慎ましやかでありながらも聴く人の心を揺さぶる楽曲であると同時に、レンカーとビッグ・シーフがファンと育んできた強い絆を説明する上で欠かせない作品だ。レンカーは、この事実を先日のアコースティックのソロライブで痛感した。彼女が歌っているあいだ、観客は涙を流しながら互いの手を取り合っていたのだ。レンカーは、「すごい、本当に世界に届いてる」と思ったことを覚えている。「音楽のおかげで、暗い時代に誰かを愛し、自分自身を受け入れられるようになったという手紙をもらうことが増えた。これは、まさに自分が思い描いたことでもある。キャリアを通じて一定のレベルに到達したいとか、世間からああ見られたい、こう見られたいとは思っていない。私はただ、人々が自分自身に立ち返り、より完全な形で自分を受け入れ、愛し、許せるようになってほしいだけ。私の音楽は、みんなが自分に——私じゃなくて——近づくための道しるべであってほしい」
レンカーが自分と結びつきをより強く感じた新曲のひとつが、ニューアルバムのラストを飾る「Blue Lightning」だ。キャンプファイアを囲みながら合唱したい同曲は、レンカーが「自ら選んだ家族」と呼ぶバンドメンバーに宛てられたラブレターである。近頃、レンカーは、大人になってからの経験をソングライティングに取り入れることが増えている。「まだ子供時代を消化しようとしているの。でも、みんなそうでしょう?」と彼女は言う。「それでも、私たちは10年以上バンドとして活動している。彼らとの経験が増えれば増えるほど、それらを曲にすることも増えていく(……)最悪なことも最低なことも、世界でいちばん美しいことも一緒に経験してきた」
ビッグ・シーフは、メンバー共通の体験から生まれた集団的な喜びでアルバムを締めくくることにした。「Blue Lightning」でレンカーは道徳について考察する一方、メンバーに対して思いの丈を綴っている。「あなたが結ぶ靴紐になりたい」という一節には、そうした感情が込められているのだ。
「私たちの誰かがいつ死ぬかなんてわからない——これは、狂気じみていて、悲しくて、ほろ苦くて、あまりに美しいこと。それでも、友情はとても大切だと思う」とレンカーは語る。「私たちは道中で色んなことに出会ったり、色んな経験をしたりするし、夢や疑問を分析し、新鮮な空気を入れ、問いかけ、話し合うけど、結局は見つけられずに……」
レンカーは一瞬、間を置いた。
「ひょっとしたら正解なんてないのかもしれない。それでも私たちは、一緒に答え探しの旅を続ける」
From Rolling Stone US.
BIG THIEF JAPAN TOUR
2022年11月14日(月)梅田 CLUB QUATTRO
2022年11月15日(火)名古屋 CLUB QUATTRO
2022年11月17日(木)恵比寿 THE GARDEN HALL ※追加公演
2022年11月18日(金)渋谷Spotify O-EAST ※SOLD OUT
詳細:https://smash-jpn.com/live/?id=3699
ビッグ・シーフ
『Dragon New Warm Mountain I Believe In You』
発売中
国内盤CD:解説・対訳付き/ボーナストラック追加収録
詳細:https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=12242
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