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中野雅之・小林祐介が語る、THE SPELLBOUNDのロックが内包する「一点突破」と「自己受容」

Rolling Stone Japan / 2022年2月23日 19時0分

THE SPELLBOUND:左から小林祐介、中野雅之(Photo by Masanori Naruse)

THE SPELLBOUNDによる1stアルバム『THE SPELLBOUND』がついに完成した。まさに「ついに」である。BOOM BOOM SATELLITESの中野雅之によるヴォーカリスト募集に、THE NOVEMBERSの小林祐介が手を挙げたのが2019年春。そこから約3年もの時間を費やして、1stアルバムに辿り着いた。中野がバンドとしてオリジナルアルバムを完成させるのは、BOOM BOOM SATELLITESのラストEP『LAY YOUR HANDS ON ME』から数えても、実に6年ぶりである。

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BOOM BOOM SATELLITESの頃から中野はよく「バンドというものはひとつの生き物として人格や哲学を持つようになる」といったことを語るが、アルバムを聴くと、THE SPELLBOUNDにはBOOM BOOM SATELLITESともTHE NOVEMBERSとも異なる人格が宿り始めていることがわかる。

その1音を鳴らすことで、聴いた人にどんな映像を思い起こさせるのか。どういう心情にさせるのか。どんな世界へと連れていくことができるのか――そんな思考を巡りながら、1音1音をひたすら追究し重ねていく。そうした過程を経てできあがったTHE SPELLBOUNDの音楽は、アルゴリズムで解析できるものでもなければマニュアルに落とし込めるようなロジカルなものでもなく、ただただ「芸術」としか言いようがない。

小林祐介がTHE SPELLBOUNDを通して自分を解放することを知り、一人の人間としても音楽家としても大きく変化・進化を遂げていること。中野雅之が再びバンドに無我夢中になり、新たな深い音楽体験を生み出していること。そんな二人から成るTHE SPELLBOUNDという生き物の生き様とそこから発される音楽から、私たちは「人生の解放」「自分自身の解放」の希望を見出すことができる。THE SPELLBOUNDの究極的に誠実な音楽の描き方と、その音楽から放たれる「人生の肯定」について、とことん話を聞いた。

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―1stアルバムが完成したことに対して、今はどういった喜びや手応えが大きいですか?

小林(Vo, Gt):バンドを結成してしばらくは手探りな自分たちがいたことを思い起こすと、すごく遠くまで来られた実感があるんですよね。ここに辿り着くことをイメージして一歩一歩近づいてきたというよりかは、僕と中野さんが巡り合うことでどんなものが生まれるのかに対してまっすぐ向き合っていった結果、曲がどんどん足跡みたいに残っていったというか。時間を過ごしてきた中でのいろんなやりとりとか苦労、喜びが、1曲1曲のいろんな瞬間に込められているので、僕としては「デビューアルバムが完成した」「1枚のアルバムを作りました」ということを遥かに超えるスケールの大きな物語があるような感覚があります。それは多分、聴いた人にも伝わるんじゃないかなと思うので、音楽自体にどっぷり浸かって楽しんでもらうと同時に、その奥にあるいろんな見えないものとかまで伝わるといいなと思ってます。

―中野さんはよく「バンドはひとつの生き物になっていって、人格や哲学を持つようになる」といったことをおっしゃいますけど、今小林さんが話してくださった物語が背景に広がっている楽曲がアルバムとして揃うことで、BOOM BOOM SATELLITESともTHE NOVEMBERSとも違う、THE SPELLBOUNDとしての「人格」が確かに見え始めているように感じました。中野さんも、BOOM BOOM SATELLITESとはまた違った音楽の魅力や凄みに到達できているという手応えがあるのでは?

中野(Programming, Ba):そうですね、でも無我夢中だったので。最初は何ができるのかわからないし、「何か生まれるかどうかを見てみよう、生まれなかったら諦めよう」という約束で小林くんとお試しでやってみようと。そこから本当に牛歩で、駄目なことが起きても「こういう理由で駄目なのではないか」と、ちょっと苦痛も伴いながら少しずつ前に進めていって、ようやく「こういうものを僕らが鳴らしたらいい音楽になるんじゃないか」というものが手に入ったのが1年後ぐらい。そこからまた1曲作り溜めていくごとに課題が出てくるんだけど、一つひとつ問題を解決していって、「また諦めないでやったらこれもいい曲になった」と少しずつ曲が集まってきて。耐えないことには手に入らないものがあるから、つらいこともあったけど諦めないで最後までやりきってよかったなと思います。耐える時間は、小林くんがすごく大変そうだったりすると、ちょっとした罪悪感も生まれるんですよ。でも乗り越えたときに「そのためにあった試練だったんだな」というのがわかると、また音楽に対しての愛情が高まって……ということを繰り返していく中で、人格を持つとか哲学が生まれるとかまでいったかはわからないけど、こうあるべきなんじゃないか、こういうことを提案したいのではないか、という共通認識みたいなものは生まれてきたんじゃないかな。そこに辿り着くまでの過程が全部アルバムの収録曲に入っているので、「産声を上げるところまでのプロセス」みたいな記録がこのアルバムにはあるかなと思います。


「肯定」を大事にしたい背景とは?

―まさに今話してくださったようなバンドストーリーや、小林さんがこのバンドをやる中でいろんなものを乗り越えながら自分を解放していく様、そして中野さんがBOOM BOOM SATELLITESをまっとうされた後もまたこうして音楽を探求し新しいサウンドスケープを生み出していること、それらすべてが――言葉で言うとダサくなるんですけど――「人生の解放」とも言うべきような、人生の明るい希望を見せてくれる音に昇華されていて、それがTHE SPELLBOUNDの人格や哲学の核になっているんだなと強く感じます。

中野:ロックバンドなんですけど、いろんなことに肯定的であったり、包容力があったり、たとえばネガティブな側面があったとしてもちゃんと最終的には出口があるようなものを提案していると思います。前に進んでいくというか――言葉にするとダサいんですけど(笑)――そういうフィーリングを常に残していくということは、ずっと制作のムードの中にあったかなと思います。THE NOVEMBERSというバンドは作風が広いし、小林くんもいろんなパレットの色を持っている人なんだけど、僕が抽出した部分は割と一点突破で。美しさと優しさの部分。そして美しい日本語、言葉遣いの丁寧さですね。もしかしたら小林くん自身はそこまで自覚的じゃなかったのかもしれないんだけど、そこが僕の小林くんのすごく好きだった部分で、一緒に作る音楽には絶対に合うと思ったから、そこを掘っていきました。

―THE SPELLBOUNDが「肯定」を大事にしたい背景って何なんだと思いますか。

中野:僕は、自分の人生の経験と、今の社会的な背景、その両方からですね。肯定的に生きることを許してない人が多いのかなって。抑圧みたいなプレッシャーが強い中で、そうではない提案をしたいという気持ちがあります。あとは、自分の人生の中で、たとえば最愛の友人を亡くしたことに対しても、肯定的でなければ先に進めないし、死を受け入れるということもすごくポジティブな側面があって。そこにしがみついているよりも、受け入れてその先に行こうとすることは僕にとっても重要だし、僕の作った音楽のファンの人にとっても重要なことだと思うので。だから肯定的であることが僕にとっては今とても大事なのかな。それを小林くんに求めてしまったところがあるのかなって思うんですけど(笑)。

小林:僕は、今話に出た「肯定」という言葉からはずれちゃうかもしれないんですけど、「自己受容」の感覚に近いところがあって。いろんなものを受容するような懐の広い眼差しで自分の人生や大事な人のことを見ていったときに、肯定するために何かを見るというよりかは、「あなたがあなたのまま、ネガティブもある、ポジティブもあるというような中でお互い息をして、そんな今日は天気がよかったりして」みたいな――些細なこととか、全然ドラマチックじゃないものの中に「自分たち、これでよかったよね」みたいな気持ち――そういったものが、作品のオーラみたいなものとしてあると思っていて。僕はTHE SPELLBOUNDを中野さんと一緒にやるようになって、人に対してとか、自分の身の回りや自分の人生に関して、新しい視点を持つことができたと思っているんです。何かを大事にすることとか、何かを受け止めたり背負ったりする責任や喜びみたいなものを、きちんと正面から向き合う視点を持つことができたのが一番大きいと思っていて、それはやっぱり作品にダイレクトに出たなと、完成した後に思いました。


Photo by Masanori Naruse



「自分に対してポジティブな変化を強く望むのであれば何かしら起こせるのではないか」(中野)

―ドキュメンタリー映像『THE SPELLBOUND|Tongpoo videos vol.4』(監督:岩井正人)も拝見しましたが、中野さんと小林さんが、まるで監督とオリンピック選手かのように、一緒に高みを目指しながらたったひとつの音の鳴らし方についてめちゃくちゃストイックに会話してるシーンが印象的でした。そういったコミュニケーションも通して、小林さん自身がTHE SPELLBOUNDでどう変わったと自負しているのかは今日聞きたいと思っていたことだったのですが、音楽を作って鳴らすことや歌うことに対する意識はどう変わりました?

小林:中野さんとコミュニケーションを取る中で、自分にとっての根本に質問を投げかけられる場面がずっとあったんですよね。「なんで君は歌ってるの」「ステージに立って誰に何を伝えたいんだ」「この音楽は何を伝えるためのものなんだろうね」とか。そういうものを日々意識することが多くなってきたんですけど、その中で音楽に対して自分が思うのは――野暮な言い方になっちゃうかもしれないですけど――自分の中にある愛みたいなものとか、大きなエネルギーみたいなものを、大事な人に届ける一番のやり方が僕にとっては音楽であるし歌うことであると。そういう生き方をしたいというふうに思えてきたことが、音楽に対して一番変わったことで。前の自分は、音楽が音楽の範囲を飛び越えてなかったかもしれないし、歌が歌止まりになってたのかもしれない。それは音楽や歌を卑下する言い方ではなくて、人に何かを伝えることとか、人と何かをシェアすることのすごさや尊さが、歌や音楽という芸術的なコミュニケーションになったときにものすごく美しい力を発揮するんだということを改めて感じたんですよね。僕はBOOM BOOM SATELLITESからなんとなくその感覚を知ってる、と思っていたんです。だからTHE SPELLBOUNDで曲を作ったり中野さんと話をしたりしている中で、BOOM BOOM SATELLITESの体験から感じていたものと、今の僕が「何か掴んだかもしれない」と思うものが結びついたときに、これでよかったんだって思う瞬間がありました。

―中野さんは、曲を作ってアルバムを作って、4年ぶりにライブステージに上がってと、またこうして「バンド活動」をやっていることに対して、どういった感情が一番大きいですか。

中野:そうですね…………頑張らなくちゃと思って(笑)。創作にしても、ライブの演奏にしても、とても体力と集中力がいるので。僕が作りたいものに見合った体力と集中力を身につけておかないと自分が残念な思いをするから、今まで以上にストイックに生活しないと達成できないなって。いい音楽が作れているし、ライブバンドとしても可能性を感じていて夢が持てると思っているので、2022年以降もこの新しく生まれたバンドの成長の道筋を育んでいきたいなということですね。僕は歳上で50歳ですけど、「もっとこうありたい」って、自分に対してポジティブな変化を強く望むのであれば何かしら起こせるのではないかって、そういう期待を持って過ごしていきたいと思ってるし、それが様々な人たちにも何かしら力を与えることになるかもしれないって、そういう気持ちでいます。

―小林さんが30代半ばで人生の転換期・成長期を迎えられたこともそうですけど、中野さんが今こうしてまた新しいことを始められていることが、人間は終わりを迎えるまで新しい自分や人生を求め続けることができるんだという希望を体現してくださっているなと思います。

中野:小林くんにも質問されたんですけど、僕、ロールモデルにしてるミュージシャンとかがいないんですよ。「こういうふうな歳の取り方をしたいな」っていう、理想としている人物がいないんです。それは他人に関心がないというよりも、どれも自分とは違う感じがするからで、だから自分で探すしかないんだなと。自分のことを満足させたり、これが正解だって思えたりするのは、自分の行動でしか証明できないような気がしていて。それを何かを作ったり人前で演奏したりという行為でもって自分で確認していく。「来年の正解は来年にしかない」という感じなので、その時々で自分に対して誠実にいようかなと思ってます。


既存のフォーマットにとらわれない

―具体的に曲のことも聞かせてください。まず、2月9日に先行配信された「MUSIC」。これは「MUSIC」というど直球なタイトルで、サウンドや歌詞的にも11曲の中では異色なので初めて聴いたときにびっくりしたのですが、どういうところから生まれた曲ですか?

中野:小林くんって、ものすごく音楽博士なんだけど、面白いくらいダンスミュージックだけごっそり抜けてる人なんですよ。たとえば今のトレンドでダンスミュージックというとポストEDMみたいなものになっちゃうけど、それよりも、たとえば2000年代のエレクトロクラッシュとか、90年代のレイヴっぽいものとか、Vitalicとかを、「こんなのあったんだよ」といった感じでスタジオの時間の合間とかに小林くんに聴かせて。小林くんはそれをすごく新鮮な気持ちで聴いてくれるから面白くて。小林くんって、ロックとかパンク、ニューメタル的なものも好きじゃない?

小林:うん、そうですね。

中野:そういう音楽の中にはないベクトルというか、ダンスミュージックの刹那的なところとか精神の解放という着眼点で、小林くんなりのものを作ってみればいいんじゃないっていうふうになったんだよね。小林くんってクラブ遊びとかの経験もあんまりなかったりするけど、僕はやっぱりダンスビートが好きで。ダンスビートって、そのリズムがすでに意思とかミッションを持ってたりするから、その中でできることやふさわしいことがあって。最初、それを小林くんと共有するのが難しかったんですよね。ロックってどこか反社会的、闘争的な音楽の要素があるじゃないですか。優しいロックは優しいロックのそれがあるけど、ダンスミュージックのそれではなくて。それで、いろいろ一緒に聴いたりYouTubeで昔のMVを見たりして、何とか共有できないかなあと。そんな中で、「MUSIC」には小林くんなりのいろんなアイデアが出てきたんじゃないかな。

小林:そうですね。「MUSIC」というタイトルは、中野さんが仮でつけたものがそのまま生き残ったんですよね。

中野:うん。仮というか、これに「MUSIC」とつけることで決着をつけたいなという気持ちも少しはあったと思うんだよね。「音楽」というエスケープゾーン、魔法のツールがあるということにしてもいいんじゃないかなと思って。

小林:そんな話をしてましたね。



―そして、アルバムのプッシュ曲には「Nowhere」を選ばれています。

中野:そうですね。僕、すごく好きな曲ですね。楽曲の制作過程でいうと、僕がヴァンゲリスみたいな――ヴァンゲリスの中でもあんまりビート感が強くないもの、映画『ブレードランナー』の最初の作品のオープニングとかに流れてくる、フワッとしたシンセに、リーディングを乗せた曲――そういうトラックを作ってみるところから始まったんですけど、どうも食い足りないというか、やっぱり最終的にはビートミュージックにしたくなっちゃうんでしょうね。結局歌が入ってきたら、どんどん盛り上げたくなっちゃったっていう。痛快な爽快感がある曲ですね。どの曲も、最初のアイデア自体が創造物と言ってもいいくらい、フォーマットのある形じゃないものを思いつくことが多いので、だから生みの苦しみも大きいんですよね。



―これをプッシュ曲に選んだのはどうしてですか? それこそ、いわゆる今世の中にあるポップミュージックのフォーマットとは全然違うもので。リード曲として、たとえばストリーミングのプレイリストに入ったときにいい違和感が生まれる曲ですよね。

中野:そうなんですよね。ラジオでパワープッシュが取りにくいとか、そういう側面もあると思う。逆に言うと、既存のフォーマットに収まりやすいもので世の中は溢れているから。それってマーケティングで音楽が作られているとも言えるので。僕たちとしては「今こういうことが思いついた」「気持ちよかった」「感動した」とか、そういうことで音楽が生まれていって欲しいし、そういう曲が一番届けたいものだったりするから。親しみやすくて聴き慣れたフォーマットの中で作られている音楽の中でも素晴らしいものはたくさんあるけど、自分たちにしか作れないオリジナルなものがせっかくできたなら、そのままの形で届けてみたいという気持ちがありますね。すごくイキイキしてる生き物みたいな音楽だなって思うので。


Photo by Masanori Naruse



「音楽にあらかじめある正しい姿を思い出す感じ」(小林)

―リリックに関しては、前回の取材で話してくださったように全曲にプロットがあるんですか?

中野:映画の脚本みたいなざっくりとしたプロットがある曲と、完全に小林くんの個人的な手紙みたいなものと、2種類あります。

小林:そうですね。映画のプロットみたいなものは、「この曲はこういうものかもしれない」ってお互いが掴みかけたあたりで出てくるんですよ。それが本当にすごい情報量だったりして。闇雲に風景描写をしたり、メッセージを考えてそこに近づけていったりするとかではなくて、音楽にあらかじめある正しい姿を思い出す感じというか、自然とふさわしいものができあがってくる。そういうはどの曲もありましたね。

中野:小林くんの手紙や私小説的なものは、大切な人に向けたものであったりするんだけど、えらく感動してしまって。それが「FLOWER」や「なにもかも」だったりするんですけど。それはもうプロットではない。「FLOWER」とかは本当に風通しがよくて愛に溢れて美しい。「大切な人に向けた手紙でいいんじゃない?」って簡単にアドバイスをして、あれが出てきちゃうところがすごいなって思う。

―手紙的な綴り方は、その2曲だけですか?

中野:「おやすみ」もそうかな。「おやすみ」は、子どもの寝顔を見てるときに自然と浮かんだ言葉だったと聞いて、すごくいいなと思いました。「面白い文学を作ってやる」とかではなくて、自然と口をついて心の中からポロッと出てきた言葉に、自然とメロディが乗っただけみたいな感じが、すごく優しくて美しい歌という感じがして。そういうのがやっぱり僕が小林くんのすごく好きなところなんですよね。それがハマったときというのは、大概小林くんが「無」なときなんじゃないかなって思う。欲がないというか、欲が落ちたときに、ああいうものが出てくる感じがするので。



―中野さんとしては人生初の日本語詞アルバムを作り上げたわけですが、できあがってみてどう感じられますか?

中野:いや素晴らしいです。文字に起こして読んでみてもすごくいいなと思うし、自然と口ずさみたくなる。難しい言葉を使わないようにして、抵抗感なくスッと滑らかに入ってくる日本語詞で、一聴したときにすぐイメージが湧いてくることを大事にしながら小林くんと一緒に言葉を選んでいったところがあって。それを丁寧に繰り返していたから、僕も初めてとはいえすごく満足度が高いです。大人から子どもまで聴いて欲しいって思えるくらいのものになったと思います。


THE SPELLBOUNDのミッション

―ライブについては今後どう進化させていきたいと考えていますか? これまでフジロック含め3ステージ拝見しましたが、ステージごとに進化を遂げられていて、特に3本目のライブでは唯一無二のライブバンドとしての圧倒的な完成度に到達されていたように思いました。

中野:ライブは……もっと上手になりたい(笑)。「上手」というのは演奏面もあるけど、伝える人として上手になりたいって思いますね。誰にでも届いたらいいなって思うし。やってみてわかったことも多いんですけど、いわゆるポップスやバンドもののロックとはまたちょっと違うダイナミックレンジがこのバンドにはあるんだなって。要は音楽って、ただ言葉で伝えるよりも、音楽やメロディに乗せて、あるいは音響によって、後押しする効果がある。たとえば「なにもかも」という言葉自体にはそれほどたくさんの意味が含まれていなくても、繰り返されることで後押ししたり、背景になる音楽が彩ることでその言葉がものすごく大きな意味合いを持ってきたり、聴く人が自分の中にある「なにもかも」と照らし合わせていろんな感情が湧き起こったり、そういう可能性がまだたくさんあるような気がするんです。そういうことが新たな音楽体験にもなると思うから、もっと上手く伝えていきたいと思う。「なにもかも」という言葉が全然違うものに聞こえてきて、全然違う人生とか何かを見出してしまうような、そういう体験をする時間になったらまだまだたくさんの可能性があるんじゃないかな。僕らが想定している以上のことだって起きるかもしれないし。そういうところを僕らも楽しみにしながら成長させていけたらいいなというふうに思いますね。

小林:「伝える人として」という言葉が今中野さんからありましたけど、やっぱり僕自身の人生のすごく大きなミッションのひとつは、人に何かを伝えることに対してどれだけ情熱や誠実さを持って向き合えるかだと思っているんです。それに気づけたのがTHE SPELLBOUNDのステージで、そうすることで見られる景色を知れたのもTHE SPELLBOUNDでした。それをどれだけ拡張していけるか、どれだけ大きなエネルギーをファンとシェアできるか。とにかく、一生ものになるような瞬間をどれだけ人生かけてやれるかという、その一点だけですね。

―最後に。ドキュメンタリーの中で中野さんは「コロナで人生を奪われた人たち」という表現をされていましたが、今の世の中で人生の行先が見えづらくなった人たちにとって、このアルバムがどういうものであったらいいなと思いますか。

中野:僕が思ってる以上に「音楽」というものは、生活をメンタルで支える力を持っているようなんですよ。BOOM BOOM SATELLITESのときからそれに自覚的になってきて、これはすごく重要な仕事なんだという想いが、あるときからだんだん強くなってきて。誠実な音楽を人格のあるバンドで発信していくことで、必ず力を発揮するだろうと信じているところがあるので。別にコロナの社会に対して歌ってるわけでもないし、何かに打ち拉がれている人に対して優しくしてあげてるわけでもないんだけど、必ず役に立つこと、エネルギーを与えることはやってきたつもりなので、何か受け取ってもらいたいなって思いますね。僕らは社会のシステムを変えることはできないわけですけど、よりダイレクトに人の心に入り込んで伝えていく力を持っているとは思うから、その力を信じてこれからもやっていきたいし、僕らの音楽を聴いていい気持ちになってほしいなということですね。

小林:コロナ禍でいろんな人生が右に左に振れてしまうすごく激しい時代の中で、僕たちもものすごく大変だったし、もっと大変な人たちも世の中にたくさんいるわけなんですけど、その先にあったものがこのアルバムで。バンドをやり始めた自分たちとか、コロナ禍でこれからどうなるんだろうと思っていたファンたちからしてみたら、このアルバムが出てる未来というのはいい未来だと思うんですよ。だから、「今日生きててよかった」とか「このバンドを信じててよかった」って、その都度思ってもらえるような未来をどんどん用意していきたいという気持ちがあります。その第1弾のアルバムとして受け取ってもらいたいし、今日を迎えてよかったと思ってもらえたら嬉しいですね。


Photo by Masanori Naruse

<INFORMATION>


『THE SPELLBOUND』
THE SPELLBOUND
中野ミュージック
発売中
http://the-spellbound.com

1. はじまり
2. MUSIC
3. Nowhere
4. 君と僕のメロディ
5. 名前を呼んで
6. Sayonara
7. なにもかも
8. A DANCER ON THE PAINTED DESERT
9. スカイスクレイパー
10. FLOWER
11. おやすみ

配信用リンク
https://orcd.co/thespellbound

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