THE COLLECTORS、「現在進行形のバンド」としての姿を見せつけた2度目の武道館
Rolling Stone Japan / 2022年3月29日 11時30分
THE COLLECTORSが3月13日(日)に開催した、5年ぶり2度目の日本武道館公演「This is Mods」をレポート。執筆者はバンドと親交の深い荒野政寿(「クロスビート」元編集長/シンコーミュージック書籍編集部)。
【写真を見る】「THE COLLECTORS 35th Anniversary "This is Mods"」ライブ写真(記事未掲載カットあり)
THE COLLECTORSにとって、5年ぶり2度目となる日本武道館でのワンマン公演。しかし前回の2017年3月とは、良い意味でも悪い意味でも、状況がまるで違う。
新ドラマー、古沢 cozi 岳之が加わってから短期間で準備を整えて成功させた最初の武道館に対し、その後『YOUNG MAN ROCK』(2018年)、『別世界旅行〜A Trip in Any Other World〜』(2020年)と力作を続けて発表、歯車がぴったり噛み合っている現在のバンドは万全のコンディション。しかしその一方で、2020年1月からスタートしたツアーはコロナ禍の影響で5公演が急遽キャンセルされ、恒例となった渋谷CLUB QUATTROでのマンスリー・ライブも延期されるという異例の事態に直面した。
生粋のライブ・バンドであるTHE COLLECTORSにとって、歓声なしという限定的なパフォーマンスを模索せざるを得なくなった2020年は大きな試練の年。ライブ映像の有料配信シリーズを試しつつ、11月には加藤ひさしの還暦記念ライブを大宮ソニックシティで開催、ライブに飢えていたファンの溜飲を下げている。この段階ではまだ、新しいライブの形をバンド側も観る側も戸惑いながら手探りしている感じだったが、2021年6月に大阪城野外音楽堂で開かれた結成35周年記念ライブ”Mod Go Round”の頃にはフラッグを振って参加するオーディエンスが目立って増えてきた。その印象的な様子は、同公演の映像を含むDVDボックス『Filmography』で確認して欲しい。
思い返してみると、「CHEWING GUM」演奏時に客がリグレイのチューインガムをステージに投げ込むという ”名物”も、「僕はコレクター」で全オーディエンスが左右に大きく手を振るお決まりのアクションも、ライブで発生していつの間にか定着したもの。そんな風にファンを刺激して何かを起こし、共にライブを作ってきたバンドなのだ、THE COLLECTORSは。
Photo by 後藤倫人
2021年はリリースも活発で、6月に7インチ・ボックス『13 VINYL SINGLES』、11月にDVDボックス『Filmography』を発表。前者に収められた「ヒマラヤ」、後者に収められた「裸のランチ」といった新曲も、同年11月からスタートした ”Its Mod Mod World Tour”で重要な位置を占める曲に育っていく。そのツアーの勢いをキープしたまま、武道館になだれ込んできた形だ。
なので、”This is Mods”と題された3月13日の武道館公演は、キャリア集大成的な幅広い選曲になった2017年と異なり、現メンバーになってからの曲をたっぷり含む、現在進行形のバンドの威力を見せつけるセットリストになった。こういう特別なライブで映える「僕は恐竜」「2065」といった人気曲を敢えて外し、タイトル通り”ネオ・モッズ以降”の価値観にこだわってきたバンドの美学をわかりやすく伝える方向に着地。ポストパンク世代ならではのモッズ観を体現するシャープでパワー・ポップ的な楽曲が多めに選ばれたことで、魅力の”核”がむき出しになったと思う。ターゲットマーク型の巨大な照明や、スクーターをステージ上に置く演出も、これ以上ないほどうまくはまっていた。
「2度目」ゆえのリラックス感
この日のために用意されたエレポップ風の序曲「This is Mods」(Mの「Pop Muzik」や、フロントマンの加藤ひさしが気に入っていた『テレタビーズ』のテーマ曲を思い出させるチャーミングなインストゥルメンタル)が映像とシンクロして流され、場内の温度が一気にヒートアップしたところでメンバーが登場。ライブは加藤がコロナ禍の鬱憤を晴らすように書き上げたという”八つ当たりソングでありロックンロールの原点”、「裸のランチ」から爆発的にスタートした。
そこから「クルーソー」「ヒマラヤ」「ひとりぼっちのアイラブユー」まで、ビート・ナンバーばかりを畳み掛けるように披露。元THE SHAMROCKでネオ・モッズの粋を知り尽くした山森”JEFF”正之のよく動くベースが唸りを上げ、楽曲との相性の良さを痛感させる。
Photo by 後藤倫人
トークを挟んでから、少し雰囲気を変えてミドルテンポのバラード、「GIFT」を。当時全盛のJ-POP勢に対抗すべく、ソングライターとして試行錯誤を繰り返していた時期の名曲が、今では時代を越えて普遍的なラヴ・ソングとして胸に染み込んでくるから面白い。
現在に通じる”一皮剝けた”日本語ロックの原点、「たよれる男」では、古市コータローがイントロに入る前からグッとブルージーに煽る。間奏ではノイジーなワウ・ギターで容赦なく攻めまくり、早くも前半のハイライトと呼ぶに相応しい見せ場を作っていた。モータウン・ビートの「Stay Cool! Stay Hip! Stay Young!」も、ベースが普段よりゴリッと太めでワイルドに感じる。飛び切りポップなのだが、”ロック”としか言いようのない音像だ。
Photo by 後藤倫人
続く「扉をたたいて」は、古市コータローが加入したばかりの時期に生まれた曲。つまり加藤&古市という2トップの原点となる曲で、これを武道館で聴けるとは堪らない。傑作『虹色サーカス団』の中でも人気が高い、加藤のハイトーンが強烈なバラードだが、高音がスッと出て往時の輝きを失っていないことに驚かされる。もともとシンガーとしての強度が桁違いなのは言うまでもないが、60代に入ってからも不思議と衰えが感じられないのだ。
後半は、パンキッシュな「全部やれ!」、コレクターズ流パワー・ポップの見本のような「ノビシロマックス」を続けざまに。その後のトークで加藤ひさしが1981年に武道館で見たザ・ポリスについて話していた。筆者がこの日座っていた席は以前プリンスを観たのと同じ辺りで、そう言えばここでザ・フーやエリック・クラプトンも観たんだっけ……と、この聖地で観たスーパースターたちの勇姿が脳裏をよぎる。そうした絶対的なレジェンドしか立てない場所だった武道館だが、この日の4人は普段ライブハウスで演っているときとそれほど変わらない感じで、割とリラックスして演奏を楽しんでいるように見えた点は、前回の武道館との大きな違いかもしれない。前回は「ようやく曲が持っているスケールの大きさに合うハコに来た」と思ったものだが、この日は武道館ってこんなに狭かったっけ、と思わず見渡すことが多かった。
ダメ押しされるモッズ魂
古市が歌う軽妙なロックンロール「マネー」を終えて加藤が一旦退場すると、ステージ場に残った3人が怒涛のジャムに突入(渡されたセットリストには「Instrumental」とだけ書いてあった)。優れたプレイヤー揃いのバンドだけに、ヘヴィなリフ・ロックのダイナミズムも堂々と表現できてしまうから恐ろしい。その熱が冷めないうちに、着替えを済ませた加藤が登場。続く「ロボット工場」では、元来持っていた”セックス・ピストルズ+ザ・ジャム”的な刺々しさが浮き彫りになり、ド迫力で押しまくる。
短いインストゥルメンタルを冒頭に加えた「愛ある世界」で理想のラヴ&ピースを高らかに歌い上げてから、初期を象徴する反戦歌「NICK! NICK! NICK!」を披露。マイケル・チミノ監督の映画『ディア・ハンター』にインスパイアされて生まれた曲だ。演奏中に照明がウクライナの国旗と同じ青と黄色に変わるや、一部の観客がこれに反応、掲げていたペンライトの色も青と黄がじわじわと広がっていく……という感動的な光景を見ることもできた。偶発的に起きた現象らしいのだが、こういうマジックが起こるのもTHE COLLECTORSのライブならでは、だと思う。この曲を歌い切ってから、思わず「これがロックだよ!」と叫ぶ加藤ひさし。曲を通してプロテストすることがごく当たり前だった世代ならではの、極めてまっすぐな雄叫びだ。
そして本編はいよいよ終盤。「お願いマーシー」「限界ライン」、そしてドラマティックな「虚っぽの世界」と並ぶ3曲の流れは、いまだに出口が見えないコロナ禍の閉塞感に抗いたい我々の気持ちに、何気なく寄り添ってくれているようにも思えた。この辺は選曲マジックの見せどころだ。
Photo by 後藤倫人
アンコールは、ディープ・パープル「紫の炎」(1975年にこの場所でパープルが演奏した曲だ)のイントロを少し聞かせて聖地・武道館に一礼してから、不朽のラヴ・ソング「世界を止めて」で踊らせて、クライマックスへ。そして「僕はコレクター」で大団円……かと思いきや、なんとダブル・アンコールでもう1曲、「僕の時間機械」が隠れていた。しかも、加藤ひさしはモッズパーカーを着て歌うという徹底ぶり。最後まで冷静に見届けるつもりだったが、このダメ押しにはさすがに頰が緩んだ。
MCで加藤ひさしからメンバー紹介をいきなり振られた古市コータローは、咄嗟に「最高のシンガーであり、ソングライターだと思います!」と加藤について表現していた。その2つこそ、何度もピンチを経験してきたTHE COLLECTORSを今日まで生き永らえさせてきた大きな原動力。デビュー当時は”マニアックで趣味の良いバンド”として扱われていた彼らが、35年もの活動を経て、武道館を2回埋めるほど多くの人々に愛される存在になったのも、圧倒的な詞・曲の魅力があってこそだろう。果てしない紆余曲折の末に、このバンドを最も輝かせる方法をついに見出したのかも……と実感させる、ほぼパーフェクトと言っていい内容の全21曲であった。
セットリスト
01. 裸のランチ
02. クルーソー
03. ヒマラヤ
04. ひとりぼっちのアイラブユー
05. GIFT
06. たよれる男
07. Stay Cool! Stay Hip! Stay Young!
08. 扉をたたいて
09. 全部やれ!
10. ノビシロマックス
11. マネー
12. Instrumental
13. ロボット工場
14. 愛ある世界
15. NICK! NICK! NICK!
16. お願いマーシー
17. 限界ライン
18. 虚っぽの世界
<アンコール>
19. 世界を止めて
20. 僕はコレクター
<ダブルアンコール>
21. 僕の時間機械
THE COLLECTORS 東名阪ツアー
2022年7月23日(土)東京都 チームスマイル・豊洲PIT
2022年8月27日(土)大阪府 BIGCAT
2022年8月28日(日)愛知県 名古屋CLUB QUATTRO
この記事に関連するニュース
-
山崎育三郎&花總まり、武道館で感動のデュエット→幾田りら、氷川きよしら豪華メンバーで「思春期の目」
ORICON NEWS / 2024年11月24日 12時16分
-
山崎育三郎が考える究極のエンターテインメントショー ロバート秋山、幾田りら、花總まり、氷川きよし+KIINA. と豪華コラボ! 「THIS IS IKU 2024 日本武道館」
ニッポン放送 NEWS ONLINE / 2024年11月23日 21時45分
-
「50歳をすぎて歌う『深夜高速』はヤバい。死ぬってことがよりリアリティを持って…」 フラワーカンパニーズの名曲はなぜここまで愛され続けているのか
集英社オンライン / 2024年11月23日 17時0分
-
とんねるず、超満員の武道館LIVE「29年ぶりに帰ってまいりました」 “異例演出”アンコール20曲以上で魅了
ORICON NEWS / 2024年11月10日 4時0分
-
ハンブレッダーズ日本武道館公演、声なき人の声を代弁したロックミュージック
Rolling Stone Japan / 2024年10月30日 18時0分
ランキング
-
1森且行、SMAP5人へ「僕の宝物」思い明かす!伝説の断髪式秘話も
シネマトゥデイ 映画情報 / 2024年11月27日 7時7分
-
2借金600万円芸人 「本当は貯金あるだろ!」のクレームで預金残高“公開” まさかの額に…
スポニチアネックス / 2024年11月27日 6時18分
-
3小田和正 77歳7カ月で全国アリーナツアー開催 自己記録更新!全国28公演で31万人動員
スポニチアネックス / 2024年11月27日 6時3分
-
4「あのクズ」ほこ美(奈緒)に衝撃展開「怖すぎる」「なんの目的?」視聴者戦慄
モデルプレス / 2024年11月26日 23時39分
-
5【独自】「大きいサイズがない」梅宮アンナに聞く、乳がん術後の下着事情と“上がらない”右腕
週刊女性PRIME / 2024年11月27日 9時0分
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
エラーが発生しました
ページを再読み込みして
ください