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『ウエスト・サイド・ストーリー』時代を超越した名曲は、どのように生まれ変わった?

Rolling Stone Japan / 2022年2月17日 17時30分

(C)2022 20th Century Studios. All Rights Reserved.

スティーブン・スピルバーグ監督による『ウエスト・サイド・ストーリー』がいよいよ公開スタート。映画から21曲を収録したサウンドトラックの日本盤もリリースされた。巨匠レナード・バーンスタインが手がけたオリジナル版と同様、このリメイク版を語るうえでも音楽は避けて通れない。普遍的な魅力と新たな解釈について、荒野政寿(「クロスビート」元編集長/シンコーミュージック書籍編集部)に解説してもらった。

【動画を見る】『ウエスト・サイド・ストーリー』予告編


音楽家にも愛されたバーンスタイン楽曲

作品賞、監督賞(スティーブン・スピルバーグ)、助演女優賞(アリアナ・デボーズ)、撮影賞、美術賞、音響賞、衣装デザイン賞と、アカデミー賞で計7部門にノミネートされたタイミングで、いよいよ日本でも封切られた『ウエスト・サイド・ストーリー』。ミュージカル/ミュージカル映画の古典である本作をスピルバーグがリメイクするというニュースには驚かされたが、蓋を開けてみると海外メディアでもおおむね好評で、オスカー像をいくつ獲得できるか注目が集まっている。

『ウエスト・サイド・ストーリー』の舞台版初演は1957年だが、カルチャーに及ぼした影響の規模で言うと、1961年に公開された映画版(邦題は『ウエスト・サイド物語』:ロバート・ワイズ、ジェローム・ロビンス監督)の存在があまりにも大きい。躍動感溢れるダンスシーンと共に登場人物のヘアスタイルやファッションも反響を呼び、たちまち社会現象を巻き起こした。

影響力の大きさは音楽も同様。作曲レナード・バーンスタイン、作詞スティーブン・ソンドハイム(昨年91歳で死去)のコンビによって生み出された楽曲は、オリジナル・ブロードウェイ・キャストによるLPが全米5位まで上昇、映画のサウンドトラック盤も54週にわたって全米1位に君臨するベストセラーとなった。

カバーの多さも本作の影響力を物語る。「トゥナイト」はシャーリー・バッシーのヴァージョンが1962年にイギリスで21位まで上昇。それと並ぶ人気曲の「マリア」も、ジョニー・マティスからサラ・ヴォーンまで幅広いジャンルのシンガーが吹き込んだ。同じくスタンダード化した「サムウェア」はトム・ウェイツによる強烈なカバーがよく知られているし、「ワン・ハンド、ワン・ハート」はリッキー・リー・ジョーンズ&ジョー・ジャクソンのデュエットが忘れ難い。





本作の曲はプログレッシヴ・ロック勢にも人気があり、イエスは「サムシングズ・カミング」、キース・エマーソンが在籍したナイスは「アメリカ」に独自の解釈で臨んだ。「アメリカ」はバーンスタインが南米旅行中に触れたワパンゴのリズムからヒントを得て6/8拍子と3拍子を繰り返す形にした曲。そうした実験に加え、ジャズやリズム&ブルースの影響も顕著なバーンスタインの楽曲は、探求心旺盛な若いミュージシャンたちの創造意欲を大いに駆り立てたはずだ。




「刷新」と「維持」

1961年の映画版は熱狂的に支持されたが、根本的な問題がひとつあった。主要なプエルトリコ人キャラクターの2名を、プエルトリコ人ではなく白人の俳優が演じたのだ(ベルナルド役のジョージ・チャキリスとマリア役のナタリー・ウッド)。ソンドハイムも「人種差別がテーマと言われているが、それは物語を進める手段に過ぎない」とコメントしており、当時は今ほど人種問題が重く見られていなかったことがよくわかる。悪く言うと、ストーリーを転がすための道具として、ニューヨークにおける異人種間の衝突を利用したようなところがあるのだ。



スピルバーグ版も厳密に言うとシャークスの全員がプエルトリカンの役者というわけではないが、ラテン系の役者で統一した。シャークスがプエルトリコの国歌「ラ・ボリンケーニャ」を歌うシーンも加え、異人種間の衝突という側面をオリジナルより際立たせている。この問題こそが『ウエスト・サイド・ストーリー』を新たにリメイクさせた動機のひとつでもあり、2020年代も差別や対立が絶えない他民族国家アメリカの根深い問題を浮き彫りにしていく。

もうひとつ注目すべきは、1961年の映画でアニータ役を演じたリタ・モレノが新たにヴァレンティーナという重要な役柄を与えられて出演、本作のエグゼクティブ・プロデューサーも務めていること。彼女は1961年版のキャストでは数少ない、プエルトリコからの移民だった。


シャークスのリーダー/マリアの兄・ベルナルドを演じるデビッド・アルバレス (C)2022 20th Century Studios. All Rights Reserved.

ここがスゴイ
#ウエストサイドストーリー

『ウエスト・サイド物語』が受賞した
アカデミー賞Ⓡ部門の中で

助演女優賞に輝いたのが#リタモレノ

本作ではバレンティーナ役を演じ
製作総指揮としても参加‼ pic.twitter.com/c2QT0f9XQw — 20世紀スタジオ (@20thcenturyjp) February 8, 2022

今回、楽曲のアレンジを担当するという重責を果たしたのは、デヴィッド・ニューマン。映画音楽の巨匠、アルフレッド・ニューマンの息子で、ランディ・ニューマンの従弟である彼は、『ビルとテッドの地獄旅行』や『ナッティ・プロフェッサー』など数多くの映画にスコアを提供してきたコンポーザーだ。彼が起用された背景には、スピルバーグ作品の常連で、今回サウンドトラック盤のブックレットにコメントを寄せたジョン・ウィリアムズの存在があったという。ニューマンは broadwayworld.com の取材に応じて、こう答えている。「ジョンが私をスピルバーグに推薦してくれた。私はこのような仕事はしたことがないし、おそらく今後もすることはないだろう。私は、他の人のためにオーケストレーションや編曲をする人間ではないんだ。でも、『ウエスト・サイド・ストーリー』には何かがあったし、大好きな作品だから手伝いたかった」。

着手後、アレンジの方向性について悩んだ結果、オリジナルのバーンスタインの持ち味を尊重することにしたという。「音楽をオリジナルからあまり変えないというこだわりは、何度も試行錯誤を繰り返した末に生まれた。最初はいろいろと変えてみたりしたが、どうもしっくりこなかった」。classical-music.com のインタビューでも、同様に「基本的に私の仕事は、レナード・バーンスタインのヴィジョンを維持することだった。現代風にしたり、アレンジを大きく変えたりすることは避けたかったんだ。もちろん、そのようなことも必要だったが、派手なことは一切したくなかった」と説明している。〈時代を超越した音楽である〉という前提で、余計な装飾は加えることなく、1曲ずつ丹念に磨きをかけていく作業になったようだ。が、中にも例外はあって、今回リタ・モレノが歌うことになった「サムウェア」がどういう形に着地したのかは、1961年版のサウンドトラックと聴き比べて確認して欲しい。




リメイク版ならではの特色

1961年版とスピルバーグ版を見比べると、前者にファンタジックな演出がいくつもあったのに対し、後者はそのような表現から距離を置いているように見えた。色彩ひとつとっても、カラー映画であることを意識してポップな配色を強調したと思われる1961年版に対し、スピルバーグ版はもっと写実的に都市の〈色〉を見せようとしている。

そうした印象は音楽にも共通するところがある。歌を吹き替えていた1961年版と違い、役者自身の歌唱を活かしたスピルバーグ版は、オリジナルにあった芝居がかったところが幾分丸められたようで、スムーズに耳に入ってきた。主役の2名、アンセル・エルゴートとレイチェル・ゼグラーの適度にエモーショナルでバランスの良い歌唱は、普通に会話を交わすカップルのようにごく自然だ。それはオーケストレーションにも言えることで、過度にドラマティックになり過ぎず、気持ち抑え目のトーンに調整しながら、全体の解像度を上げていく狙いがあったのかもしれない。こちらのヴァージョンでサウンドトラック盤を聴いてから1961年盤やオリジナル・ブロードウェイ・キャスト盤に戻ると、随分メリハリが効き過ぎているように感じた。




また、ヴァレンティーナという新しいキャラクターが加わったことで、マリア、アニータとプエルトリカン女性3人の存在が浮かび上がってきたことも実に新鮮。多くの観客が先に結末を知っている〈古典〉だが、こうした変更ひとつでオリジナルとはやや異なるディテールが追加され、女性たちの群像劇としても楽しめるようになった点は、リメイク版ならではの特色として挙げておきたい。


マリア役を演じるレイチェル・ゼグラー (C)2022 20th Century Studios. All Rights Reserved.


アニータ役を演じたアリアナ・デボーズ(中央) (C)2022 20th Century Studios. All Rights Reserved.

映画の公開に先駆けて、カリ・ウチスとオズナが、本作と連動したイメージソング「Another Day In America」を発表している。これはバーンスタイン&ソンドハイムの「アメリカ」をベースに、より今日的な内容のリリックを乗せたもの。「アメリカですべてが変わった/アメリカじゃ何も変わっちゃいないことを除いてはね」と歌われるコーラスが、本作の内容と重なって強く印象に残る。カリ・ウチスの両親は90年代初頭、政情が不安定だったコロンビアからアメリカに逃れてきた移民。オズナはプエルトリコ出身の父とドミニカ出身の母の間に生まれ、一時はプエルトリコからニューヨークへ移住した時期もあったという。移民の街を舞台にした本作にそぐう人選の、決して聴き流すべきでないメッセージを含む曲だ。





『ウエスト・サイド・ストーリー(オリジナル・サウンドトラック)』
発売中
配信・購入:https://umj.lnk.to/WestSideStory_OST



『ウエスト・サイド・ストーリー』
全国公開中
© 2022 20th Century Studios. All Rights Reserved.
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
■製作:監督:スティーブン・スピルバーグ
■脚本:トニー・クシュナー
■作曲:レナード・バーンスタイン
■作詞:スティーブン・ソンドハイム
■振付:ジャスティン・ペック
■指揮:グスターボ・ドゥダメル
■出演:アンセル・エルゴート、レイチェル・ゼグラー、アリアナ・デボーズ、マイク・ファイスト、デヴィッド・アルヴァレス、リタ・モレノ

公式サイト:https://www.20thcenturystudios.jp/movies/westsidestory

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