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ササミが語る韓国のルーツ、日本での家族史、優しさに満ちたヘヴィメタル

Rolling Stone Japan / 2022年3月3日 17時30分

ロサンゼルスでのササミ、2021年12月(Photo by Daniel Topete for Rolling Stone)

USインディーの俊英シンガーソングライターが、2ndアルバムでヘヴィメタルに覚醒。人呼んで「悪魔のブライアン・ウィルソン」、ササミ(SASAMI)の挑戦作『Squeeze』が大きな話題を集めている。彼女はいったい何者なのか?

アメリカ北西部ワシントン州シアトル沖合の島にある心地よいログハウスの中で、マグカップに注がれたグリーンティーをすすりながらササミことササミ・アシュワースは、思いつく限りもっともヘヴィなメタルリフをひねり出した。時は2020年2月で、ロサンゼルスを拠点とするシンガーソングライターの彼女は、ワシントン州にある作曲家向けのリトリートに逃げ込んでいた。昨夜のライブ以来、ずっと耳鳴りがしている。友人でコラボレーターでもあるキング・タフことカイル・トーマスに勧められて、バーモント州を拠点に活動するメタルバンド・BARISHIのライブを観に行ったのだ。安酒場中にバンドが奏でる凶悪なデスメタルサウンドが響きわたり、ササミはすっかり有頂天になった。「羽目を外しすぎちゃった」と、彼女は笑いながら振り返る。「大暴れしていたのは私だけ。ほかの人たちはみんな、すごく落ち着き払っていた」

ササミの音楽の世界において、ヘヴィメタルが中心的なポジションを占めたことは一度たりともなかった。幼少期にフレンチホルンを習い、クラシック音楽を勉強した彼女は、のちにチェリー・グレイザーのライブで演奏したり、ヴァガボンやハンド・ハビッツといったインディー界の人気アーティストたちとレコーディングするまでになった。自身の名を冠した2019年のデビューアルバム『SASAMI』は、親密なインディーロックとシューゲイザーが融合した楽曲の集大成である。そんな彼女が鋭い牙をもつ爆音に惹かれるようになるのは、時間の問題だった。

「メンバー全員が女性のバンドといつもツアーを回っていたから、音響スタッフの気配りや自分が注目に値する人間だってことを証明するために身体的なバトルを強いるようになったのかもしれない」とササミは語る。「アンプの音量を下げるようにといつも言われるの。だから、決意表明みたいなものね。目立つなと言われているような気がすればするほど、私はアンプの音量を上げる。すると、私の声もどんどんアグレッシブになる」



くだんのBARISHIのライブ後に「狂気じみた生活に放り込まれた」31歳のササミは、2月25日にDominoからリリースされた2ndアルバム『Squeeze』にヘヴィメタルとインダストリアルなサウンドをふんだんに盛り込んだ。『Squeeze』は、必ずしもこうしたジャンルに属するアルバムではないものの、ササミはメタル・ミュージックとこのジャンルに内在する攻撃性を活かして、外の世界が炎に包まれる中、自分ひとりが孤独に空回りすることへの憤りや怒りといった空想を裏打ちした。普段は超攻撃的な音楽に逃避を求めない人たちに、誰もが経験する怒りの捌け口を提供すること。これがニューアルバムに込められたササミの願いだ。

端的に言って『Squeeze』は、どん底への招待状である。だがそれは、限りない優しさと温もりに満ちた招待状でもある。

「ロックダウンによって夢想する時間が増えたことは間違いない。音楽づくりを除いて、何もしていなかったから」とササミは言う。「パンデミックはまるで大虐殺のようだったし、抗議活動は不正と荒廃の極みだった。私にとって音楽は、感情を呼び起こすガソリンのようなもの。だから、周縁化された人たちが共感できて、各自の経験と向き合うための燃料になると同時にカタルシスをもたらすような音楽がつくりたかった」

ササミの親しい友人であり、コラボレーターでもあるハンド・ハビッツのギタリスト兼シンガーのメグ・ダフィーは、メールで次のように綴っている。「私は、ササミの徹底ぶりを尊敬している。何かを実現したいと決心すると、本当に最後までやり通す(……)それは素晴らしいことだし、まったく新しい方向に引き寄せられ、そこに勇敢に飛び込む姿にはとても勇気づけられる」

カイル・トーマスは、ササミを「悪魔のブライアン・ウィルソン」と表現する。「彼女には、楽曲に求められるアレンジを正確に見極めて、それを完璧に実行する稀有な才能がある」と彼はメールで述べた。

ヘヴィメタルと日本の妖怪

『Squeeze』の制作にあたり、ササミはそうそうたる面々を集結させた。収録曲のいくつかは、ロサンゼルス出身のシンガーソングライター、タイ・セガールを共同プロデューサーに迎えてレコーディングされた。その一方、メガデスのドラマーのダーク・ヴェルビューレン、ジャズドラマーのジェイ・ベルローズ、ロサンゼルス出身のオルタナティヴバンド、モウニングのパスカル・スティーヴンソン、シンガーソングライターのクリスチャン・リー・ハトソン、UK発ハードコアバンドのノー・ホーム、ヴァガボンのレティシア・タムコ、コメディアンのパティ・ハリソンなども参加している(「Skin a Rat」でタムコとハリソンは、見事なスクリームを披露した)。故ダニエル・ジョンストン「Sorry Entertainer」のカバーには、現在はササミのサポートバンドとして活動するBARISHIをはじめ、ダフィーとトーマスも参加した(「参加したのはほんの数曲だけど、ヘヴィなギターリフを弾いたり大音量で演奏したりするのは、すごく楽しかった!」とダフィーは言い添えた)。

『Squeeze』がリリースされた暁には、私たちはササミと一緒にどん底を経験する機会に事欠かないだろう。3月のアメリカツアー後は、ヨーロッパでミツキ・ミヤカワのオープニングアクトを務め、その後はハイムのサポートに入る。『Squeeze』がササミのアーティストとしての才能を見事に純化させた作品である一方、ライブは変身をめぐる彼女の夢想に触れる絶好のチャンスかもしれない。収録曲を披露する気分を表現する傍ら、ササミは昨年ジャパニーズ・ブレックファストのオープニングアクトを務めたときのことを思い出して笑いはじめた。「真っ赤に燃えた斧を片手に、道化師みたいに走り回る悪魔のピエロのような気分。めちゃくちゃ楽しい。40分くらい失神して、気づくとアザだらけで口がきけなくなってた」


Photo by Daniel Topete for Rolling Stone

長年ササミは、ヘヴィメタルを遠い世界のように感じていた。理由のひとつは、それが彼女のコミュニティとあまり関連性がなかったから。さらに彼女は、こうしたジャンルの一部の楽曲から「極めて暴力的でレイピスト的」なエネルギーを感じて反感を抱いたことを認める。大好きなシステム・オブ・ア・ダウンの「Sugar」でさえそうだ。”知ってるだろう? あの女は、時々俺に食ってかかるんだ。だから蹴りを入れてやる。するとほら、もう大丈夫”という過剰なまでに暴力的な歌詞は、彼女を不快な気持ちにする。だが、ジャンルというものはモノリスのように一枚岩のものではない。それにササミがヘヴィメタルに惹かれたのは、空想と自然界からインスパイアされた「メタルヘッズのディアスポラ」と共感したからだ。クラシック音楽の訓練を積んできたミュージシャンとして、誰かを圧倒するために求められる地道な練習と技術的熟達の重要性を理解するのは容易いことだった。

メタル・ミュージックの演劇的なエクストリームさは、攻撃性と怒りを掘り下げるササミにとって格好の材料となった。その一方で、「シスジェンダー男性の独壇場のような音楽シーンの恐怖を解明する」取り組みの一環として、『Squeeze』の主人公を創出したいと考えた。「被害者というよりも、復讐であれ無作為的であれ、暴力を加える側の存在としての女性」が必要だったのだ。そんな彼女にインスピレーションをもたらしたのが「濡女」という日本の妖怪(民間伝承における超自然的存在)だった。女性の頭と蛇の体をもつ濡女は、罪のない通行人には手を出さない一方、やましさを感じている人には容赦しない。

「川で髪を洗う、慎ましやかな美女という点に惹かれたの。攻撃的で厚かましい船乗りたちが近寄ってくると、濡女は彼らを死に至らしめる」とササミは言う。「セクシーであると同時に暴力的な楽曲のエネルギーにぴったりのシンボル」。さらに彼女は、次のように述べた。「それに私は蟹座だから、濡女が水と関わりのあるビッチだと知って『そう! 私が探していたビッチはこれ! ウミヘビなんて最高じゃない!』ってすっかり嬉しくなってしまった」(アンドリュー・トーマス・ホアンが手がけた『Squeeze』のカバーアートは、蟹のような足をもつヘヴィメタル版濡女を見事に表現している)。

ササミは、タイトル曲『Squeeze』の中でどの曲よりも顕著に暴力と攻撃性を直視しながらもそれらを受け止めている。マシンガンのようなスネアに強調されるドラムは鋭く、ギターは切り裂き魔のナイフのような激しさで襲いかかる。甘美ともとらえられる、”夢想する、殺す、嘘をつく、裸にする、なめる、滴らせる、絞る、彼女を傷つけるまで”というフックは、恐ろしげな呪文のようだ。ノー・ホームが作曲・演奏するヴァースでは、何世紀にもわたって女性に向けられた暴力に対する怒りが爆発している。

「いくつかの暴力的な言語を救済したかった」と、ササミはタイトル曲について語った。「この曲は、日常生活に終始暴力が忍び込んでくることを歌っているの。ある日突然、地下鉄の車内で誰かに体をまさぐられるような。何らかの感情を呼び起こすアグレッシブな歌詞が添えられた、アグレッシブな曲にしたかった。でも私は、その感情の対象になるのではなく、自分自身の感情として受け止めている」



ササミのヴォーカルへのアプローチは、『Squeeze』の中核をなすヘヴィメタルなサウンドに対して自然な拮抗勢力となった。叫び散らすタイプのヴォーカルではない彼女は、もっともヘヴィなインストゥルメンタルに合うメロディーを追求した。その一方、ファジーなサウンドが魅力の感動作「The Greatest」やグラマラスで力強いリズムが特徴的な「Make It Right」(「この曲の別名は『Fleetwood Crass』。フリートウッド・マックとクラス[訳注:イギリスのパンクロックバンド]のスネアの音を合わせたみたいだから」とササミは巧みに表現した)といった”中休み”的な楽曲も収録されている。

それに加えて、「Tried to Understand」はヘヴィメタルとは程遠い秀作だ。ササミは、この曲を「シェリル・クロウ風の正真正銘のポップソング」と的確に表現する。さらに「Call Me Home」は、『Squeeze』が与えてくれるすべてを完璧に融合したかのような印象を与える。不気味で不穏なインダストリアルなサウンドとともに幕を開ける「Call Me Home」は、清々しいカントリーロックに取って代わられる。美しいコーラスでは、クランチの効いたヘヴィなギターサウンドがアクセントになっている。”あなたには知っていてほしい。あなたはひとりじゃない”とササミは歌う。”あなたには知っていてほしい。いつでも私のことをホームって呼んでいい”と歌う彼女の声は、煙のように立ち上っていく。

母方は在日コリアン、家族史から学んだこと

『Squeeze』の統一感あるバリエーションは、作曲家および作詞家としてのササミの才能の証だ。曲を書きはじめたのは20代後半になってからだが、彼女は勤勉に作曲に取り組んだ。熱心なビートルズ・ファンである彼女は、『ザ・ビートルズ:Get Back』から得た教訓について次のように語る。「ほかのみんなと同じように、彼らは時間を決めて、時間を記録しながら仕事に取り組んだ。真面目で勤勉な韓国人の女の子として、私は彼らのやり方を尊重した。アートをつくることはとてもロマンチックで気まぐれな仕事だけど、コミットメントは必要なの」

作詞に関して言えば、ササミは楽曲を聴き込み、解読し、練習したうえで、腰を据えて作詞に取り掛かったわけではない。彼女の表現を借りるなら、「歌が表に出たがっていると感じる」まで待ったのだ。ササミはジャンルを言語になぞらえ、聴くことと演奏することを繰り返しながら——それは、自信をもって新しい言語で色んなフレーズを使いこなせるようになることに似ている——流暢さを構築していくことについて語った。

「たくさんの音楽を聴いたし、色んな人のバンドで演奏してきた」とササミは言う。「誰かのバンドでは肝臓のような役割を果たしてきた。私は臓器で、さまざまな部位を経験したことで『OK、これでもう一人前の体として機能できる』という地点にたどり着いたの」



『Squeeze』の制作に励む傍ら、ササミは自身の家族史を掘り下げるというもうひとつのプロジェクトにも取り組んでいた。パンデミックが襲来する直前、母方の祖母が韓国に帰国した。彼女は、祖母の年齢とふたりの間の地理的距離が広がることを踏まえて、祖母にできるだけ多くのことを教えてもらいたいと考えた。その前に優等生のササミは、ほぼ万全の状態で祖母との会話に臨むため、祖母と家族が経験した文化的な歴史を学ぶという「高潔な正義」を果たさなければならなかった。

ササミの母方の家族は在日コリアンだ。日本に定住している彼らは、日本では周縁化され、差別的な扱いを受けることが多い。ササミの祖母は日本で生まれ、人生の大半を東京で過ごした。ササミの母は、韓国人であることを理由に幼い頃いじめに遭ったことを断片的に彼女に話しているが、「あなたにはわからない」や「あなたにこのことを全部話したくない」と言って積極的に語ろうとはしなかった。

ササミは、韓国語と日本語に磨きをかけて、200年にわたる長く複雑な歴史の世界に身を投じた。妖怪、タランティーノ監督の『キル・ビル』の着想源となった復讐劇『修羅雪姫』(1973年)、名作ホラー映画『HOUSE ハウス』(1977年)などにのめり込むようになったのは、ちょうどこの頃だ。これらすべては、ビジュアル的にもテーマ的にも『Squeeze』の楽曲へと繋がっていった。

ミン・ジン・リーの有名な小説『パチンコ』(2017年)も読んだ。同作は、在日コリアンの一家を描いた壮大な物語で、ササミは自身の家族の物語との共通点にハッとした。同作の登場人物のひとりと同様に、彼女の祖父はパチンコ店を経営していた。日本のギャンブル産業を支えるパチンコは、ほかの職業から締め出された在日コリアンが優位を占める業界だった。パチンコのおかげで祖父は、極度の貧困の中で家族を養うことができたのだ。

「家族は、いつもパチンコ台のことを話していたけど、この本を読むまでそれが何かわからなかった」とササミは言う。「家族という、DNAで繋がっているかどうかもわからない行き当たりばったりの人々は、ストーリーテリングにおいてとても興味深い要素なの。雪の結晶のようにふたつとして同じ家族は存在しないから、家族史を紐解くことで何らかの空想の世界がひらめくのは自然なこと」


Photo by Daniel Topete for Rolling Stone

祖母と直接会って話をするという計画はまだ実現していないものの、母との会話によってさまざまなことがわかるようになったと彼女は言う。これまでの学習が功を奏したのだ。その結果、両親が統一教会に入信し、そのもとで彼女を育てた理由も少しずつわかってきた。韓国の宗教団体である統一教会は(創始者・文鮮明の名前をとり、アメリカで信者は「ムーニー」と呼ばれている)一部の人からはカルト教団と呼ばれている。

ササミは、統一教会を「韓国の至上主義的な教会」と表現し、母国・日本に対する帰属意識とはほぼ無縁だった母親のような在日女性にとって——とりわけ、新しいスタートを求めて20代でアメリカに移住した彼女にとって——自分を温かく迎え入れてくれるコミュニティとの出会いは、天啓のようなものだったと考える。

ロサンゼルス郊外のエル・セグンドという白人主流の地域で幼少期を過ごしたササミにとって、韓国文化の中で過ごした子供時代は、統一教会と切っても切れないものだった。毎週日曜日には韓国人向けの学校に通い、祈りの儀式を学んだ。その一方、彼女が通っていたアメリカ支部はかなりアメリカナイズないし白人化されていた。それがもっとも顕著にあらわれていたのが音楽だった。

「(教会には)大勢の白人ヒッピーがいて、音楽の大半はアコースティックギターに合わせて歌うフォークソングだった」と、彼女は声を出して笑いながら振り返る。みんなで(ビートルズの)『Eight Days a Week』を歌うんだけど、”おお神よ、あなたの愛が必要です”って歌詞を変えるの。ひどくない? でも、韓国のメロディーにのせて美しいフォークソングを歌うこともあった。韓国の古いフォークソングも歌った」

統一教会時代、家族史、ある時は交差し、ある時はすれ違う縦糸と横糸——ササミの道のりはまだまだ長い。でも彼女は、明確な答えを求めていないようだ。探求によって強くなった彼女は、『Squeeze』の中で多数の選択肢を受け入れている。それは音楽、新たに芽生えたヘヴィメタル愛と正統派ロックやポップの戯れ、アルバムのカバーアートにあらわれている。カバーに掲げられた韓国語のタイトルは、ササミの母が筆で書いたものだ。

「すべての経験は、アートを生み出すためのエモーショナルな語彙を与えてくれるし、幼少期のカウンターカルチャー的な経験は、自分自身の人生と世界の見方に影響を与える」と彼女は言う。「これはこの団体、これは家族の遺産、これはあなた自身のメンタルヘルスの問題、これは環境という感じにすべての原因を解明するのは難しい。アートをつくることの大部分は、必ずしもエモーショナルな経験の源泉を問うことではなく、糸をたぐり寄せながら、そこにたどり着くことなの」

From Rolling Stone US.



ササミ
『Squeeze』
発売中
日本盤ボーナストラック:システム・オブ・ア・ダウンのカバー「Toxicity」ライブ・バージョン追加収録
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