MONSTA X密着取材 LAで語ったファンへの感謝、メンタルヘルスと人生設計
Rolling Stone Japan / 2022年2月16日 11時0分
過密スケジュール、熱狂するファンたち、インタビューの繰り返し、飲み損ねたカクテル……全曲英語詞の2ndフルアルバム『The Dreaming』(2021年リリース)の米LAプロモーション・ツアーに密着したローリングストーン誌UK版が、K-POPの巨星に求められる資質を探る。
【写真ギャラリー】MONSTA X、LAでの撮り下ろし(記事未掲載メンバー個別ショットあり)
「インタビュアーはどなたですか? おや……あなたですか。ずっと僕らと一緒にいますよね?」完璧なスタイリングに身を包んだ青年たちが、身振りを交えながら私を見やった。彼らの戸惑いには、不躾というよりも繊細で魅惑的な趣がある。アメリカ・カリフォルニア州ロサンゼルスでプレスツアーを行うMONSTA Xを追いかけ回すこと3日。その3日目も終わろうとしていた。それなのに、無邪気にも彼らは、私が何者かを知らなかった。誰かがわざわざ私のことを紹介してくれたわけではないから、無理もない。ひとつの場所から次の場所へと目まぐるしく移動するため、メンバーの周りにいられるのは、せいぜい7人が限界だ(オーバーすることも多々あった)。だから、自己紹介をしてまで軍隊並みに正確なスケジュールを乱すまいと思っていたのだ。メンバーのI.Mが思案顔で一歩前に出て、私と握手をした。「てっきり、僕らの関係者だと思っていました」と、申し訳なさそうに言う。もしかしたら、グループの所属レーベル・BMGの社員か、びっしりと埋まったスケジュールをこなせるようにと派遣されたPRアシスタントだと思われていたのかもしれない。
MONSTA Xのチームは、ヘアスタイリストやメークアップアーティストの華やかな面々、アメリカとイギリスのPR担当、BMG社員の集団、さらには写真家やコンテンツクリエイターたちで構成される。この「太陽系」の真ん中でMONSTA Xよりも強い存在感を放つ男性がいる。彼こそ、神出鬼没の風変わりなグループのマネージャー、イーシャイ・ガジット氏。いついかなるときも最低3点はラグジュアリーブランドのアイテムを身につけて登場し、「K-POP界のスクーター・ブラウン」を自称することを憚らない人物だ。そんなガジット氏でさえ、グループの発言をそう簡単に打ち明けてはくれない。というのも、メンバーの発言は徹底して考え抜かれたものでなければいけないからだ。ガジット氏は、説明のつもりで「ファンたちは」という枕詞を欠かさない。たとえK-POPに詳しくない人でも、好戦的で熱狂的、そして積極的にネットを活用するK-POPファンの典型例をご存知だろう。実際ガジット氏は、新作ドキュメンタリー『MONSTA X: THE DREAMING』の中でグループの成功と重要性について好意的かつ当たり障りのない言葉で解説している。
ロサンゼルスでのMONSTA X(Photo by Jesse DeFlorio)
『MONSTA X: THE DREAMING』で描かれていることは事実だ。メンバーは自分たちのことを親友、あるいは彼らの言葉を借りるなら「兄弟」と表現する。舞台裏では冗談を言い合い、ハグを交わし、互いの肩を抱きながら歩き、誰かが動揺すれば助け舟を出す。お馴染みのポーカーフェイスから放たれるユーモアを交えながらI.Mは、一緒にシャワーを浴びるようになった頃から兄弟愛が芽生えはじめたと明かしてくれた。「デビュー当時は、バスルームがふたつしかありませんでした。ですから、自分の番が来るまで待たなければいけません。でも、そうすると時間がかかりすぎます。時間を節約するために、シャワーブースを一緒に使いはじめたのです」。デビュー以来、彼らはずっと生活を共にしている。彼らの共同生活は、グループ解散まで続くだろう。K-POP界では決して珍しいことではない。
だが、メンバー同士の関係性はかなり特殊だ。K-POPグループの中にはメンバー同士が不仲なグループがあることも、彼らは自覚している。KIHYUNは、MONSTA X流のコミュニケーションは意見の不一致——場合によっては変動性が必要なことも——にあると言う。彼ら独自の手法だ。「全員が男兄弟しかいない家庭からきているせいかもしれません。だから、率直になれるんです」とKIHYUNは言う。「メンバー同士の仲が悪いと、ステージでのパフォーマンスに現れます」。彼らの化学反応は、振り付けのディテールからその日のランチに至るまで、ありとあらゆる判断が多数決で決められることから生まれる。
ロサンゼルスのファンイベントに臨むMONSTA X(Photo by Jesse DeFlorio)
一般リスナーは、MONSTA Xと言われてもピンとこないかもしれない。知っているのは、K-POP史上最大のボーイズグループ・BTSくらいだろう(2022年現在、BTSはビリー・アイリッシュやマイリー・サイラスと同じくらいお茶の間に浸透した)。MONSTA Xは、BTS同様に韓国が世界に放つビッグアーティストのひとつだが、彼らの作品は音的にもエッジが効いていて、一か八かのドラマを描いた歌詞が特徴的だ。90年代のボーイズバンド特有の危ないロマンスと戯れる一方、ハードなリフやラップもこなす。グループのラッパーのひとりであるJOOHONEYは、母国における2010年代中頃のアイドルラッパーを取り巻く鼻持ちならない上流崇拝の払拭に一役買った人物だ。最年長メンバーのSHOWNUが兵役に行ってしまったことを踏まえると、今回のプレスツアーのねらいは、MONSTA Xに本来備わっている6人のエネルギーが5人でも生み出せることを証明することにある。
常に全力、LAでのPR活動
プレスツアーの初日は、コンテンツを生み出すマシン内部の見学からはじまった。コンテンツづくりには、良質な照明、労働力、多彩なメディアバックグラウンドが欠かせないようだ。参加者全員が時間に神経を尖らせているというのに、インタビュー収録が予定時間を超えてしまった。これは、Twitterの音声会話サービス「Space」を使ったチャットが9分遅れることを意味する。Twitterで待ち構えているファンたちが、アメリカのPR担当の無能さをなじる。BMGのデジタルマーケティング担当を務めるミカエラさんは、ファンのツイートをものともせずにTikTokコンテンツの準備を進める。「明日か明後日にこれをやってもらおうと思っています。キュートでしょう?」と、彼女はクリップボードを手にした年配の女性に告げる。女性はミカエラさんのスクリーンを凝視し、OKと言わんばかりにうなずいた。
彼女曰く、MONSTA XのPRコンテンツはひとえにファンのために制作されている。ファンクラブの公式名称およびファンの通称は「MONBEBE」だが、これはフランス語で「私のベイビー」を意味するロマンチックな言葉に由来する。「ファンは、いつも(グループの動向に)注目しています」と彼女は言う。「ファンを喜ばせて、ワクワクさせることができると、心から誇りを感じます。ファンはいつも正直で、グループにとってベストなことを考えていますから」
万全の感染症対策のもと、ロサンゼルスで開催されたミート&グリートイベントでファンと触れ合うMONSTA X(Photo by Jesse DeFlorio)
この3日間で制作されたコンテンツがようやくリリースされると、当然ながらファンは歓喜した。MONSTA Xは笑いのタイミングも絶妙で、とりわけI.MとJOOHONEYがユーモアのセンスに長けている。いまは12月なので、彼らはサンタクロースとの夢のコラボレーションを思い描いているのだ。MVで共演したい動物は、ライオン、ゾウ、ワニ、そして「恐竜」だ(JOOHONEYは、いたずらっぽい笑みをこちらに向けて言った)。インタビュアーは、具体的な質問よりも一般的な質問をする傾向がある。イギリスの子供向けテレビ番組の中で、子供が大人の出演者にするような類の質問だ。そんなときでも、MONSTA Xは僧侶並みの忍耐力を発揮する。繰り返しのやり取りを一期一会であるかのように受け止め、陳腐なリクエストを自分たちが心から楽しめるものに変えてしまう。
「ばかばかしい質問かもしれませんが」とラジオ番組のホストが言う——「ばかばかしい質問は大歓迎です」というI.Mの励ましの言葉がほしいだけなのだが。その後、メンバーの中でもっとも流暢な英語を話す、事実上のスポークスパーソンであるI.Mは、催眠状態から目覚めたかのようにはっとする。3年前、まったく同じ質問を受けたことを思い出したのだ。「以前、同じ質問をしましたよね?」
ラジオ番組の収録には、「ライナー」があるに越したことはない。メンバーがライナー(「MONSTA Xです。お聞きの放送はラジオ……です」という決まり文句)を言うべきだと一度ガジット氏が判断を下すと、メンバーは英語が書かれた紙を持つ女性を囲んでしゃがみこんだ。こうしたライナーは、コンテンツを最大限に活かすだけでなく、MONSTA Xのリリース、多種多様な番組、祝日などにオンエアされる。メンバーは、立ったまま同じような紹介文を30分間マイクに吹き込む。最初から最後のテイクまで、熱意の度合いは少しも変えずに。
特に情熱的なロサンゼルスのMONSTA Xファンたち(Photo by Jesse DeFlorio)
米小売大手・ターゲットのロサンゼルスの店舗を訪れるMONSTA X(Photo by Jesse DeFlorio)
別の日には、有名人がチャーターするようなスモークガラスのワゴン車の中から、4人の美女たちとともにメンバーが登場した。ガジット氏も加わり、女性たちが後ろに下がると、氏はメンバーと一緒にショッピングセンターに向かって颯爽と歩き出した。ここでは典型的なプロモーション活動が行われる。メンバーは、アメリカのショップ(米小売大手・ターゲット)に入店し、自分たちのCDを購入する。ファンはこうした俗っぽい瞬間をカメラに収める、というものだ。どういうわけか、ガジット氏が中心になってメンバーをCD売り場へと誘う。その間、メンバーはアデルのニューアルバム『30』を指差してコメントしたり、近くにあったダンベルを手に取って筋トレをしたり、着せ替え人形のようにベビーウェアを互いの胸の高さまで持ち上げたりする。ものの10分で彼らは買い物を済ませ、店を後にする。謎の集団を目の当たりにして、通りがかりの買い物客は困惑顔だ。
店の外に出ると、中年の女性が彼らに「みんな、バイバイ! メリークリスマス!」と声をかけた。グループの半数がエスカレーターの頂上で振り返り、彼女に応じた。だが残念なことに、女性はスマホの赤い録画ボタンを押したと勘違いしていたようだ。気づいたときはもう遅く、メンバーは姿を消し、15メートル下でワゴン車に向かって歩いていた。「なんてこと!」と彼女は叫び声をあげ、振り返って私を見やった。その目には涙があふれていた。
メンタルヘルス問題、苦しかった練習生時代
アルバム『The Dreaming』のリリースを祝うパーティーの夜のことだ。I.MとJOOHONEYがバーカウンターからそれぞれカクテルを手にするや否や、賑やかな屋内からロサンゼルスの温かい風が吹く屋外へと連れ去られてしまった。JOOHONEYがドアから出ようとする直前に何とか彼の気を引くことができた私は、どこに行くのかと訊ねた。彼は肩をすくめて、わからないと答えた。
翌日のインタビューでJOOHONEYが詳細を教えてくれた。「本当はもっといたかったのですが、長い1日を控えていたので、早めに切り上げることにしました。プロフェッショナルらしくありたいと思ったのです」。5人は、所属レーベルの快適な一室に押し込まれたソファに座っていた。「もし、僕らに判断が委ねられていたら、酔っ払って人生最高の時間を過ごしたのですが」と、JOOHONEYは満面の笑みで部屋の反対側を指差した。「あそこで寝ました」
I.Mが「もし僕らが飲みはじめたら、とても手に負えませんよ!」と言い添えると、全員が声を出して笑った。K-POPアーティストは、パーティーでは飲まないと言われている。コンサートでパフォーマンスを披露し、ファンと交流しながら楽しいひとときを過ごす——これが彼ら流のパーティーなのだ。
待望のミート&グリートイベントに備えて、アルバムにサインをするMONSTA X(Photo by Jesse DeFlorio)
MONSTA Xのキャリアは容易に摩耗したり、ぐらついたりするようなものではない。彼らの両親は、グループの活動を誇りに思う一方、心配もしているとメンバーは語った。「どの親も、子供のことが心配だと思います。その子のことを心から愛しているのであれば。でも僕らは、両親とともに世間の目にさらされています」とI.Mは言う。「有名人全員がこうなのかはわかりませんが、僕らのスケジュールは文字通りノンストップです。本当ですよ。だから、僕らの健康や精神力のことを心配しているかもしれません」
KIHYUNは、次のように言い添えた。「K-POPアイドルにとっても、メンタルヘルスは極めて重要な課題です。ですから、親たちはこの点についても心配しているんです」
MINHYUKは、昨今のK-POP練習生のトレーニングの実態はわからないものの、彼らにとっては過酷な経験だったと語る。「僕らが練習生だった頃のシステムは、いまとはかなり違っていました。(しっかりとした)枠組みがなかったので、素晴らしい環境と言えるものではありませんでした」と彼は言う。「それ以来、飛躍的な改善がなされました。芸能事務所が正式なシステムを取り入れ、メンタルヘルスをはじめとするさまざまな課題に取り組むようになったのです」。K-POP練習生の平均年齢は若く、中学生が理想的と言われている。MONSTA Xが練習生だった頃、メンバーは昼休み、あるいは1日の授業の終わりに学校を出て芸能事務所の練習室まで移動し、夜の10〜11時まで練習に励んだ。最終バスで帰宅し、5時間ほど寝てから学校に行き、このプロセスを繰り返すのだ。「残って練習したければ、いくらでも残ることができました」とJOOHONEYは言う。「徹夜で練習して、学校に直行する人もいました」
I.Mは、苦しい練習生時代を過ごした。「練習生だった頃は、終わりのない暗いトンネルを歩いているような気分でした」と彼は言う。「どうしたらデビューできるかもわからないし、どうしたらステージに立てるかもわかりません。事務所が僕を残してくれるかどうかもわからないんです。だから、すごく不安になりますし、プレッシャーも相当あります。ですから、デビュー後の生活のほうが好きです」。デビューしてから積極的に活動するK-POPグループの一員になれたおかげで、全体的に物事を見られるようになったのだ。MONSTA X曰く、グループのメンバーになることは最高のパフォーマーになるために個人で努力することではない。仲間と協力しながら、チーム全体で成功を勝ち取ることなのだ。
もうひとつの重要な要素がルックスだ。K-POPでは、清潔で透明感のある、純粋でボーイッシュな魅力という美意識が欠かせない。これらは、アイドルグループに求められるタイトなダンスのルーティンや、完璧なボーカルパフォーマンスを反映しているのだ。MONSTA Xにとって重要なのは、外見的なかっこよさよりも、自分自身を労わること。早熟な老化は、K-POPスターの生活につきものの仕事、ストレス、移動のボリュームからくる一種の職業病なのだから。
I.Mは、自分がモノとして見られることに慣れるのに当初は苦労したと明かす。「デビューした頃は、自分の写真を見ることに戸惑いました。たくさんインタビューを受けて写真を撮られ、記事がネットにアップされていましたから。とても不思議な気分でした。自分の顔が好きではありませんでした」と彼は振り返る。「でも、あの頃の経験のおかげで『OK、これも僕だ。これも僕の一部なんだ』と思えるようになったんです。徐々に自分を受け入れられるようになりました。いまはすっかり慣れました。数年間、自分を見てきましたからね」。I.Mを助けてくれたのは、ファンの反応だった。「時々、自分のかっこ悪い写真を見て悲しくなったり『最悪!』と思ったりもしますが、ファンのみんなが見てくれるので気にしません。ファンのみんなは、僕らの変な顔も喜んでくれます。だから、気にしていません」
その言葉が示すように、すべてはファンのためにある。『MONSTA X: THE DREAMING』の中で、MINHYUKはファンを母親にたとえている。「母親」という言葉の選択は意外かもしれない。アーティストが頻繁に使う言葉といえば「友人」や「家族」だ。彼はなぜ、母親という言葉を選んだのだろう? MINHYUKは、答える前に少し考え込んだ。「ファンは、いつも惜しみなく与えてくれます。そこで、惜しみなく与え、支えてくれる人は誰だろう?と探しはじめました。愛を表現する方法はさまざまですが、もっとも多様で包容力があるのは母の愛です。考えてみると、ファンとの交流の中核は金銭的なやり取りです——ファンは僕らの音楽を購入し消費していますから。でも、それだけではありません。単なる双方向の交流よりも、もっとたくさんのことを与えてくれるんです」。ならばミート&グリートのようなファンイベントは、親子の再会の場と言えるかもしれない。
MONSTA Xの「夢」、兵役と人生設計
メンバーは、アメリカの女性ファンの熱狂的な歓声に包まれて到着した。大好きなK-POPグループと直接触れ合えるチャンスを手に入れたのは、たった100人のMONBEBEだけだ。それでも、彼らを一目見ようと数百人が通りに列をなしている。
ファンに手を振り終わるとメンバーは一列になって建物の中に入り、忙しそうにアクリル板を設置しているスタッフの後ろに立った。メンバーは体を動かしたり、喧嘩するふりをしたりしてふざけ合っている。ただひとり、I.Mだけがアクリル板を前にし、物憂げな囚人のようにコツコツと叩いた。設置が完了すると、ファンを迎え入れる準備が整った。普段通りのMONSTA Xのハイタッチイベントでは——お気に入りのアーティストとハイタッチできることから、このように呼ばれている——ファンはメンバーと直接触れ合うことができる。だがコロナ禍ということもあり、今はアクリル板越しの交流しか許されていない。
ロサンゼルスでプロモーション活動中のMONSTA X(Photo by Jesse DeFlorio)
奇跡的にも、こうした措置に対してファンから失望の声は出なかった。10人ずつのグループに分けられた女性たちがドアの向こうから順番に入ってくる。飛び跳ねる者もいれば叫び声を上げる者もいる。なかには、恥ずかしそうにダンスのようなステップを踏んで喜びを表現する者もいる。ファンがひとりずつアクリル板に手を伸ばすと、メンバーも同じように手を伸ばした。プレゼントや写真撮影は禁止されているため、ほんの一瞬の出来事である。それでも、大好きなアーティストと数年ぶりに直接触れ合えるイベントということもあり、ファンはこのチャンスを大いに喜んだ。「コロナがなければ、いつまでも彼らの手を握っていたいんですが」と、カリフォルニア州在住のキャロライナさん(30歳)はイベント終了後に言った。「時間制限のせいで写真は撮れませんでしたが、心に記憶したから大丈夫です。アルツハイマーにならないといいんですけど」。多くのファンにとって、メンバーと直接目を合わせることは人生最大のビッグイベントであるに違いない。「彼らの瞳の中に、私たちへの愛情があらわれていました。MONBEBEに会えるのをずっと楽しみにしていたと思いますから、私たちだけでなく、彼らにとってもかけがえのない経験になったと思います」と、カリフォルニア州オレンジ・カウンティ在住のリビーさん(29歳)は言った。
こうしたファンたちにとって『The Dreaming』のリリースは、重要なイベントだ。ファンはあらゆる言語で歌われるMONSTA Xの楽曲をどれも愛しているものの、『The Dreaming』は英語圏のファンを新たに獲得するポテンシャルを秘めているからだ。それに、彼らが英語で歌うことには、ある種のワクワク感もある。カリフォルニア州在住のプリシラさん(37歳)は、ファンダムをまとめ上げた次のミームを例に挙げた。MONSTA Xの日本語のアルバムでは『君ってかわいいね』という歌詞があるのに対し、韓国語のアルバムでは『君とデートしたい』となっている。それに対し、英語のアルバムでは『キスしたい』となっているのだ。「英語のアルバムが好きです」とプリシラさんは断言した。「一般的なK-POPアーティストのように遠回しな表現ではなく、大人の男性として歌っている姿を目の当たりにするほうがファンとしては楽しいですね」
MONSTA Xの「夢」は何か? 私たちは、3日間のプレスツアー中に何度もこの質問を耳にした。彼らは、夢見てきたファンとの再会という意味合いを含んでいると嬉しそうに解説した。その一方、「あなたのゴールは何ですか?」という質問は好まない。国内外を問わず、この質問は頻繁にK-POPアーティストに向けられる。だがこの質問は、MONSTA Xが自分たちに問いかけることで初めて意味を持つ。彼らは、兵役で不在のメンバーSHOWNUが出発した日のほろ苦い思い出を語ってくれた。MINHYUKがSHOWNUの頭を丸刈りにすると、SHOWNUは家を出て通りの反対側から彼らに向かって最後の敬礼をしたのだ。「韓国では、男性であることは一種の義務です」とI.Mが言うと、ほかのメンバーもうなずいた。入隊年齢(訳注:韓国では、兵役法によって19〜30歳までが兵役につくことが義務づけられている)が近づくにつれて、兵役は決して人ごとではないのだ。「人生はなかなか厳しいです。特に男性は2年間兵役につくことが義務づけられていますから、人生設計が必要です。『兵役前にするべきことは何か? 何を成し遂げるべきか?』など、兵役前に何をしておくべきか、考えなければいけません」
インタビューが終わって音声レコーダーのスイッチが切られると、メンバーは散り散りにアイスコーヒーを飲みに行き、短い写真撮影の準備に取り掛かる。いつも思慮深くてシリアスなI.Mが初めて質問をしてきた。「あなたの仕事は、とても面白いと思います。あなたは、僕らのことを2、3日追いかけ続けてきました」と、ためらいがちに言う。「知らない人の未知の世界を探検する——それがあなたの仕事です。私たちのこと、私たちのやり方をすべて知っていくわけですよね。それってどんな感じですか?」。さまざまな視点から語られるストーリーを超えて、個人ないしグループの中で何が起きているかを観察するのはとても興味深いことだ、と私は答える。彼らのエネルギーと今この瞬間に彼らが生きている世界を感じ、それが何であるかを知ることができるから。ほかのメンバーは、写真撮影のために壁を背にして並ぶ。
「あなたの人生と、これについてあなたが感じていることにとても興味があります」とI.Mは言う。答えを思いつく時間はない。「I.Mの番だよ」とJOOHONEYが言う。フォトグラファーが次のメンバーの撮影準備をしている。「悲しい顔と笑顔、どっちがいいですか?」とI.Mは訊ねる。おそらくフォトグラファーに質問しているだが、その問いは混雑した室内にいるすべての人に向けられているのだろう。
From Rolling Stone UK.
MONSTA X
『The Dreaming』
発売中
視聴・購入:https://silentlink.co.jp/thedreaming09
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