ミッキー吉野本人と語る、アルバム『Keep On Kickin' It』
Rolling Stone Japan / 2022年3月20日 7時0分
日本の音楽の礎となったアーティストに毎月1組ずつスポットを当て、本人や当時の関係者から深く掘り下げた話を引き出していく。2022年2月の特集は「ミッキー吉野70歳」。2月2日に発売された、ゴダイゴ、ザ・ゴールデン・カップスやソロ活動、作曲家・ミッキー吉野としての代表曲を様々なアーティストがカバー、フィーチャリングしたアルバム『Keep On Kickin It』をミッキー吉野本人を迎え、原曲に遡って当時の活動について語る。
田家:今月2022年2月の特集は「ミッキー吉野70歳」。4週間かけてアルバムをご紹介していく1ヶ月ですが、先週と今週はご本人ミッキー吉野さんをお迎えして、アルバムの曲から原曲に話を遡って当時のお話をお聞きしております。今週はアルバムの後半です。こんばんは。
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ミッキー:こんばんは。
田家:Charさんの歌に思わず笑みがこぼれてしまいますね(笑)。
ミッキー:そうでしょ(笑)。僕がCharと出会った頃はちょうどソロでデビューする前だった。日本語っぽい阿久悠さんの曲とか歌っていたじゃないですか。あのイメージがちょっとありますよね。
田家:今回のアルバムで亀田誠治さんもおっしゃっていたのですが、ザ・ゴールデン・カップスの曲をどう取り上げるか、ミッキーさんといろいろ話したと。
ミッキー:僕は入る前からザ・ゴールデン・カップスが好きだったんです。その気持ちを持っている人たちと一緒にやりたいなと。Charと会った時に彼が最初に話したのも、実はザ・ゴールデン・カップスが好きで「過ぎ去りし恋」をカバーしてたんだよという話だった。そういう意味でCharとハマ・オカモトくんはルイズルイス加部とマー坊の話ばっかり。しかも、ハマくんは「銀色のグラス」で彼は完全にカップスフリークになってしまったという話もして。あっくん、金子ノブアキくんの方はどっちかと言うと、ジョニー吉長ね。彼にはザ・ゴールデン・カップスの後、ザ・シルバー・カップスって一時期冗談でやっていたバンドのドラムをやってもらった。その息子で、みんなカップスと縁があるし、カップスを愛していた人たちでやったらいいなというので始まったんですね。
田家:エディ藩さんが入っているのは亀田さんが「Charが言った」と言ってました。
ミッキー:純然なカップストリビュートをやりたかったんですよ。僕もファンの1人としてトリビュートできたらいいなと。そしたらCharがポツッと「エディ来ないの?」って電話で言ったんだよね。エディは、ザ・ゴールデン・カップスで唯一のオリジナルメンバーになっちゃった。じゃあ、電話してみようかなと思って。何をやってくれというわけではないんですけど、これが結構おかしいんだよね。
田家:コーラスをやっていると。
ミッキー:コーラスというか、頭の英語の掛け合い、あれを僕とエディでやっている。亀田さんがその掛け合いをどうしてもやってくれって言うんです。あとはコーラスの部分ですね。
田家:スタジオにお2人で入られたんでしょう。
ミッキー:そう、2人で。これはアルバムの中で唯一スタジオで録った。
田家:コロナ禍だったのでデータでのやり取りでしたもんね。
ミッキー:Charとかみんな集まっていて、これは顔出さないわけにはいかないなと思って、録音の日にみんなに言わずに行っちゃったんですよ。そしたらやっぱりよかったね。そこでバンドのサウンドができた。これはやっぱりバンドサウンドが大事じゃないですか。しかもアレンジをしていて後半なんですけど、それもカップスのイメージなんですね。
田家:アドリブみたいなセッションになっちゃう(笑)。
ミッキー:そうそう(笑)。勝手に弾き始めて、誰かがいくとそこについて変わっていくとか、まさしくばっちりできていますよね。
田家:そういうザ・ゴールデン・カップスのファミリー・ツリーというふうに亀田さんがおっしゃっていました、この「銀色のグラス」でありますが、原曲はどういうものだったかお聴きいただこうと思います。1967年11月発売、ザ・ゴールデン・カップス2枚目のシングル
『銀色のグラス』。
田家:OKAMOTOSのハマ・オカモトさんが衝撃を受けてハマった、ルイズルイス加部さんのベースすごいですね。
ミッキー:すごいんですよ。これをほぼ完コピでハマくんが演奏しているんですよね。よっぽど衝撃的だったんじゃないかなと。
田家:ミッキーさんはこの曲の後の4枚目の『愛する君に』から参加されるわけですけど、この「銀色のグラス」はどのようにご覧になっていたんですか?
ミッキー:僕が見ていたカップスは洋楽ばかりやっていて、オリジナルも英語でかっこいいバンドだったんです。デビューした途端にすごい曲やってるなと思って、この前に「いとしのジザベル」があるんですけど。
田家:鈴木邦彦さん。いい曲ですけどね(笑)。
ミッキー:今となれば、いい曲だなと思うのですが、当時は僕15~16歳じゃないですか、「えー!」って思って、ぶっ飛んじゃいましたね。なんでこんな曲やるんだと思って、それを平尾とかに言った覚えありますね。「なんでこんなんなっちゃうの?」って(笑)。
田家:で、入ることになったというのは?
ミッキー:それはブッチ、ケネス伊東ね。彼がハワイに徴兵で行くというのと、前からキーボードを入れたかったみたいですね。特にエディが入れたかったんじゃないかな。自分でオルガン買ったりして弾こうとしたり、デイブもピアノのレッスンをしていたり。結局ちょこちょこ一緒にセッションするようになって。僕はちょうど高校が嫌な時期で、そこでカップス入らないか? って言われたら、もう喜んじゃって、高校2年の1学期かな。
田家:そのときフラワークリエイションというバンドもやっていた。
ミッキー:米軍の関東のベースキャンプをずっと回っていて、かなり稼いでいたバンドで、レギュラーがいっぱいあるんです。
田家:学校でもあいつはバンドをやっているというのは有名だった。
ミッキー:そう。だから、月曜日は横須賀のEMクラブ、将校クラブ。木曜日はゼブラクラブとかのレギュラーで。金土はハイスクールのダンスに呼ばれたり、ほとんど学校行けなくなっちゃうじゃないですか、そんなことやったら(笑)。
田家:アルバムの7曲目「ガンダーラ feat. タケカワユキヒデ」。これはいいっすねー。
ミッキー:これも亀田さんが2人きりでやってくれと、余計なアレンジなしで、音も入れずにピアノの歌だけで。
田家:亀田さんがそうおっしゃったときに、ミッキーさんは「持つかな」と言われた。
ミッキー:実は、他で話してきたことで修正したいことがあるんですけど、タケカワと2人でやるのは初めてじゃなくてね。タケカワの最初のアルバムで「PRETTY WHITE BIRD」という曲があって。
田家:『走り去るロマン』?
ミッキー:そう。エレピと歌だけでやっているんです。そういう意味では完全に2人の最初に戻ったんだろうなと、今思っています。
田家:あのアルバムでそんなことやってらっしゃったんだ。
ミッキー:忘れてたんだけど、初心に戻ったんだ2人ともって感じがすごくしてますね。
田家:しかもこれがデータのやり取りだったというのはびっくりしました。
ミッキー:テンポも思うように弾いて、タケカワに送って、「ちょっとテンポ遅いかなと思ったんだけど」って言ったら、「バッチリだ」って言うから。それが歌が入って返ってきて。ピアノをちょっと直したところもありますね。
田家:あらためてガンダーラってこんなに哀愁のある曲だったんだと思いました。
ミッキー:そうですね。2人とも歳を取ったからかもしれないけど、すごい哀愁ですよね。
田家:しかもタケカワさんの声も哀愁、オリジナルとは全然違う聴こえ方がして。
ミッキー:最近もよく一緒に配信をやっているんですけど、これはすごい丁寧に歌ってますよ。一生懸命やってくれたんじゃないかなと思いますね。
田家:ゴダイゴ45周年の公式本の中で、ミッキーさんがタケカワさんの声に対してお話をされているところがあって、お酒を飲んでない人にもいけるような声だと思った。
ミッキー:そうそう。僕の周りを見ると、カップスもそうだけど、柳ジョージとかもいて。みんなお酒を飲んでいるときに気持ちいい歌を歌うのばっかりだったんですよ。でも、最初にタケカワに会ったときにニュートラルなところで作品づくりができるんじゃないかと思いました。ある程度声が低い成分を持っていて、ひばりさんもそうだし、ちあきなおみさんとか、いろいろな人はかなり低いじゃないですか。あれって意外と心地よく人の耳に入るんじゃないかな。タケカワの声のそういうところが好きだったし、彼は作曲能力も評価できた。本当は自分のオリジナルって興味なかったんです。ただいい曲をやろうとか、そういうイメージがあって。当時は歌詞カードをいっぱい持ってきたんだよね。アメリカから帰るときも、ストーンズの曲とか何しろいいと思う曲の歌詞を全部持ってきたりした。
田家:歌詞を持ってきたんですか!? 楽譜じゃなくて。
ミッキー:うん。当時は手書きで書くじゃないですか。それをみんなにもらって、持ってきたんですよ。そういう意味でオリジナルにこだわってなくて、ただバンドをやりたかったというのがあったんですね。で、ここにぴったりタケカワがハマったんです。
田家:1番ニュートラルでいろいろな世代に響く歌ではないか。「ガンダーラ」は日本語盤も出ているんですけども、やっぱり英語の方が「ガンダーラ」らしいのではないかということで、オリジナルのシン・ミックスをお聴きいただきます。
田家:シン・ミックスでこんなにリズム隊が気持ちいい曲だったんだと思ったりしたんです。
ミッキー:これはバッチリ。シン・ミックスで出てきているんですけど、やっぱりヒットを狙ったんですよ。
田家:ヒットの方程式がこの曲にはあるんだっておっしゃってましたね。
ミッキー:それまで3年ぐらいかかっているんです。ここはなんとかヒット出さなきゃと思って。このアレンジにしてもダンヒルサウンド、要するにフォーク・ロックで行こうと思った。ママス・アンド・パパスとかPLスローンとか、リズム隊の大事なところはベース音の長さとか、歌が入るときにちゃんとパツンとする。本当にここは気をつけた。これは嫌がられるほどリズム隊2人言って、今回はそれがバッチリ出てますよね。
田家:オリジナルってあまりそういう聴こえ方がしなかったような気がしたんですよ。
ミッキー:ベースの音の長さが出て、あとは12弦っぽい音がいっぱい入っていると思うのですが、これは単純に「夢のカルフォルニア」も12弦だし「長い髪の少女」も12弦だし。ワイルド・ワンズの「想い出の渚」も12弦。琴線に触れるんじゃないかと思って、使いたかった。
田家:アジア志向の決定打になったわけですけど、英語と日本語は最初から英語で行こうというのがあったんですか?
ミッキー:奈良橋陽子、それからジョニー野村がプロデューサーだったので英語圏に慣れている人が多かったんですね。
田家:奈良橋陽子さんがいたから英語になっているところもあるんですね。
ミッキー:彼女の英詞で1番「ガンダーラ」が好きなんです。〈A beautiful land still waits for few〉と言って、beautiful landはまだあると。それは誰がそこに到達するかということじゃないですか。ちゃんと魂を求めた人がそこに行けるんだというふうに僕は思っているんだけれど、この詞はすごく素晴らしい。自分が音楽を作っていくときの基本になる詞なんだよね。アートの基本でもあるだろうし、これを英語でどうしてもタケカワに歌ってもらいたかった。
田家:そういう曲が中国で最初にコンサートをやる日本のバンドという形で届きました。ネパールでも建国以来、初めてのロックコンサートが行われました。
田家:アルバム8曲目「歓びの歌 feat. Mummy-D」。ベートーヴェンの第九の「歓びの歌」であります。フィーチャリングはRHYMESTERのMummy-Dさん。朗読サッシャさんという人たちがカバーしております。ラップを入れてくれというのはミッキーさんが言われたんでしょ?
ミッキー:インストで全部はなんかつまんないなって言っちゃいけないんだけど、やっぱり言葉が入って、アピールがあった方がいいんじゃないかなと。
田家:ヒップホップというストリートミュージックに対してはどう思われていたんですか?
ミッキー:乗るという意味ではカップスの頃から同じだから、ダンスもそうだし、ヒップホップも結局人を乗っけたいし、自分も乗りたいしという。
田家:横浜はブルース、ソウルミュージックみたいな洋楽から、レゲエの人たちも多いでしょ?
ミッキー:多いですね。ガンダーラって西洋と東洋が混ざったところじゃないですか。横浜は港町でいろいろな文化が交わって、そこからいろいろなものが淘汰されていくと思うんですよね。そういう意味でいろいろな音楽が培われていっちゃうんじゃないかなと思いますね。
田家:『西遊記』にするか、『DEAD END』にするかと悩まれたときの『西遊記』はそういうものが作用していたと思われます?
ミッキー:それもあるし、ビートルズは「Ill Follow The Sun」でしょ。そしたら僕なんかは太陽の方に行くんだよね。日出ずる国から来ているわけだから。そういう意味でアジアも中国から行くのが僕にとってワールドワイドの始まりだと思ったんです。当時は若いといろいろ考えるじゃないですか。ちょうど20代前半だから、難しいこととかいろいろなことを考えちゃっていた。日出ずる国から行くにはどうしたらいいかとか、そんなことばかり考えていましたね。
田家:もしご自分が90年代、2000年代に10代を過ごしていたとしたら、ヒップホップ、ストリートミュージックの方には行かれたでしょうか。
ミッキー:どうかな。それは難しい。僕はやっぱり音楽というものが基本にあるから、ノリだけではなくて別に種類も関係なくいけると思うし、言葉でもヒップホップとかラップとか韻を踏んだりいろいろあるけど、音楽も基本的にはそうじゃないですか。反応しあっていく音楽もそうでシークエンスしていくとか、一楽章、二楽章加わっていくとか。そういう意味では人間のヒューマンネットワークみたいなもので、それが音楽だと思うんですよね。
田家:Mummy-Dさんのラップの中に親から子へとか、子から孫へとか、クラシックとヒップホップみたいなことも言葉にしていますもんね。
ミッキー:「銀河鉄道999」でバッハを使ったり、アマデウス・モーツァルトとかいろいろあるけど、僕が1番影響を受けたのは結局はベートーヴェンだったというのが分かったんです。それは何かと言うと、迫力とポップなメロディですね。きっと知らず知らずに追い求めたのかなと、自分の中ではっきり分かったんですね。
田家:「歓びの歌」の元になっている曲をお聴きいただこうと思うのですが、これはベートーヴェン生誕250年のときのものですか?
ミッキー:そうですね。ベートーヴェンの生誕250年をみんなで祝おうと、僕が好きなピアニストの世界中の音楽家に呼びかけたんですね。この曲をアレンジして出して、ランランがプレイリストに入れてくれたんです。
歓びの歌 / ミッキー吉野
田家:ランランさんという方とお付き合いがあるんですか?
ミッキー:お付き合いというより、うちの家内と2人でよくランランのコンサートを観に行って。僕が今感じる1番のピアニストかな。ベートーヴェンと同じような迫力があるんです。
田家:求めている音楽の歓びは変わってきているんですか?
ミッキー:基本は昨日より今日の方がいい日であるようにとか、明日の方が今日よりいい日であるようにと思う気持ちは生きている喜びにもなるし、音楽をこれだけやってこれると、まさしく求めるものは「歓びの歌」だなと思ったんです。
田家:それがMummy-Dさんの言葉になり、サッシャさんの朗読になりという1曲になったと思っていいんでしょうね。
ミッキー:そうですね。最後に聴いたものだけだと、あの部分だけで単純にいいアレンジしてるじゃないですか。でも、1つの作品と世代と時代を超えた音楽の魂が繋いでいくものを感じられるような楽曲にしたいなと思って、最終的にはああいう形になったわけですね。
田家:流れているのはアルバム9曲目「Beautiful Name(Piano Piece)」。1979年4月発売ゴダイゴのシングルがミッキーさんのソロの曲になっております。これは亀田さんが歌詞を外してやってみようと提案されたんですよね。
ミッキー:みんなが知っているような曲でやるとこういう感じになるんじゃないかと思ったんですけど、やっぱりこれもピアノエンターテイメントじゃないかなと思うんですよね。
田家:タイトルもそうですし、歌の内容もメッセージ色がある。
ミッキー:さっきのDさんと近いですよね。ここでは民族も肌の色も関係なく、子どもたちもみんな美しい名前を持っている。自分の名前の自覚、自分を好きになろうと、そういうのがテーマになっているんですよね。
田家:「歓びの歌」、「Beautiful Name」このへんがミッキーさんと亀田さんお2人がこのアルバムでやろうとしたテーマですよね。
ミッキー:まさしく。
田家:さっき奈良橋陽子さんの名前が出ましたけども、フラワー・トラベリン・バンドというバンドがありますよね。
ミッキー:ジョー山中のバンドですね。
田家:フラワー・トラベリン・バンドもアルバムの歌詞は奈良橋さんが書いていたんですね。『SATORI』というアルバムがあって、オリエンタルな土着的なものを取り入れた日本のロックの名盤だと思っているんですけども。
ミッキー:「HIROSHIMA」もそうで、結局ゴダイゴのプロデューサー・ジョニー野村。この夫婦がジョーたちとフラワー・トラベリン・バンドで奏でて、その経験を活かしてゴダイゴでもっと日本のものを作った感じがしないでもないですよね。
田家:フラワー・トラベリン・バンドがカナダに行った時の受け皿はあの2人だったんですもんね。
ミッキー:おもしろいですよね。これが縁かなと思うけど。
田家:しかもミッキーさんのバンドがフラワーって言葉を使われていたり、ゴダイゴに『FLOWER』ってアルバムがあったり。『FLOWER』に託したものはなんだったんでしょうね。
ミッキー:あまりメルヘン的なことを言いたくないんだけど、自分がボストンにいたときに公園で綺麗な花があって。当時は勉強しているから本を持っているじゃないですか。そこに押し花にして入れておいたんです。それをうちの親に贈ったら、「こういう綺麗な花を人に贈るのは大事だぞ」って言われたんだよね。それがすごく残っていて、だからいつも自分の心を伝えること、美しいものを人に与える。そういう意味でフラワーが出てくるんじゃないかなと。
田家:所謂フラワームーブメントとか、フラワーチルドレンというところとはちょっと違うところにありそうですか。
ミッキー:でも基本はそうじゃないですか。みんなお花をつけてサンフランシスコを目指そうということ。それは花というのがきっと自分の心でもあり、人に対してのやさしさであり、象徴になる目に見えるものなんじゃないかなと思います。
田家:「ビューティフル・ネーム」の日本語バージョンをお送りしようと思います。亀田誠治さんがプロデュースしている日比谷音楽祭では2019年、この曲を日本語で最後にみんなで歌った。そういう曲でもあります。
ビューティフル・ネーム / Godiego
田家:1980年10月23、24日中国の天津で行ったライブの模様が『中国 后醍醐(ちゅうごく ゴダイゴ)』というライブ盤になっていて、この曲をタケカワさんがお客さんに合唱するようにシングアウトのコーラスを指導していますね。
ミッキー:この曲はベストのアレンジなんですよ。詞の内容と同じように地球、人類、みんな本当の共存という意味で、アレンジもフリージャズからいろいろなものが入ってくる。これは知らないうちにやっていたんだけど、音楽は地球そのもので、全てと共存していくことが表現できているなって聴いていてつくづく思っちゃいましたね。
田家:今回の『Keep On Kickin It』のジャケットもそういう思想になって?
ミッキー:あれもやっぱりそういう意味じゃないですかね。肌の色が違っても、全部共存調和していく。うちの家内が描いたのですが、そういうところじゃないですかね。
田家:最後10曲目です。「NEVER GONE feat. 岡村靖幸」、新曲です。作詞がエルヴィス・ウッドストック、リリー・フランキーさん。作曲がミッキー吉野さんです。これはわりと早めに、亀田さんは「DEAD END」と同じときに送られてきたと言っていましたね。
ミッキー:当時新曲を何曲かインストでも書いたんですけど、この曲を書き始めたときにゴダイゴのギターの浅野孝已が亡くなって。
田家:2020年5月12日。
ミッキー:いつの間にか彼のことを思いつつ、曲を仕上げていきました。よく考えてみると、浅野と1番長い間演奏したし、一緒に長く旅もしたし、そういう仲間だったのでどうしても想いがいってしまった。この曲をやり始めたときにカップスのマモル・マヌーとか、ルイズルイス加部が亡くなっていって、そこからショーケンとかジョニー・野村さんとかいろいろな人を想い始めて。この曲でみんなに伝えたかったのは、生きている限り僕の心の中にみんな生きている。そういう曲じゃないかなと思います。
田家:岡村靖幸さんもミッキーさんがおっしゃった?
ミッキー:そうです。たまたまNHKの『SONGS』を観ていたんです。彼が出ていて、いやーこんな歌が上手い人がいるんだと。彼の存在を知らなかったんですけど、とにかく彼の歌を聴いていると人間の悲しみを知っている声に聴こえたんだよね。絶対この曲は彼に歌ってもらいたいと思って、亀田さんに話して実現してよかったです。
田家:詞はリリー・フランキーさんがお書きになっているわけですけど、全くお任せですか。
ミッキー:それは岡村さんサイドから作詞に関して、リリーさんがいいのではないかと言ってくれたんですね。僕も書いてたけど、詞が来てね。やっぱりよかったですね。
田家:作曲をしている曲の頻度みたいなものは以前とかなり変わったりしているんですか?
ミッキー:それはそうですね。昔みたいに仕事があるから書いていた時代じゃないから。
田家:締切があってじゃないですもんね。
ミッキー:今もなんかあれば書きますけど、自分から書こうと思う曲は少なくなるし、僕の場合必ず10年に1回ぐらい何十曲も書いて、それをその後に小出しにしてくわけじゃないけど(笑)。そういうパターンが多かったんですけど、この曲は今回のアルバムで1番好きな曲で、完成度が高い曲だなと思っています。
田家:新曲で終わっていることでキャリアをたどったということの現在という意味ができますもんね。
ミッキー:別にこれは20歳の頃の高望みしているような曲ではないじゃないですか。そのまま感じたまま書いている。ここに到達できている自分がうれしいですね。
NEVER GONE feat. 岡村靖幸 / ミッキー吉野
田家:アルバムでは全曲ピアノをお弾きになっているですもんね。このピアノはご自分でどう思われているんですか?
ミッキー:本当はもっと弾いちゃっていたんだけど、結局最後みなさんのオケを録ってくれた後にもう1回弾き直してよりシンプルになってますね。
田家:シンプルですけど、所謂どっぷり悲しいというピアノじゃないですもんね。
ミッキー:そういう意味では悲しいというより、さっき言ったように僕が生きている限り、みんなは永遠僕の心の中に生きている。そこですよね。
田家:ピアノは毎日お弾きになるんですか?
ミッキー:いやー昔ほどではないですね。
田家:気がついたらピアノの前に座ってるみたいな。
ミッキー:調子悪くなると、やっぱりピアノに行きますね。昔からピアノの前が自分の場所だと思っていて。楽しいときとか、うれしいときにろくな曲を書けないし、どこか自分の中で疑問とかおかしいとか、不安定なときに曲が書ける気がするなと思います。オルガンは官能的なものしか表現できないけれど、ピアノは本当に喜怒哀楽全部表現できるから。表現の手段だとしたらピアノが原点ですよね。
田家:さっきお名前が出ましたけど、マモル・マヌーさんとか、ルイズルイス加部さんとか、プロデューサー・ジョニー野村さんとか、浅野さんとかいろいろな方が亡くなっている中で残された人間の役割を考えたりされますか?
ミッキー:役割は楽しく生きていくことかな。毎日楽しく生きていくのが先に亡くなった人たちに対してかもしれないし。
田家:亡くなった人たちのことだとか、自分たちが生きてきた頃のことを伝えていきたい気持ちはまだおありになる?
ミッキー:タケカワともよく話すんですけど、新曲を発表するとかではなくて、過去にやったものをもう1回ゴダイゴが宣伝したいねという気持ちの方が強いかな。カップスもそうですね。今回のアルバムがそれを1番表しているから、役目とすればそんな感じですかね。Charからときどき電話かかってきて、「いろいろなことを知っているのは俺とあんただけだからさ」とか(笑)。そういう感じってありますよね。
田家:ありますよね。いっぱい語ってください。ありがとうございました。
ミッキー:ありがとうございました。
アルバム『Keep On Kickin It』ジャケット写真
ミッキー吉野さん70歳、14歳でプロデビューしてから56年。先週ゴダイゴの中の日本とアメリカという話もしましたけど、ゴダイゴの歴史は横浜という街が大きいと思いますね。ソウルもジャズもロックも洋楽が日本で1番早かった街です。東京のミュージシャンが横浜のミュージシャンに対して一目も二目も置いていた。中華街もあるわけで、子どもの頃からグローバルな環境の中で大人になってきた。そういう中でグループ・サウンズもあり、アメリカもあり、アジアもあり、作曲家としてクラシックまで繋がっている。今はヒップホップとかラップに対しての理解もある。サブカルチャーとして始まった人が、サブだメインだということを全部越えて、音楽家として成長しての今でも現役、キャリアの70年なんだと思ったんです。ザ・ゴールデン・カップスのオリジナル・メンバーはミッキー吉野さんとエディ藩さんしか残ってないわけで、本当に伝説的な存在でもあるわけですが、音楽家としても現役である。いろいろな時代を交錯しているアーティストのことはサブスクの時代だからこそ、正当な評価ができるのではないかとあらためて思ったりもしました。今、あらためてミッキー吉野物語をたどるとどうなるだろうなと思いながら終わりたいと思います。ミッキー吉野さん、現役です。
<INFORMATION>
田家秀樹
1946年、千葉県船橋市生まれ。中央大法学部政治学科卒。1969年、タウン誌のはしりとなった「新宿プレイマップ」創刊編集者を皮切りに、「セイ!ヤング」などの放送作家、若者雑誌編集長を経て音楽評論家、ノンフィクション作家、放送作家、音楽番組パーソリナリテイとして活躍中。
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