米伝道師、ウクライナ侵攻はイエス・キリスト再臨の兆しと主張
Rolling Stone Japan / 2022年3月9日 6時45分
現地時間3月4日、ロシア軍とウクライナ軍の衝突が首都キエフ近郊のイルピンに迫るにつれて、まだ空席がある列車に乗ろうと急ぐウクライナ市民。その多くは女性と子供たち。(Photo by Marcus Yam/Los Angeles Times/Getty Images)
米キリスト教伝道師のパット・ロバートソン氏を筆頭に、キリスト教プロテスタント保守派は「神に強要されて」プーチン大統領が戦争を仕掛け、この世を終わらせようとしていると信じて疑わない。
【動画を見る】牧師が投稿した問題の動画
ロシア軍がウクライナ侵攻を開始した翌日、グレッグ・ローリー牧師は迷える子羊たちのためにある動画をFacebookに投稿した。全世界の崩壊をもくろむ誇大妄想的かつ権威主義的な陰謀——世間の大半は、現状をこのように捉えている。だがローリー氏は、一部のキリスト教徒にとってウクライナ侵攻はまったく別の意味をもつと主張する。彼らにとってウクライナ侵攻は、救世主イエス・キリストの再臨の兆しなのだ。投稿されたメッセージは、「いま、ウクライナで起きていることに預言的な意味合いがあると思いますか?」という一文で始まる。「答えは……イエスです!」
数千年にわたり、キリスト教終末論の信者たちは、かなり強引な方法で時事問題とキリストの再臨が近い証を結びつけてきた。彼らは、『エゼキエル書』、『ダニエル書』、『マタイによる福音書』といった旧約聖書の預言書や新約聖書の『ヨハネの黙示録』の預言的なことばを引き合いに出しては、ありとあらゆる理論を構築した。プロテスタント保守派や原理主義的な宗派が信奉するこうした理論の大半は、世界の終わりを次のようにとらえている。再建された平和なイスラエルに「ゴグとマゴグ」という勢力が「はるか北方」から攻めてくる。『エゼキエル書』によると、イスラエルでは「さまざまな国からやってきた人々が安全に暮らしていた」。そこに戦争が勃発し、救世主がイスラエルに救いの手を差し伸べる。それに加えて私たちが知るところの世界の終わりが訪れ、より良い神の国が地上に新たに建設される。
古代以来、ありとあらゆる世代があの手この手で「自分たちが世界の終わりを生きている」ことを証明しようとしてきた。「終末論の美点のひとつは、それが変幻自在であるということです」と、アメリカ北東部ニューハンプシャー州のダートマス大学でアメリカの宗教を研究しているランダール・バルマー教授は指摘する。「要するに、特定の状況に合わせて理論をねじ曲げたり変えたりすることができるのです。それに加えて、こうした理論を信じる人々は、未来を知っていることを理由に歴史の支配者になったかのような感覚を抱くことができます」
キリスト教終末論の信者たち
はるか昔から、ゴグとマゴグという存在は、バビロニア帝国、ローマ帝国、バイキングといった歴史上の勢力に置き換えられてきた。この系譜にロシアが加わったのは冷戦時代のことである。当時のアメリカ人キリスト教徒の大半は、自国を「新たなイスラエル」になぞらえ、ソビエト連邦を「ゴグとマゴグ」(地理的にも「はるか北方」という聖書のことばと一致する)に、時の大統領ミハイル・ゴルバチョフをキリストの敵「アンチクライスト」とみなした(おまけにゴルバチョフの額には、「(黙示録の)野獣の刻印」があるではないか)。核戦争という黙示録さながらの脅威に加えて1948年に近代国家イスラエルが誕生したことは、預言が現実となり、世界の終わりがいよいよ近づいていることの証ととらえられた。
聖書の観点から考えると、こうした理論はまったくもって説得力に欠ける。「聖書の著者たちは、未来を占ったり、『ロシアがX国、Y国、あるいはZ国を攻めようとしている』や『プーチンという男が現れるだろう。兆しを解読せよ』といったメッセージ伝えようとしているわけではありません」と、『Unraptured: How End Times Theology Gets It Wrong(非・携挙——終末論の誤り)』の著者ザック・ハント氏は語る。「著者たちにとって重要なのは、『こういう敵がいるけれど、神が私たちを解放してくださる』という希望のメッセージです」
一部の人にとっては希望のメッセージである一方、ほかの人はそれを死と破壊のメッセージととらえた。キリスト教終末論の信者は、末世的な見方を通じて身の回りのことを見るだけでなく、災厄を生み出すアーティストのような存在だ。彼らは、気候変動、病、紛争といった人類の悲劇を、神の御心が行われたこと以外は何の意味ももたない出来事の連なりとしてのストーリーに書き換えてしまう。『「マタイによる福音書」24章をご覧ください』とローリー氏は動画の中で語る。「キリストは何と言ったでしょう? 『終末が近づくにつれて、戦争に関する噂が流れるだろう』と言いました。疫病も流行するでしょうし(まさに新型コロナがそうであるように)、キリストの再臨が近づくにつれてこうした大災害はますますエスカレートするでしょう。要するに、事態が悪化すればするほど、キリストの再臨が間近に迫っているのです」
ウクライナで起きている戦争は、恐怖以外のなにものでもない。それに加えて、ロシアの主導的な役割は——目下流行中の終末論的な預言とともに——2050年までにキリストが再臨することを信じる41%のアメリカ人(そのうちの23%が「確実に再臨する」、18%が「再臨する可能性が高い」と信じている)にとっては犬笛の合図のようなものだ。「彼らは、教会の教えに従って、ニュースからこうした兆しを見つけ出そうと神経を尖らせています」とハント氏は指摘する。「彼らは、そのための訓練を受けています。そのように教育されているのです。彼らは『あった! これが聖書の預言だ!』と言えるものを常に見つけようとしています。屈折した喜びのように聞こえますが、その世界で生きている人はゾクゾクするような興奮を感じるのです。キリストが現世に戻ってくるのですから」
プーチン大統領は、全能の神の御心を行うための憐れな駒
現地時間2月28日、キリスト教系サイトのraptureready.comは、「Rapture Index(携挙[訳注:キリストの再臨の際、信者たちが昇天してキリストと出会い、永遠の命を得るというキリスト教プロテスタントの思想のひとつ]指数)」を186件に更新した。同サイトの最高記録は189件で、160件以上は世界の終わりに備えて「体勢を整える」ことが推奨される。大々的なウクライナ侵攻の2日前、キリスト教系団体のJoshua Fund(ホームページにも掲げられている通り、「キリストの名の下にイスラエルと近隣諸国を祝福する」ことが同団体の目的)を創設したジョエル・ローゼンバーグ氏は、Podcastを通じて神の国の到来という点においてウクライナ侵攻がいかに重要であるかを力説した。ウクライナがイスラエルではないことはさておき、聖書に描かれたゴグとマゴグとの戦いは、終末論においてはきわめて重要な役割を担っているため、ロシアがここまで大々的に他国に侵攻すると考えるだけで一部のプロテスタント保守派やペンテコステ派の終末論者たちはざわついてしまうのだ。「預言の重要なピースがここまですべて揃うのは前代未聞です」と、ロシアが本格的にウクライナを攻撃しはじめる前にローゼンバーグ氏は述べた。「だからこそ、状況をしっかり観察しなければいけません」
先週、プロテスタント保守派の指導者のひとりであるパット・ロバートソン氏(時事問題とおかしなことを結びつけることにおいて彼の右に出るものはいない)は、隠居生活をわざわざ中断してまで公の場に姿を現し、世界でもっとも有名な暴君であるプーチン大統領は、全能の神の御心を行うための憐れな駒にすぎないと主張した。「たとえば『プーチンはどうかしている』と言えるかもしれません。ですが、同時に彼は神に強要されているのです」と、ロバートソン氏は『エゼキエル書』を引き合いに出しながら述べた。「神は、『好むと好まざるとにかかわらず、私はあなたの顎に鉤をかけて、この戦いにあなたを引きずり込む』と言いました」
こうした状況において、一つひとつの暴力行為ないしプーチン大統領の権力の拡大は、終末論信者が神と肉体的にひとつになる瞬間を近づけている。ハント氏曰く、これこそ私たちが気をつけなければいけない点だ。「『戦争と戦争に関する噂』は、歪んだ興奮の源となります」とハント氏は言う。「個人レベルでは問題にはなりませんが、プーチン大統領に対してよりアグレッシブな措置をとるようにと組織やロビー団体が政治家に迫るようになると、実世界に影響がでます。バイデン大統領がロバートソン氏の発言に耳を貸すようなことはないと思いますが、核による大虐殺を期待する声の背後には、きわめて歪んだ感情があります。彼らは、血に飢えているのです」
慈悲の心は復讐心へ
それだけでなく、これはキリスト教が説く慈悲の心を復讐心へと歪ませることでもある。「彼らが信じているのは、1回目で失敗した受動的で慎ましやかなキリストの仕事をやり直すため、ふたたび地上に戻ってくるクールなスーパーヒーローとしてのキリストです」とハント氏は続ける。「スーパーヒーローのキリストは、悪い奴らを徹底的にやっつけ、敵を踵で踏みつけて粉々にするのです。そこで初めて、あなたは自分が暴力に声援を送る立場にあることに気づきます。あなたは災厄のサポーターとなるのです。それが終末の兆しであるとすでに心に決めたのですから」
ロバートソン氏が心を決めたことは確かだ。「聖書を読みなさい」と氏は人々を戒めた。「すべては現実となるでしょう」
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