三宅純がSOIL&"PIMP"SESSIONSの2人と語った、音楽制作への向かい合い方
Rolling Stone Japan / 2022年3月17日 12時0分
『MOMENTS/JUN MIYAKE 三宅純と48人の証言者たち』刊行記念トークイベントに登壇した、三宅純(左)とSOIL&"PIMP"SESSIONSの社長(中)とタブゾンビ(右)
『MOMENTS/JUN MIYAKE 三宅純と48人の証言者たち』刊行記念トークイベントが、代官山蔦屋書店にて2022年2月24日に開催された。
本イベントは、音楽家・三宅純を巡る書籍『MOMENTS / JUN MIYAKE 三宅純と48人の証言者たち』の刊行を記念し行われたもの。登壇者には三宅純のほかに、本書における証言者の1人であるSOIL&”PIMP”SESSIONSのアジテーター・社長と、"日本一の三宅ファン”を自認するトランペッター・タブゾンビをゲストに迎えて行われた。『MOMENTS / JUN MIYAKE 三宅純と48 人の証言者たち』の企画、編集、出版を手掛けた株式会社コラクソーの三浦信が司会を務めたトークイベントをレポートする。
司会の三浦から呼び込まれ登壇した3人。まず、三宅から進行表通りにトークを進めるのはおもしろくないという提案があり、彼が密かに用意していた本書籍制作にまつわるエピソードを読み上げて、その後はフリートークというジャズマン同士ならではの”即興進行”でスタート。
書籍の内容のみならず、ファッションの話からエロティシズム、果ては代官山蔦屋書店内に展示されているトランペットに関する逸話まで、深くてマニアックな話に花が咲いた。
タブゾンビ:三宅さんはトランペットで多くを語らなくても、トータルな世界観で音楽を作ってらっしゃって、アルバムを通し1曲しか吹いてないこともあれば、全く吹かないことすらある。本当に僕の憧れのトランペッターです。トランペッターの作品って、だいたいリスナーもトランペットを吹く人が多いんです。でも、三宅さんの作品はトランペッター以外の人が聴いてる。ここが重要ポイントなんです。
社長:あと三宅さんの音はエロさがあります。転じると、音の中に物語が見えるとも言えます。それは街の風景だったり、場所の移動と時間の移動とが一緒になって頭の中で再現されるような音像だったり、それらが音階や曲調としてすべてが曲の中にあると思うんです。
三宅:うれしいコメントです。本の中で触れたかもしれないけど、音楽って時間を操作できると思うんですよ。過去を未来に貼ったり、未来を過去に貼ったりとかね。本来は未来を過去に貼っても誰が見るんだって話なんだけど。そういう時間の錯覚や、時空が交錯した世界を表現できると思うんです。
Photo by Koh Akazawa
社長:メロディを書いているときに、ご自身の中で浮かぶ風景があるんですか?
三宅:それはないです。時代背景も意識していない。巨大なデータベースみたいなものにアクセスしてる感覚はあって、繋がった時に、あ、僕が聴きたかったのはこれだ」と感じたものが、zipファイルのような形で届く感じなんですけど、ダウンロードするのは一瞬なのに解凍するのにすごく時間がかかる。その過程で「あ、もしかしたらこういうことが聴こえていたのかもしれない」という半分記憶を辿るような、不思議なプロセスを経て曲というかたちになります。
アーティスト同士であるが故に、通常では引き出されないような深部に至るトークはさらに掘り下げられていき、タブ・ゾンビが個人的に聴いてみたかったマニアックな録り音、さらに社長から三宅純の音に90年代のクラブミュージックを感じる面があるという話題が切り出されると、三宅が80〜90年代のクラブ・シーンに精通していたことも判明した。
三宅:ある意味その場にいられることだけで達成感、恍惚感を得られる時代でした。でも、同時にそれは危険もはらんでいるんです。来てる人は自分は先端だってみんな意識しているでしょ。そこに惑わされちゃうんだけど、その先端って、意識されたものは、その時既に過去になってるんです。バブルが弾けて広告が衰退していったときに、遅ればせながらそのことに気がつきました。今まで宗教のように1番先頭を走ることを目指していたのに「待てよ、走ったからってなんだ、君は誰?」って言われてる気がして。そこはちょっとターニングポイントでしたね。
タブゾンビ:それがきっかけでフランスに拠点を移したんですか?
三宅:それも大きいですね。これが先端っていう情報が届かないところに行きたかった。最初浮かんだのはニューヨークです。トップミュージシャンがたくさん集っているし、文化層が厚い多国籍性に惹かれました。ただ、ブッシュ政権になり、9・11も起きたことでアーティストも海外流出し始めて、選択肢として考えにくくなった。ではどこなのか、だんだん狭めていった結果、ニューヨーク同様に多民族都市で、コラボしたいアーティストが往来する、ハブ都市としてのパリの機能が決め手となりました。そこで改めて異分子になる覚悟を決めたのです。
こうしてアーティストとしての拠点について話題が及ぶと生活インフラの話から、今後どこの国、街に拠点を構えるかの話にまで発展。そして、三宅純のサウンドから感じられる異国情緒がどこの国に由来するか。タブゾンビから長年温めていた質問が投げかけられた。
タブゾンビ:三宅さんのサウンドから感じられるエキゾティジムはどこに起因するんだろうって思って。三宅さんの音を聴いていると、地球のどこにもないような都市が思い浮かんでしまいます
Photo by Koh Akazawa
三宅:素敵なコメントです。例えば中東を例に取っても紛争とか内戦とかも国によってすごいあるでしょ。国同士の憎しみ合いもあって。僕はユダヤ文化が大好きだけど、イスラエルはアラブ系の人からもかなり角度を持って見られる国で、意識の敵対がはっきりある。でも音楽や食事には似ているところがお互いにあったりして、文化的なグラデーションは別に存在する。それを真似したいとか、取り入れたい意識はなくて。生活圏にユダヤの人もいるし、アラブの人もいる、北欧の人もいれば、東欧の人もいる、その中で異分子でいられる環境が好きなんですね。そんな生活圏を僕は維持したい。
社長:そのエクレクティック感はまさに三宅さんの音楽そのもので、どなたかインタビューでもおっしゃっていたんですけど、「三宅さんの音楽を聴くと今まで出会ったすべての音楽のジャンルに出会うことができる」と。
三宅:そもそもジャンルって何かも分かってないんですよ。ジャンルを意識して、ものを作らなくちゃいけないとすると、レコード産業とか、音楽産業が捏造したものに合わせることになる。僕がジャズを狂信的に信じた時代というのは、天衣無縫なアイディアとかイノベーションが日々起こり、想像もできない発想がいろいろなところに飛び火して、日進月歩で予期不能のクリエーションが行われていた。自分はジャズという様式からは離れても、メンタル的には今もその精神を継続したいと思っています。
最後にタブゾンビが三宅純の制作意欲やどうモチベーションを保っているのか、質問を投げかけた。
三宅: 90年代あたりから自分の作品は自分で原盤を持つべきだと思い始めたんです。それまでの時代はレコード会社が潤っていて、僕がやっているような音楽は税金対策で多少は文化的なこともやっていると体外的に見せるためのいわば捨て駒だった。でも、レコード会社の資本に頼ってアルバムを作ると、方向性の指示も受けるし、彼らの判断で廃盤にされてしまう。それは嫌だなと思って、自分で作ることを始めた。ということは、それを自分でファイナンスしなければいけない。それには、まず作曲家として委嘱を受けて、映画をやる、舞台をやる、ダンスをやる、そしてそこから得た糧をすべて自分のアルバムに投入するわけです。そうすることによってクリエイションにマーケティング的な縛りがなくなるわけ。そう言う意味で1番のモチベーションは締切なんです。委嘱作品をいつまでにやれと言われることが。そして、その仕事によっていつかアルバムが作れるようになるということが本来のもっと大きなモチベーションなわけです。
Photo by Koh Akazawa
タブゾンビ:依頼がないときは何もしない日もあるんですか?
三宅:一応日々ピアノには向かうし、トランペット楽器の練習も少しだけするんですよ。「あっ」と思ったときは具体的に曲を作り始めますけど、そうじゃないときって何かの隙間なんです。隙間をただ埋めちゃうと、ノルマ的な曲になってしまう。いかにそのインスピレーションを受ける窓を開けておくかが大事で、ノルマに感じちゃダメなのね。人よりもしかしたら制作はハイペースかもしれない。今日は何もしなかったなという日は、月に2日あるかないかかな。
タブゾンビ:帰ってすぐ制作したい気になってます。
社長:ね。三宅純やばいって思ったよね。
タブゾンビ:パンイチでゴロゴロしながらポテチ食ってる場合じゃないよ。
主催:代官山 蔦屋書店
企画:株式会社コラクソー
協力:カシオ計算機株式会社、株式会社ゴールドウィン、株式会社Pヴァイン
>>関連記事:椎名林檎、日野皓正ら48人が三宅純を語る『MOMENTS / JUN MIYAKE 三宅純と48 人の証言者たち』2月末刊行決定
『MOMENTS / JUN MIYAKE 三宅純と48 人の証言者たち』
発売日:2022 年2 月末
仕様:A4 変判248 頁 並製
発行:株式会社コラクソー
直取引代行:株式会社トランスビュー
本体:4,000
http://colaxo.jp/moments/
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