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メキシコからの移民女性、性的人身売買の実態を証言「逃げ出さないと死んでしまう」

Rolling Stone Japan / 2022年2月19日 6時45分

Photo by Kena Betancourt/AFP/Getty Images

メキシコ移民のデリアさんは2020年3月、国際売春組織の裁判でファーストネームしか明かさないという条件で証言。そして2022年、現地時間10日に米ブルックリンの裁判所で行われた量刑裁判で被害者陳述を行った。14歳の時、メキシコを離れて米国にやって来たデリアさんにニューヨークで売春するよう強要した男の量刑裁判だ。

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2年前に証言したときは、スペイン語通訳の同席のもとで質問に答えていた。10日の陳述ではたった1人で、それも英語で(彼女にとっては生まれ育ったマヤの方言とスペイン語に続く3つ目の言語)人身売買業者に向かって堂々と語りかけた。「フランシスコ、あなたは私に地獄を味わわせた。だからあなたも地獄に行けばいい」と彼女は言った。「決めるのは神様の思し召しではありますが、フランシスコ・メレンデス-ペレスが私や他の被害者にした罰として、裁判所には考えうるもっとも厳しい刑を与えていただくようお願いします」

メレンデス-ペレス被告は家族経営の売春組織の一員として、他の4人の被告とともに2020年に有罪判決を受けた。政府の主張によれば、この組織は2006年から2017年にかけてメキシコから少女や若い女性をアメリカに密入国させ、ニューヨークやロングアイランド、ニュージャージー、コネチカット、デラウェアで売春をさせていた。男たちは愛情や結婚、金銭面での安定を餌に女性や少女たちを騙した後、暴力や恐喝で売春から逃られないようにしていた。

人身売買の被害者は、1日に数十人の男たちと性行為するよう強要された。加害者たちはコンドームを配布し、1日の終わりに未使用コンドームの数を数えることで客数を記録していた。デリアさんは被告らから売春を強要されたと証言した6人の被害者のうちの1人で、この他にも2件の量刑判決で陳述を行った。「加害者と対峙したいと思ったんです」とデリアさんはローリングストーン誌に語った。「それに、他の被害者にも正義を果たしてあげたいと思いました。彼女たちにも、私と同じように警察当局と話せるようになってほしいですし、(警察の方にも)私の事件の担当官のように被害者の声に耳を傾けてほしい」


約束された「素晴らしい未来」とは地獄だった

被告らは性的人身売買、性的人身売買共謀、未成年の性的人身売買、州をまたいだ売春、密入国あっせん、資金洗浄共謀と言った罪で極刑の終身刑を求刑された。パンデミックによる長い遅延の末、アリン・ロス判事はメレンデス-ペレス被告の3人の叔父――ホセ・ミゲル・メレンデス-ロハス被告、ホセ・オズワルド・メレンデス-ラホス被告、ロザリオ・メレンデス-ロハス被告――に懲役39年を言い渡した。また10日には、メレンデス-ペレスの従兄弟の子供に当たるアベル・ロメロ-メレンデスに懲役20年を言い渡した。

裁判での証言によると、デリアさんはメキシコのチアパス州にある小さな町で、学校に通いながらアイスクリームショップで働いていた。16歳のメレンデス-ペレス被告と出会ったとき、彼女は13歳だった。「ハンサムで優しい人だと思ったので、彼から付き合いたいと言われたときはすごく嬉しかったです」。彼女は法廷の演台からこう述べた。フューシャのブラウスに千鳥格子のジャケットを身にまとい、短く切った髪に前髪をサイドに流していた。「新鮮ですね――今までやったことなかったので」と、髪型について彼女はこう言った。「人身売買業者からは着るものや食べるもの、髪型まで指図されていました。だから今日は、もう私は指図されないんだってことを見せてやりたかったんです」。黒の厚底ブーツを履いていても、彼女の身長は5フィートにも届かない。彼女がフランシスコと呼ぶメレンデス-ペレス被告からは、飢えている状況に付け込まれたという――被告の家族と同居していた時は、食料を提供してもらっていた。ちなみに被告の家があったテナンシゴは売春と愛の街として有名だ。「彼は素晴らしい未来を約束してくれました。でも全部ウソだったんです」

デリアさんによれば、メレンデス-ペレス被告は彼女にこう言った。アメリカに渡り、数年間は働いて金をためなくちゃいけない、その後メキシコに戻って家族を作ろう。だがいざクイーンズに到着すると、彼女はメレンデス-ペレス被告と叔父たちから売春を強要された。

1日に30~50人もの男を相手にしたことなど、デリアさんは恐ろしいほど詳細に、耐え忍んだ暴力と恐喝の日々を振り返った。デリアさんに支払われるべき賠償額を判断するにあたり、ロス判事は売春1件あたり35ドルとしてデリアさんの3年半の稼ぎを算出した。その額およそ120万ドル(そのうち半分は、客のところまで送り迎えした運転手に払われた。判事は人身売買業者の取り分およそ58万8250ドルの他、医療費として5万3000ドルもデリアさんに支払われるべきだと述べた)。「フランシスコは、私に売春させるためならどんなことでもやりました」とデリアさん。「私が性病になるかもしれないと怯えても、関係ありませんでした。客から殺されると私がパニックを起こしても、私がひもじい思いをしてヘトヘトに疲れていても、関係ありませんでした。彼はただ私に稼がせることしか頭にありませんでした」

【写真】デリアさんは自力で逃げ出したことを忘れないよう、手描きの絵を額縁に入れて枕元に置いている。その絵には英語とスペイン語で「あなたは逃げ出した。もう大丈夫」と書かれている。(Courtesy of Delia)



「彼は私のあごを折ったんです」

デリアさんが妊娠したと思われる場合には、メレンデス-ペレス被告は彼女の両脚を掴んでベッドから床に引き倒し、無理やり流産させたという。ある時はひどく殴られて、何度もあごの再生手術を受けなくてはならなかった。メレンデス-ペレス被告は、外に出たら警察に逮捕されて強制送還されるぞ、と彼女を脅し、もし逃げようとしたら12歳の妹をアメリカに呼び寄せて同じ目に会わせてやる、と警告したそうだ。

2014年、17歳だったデリアさんは客の男からナイフを突きつけられ、殺してやると脅された。「逃げなくちゃ、でないと売春で死んでしまう、と思いました」 逮捕されるかもしれないと怯えつつ、彼女は警察へ行った。「その夜は私の人生で大きな転機になりました」と彼女は言う。「話を聞いてもらえたこと、信じてもらえたことは私にとってすごく大きかったです」

デリアさんは判事に、考えうる限りの極刑を言い渡すよう懇願した。「フランシスコは私を愛していると言いました。なのに3年半も拷問したんです」。検察は懲役35年を求刑した。

茶色の囚人服を着たメレンデス-ペレス被告は通訳を介してスペイン語で証言し、自分が住んでいた世界では少女や女性の性的人身売買が当たり前だったので、それが悪いことだと理解するのに長い時間がかかった、と主張した。「自分の自由や青春が指の間からすり抜けていくのを見るのはとてもつらいです。それもすべて、自分の周りで起きていることが悪いことだと気づかなかったせいです」と言い、デリアさんの人身売買を始めた時はまだ16歳で、自分の行動の重大さを理解していなかった、と付け加えた。「人はみな間違いを犯します。でも、やり直すチャンスも与えられます」

ロス判事はメレンデス-ペレス被告の行動が残虐で冷血だったこと、嘘や計略や洗脳でデリアさんに売春を強要していたこと、デリアさんが若く世間知らずで自分に頼りきりなのをいいことに、身体的・精神的苦痛を負わせたことについて触れた。「重い刑罰を科す必要があります」とロス判事。だが犯行当時の年齢と、叔父たちから「指導をうけていた」事実を考慮すると、叔父たちよりも刑期は短くなるだろうと付け加えた。

ロス判事が懲役25年を言い渡すと、デリアさんは傍聴席の最前列でかぶりを振り、さめざめと涙を流した。「あの男はもっと長く刑務所に入れるべきだと思います」と彼女は言う。「彼は私のあごを折ったんです。すごく悔しい」 それと同時に、被告や叔父たちが檻の中で数十年過ごすことになったことには満足しているという。「彼らが他の女の子を傷つけるのができないと思うと、少し安心します」


被告の弁護士は上訴する意向

メレンデス-ペレス被告の弁護士は上訴する構えだ。デリアさんの弁護を務めるロリ・コーエン氏はメキシコの法律事務所と手を組んで、デリアさんにしかるべき賠償金が支払われるようにするつもりだ。「メキシコでは汚職がはびこっていますから、裁判でこのような判決を得るのはもちろん厳しいでしょう。ですが我々は長期戦で臨みます」とコーエン氏は言った。

一方デリアさんはこの先の未来に目を向けている。彼女は現在アメリカ在住――コーエン氏いわく、具体的にどの州に住んでいるかは明かせないものの、身の安全を考慮して、メキシコに戻ることはないだろう。彼女は現在カスタマー電話センターで働いている。「怒った人たちを相手にしています」と言うが、その声は朗らかだ。「この仕事が大好きです。みな敬意を払ってくれますし、皆さんとてもやさしくしてくれます」。まもなく高校課程を終えるところで、今後も英語は勉強し続けるつもりだ。元気になりたい時はメキシコの音楽を聴く。「ロマンティックなことを書いてみようかな、という気分になります」と言って、また笑った。彼女は趣味も見つけた。日記をつけること、写真を撮ること、裁縫、そしてチョコレートを食べること。

デリアさんの将来の夢は、人身売買の被害者のために戦う活動家になって、売春から逃げ出して警察に駆け込んだかつての自分のように、助けを求める他の被害者の力になることだ。「助けに来てくれる人は誰もいなかった。私は自力で逃げ出したんです」。だが当面は、この物語に区切りを付けることができて満足している。「もう安心して眠れる、もう裁判のことを心配しなくていいと思うとうれしいですね」と彼女は言う。「ずっと肩にのしかかっていた重荷が取り除かれました。今は絵の勉強を頑張っています……これからたくさんのチャンスが待っているかと思うとワクワクします」

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