チャーリーXCXが語る、2022年の「セルアウト」の形
Rolling Stone Japan / 2022年3月21日 12時0分
パンデミックがもたらした苦難の時期を乗り越えたポップスターは、キャリア史上屈指の名曲を収めたアルバム『CRASH』で再びシーンに戻ってきた。
【写真を見る】チャーリーXCX『CRASH』アートワーク
チャーリーXCXはポップ界で最もエキセントリックな作家でありパフォーマーの1人だが、彼女はいよいよ本気で「ポップ界の主役」になるつもりだ。リリースされたばかりの新作『CRASH』は、非常にユニークなコンセプトを掲げている。キャッチーなフックに満ちた非の打ち所のないポップアルバムであると同時に、同作は過去数十年間のポップの歴史を駆け足で辿ろうとする。楽しくあるべきという彼女のモットーは、『CRASH』においても大前提となっている。「私っていう人間と私の作品を知ってる人の多くは、私がいつも半分本気で、残り半分はただのおふざけだってことを分かってる」。イングランドの田舎町に滞在しながら、電話取材に応じてくれた彼女はそう話す
『CRASH』はロックダウン下でタイトな締め切りに追われながら完成させた2020年作『How Im Feeling Now』以来初のアルバムとなる。彼女のドキュメンタリー映画『Alone Together』は、同作の制作プロセスの記録だった。音源と同じように、同ドキュメンタリーは極めてパーソナルな内容となっており、パンデミックと自身で定めた期限内にアルバムを完成させるという目標がもたらした葛藤、そして彼女のプライベートな一面が克明に描かれている。「理解してもらえないこともある」と、彼女は自身の作品について話す。「作品に対する評判が芳しくないってこと。でも、それが私のやりたいことだから」
ー先日、あのドキュメンタリー映画を観たのですが。
観たんだ……。
ーなぜそんな反応なのですか?
前世の記録みたいに感じるから。正直、観てるとつらくなる。それに、残念ながら当時のカレとはもう別れたし。ものすごく感情的になってしまうから、私はもう2度とあれを観ないと思う。
ーあの作品はあなたの2020年の縮図だったと思うのですが、2021年はどんな年でしたか?
『CRASH』の制作は『How Im Feeling Now』よりも前から始めていたんだけど、パンデミックで世界の状況が一変して方向転換することにしたの。14歳の時に実家のベッドルームで音楽を作り始めた頃のような、ものすごくローファイな方法で何か(『How Im Feeling Now』)を作り、レンタルしたグリーンバックを使って自宅の地下室でミュージックビデオを撮影した後だっただけに、メキシコシティでHannah Lux Davisと一緒にビデオを撮るっていうのがすごく新鮮だった。プロジェクトの内容が毎回ガラッと変わるっていうのは、私にとってはいつものことなんだけど。
ー『CRASH』には、悪魔と契約を交わしたポップスターという明確なコンセプトと背景があります。それはアルバムの制作を始めた時から決めていたのでしょうか?
現代のポップミュージックの世界における「セルアウト」っていう概念に、そんなものが存在すればだけど、前から興味があったの。私は16歳の時からずっとメジャーレーベルにいるけど、そういう立場のアーティストとしてはかなり珍しい道を歩んできたし、独特な存在だと思う。このアルバムとそのビジュアル面には、それがはっきり表れてると思う。本物っていう概念に対する私の考え方もね。アーティストってみんな、自分で曲を書けること、自分でミュージックビデオを作れること、何もかも自分でコントロールしていること、そういうのを証明しなきゃいけないって感じてると思う。でも私は歳を取るにつれて、そういうのがどうでも良くなってきた。自分が優れたポップソングを書き、ビジョンを形にして伝えられるということを、私は誰よりもよく分かってるから。
予定調和からの脱却
ーいつ頃から自分の実力を証明する必要がないと感じるようになりましたか? ポップミュージック、自分自身、自分の作品に対する世間の声を気にかけなくていいと考えるきっかけになる、具体的なプロジェクトや瞬間があったのでしょうか?
『Sucker』(2014年の2ndアルバム)以降、ソフィーとA.G.クックと仕事をするようになってからだと思う。あの頃から今に至るまでそれは変わってないし、多分今後も変わらない。それって簡単なことじゃないし、明確な基準があるわけでもない。私は考えをコロコロ変えるから、気が変わる可能性は否定できないけど。以前の私は、自分の音楽や行動が予定調和になりつつあるって感じてた。『CRASH』の制作がすごく刺激的だったのは、それが世間が私に期待するものとは違うから。オーディエンスを挑発し、時には戸惑わせるような存在、それが本当の自分だと思ってる。
ーあなたは車のモチーフが好きで、それは今作のカバーにも表れています。ファンの間ではデヴィッド・クローネンバーグの映画『クラッシュ』へのオマージュだという意見もあるようですが、どうなのでしょうか?
私はクラッシュっていう言葉の響きが好きなの。「Boom Clap」とか「Vroom Vroom」とかもそうで、私の作品の多くに共通する傾向だと思う。注目すべき点は、私が車を運転しているカバー写真は1枚もないってところね。その事実にどんな意味があるのかを、是非いろいろと推測してもらいたい。今回のカバーでは、ボンネットに乗ってる私は怪我してるけど明らかに生きていて、むしろ支配的な立場にあるように見える。これぞ私流のアートって感じ。あと、この写真の私はマジでホットだと思う。
ーシングルとして発表された「NEW SHAPES (FEAT. CHRISTINE AND THE QUEENS AND CAROLINE POLACHEK)」には、友人のクリスティン・アンド・ザ・クイーンズとキャロライン・ポラチェックが参加しています。2人とはどのような経緯で親しくなったのでしょうか?
音楽の面でもプライベートの面でも、私たちはいろんなことを一緒に経験した。キャロラインはロサンゼルスに買った家が完成するまでの3か月間、私の家に住んでた。彼女のパートナーは昔、私と同じアートスクールに通ってたし。クリスティンは私が恋愛とセックスのことで何かと悩んでいた時に、いろんな面で支えになってくれた。それは「NEW SHAPES」のテーマの1つでもあるの。
ー昨年12月には、2人と一緒にSNLのミュージカルゲストとして出演する予定になっていました。コロナウイルスの感染拡大を理由に、残念ながらキャンセルとなってしまいましたが。今シーズン中に改めて出演する予定はありますか?
そうであってほしいけどね。あれに出るのって、すごく名誉なことだから。2015年以来出てないから、キャンセルになってすごく悲しかった。しかも、あのエピソードの進行役はポール・ラッドだったのよ! 彼ってすごくクール。あのパフォーマンスは特別なものにするつもりだった。自分史上最高のTVパフォーマンスにしてみせるって意気込んでたの。それだけに、キャンセルになった時は心が折れたわ。あれは私が主役になる瞬間だったはずだから。そう遠くないうちに、また機会があればいいなと思ってる。実現しますように……(註:その後、出演を果たした)。
from Rolling Stone US
<INFORMATION>
『CRASH / クラッシュ』
Charli XCX / チャーリーXCX
ワーナーミュージック・ジャパン
配信中 / 輸入盤発売中
日本盤 3月30日発売
ダウンロード/ストリーミングはこちら:
https://CharliXCXjp.lnk.to/CRASHMe
トラックリスト
1. CRASH / クラッシュ
2. NEW SHAPES (FEAT. CHRISTINE AND THE QUEENS AND CAROLINE POLACHEK) / ニュー・シェイプス(feat. クリスティーヌ・アンド・ザ・クイーンズ&キャロライン・ポラチェック)
3. GOOD ONES / グッド・ワンズ
4. CONSTANT REPEAT / コンスタント・リピート
5. BEG FOR YOU (FEAT. RINA SAWAYAMA) / ベッグ・フォー・ユー(feat. リナ・サワヤマ)
6. MOVE ME / ムーヴ・ミー
7. BABY / ベイビー
8. LIGHTNING / ライトニング
9. EVERY RULE / エヴリ・ルール
10. YUCK / ヤック
11. USED TO KNOW ME / ユースト・トゥ・ノウ・ミー
12. TWICE / トゥワイス
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