アヴリル・ラヴィーンのパンク回帰、トラヴィス・バーカーらキーマン達を通して解説
Rolling Stone Japan / 2022年2月25日 18時50分
アヴリル・ラヴィーンが『Let Go』でアルバム・デビューを飾り、「Sk8er Boi」を大ヒットさせたのが2002年。2002年と言えば、ポップ・パンクやエモが音楽シーンを席巻していた時代である。男性が多かったパンクの世界に、アヴリルは芯の強い女性アーティストとして登場して、音楽だけでなく、ファッション、アティテュードの面でも多くの人たちに多大な影響を与える、強力なミレニアル世代のアイコンとなった。
そして20年後の2022年。アヴリルはニュー・アルバム『Love Sux』をリリースする。『Love Sux』はポップ・パンク色全開で、ほぼバンド演奏によって作られた初の全編ロック・アルバムとなった。楽曲のアティテュード的には『Let Go』を彷彿とさせ、サウンド的にはいわゆるポップ・ミュージック的な過剰な味付けが全くない、シンプルでストレートなものになっている。にも関わらず、100%アヴリルを感じさせるアルバムとなっていて、パンクなアヴリル復活というイメージを強く感じさせるものだ。逆に、何故今までこういうアルバムを作らなかったのかという疑問すら生まれてくる。
■「Bite Me」MV字幕ヴァージョン
今回のパンクなアヴリル復活を支えたキーパーソンたちにも触れよう。アルバムの楽曲をプロデュースしているのは、トラヴィス・バーカー、ジョン・フェルドマン、モッド・サンの3人である。中でもトラヴィス・バーカーの存在は大きい。blink-182のドラマーとしてポップ・パンクの頂点に輝いた後、今やプロデューサーとして大活躍中で、コートニー・カーダシアンとの婚約でセレブのニュースにも取り上げられる人物だ。トラヴィスがスゴいのは、パンクもヒップホップも好きで、この異なるジャンルを結びつける音楽制作をずっとやり続けてきたところだ。ここ数年のトラップのブームから、ヒップホップがポップ・ミュージックの主流になっていった流れの中で、90年代~2000年代にロック・バンドがヒップホップを取り入れた 「クロスオーバー」が形を変えて、2010年代末からはヒップホップがロックを取り入れる逆「クロスオーバー」が始まって、そのスタイルが今人気を博している。
そこでは、ラッパーたちが子供の頃に聴いて育ったポップ・パンクやエモの要素をヒップホップに取れ入れるということが起こっているのだ。トラヴィスは、自らドラムを叩きながら数多くのラッパーのプロデュースを手がけて制作を続ける中、2020年にはマシンガン・ケリーのポップ・パンク・アルバム『Tickets to My Downfall』が大ブレイク。以降、Z世代によるニュータイプのポップ・パンクのアーティストが次々と登場するという現象も起こっている。
トラヴィス・バーカーのレーベル「DTA Records」と契約
この世代にとってポップ・パンクとは、バンド・サウンドの追求が目標ではなく、ラッパーのようにソロ・アーティストとして、トラックに乗せて歌うスタイルが主流だ。今やラッパーの楽曲にも、ポップ・パンク・アーティストの楽曲にも、「feat. Travis Barker」のクレジットとともに、トラヴィスのシグネチャーとも言えるドラム・ビートが入っているのは珍しくなくなった。そしてこのトラヴィス、すでに2007年のアヴリルのアルバム『The Best Damn Thing』では3曲ドラムを叩いているのだが、コロナ禍になってから二人が再会して、トラヴィスがアヴリルをセッションに誘ったことが、今回のアルバム作りにつながったようだ。しかもフリー契約だったアヴリルはこのアルバムで、トラヴィスのレーベル、DTA Recordsと契約している。
二人目のキーマン、ジョン・フェルドマンは、ゴールドフィンガーのヴォーカル&ギターも務めつつ、90年代後半から数多くのポップ・パンク、エモを代表するバンドの制作を手がけてきたことで有名なプロデューサーだ。blink-182のアルバムも手がけているし、DTA Records所属のZ世代アーティストであるJxdnのプロデュースも手がけている。『Love Sux』がど真ん中とも言える間違いないポップ・パンク・サウンドに仕上がっているのは、ジョンのプロデュースによるところも大きい。
そしてもう一人プロデュースを手がけているのがモッド・サンだ。最近ではアヴリルの恋人としても知られているが、元々ハードコア・バンドのドラマー出身で、ヒップホップとロックの新しい形のクロスオーバーを早くから打ち出してきたアーティスト、プロデューサーである。今回、トラヴィスとともに、プロデュースのみならず、ドラムのビートも提供している。
客演の方も豪華で、トラヴィスがプロデュースを手がけるマシン・ガン・ケリー、トラヴィスのバンドメイトでblink-182のヴォーカル&ベースのマーク・ホッパスが参加している他、トラヴィスともマシン・ガン・ケリーとも客演する仲で、裏方として、ジャスティン・ビーバーを始めとする数多くの楽曲のヒットメイカーでもあるブラックベアーが、歌で参加している。この辺はトラヴィスの人脈が生きていると言っていい。
■「Love It When You Hate Me」リリック・ビデオ
アヴリルが「一番やりたかった音楽」
それにしても今の時代のポップ・パンク、エモの復活ぶりはスゴい。今年10月22日にはラスベガスで「When We Were Young」というポップ・パンク、エモのフェスが開催されることになり、アヴリルの出演も決まっているほどだ。また音楽だけでなく、ファッションの世界で、Z世代によるY2Kファッション、つまり2000年代のファッションのリバイバルが起こっていて、そこでもアヴリルはファッション・アイコンとして再び大きく注目されているという点も見逃してはならない。
2000年代というのは、パンクにルーツを持つ音楽、ファッション、アティテュードが一気にブレイクした時代だ。音楽性も自由になった。パンク・ファッションがショッピングモールで手軽に買えるようになって、モール・パンクという言葉が生まれるくらい広がった。パンクの敷居が低くなって等身大になった分、それまでにはなかった幅広い表現も多く生まれることとなった。失恋や鬱も歌のテーマになったし、パンクはこうあるべきというしばりから解放されて、ありのままの感情を表現することが自由になったのだ。そして今、同じようなことがヒップホップの世界で起こっていて、ヒップホップの枠にとらわれない自由な表現がリアルな音楽になっている。アヴリルが今の時代に改めて注目されているのは、彼女の音楽、ファッション、アティテュードに、時代が必要とするものがあるからだと思う。実際、アヴリルが客演で参加したモッド・サンやウィロー・スミスの曲のMVを観ていると、アヴリルが彼らと並んでいるのに何の違和感も感じさせないのだ。
もちろんアヴリル自身、いろいろな音楽が好きで、この20年間、幅広い音楽性を様々な楽曲で形にしてきたのは間違いない。そんな中、『Love Sux』でのアヴリルは、自分にとってのエッセンスとも言える部分を、2022年のリアルとして表現しているように思える。今回のアヴリルは、時代の先端を行くプロデューサーやライターを起用して、時代に合わせたポップ・ミュージックを作るようなことはしなかった。代わりに、自分のことをよくわかっている友人のような人たちとともに、一番やりたかった音楽を作ったという感じがする。失恋を歌った曲もあるけれど、ほとんどがパワフルで楽しくて、ロックしている曲ばかりのアルバムになっている。歌詞のメッセージも今回はポジティヴなものが多く、聴き手に力を与えるような強さを感じさせる。20年のキャリアを経てアヴリルがやりたかったのは、本来の自分をストレートに出したパワフルな音楽だったのではないだろうか。そして、それは今の時代がアヴリルに強く求めるものでもあったのだろう。
■「Bite Me」MV(アコースティック)
『ラヴ・サックス』
アヴリル・ラヴィーン
発売中
国内盤:全形態:解説・歌詞・対訳付き、高音質ブルースペックCD2(Blu-spec CD2)仕様
完全生産限定盤/CD+GOODS(SICX-30136~30137)
価格: 3850円(税込)
特製トートバッグ付属
通常盤/CD(SICX-30138)
価格: 2750円(税込)
■商品ページ
https://www.sonymusic.co.jp/artist/avrillavigne/page/LoveSux
■国内盤用
https://SonyMusicJapan.lnk.to/Avril_LOVESUX_JPRS
■配信用
https://SonyMusicJapan.lnk.to/Avril_LOVESUXRS
https://SonyMusicJapan.lnk.to/AvrilLavignePlaylistRS
収録楽曲:
1. Cannonball | キャノンボール
2. Bois Lie feat. Machine Gun Kelly | ボーイズ・ライ(feat. マシン・ガン・ケリー)
3. Bite Me | バイト・ミー
4. Love It When You Hate Me feat. blackbear | ラヴ・イット・ホウェン・ユー・ヘイト・ミー(feat. ブラックベアー)
5. Love Sux | ラヴ・サックス
6. Kiss Me Like The World Is Ending | キス・ミー・ライク・ザ・ワールド・イズ・エンディング
7. Avalanche | アバランチ
8. Déjà vu | デジャヴ
9. F. U. | エフ・ユー
10. All I Wanted feat. Mark Hoppus | オール・アイ・ウォンテッド(feat. マーク・ホッパス)
11. Dare To Love Me | デア・トゥ・ラヴ・ミー
12. Break Of A Heartache | ブレイク・オブ・ア・ハートエイク
※日本盤ボーナストラック
13. Bite Me (Acoustic) | バイト・ミー(アコースティック)
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