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アルト・ジェイ、UKアートロック最高峰が語る「大胆な変化」と「実験精神」

Rolling Stone Japan / 2022年2月14日 17時45分

アルト・ジェイ(Photo by Rose Matheson for Rolling Stone UK)

UKリーズ出身のスリーピース、アルト・ジェイ(alt-J)が通算4作目となる『The Dream』を発表。マスターピースと呼ぶに相応しい最新アルバムの制作過程に迫る。


アルト・ジェイについて、あなたはどんなイメージを抱いているだろうか。思った通りを口にすればいい、彼らはお見通しだ。

一部の人は「礼儀正しい優等生」と答えるかもしれない。アルト・ジェイは、それが世間の彼らに対するイメージであることを知っている。10年前にケンブリッジから彗星の如く現れた、丁寧な言葉遣いやマナーが印象的なその若者たちは、バンドマンというよりも環境保護の活動家、あるいは測量士見習いのように見えた。しかし、ヴォーカル兼ギターのジョー・ニューマン、キーボーディストのガス・アンガー・ハミルトン、ドラマーのトム・ソニー・グリーンの3人は、過去10年間で最大のギターバンドの1つとなった。羽目を外したことも少なくないというが、彼らは詳しく話そうとしない。自分たちが優等生などではないと主張することが、優等生のイメージをむしろ助長することを知っているからだ。

「アルト……誰?」という反応を示す人もいるだろう。彼らのマネージャーでさえ、アルト・ジェイが有名でありながら名前を認知されていないことを自覚している。しかし、パブでビールを飲みながらゆっくり話せば、アンガー・ハミルトンはこんな風にこぼすかもしれない。「マディソン・スクエア・ガーデン、O2スタジアム、マーキュリー・プライズ、全英1位アルバム……僕らは多くのことを成し遂げたけど、100人中99人は僕らのことを知らない。でも僕らにとっては、バンドを応援してくれる1パーセントの人々こそが全てなんだ」

その1パーセントの人々とは誰なのだろうか? アルト・ジェイはギターバンドだがギターソロがなく、ヒットシングルを出すことなしに数多くのレコードを売り上げ、シンガロングできる曲がほぼ皆無でありながらアリーナのステージに立つモダン・ロック・バンドだ。しなやかで独創的なインディーロックを鳴らす彼らは、時にはレディオヘッドが手がけたモンティ・パイソンの映画のサウンドトラックのような世界観を描く。



ドリーミーでエレクトロニックなフォークサウンドでシーンに衝撃を与え、マーキュリー・プライズを受賞したアルバム『An Awesome Wave』がリリースされたのは2012年のことだ。それ以来、ニューマンの親密で歯切れのいいヴォーカルや、メジャーとマイナーを行き来するコード進行というバンドのトレードマークは維持しつつも、彼らは継続的にそのサウンドを再発明し続けてきた。そして2022年初頭にリリースされた4枚目のアルバム『The Dream』で、彼らは大胆な変化を遂げた。オーケストラの導入、ヒプノティックなグルーヴ、実験的なポップ、そしてオペラを思わせるインタールードを散りばめた本作は、間違いなく現時点で彼らの最高傑作だ。彼らは本作について、家族のような絆を育んできたバンドの新たなチャプターの始まりだと語る。アルト・ジェイが何よりも大切にしているもの、それはケミストリーだ。

2021年10月、東ロンドン某所。ニューマンはホクストンにあるDe Beauvoir Armsの屋外の席に座り、コンチネンタル・ラガーのジョッキを注文した。活気のある住宅街の一角にあるこのパブは、3人の行きつけの店だという(彼らは皆このエリア周辺に住んでおり、アンガー・ハミルトンとグリーンはダルストン、ニューマンはスタンフォードヒルに居を構えている)。取材は日中に行われ、立派な口髭を蓄えた気さくなフロントマンは終始穏やかな口調で話しつつ、時折気さくな笑い声をあげる。彼の暗号のような歌詞は不穏さを漂わせるが、半年前に第一子に恵まれた目の前の男性は上機嫌でビールを飲んでいる。


Photo by Rose Matheson for Rolling Stone UK

「想像力が豊かなのか、いろんな考えが次から次へと浮かぶんだよ」。彼はそう話す。「僕は昔から夢想家タイプで、頭の中がとりとめのないアイデアで常に満たされているんだ」。そういった傾向は、自宅でパートナーと過ごしている時に表れることもある。彼女が話しかけている最中に、突然他のことが頭に浮かんでしまい、何も耳に入ってこなくなってしまう。クリエイティブなモードへの切り替えに悪戦苦闘するアーティストの対極にあるような彼は、曲を書いている時が一番落ち着くのだという。

『The Dream』のハイライトである「Philadelphia」(『In Rainbows』期のレディオヘッドを彷彿とさせ、「気が向いたから」という理由でオペラのシンガーを起用している)の制作過程もスムーズそのものであり、必要なあらゆる努力は努力と認識されることさえなかった。「適当にギターを弾いてた時に浮かんだコーラスを、しばらく寝かせておいた。そうすればそれが独自の命を宿して、あるべき姿へと変化していくんだ。1カ月後に改めて聴き返した時には、もう曲の全体像が見えてた。無意識のうちに曲を書き上げた、そんな感じだね」

バンドの出会い、特別なケミストリー

ニューマンにとってはメンバーたちとの出会いこそが、アルト・ジェイが経験した最大の幸運だという。一人で書き上げた曲をより良いものにしてくれる誰かと出会い、そのケミストリーによって素晴らしい何かを生み出すという確率がゼロに等しいということを、彼は理解している。ニューマン、アンガー・ハミルトン、グリーン、そしてデビューアルバムのリリース後にバンドを脱退したギタリストのギル・セインズベリーの4人がその奇跡を経験したことを、彼は今も信じられないくらいだという。「大学でメンバーと知り合ってから、それが人生を賭けて追求するだけの価値があるものだと感じられるようになるまで、僕らは長い時間を曲作りに費やした。それが僕らのキャリアの始まりだった」

ファインアートを学んでいたニューマンは、活気に満ちた都市の中心部にあるリーズ大学のキャンパスでグリーンと初めて会った時、彼に大いに興味を持った。ドラマーである彼はアルポート症候群という珍しい遺伝性疾患を患っており、当時は肝臓の移植手術待ちのリストに名を連ねていた。「1日おきに腎臓透析を受けていた彼は、亡霊かと思うくらい色白で病弱そうなんだけど、まるでランバージャックみたいな格好をしていてすごくクールだった。それでいて親切で、すごく穏やかな人柄だった」


アルト・ジェイのジョー・ニューマン(Photo by Rose Matheson for Rolling Stone UK)

ほどなくして、ニューマンはあるパーティの場でアンガー・ハミルトンと知り合う。「当時おでこに大きなニキビができてたんだけど、僕はそれを完全に放置してた」と彼は話す。「キッチンで対面した時、彼は僕のニキビをじっと見てた。知らない街で大学生活を始めたばかりで、僕も彼もまだ少し緊張していたんだ」

各々のベッドルームや学生寮のホールで共に過ごした時間が、バンドの基盤の形成に大きく影響したと彼は話す。曲作りについて何ひとつ知らなかった彼らは、自分たちのことを「カウボーイ・ソングライター」と呼んでいた。ピアニストとしての素養を持つアンガー・ハミルトンと、保護観察官だった父親からギターを教わっていたニューマンのバックグラウンドがまるで異なっていたためか、2人が生み出す楽曲の構成は常識から大きく外れていたが、彼らはそのユニークさに可能性を感じていた。「お互いが鳴らす音に耳を傾けて、生まれてくるケミストリーに身を委ねようとした」とニューマンは話す。「それが僕らを、他とは少し違う道へと導いていったんだ」


『An Awesome Wave』収録、「Breezeblocks」は今日までにYouTube再生回数2.3億回を突破

大学卒業後はバンド活動に専念するため、彼らはケンブリッジに一軒家を借りて共同生活を始める。ほどなくして、バンドは大きな成功を収めた。『An Awesome Wave』はマーキュリー・プライズを受賞しただけでなく、アイヴァー・ノヴェロ・アワードでも年間最優秀アルバムに選出され、合計100万枚以上を売り上げた。アルト・ジェイが誰からも愛されるバンドになったとニューマンが考えたのも無理はないが、しばらくして彼はそれが事実ではないと思い知ることになる。4枚目のアルバムをリリースする段階になると、バンドのフロントマンの多くは批判に対して免疫を持つようになるが、ニューマンはそうではない。@LADitudeFestival456 というTwitterユーザーの「新曲は前作よりもひどい」といった声を、彼は少なからず気にしている。「否定的な意見があって当然なのはわかってる」と彼は話す。「でも僕は歳をとるにつれて、そういう声により敏感になってきているんだ」

作品に対するネガティブな反応は、彼から少しずつ自信を奪っていった。「友達にそういう思いを素直に打ち明けることで、少し気が楽になったけどね」。彼はそう続ける。「曲が万人受けしていたら、それはバンドが優れていないことの証拠なんだ。誰からも愛される曲を書くようになっちゃダメなんだよ」

一方で、意外なファンの存在に驚かされることもあるという。数年前にあるコマーシャルへの楽曲提供を依頼された時がいい例だ。「2014年に、ウォーカーズのポテトチップスのCMへの楽曲提供を断った」と彼は話す。「ゲイリー・リネカーがピッチ上で新しい味のポテトチップスを食べるっていう設定のコマーシャル用に、新しく曲を書いてくれって言われたんだ。すごい額を提示されたけど、僕らは断った」。そのオファーを受けなかったことは、これまでに彼らが下した最良の決断の1つだと彼は話す。

アルト・ジェイの各メンバーは、それぞれが得意な分野でリーダーシップを発揮している。曲作りのプロセスを主導するのはニューマンだ。「ソングライティングにおいては、完全に僕が主導権を握ってる」。彼は笑顔でそう話す。「トムは一番ファンに近い目線を持っているから、監督役のような存在だ」。アンガー・ハミルトンはというと、事務的な作業を一手に引き受けているという。「パスワードなんかは全部彼が管理してくれてるよ」

ちょうどそのタイミングで、アンガー・ハミルトンがやってきて席についた。長身で肩幅が広く、眼鏡越しにはにかんだ笑顔を浮かべた彼は全身からポジティブなエネルギーを放っている。ギネスビールのジョッキを手に、彼は「乾杯! お父さんたちの休息の時間だ」と言って笑顔を浮かべる。他のメンバー2人に続き、彼は2週間前に1児の父親になったばかりだ。彼は残念そうに、トム・ソニー・グリーンが今日の取材に同席できないと明かした。少し前にCovidに感染した彼はまだ病み上がりで、体調が万全ではないという。



バンド内における自身の役割(「管理人って呼ばれることもあるよ」と彼は話す)について肯定するアンガー・ハミルトンは、グリーンがモラル面の監視という役割も担っていると話す。「彼は明確な信条を持っていて、バンドの規範に反することに対しては『ノー』とはっきり答えるんだ」。最近では、他の2人が同意したあるストリーミングプラットフォームのキャンペーンについて、彼が拒否権を発動した。「僕はその内容を大まかにしか把握してなかったんだけど、ちゃんと調べてみると、トムの言い分が正しいって分かった」とアンガー・ハミルトンは話す。

彼曰く、アルト・ジェイのメンバーはみな現実主義者であり、映画や広告での楽曲使用については積極的に許可するようにしているものの、常にイエスと答えるわけではないという。「ギルが脱退してからは、色々と話をまとめやすくなった。彼はものすごく…頑固だったから」。アンガー・ハミルトンは真剣な表情でそう話す。

「そうだな」とニューマンも同意する。「彼は社会主義者だったから」

有名セレブとの「らしからぬ」思い出

アンガー・ハミルトンは『The Dream』の制作が「素晴らしい経験だった」と話す。「果実園を歩きながら、一番熟しているものを収穫していくような感じだった。果物かごに入りきらないほど豊作だったんだ」。満足そうに話す彼は、そのメタファーの巧みさに自分でも驚いている様子だった。「最近まるでお酒を飲んでないから、つい饒舌になっちゃって。何せ父親になったばかりだからさ」

2017年作『Relaxer』に比べると、今作の制作過程ははるかに自由度が高かったという。前作のレコーディングでは、タイトな締切を常に意識しなくてはならなかった。「『Relaxer』の時はあまりに余裕がなかった」とニューマンは話す。「完成を急ぎすぎた感は否めないね」



全員がビールのおかわりを注文した後、付き合いのいいアンガー・ハミルトンはバンドのイメージに対する自身の見解について語った。「早い時間に就寝するような優等生の集まり、僕らはそんな風に誤解されてると思う。でも人目に触れないところで何をしているのかなんて、わざわざ明かす必要のないことだからさ」。彼はそう言った後で、その発言と矛盾するようなことを口にした。「昔の僕らは、よくパーティではっちゃけてたけどね」

その名前が一気に知れ渡ったデビュー直後のことを振り返り、アンガー・ハミルトンはツアーに明け暮れたことでエゴの肥大化を回避できたと話す。「あの頃ずっとロンドンにいたら、毎晩パーティに明け暮れて、すごく嫌なやつになってただろうね。でも僕らはツアーに出て、ひたすらライブをしてた。そして……」。短い沈黙を挟んで、彼はこう続けた。「酒をがぶ飲みしてた!」

ニューマンが納得した様子でこう話す。「この取材を通じて、僕らがライブ狂で大酒飲みだっていうイメージも植え付けようとしているわけだ!」

そういうことなら、とっておきのエピソードを是非聞かせてもらいたいところだ。

「1stアルバムの思い出といえば、嘘みたいな話があるよ」とアンガー・ハミルトンが話す。「ロバート・パティンソンの家に泊めてもらったんだけど、そこにラミ・マレックとエミール・ハーシュもいてさ」

「エミール・ハーシュは小人みたいだったな」とニューマン。

「不思議な気分だったよ」。アンガー・ハミルトンはそう続ける。「朝9時頃、僕が『そろそろ行かないと、今日はラジオのセッションがあるんだ』って言うと、パティンソンが『大丈夫、Uberを呼んであげるよ』って。でも僕は『何を呼ぶって?』って感じでさ。Uberって言葉を聞いたのは、それが初めてだったんだ」

バットマン役に抜擢された彼との交流から、アンガー・ハミルトンは大事なことを学んだという。『ロバート、いや、ロブ・パティンソンと番号を交換したんだ。でも、僕らがロサンゼルスに行くたびに『遊びに行くから一緒においでよ!』ってメールしても、いつも『今日は行けない』っていう素っ気ない返事で、ウザがられてるんだってようやく分かってさ。ロブ・パティンソンにメールなんかすべきじゃないんだよ。有名人だからっていう理由だけで、誰かと親しくなろうとするなんて虚しいことだって分かった。2013年の春のことだよ」

今でも彼の番号を持っている?
「うん……電話番号なんて敢えて削除したりしないでしょ?」

ニューマンは自分の考えについてこう話す。「ミュージシャンと俳優の付き合いって一般的な気がしてるけど、もしかしたらそれってGetty Imagesが植え付けた勝手なイメージなのかもね。当時は僕らも、自分が当たり前のことをしてると感じてたんだ」

「これが噂の『ハリウッドのスターがライブに来る』っていう段階か!なんて思ってた」。アンガー・ハミルトンは笑ってそう話す。


Photo by Rose Matheson for Rolling Stone UK

セレブリティといえば、ライブに何度か足を運んでくれたウディ・ハレルソンも友人だという。「僕の30歳の誕生日パーティをやることになってさ」とニューマンは話す。「アドレスを知ってたし、もしかしたらロンドンにいるかなと思ってメールしたんだ。そしたら来てくれるっていうから、彼のためにちょっとしたプレゼントも用意しておいたんだけど、結局来なかったんだよね」

「代わりに誰が来たかというと」とアンガー・ハミルトンが口を挟む。「この僕さ。めちゃくちゃ楽しかったよね」

彼らはバンドのケミストリーについて頻繁に触れていたが、事実彼らのそれは極めて洗練されている。ニューマンがクリエイティビティの原動力となり、アンガー・ハミルトンが教養に裏打ちされたアイデアで楽曲に深みをもたらし、グリーンが抑制を効かせた打楽器で全体を支える。ビールを飲み干した2人は、デビューから9年が過ぎたアルト・ジェイがもはや新人ではないという事実を強調していた。2017年に『Relaxer』が再びマーキュリー・プライズにノミネートされた時、彼らは他の候補者たちの若さを強く意識したという。最近ではファンとレーベルのスタッフたちが、『An Awesome Wave』の10周年記念ライブへの期待を口にしている。

しかし、それはアルト・ジェイが今すべきことではないのだろう。『Ther Dream』は、バンドの今現在の姿をはっきりと示した作品だからだ。「大袈裟に聞こえるかもしれないけど、『Relaxer』で何かが死に絶え、『The Dream』で何かが再生したんだ」。アンガー・ハミルトンはそう話す。「バンドが新たなライフサイクルに入ったんだよ」

ケミストリーの黄金の方程式を見出し、自分たちなりのパーティの楽しみ方を見つける。これぞ礼儀正しい優等生たちの真骨頂だ。

From Rolling Stone UK.



アルト・ジェイ
『The Dream』
発売中
視聴・購入:https://silentlink.co.jp/thedream05

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