キース・リチャーズが語る「死」との向き合い方、ストーンズ新作の行方、クラプトン騒動
Rolling Stone Japan / 2022年3月24日 17時45分
今は亡きチャーリー・ワッツはかつて、ザ・ローリング・ストーンズのギタリストであるキース・リチャーズの自滅的な行動には、常に「生きることへの強い意志」を感じると言った。しかしキース自身には、さほど自覚がない。「人は皆、それぞれのやり方で成長していくもんだ。たぶん俺は馬鹿だから、生きるか死ぬかの状況に自分自身を追い込んでいるんだと思う。でも一度きりの人生は楽しまなきゃ損だ」と彼は言う。
この最新インタビューでキースは、リリースされたばかりの1992年のソロアルバム『Main Offender』30周年記念エディションや、彼のソロ活動を後押ししたミック・ジャガー、『Gimme Shelter』の誕生秘話、そしてストーンズの将来、エリック・クラプトン、ポール・マッカートニーなどについて語っている。
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ーソロデビューアルバムの『Talk Is Cheap』は、言葉には出さなかったものの、「くたばれミック」的なムードが漂っていました。でも、ストーンズが再結集して制作したアルバム『Steel Wheels』に続いてリリースされたソロアルバム『Main Offender』は、違ったイメージを感じられます。ミックと和解したことで、ソロアルバムへ注ぐエネルギーに何らかの影響があったのでしょうか?
キース:俺としては「ふざけるなよ、ミック」という気持ちが今でも結構ある。もちろん、それがメインテーマではない。むしろ、その時期にソロアルバムを作らなければならない状況に腹を立てていた。ソロでの活動など全く考えていなかったからな。でも振り返ってみると、ローリング・ストーンズという殻に閉じ込められていた俺たちは、それぞれが翼を広げて飛び立たねばならない時期に来ていたんだと思う。それで俺が選んだのがWinosで、大いに楽しんだよ。スティーヴ・ジョーダンとは今でもストーンズで一緒にやっているが、それはまた別の話だ。Winosはみんないい奴らで、もともと知り合いだったり友人同士だったりした連中さ。こんなメンバーが集まれたのは、俺にとって奇跡としか言いようがない。今でもその一瞬一瞬を大切にしている。「深入りしすぎた(訳註:収録曲のタイトル「Runnin Too Deep」)」のさ。
ー『Main Offender』を聴いただけでは、レコーディングされた時期を言い当てることはできません。時代すら感じさせない作品です。
キース:その通りだな。時代を超越した作品だ。結局は大半のストーンズ作品も同じさ。『Main Offender』を聴きながら、ワディ(・ワクテル)やアイヴァン(・ネヴィル)やスティーヴ(・ジョーダン)が「キース、このアルバムは一時的なブームでは終わらない。後世まで残る作品だ」と言っていたのを思い出した。面白いことに、その通りになったな。
ーレゲエナンバーの「Words of Wonder」では、ベースも弾いています。あなたがレゲエのベースを弾くのは、とても珍しいと思います。この曲でベースを弾いた時のことは覚えていますか?
キース:初めはワディ・ワクテルが弾いていた。実はずっと前から、ベースを弾くのが好きだった。ストーンズでの話だが、「Sympathy for the Devil」のベースは俺が弾いている。
ー「Jumping Jack Flash」や「Happy」などでも弾いてますね。
キース:ああそうさ。ベースが好きなんだ。転向しようかと考えたりもする。そして「Words of Wonder」だ。ワディと書いたんだが、本当に魅力的な曲だ。俺は何年かジャマイカに住んでいたこともある。「俺がベースを弾く」と、自分で言い出したのさ。レゲエは、ベースが中心の音楽だ。出たり入ったりで、合わせて10年ぐらいはジャマイカに住んでいた。(レゲエ・ベースのレジェンド)ロビー・シェイクスピアとは親友だった。つい最近逝っちまった。彼の冥福を祈っているよ。何だかわからないが、いつもベースに背中をなめ回されているような感じがするんだ。わかるかな、この感覚が。
ー何だか、いやらしい感じですね。
キース:そうさ。いつも後ろから追いかけて来るのさ。わかるかい?
ー面白いですね。ストーンズであなたがベースを担当した曲や「Happy」のスタジオバージョンを聴くと、あなたのベースのビートがかなりビハインドしていて、曲のサウンドにすごくマッチしているのがわかります。
キース:ビハインドし過ぎて、ほとんど表のビートになっていたりしてな。でも、ビートを後ろへ引っ張るやり方は気に入っている。一緒にプレイするドラマーにもよるけどな。でもドラマーによっては、いつまでやっても堂々巡りの場合もある。言葉で表現するのは難しいが、自分でやってみて感じるしかない。
ー初めにスティーヴ・ジョーダンをあなたに紹介したのは、チャーリー・ワッツでした。ワッツの冥福をお祈りします。ワッツとジョーダンのリズム感覚は、似ているような気がします。表現するのはものすごく難しいですが、ドラマーとしての共通点があるように思います。
キース:俺も初めにそう思った。スティーヴ・ジョーダンは、チャーリー・ワッツのドラムを聴いて育ち、彼を尊敬している。スティーヴの中には、ストーンズの一員としてプレーしていたチャーリー・ワッツのエッセンスが残っている。チャーリーのドラムは唯一無二で、彼ほどセンシティブなドラムを奏でる人間には出会ったことがない。でも時々、スティーヴのドラムを聴いていると、チャーリーがプレイしているのではないかと錯覚することがある。Winosでは、ストーンズを聴いて育った連中とプレイできて、彼らなりの解釈のストーンズ曲が聴けて楽しい。スティーヴと俺は、今ずっと一緒に作業を続けている。
ー作業というと、次のソロアルバムですか?
キース:色々さ。今は手探り状態だ。とにかく今はツアーを終えたばかりで、春になろうとしている時期だろう? 今年は何をやろうか、考えているところさ。そして今年はストーンズの60周年だ。間違いなく何か記念のイベントをやるだろう。今の時点では、今年どうなるかを言うのは早過ぎる。ムカつくコロナがまだいるしな。早く過ぎ去ってくれるのを願っているよ。今年は魅力的な音楽が生まれそうな気がする。
「誰の中にも悪魔は棲む」
ー『Main Offender』の「Wicked as It Seems」は、ストーンズの後の楽曲「Love Is Strong」に共通するものを感じます。まるで従兄弟同士のようです。あなたにとってこの2曲は、同一線上にある作品でしょうか?
キース:「Wicked as It Seems」と「Love Is Strong」が従兄弟同士だというのは、間違いないね。実際はもっと近い存在かもしれない。
ー別々の道を歩んだ一卵性双生児のようなものでしょうか。あなたは、同じ材料から様々な作品を作り出すことができる人です。
キース:奇遇だな。俺もこの2曲には同じことを感じていたよ。とにかく、ひとつのテーマから2つの楽曲が出来上がったということだ。時期的にも、ほぼ同じタイミングで作った。今聴き返してみると、「もっと作れたはずだ」と思う。
ーオープニング曲の「999」からは、ZZトップを連想するという人が何人もいます。そんな話を聞いたことがありますか?
キース:言いたいことはよくわかるよ。でも「999」は、俺から言わせれば物の値段について歌った曲だぜ。
ーあなたにしては珍しく、いつもよりもギターのトーンが歪んで聴こえます。
キース:そうだな。たぶん、エフェクターのペダルを間違えて踏んだんだろう(笑)
ー最後の「Demon」は、美しい曲です。”俺の中に悪魔が棲む”と歌っていますが、ご自身と重ねているのでしょうか?
キース:難しい質問だ。誰の中にも悪魔は棲んでいると思う。俺自身もそれを認めているってことさ。
ー私の考え過ぎかもしれませんが、アルコールやドラッグへと誘惑する”悪魔”が、才能を開花させてクリエイティブな方向へと導く”悪魔”でもあり、どちらかを選べるものではない、と解釈しました。根源は一緒だということです。
キース:その通り。ここで言う悪魔が、必ずしも邪悪なものとは限らないということだ。物ごとをスパークさせられるかもしれない。この曲を書いた時は、俺も同じことで悩んでいた。ダークな方へ……でも悪魔は、エネルギーを与えてくれるものだと気づいたのさ。
ーあなたの中の悪魔を、死なせてはいけないのかもしれませんね。
キース:善か悪かを決めるのは自分自身だ。そんな存在を信じるかどうかも自分次第だ。しかし悪魔に乗っ取られたら、従うしかなくなる。
「Gimme Shelter」誕生秘話
ー『Main Offender』制作時、あなたは48歳だったと思います。当時は、ロックをプレイするには歳を取り過ぎていると言う人間もいたでしょう。今となっては笑い話です。当時を振り返ってみて、いかがですか。
キース:20代の頃は、今よりもずっと老けているのではないかと思うこともあった。でも結局は、自分自身をどう見ているか、他人からどう見えるか、という相対的な問題さ。俺はいつでも、人生の明るい方だけを見るようにしているからな。
ー今回のボックスセットには、The X-Pensive Winosのライブも収録されています。あなたの歌う「Gimme Shelter」は、必聴です。元々はあなたが書いた楽曲ですが、ご自身で歌ってみてどう感じましたか?
キース:Winosのライブでやったことすら忘れていた。この曲を作った日のことが、ふと蘇ったよ。場所はロンドンのマウントストリートで、雨の日だった。激しい嵐が近づいて、人々が雨宿りの場所を探していた。この曲は、そんな日常の風景から生まれたのさ。そしてもちろん、曲として仕上げるには、ストーリーを膨らませなきゃいけないと思った。たったひとつの嵐から、もっと色々とね。それから俺の歌うこの曲を聴くのはライブ以来だったから、何だか差し迫ったものを感じたよ。「Gimme Shelter」には愛着があるんだ。
ーミック(・ジャガー)は、この曲にどう関わったのでしょうか?
キース:膨らませるのを手伝った。俺が女性とのデュエットを入れたいと言ったら、展開を作ってくれた。それから何というか、よりビジュアル的な存在感を増して、ステージ映えする曲に仕上がった。レイプや殺人といった事件には、やじ馬が集まるだろう?
ー1992年にこの素晴らしいソロアルバムを作ってから、2015年まで次のソロ作品を出さなかったのには、何か理由があるのでしょうか?
キース:特にない。不思議なことだが、その頃はストーンズで忙しかったんだと思う。それから赤ちゃんができて……まあ産んだのは妻だが。次のソロアルバムに取り掛かったのは、ストーンズの活動が長い休みに入ったからだ。「Talk Is Cheap」や「Main Offender」を作った時と、全く同じ理由さ。2012年10月頃に、また時間ができたということだ。
そしてスティーヴと俺は……とその前に、(マネージャーの)ジェーン・ローズに言われたのさ。「スティーヴを呼びなさい。ストーンズの活動がどうなるか指をくわえて待っていないで、何かしたらどう?」ってね。そうでもしなければ、俺はぶらぶらと遊んでいるだけだったかもな。それもいいが、堕落した生活はダメだ。ラッキーなことにスティーヴとスケジュールが合って、一緒に何か作ろうということになった。Winosとして長いこと一緒にやってきたメンバーもいるし、素晴らしい人々との出会いもあった。『Crosseyed Heart』も、好きな作品のひとつだ。ストーンズとしての活動のプレッシャーが全くない時期だったからこそ、それぞれのソロ作品に集中できたのだろう。
ストーンズ新作の行方
ー2016年に、ローリングストーン誌のカバーストーリー向けに、あなたとミックとロン(・ウッド)にインタビューした際、ブルーズのカバーアルバム『Blue & Lonesome』の他に、新曲によるスタジオアルバムを準備していると仰っていました。その後、ストーンズのニューアルバムはどうなっていますか。なぜそんなに時間が掛かっているのか、などと無礼な聞き方はしません。できるだけ丁寧にお伺いします。どうして長い時間をかけていらっしゃるのでしょうか?
キース:今俺が言えることはないな。でも知っておいて欲しいのは……俺が君らに何を知って欲しいと思う? とにかく俺は音楽をやっているのが好き、ということだ。こっちに仕事がなければ、あちらでやるまでさ。
ーニューアルバム向けに、チャーリーが自身のドラムパートをレコーディングしていたとの報道もありました。事実ですか? チャーリーは、次のアルバムのレコーディングを終えていたのでしょうか。
キース:全く事実ではない。チャーリー・ワッツがプレイしていたのは事実だ。昨年はミックと何曲かやったり、俺とも多くの曲をプレイした。でもチャーリー・ワッツの心境としては「僕はいなくなる存在だから、レコーディングしておこう」などという感じではなかった。彼はそんなタイプの人間ではない。そういう考え方も嫌いな人だった。チャーリーは、「曲ができたから、ちょっと来て一緒にやってくれよ」と頼まれたらプレイする、という感じだった。彼流のやり方さ。チャーリー・ワッツとレコーディングした作品は、たくさんあるさ。彼が亡くなった当時もアルバムの制作中だったからね。でもな……愛すべき素晴らしい人間だった。
Photo by Claude Gassian
ーストーンズとしてのアルバムを仕上げるために、スティーヴが何曲かプレイするという選択肢もあるかと思います。いかがでしょうか。
キース:俺たちが今年中に解決しなければならない課題のひとつだと思う。もちろん、レコーディングを続けるのであればドラムは必要だし、その時はスティーヴ・ジョーダンに任せるだろう。数カ月前にツアーが始まる頃は、「チャーリーなしではとてもできない」と俺は言っていた。でもチャーリーが、「いいかキース、スティーヴとならできる。これまでもずっと彼とやってきたじゃないか。彼ならいつでも僕の代わりができる。君もよくわかっているだろう」と、俺を説得したのさ。だから、スティーヴに能力があるかないかという問題ではなかった。今後どうまとまっていくかが楽しみだ。全てがうまく収まったことに驚いている。このままもっと色々やってみたいと考えている。
ーもちろん、これまでとは違った感覚だと思います。
キース:もちろんだ。メンバーに新しい血が加わることで、エネルギーを感じた。スティーヴは、「あれこれとやり過ぎたくはない」と自制していた。でもスティーヴには、俺たちを路頭に迷わせることなく気持ちよくプレイさせてくれた、チャーリー・ワッツの流儀が身に付いている。スティーヴは経験豊かなプロのドラマーだし、チャーリー・ワッツの熱心な信奉者だからね。彼は「望みであればチャーリーのようにもプレイできるよ」と言って、俺を驚かせた。でも俺は「スティーヴ、君に任せるよ。チャーリーがそこにいたら、俺は彼に任せる。それと同じだ。今は君がそこに座っている。だから君のやり方でやればいい」と、彼には伝えた。ツアーは上々だった。だから、今年も同じメンバーで続けない理由はない。
クラプトン騒動に思うこと
ーポール・マッカートニーが、ストーンズはブルーズのカバーバンドだと発言しています。なぜだと思いますか?
キース:「前後の文脈を無視して、僕の発言を切り取られた」と、ポールからメッセージをもらっている。彼は「初めてストーンズを聴いた時の印象を話した」と言っていた。ポールと俺はよく知った仲だから、報道を見た時にも「ああ、発言の多くをカットして編集されているんだな」と思ったよ。報道の翌日、ポールから「くだらない記事を目にしたかもしれないが、完全に僕の発言を無視した内容だからね。本当だよ」というメッセージを受け取った。だから俺も、ポールの言うことを信じている。
ーあなたがかつて、ビートルズのアルバム『Sgt. Peppers Lonely Hearts Club Band』をゴミの寄せ集めと呼んだことへの仕返しかと思いました。
キース:仕返しをしようと思えばできただろう。でもポールはそんな人間ではない。彼に同情するよ。彼からはすぐにメッセージが来た。もしも彼が俺たちに文句があったのなら、わざわざメッセージを送ってよこさないだろう。ポールは素晴らしい人間だ。あんな良い作品を書ける人間を、非難することなんてできないさ。メディアのくだらない報道は放置して、無視するようにしている。
ーエリック・クラプトンの騒動について、どう思いますか。彼は突然、ワクチン反対の声を上げ始めました。
キース:全くわからない。たぶんワクチンに対して、昔ながらの考え方を持っているのだろう。エリックは個人的に好きだし、付き合いも随分長い。彼は、浮き沈みが激しい時期があった。でも……とにかく新型コロナウイルスに限った話さ。コロナのせいで人々は分裂し、しばらくの間、道を誤る場合もある。俺は何のコメントもしない。ただ「考え直して欲しい。正しいことをしよう」とだけ言いたい。早くこんな状況が終わって欲しい。それだけだ。俺の想いは、皆が医者の言うことを聞いて早く元の生活に戻ろう、ということだ。なぜそんなにムキになって抵抗する人がいるのか、理解に苦しむ。インフルエンザの場合には、こんなにも抵抗を感じていないのに。それよりも悪い状況だ。俺は医者でも何でもない。しかしコロナは、人々に厄介な影響を及ぼしている。お互いに辛抱が必要だ。そして少しでいいから、思いやりの気持ちを持つべきだ。
ーストーンズの60周年について触れていましたが、バンドの60年を総括していただけますか?
キース:60年間をまとめて話せる奴なんて、どこにいると思う? こんなにも長く続くなんて、奇跡だと思う。しかし、今年はバンドとして何かしなければならない、ということはわかっている。バンドの気持ちがひとつになった時に、何かを成し遂げられるだろう。
ー最後になりますが、ひとつ伺いたいと思います。6年前にも同じ質問をさせていただきました。どのように死の瞬間を迎えたいか、という質問です。あなたは「ステージの上で派手にくたばりたい」と答えました。
キース:今も変わらないね。でも、まだくたばらないぞ!
キース・リチャーズ
『Main Offender』(30周年記念エディション)
発売中
視聴・購入:https://silentlink.co.jp/mainoffender09
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