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米退役軍人、レジスタンスの心得と戦術をウクライナ市民に伝授

Rolling Stone Japan / 2022年3月30日 6時45分

Photo by Mac William Bishop

ロシアによるウクライナ侵攻の3日後、アメリカ人のハンニバル氏はウクライナのために戦う国際義勇軍の結成を計画していると語った。

【写真を見る】戦闘訓練には女性も参加する

ハンニバル氏(安全上の理由から偽名を使用)は、米陸軍第173空挺旅団所属の歩兵将校だった。2005年にアメリカの名門私立大学のひとつであるイェール大学を卒業してから陸軍に入隊し、アフガニスタンで複数の任務を遂行した。軍を辞めたあとは、仕事を転々とした。

彼は軍事ライター兼アナリストとして、2015年6月から2017年8月にかけてウクライナ東部ドンバス地方の最前線を10回ほど訪れたこともある。ハンニバル氏は、ウクライナとウクライナの人々との絆を感じている。理由のひとつは、同国の事情に精通したウクライナ人女性と結婚し、アメリカに帰国したからだ。

国際義勇軍計画について語った2日後、ハンニバル氏は従軍経験者からなる少数精鋭部隊を結成した。さらにその2日後、私(訳注:フリーランス記者のマック・ウィリアム・ビショップ)は彼のチームとともにウクライナ西部のリヴィウという街の郊外に建つ旧ソ連時代の工場の内部にいた。がらんとした空間に彼らの足跡が響く。ゲリラ戦法に関する集中講座を企画する彼らの服は埃だらけだ。
 
「防衛者には、戦う場所を選べるという利点があります」と、ハンニバルは彼の前に集まった40名そこそこの男女に向けて講義した。彼らはひどく緊張していて、忍び寄る戦争の足音に怯えていた。ダウンジャケット、迷彩柄のミリタリージャケット、古い軍服、ニューヨークのストリートファッションなど、さまざまな服装に身を包んだ彼らは、欧米寄りのウクライナの中産階級出身の人々だ。間に合わせの教室へと姿を変えた陰鬱な工場の一室で、寒さから身を守るため体を寄せ合いながら座っていた。外では雪が降りはじめた。

ハンニバル氏は、少し間を置いてからふたたび口を開いた。彼の言葉を訳し終えた通訳者は、次を待っている。「殺す場所を選ぶのは、あなたです」

2月の終わりに何万人ものロシア人兵士がウクライナになだれ込む中、ハンニバルと彼のチームはウクライナ政府当局者たちと連携して一般市民を有能なゲリラ部隊へと育て上げる支援活動を行なった。新たな「リンカーン大隊」を組織する時が来た、とハンニバル氏は冗談まじりに語った。リンカーン大隊とは、スペイン内戦で戦ったアメリカ人義勇兵によって結成された部隊だ。この部隊に憧れているアメリカ人は多いものの、取り立てて言うほどの功績はあげていない。「不運にもあなたが歴史の重要な瞬間を生きていて」とハンニバル氏は言った。「ことの成り行きにより、この悪しき戦争において正義の側として貢献できるとしましょう。選択肢はひとつです——それを終わらせるために努力すること」

本当にそうだろうか? 私は懐疑的だった。外人部隊、武器、トレーナーなどが大量に投入されたもっとも最近の例がシリア内戦だ。だが、これらは同国の平和に何も寄与していない。むしろ内戦は激化した。過激派は野放しにされ、諜報機関は訓練や武器を提供し、外貨という後ろ盾を得た武装集団同士が戦いを繰り広げた。その間、おびただしい数の市民が命を落としたではないか。

どのような結果になるかはわからないとハンニバル氏は即座に認めた。だが彼は、ウクライナの人々を助けるために自分たちの経験を活かし、彼らを訓練することが使命であると信じている。

「あなたと私がキエフ行きの列車に一緒に乗り、あなたがキエフに到着したとしましょう」とハンニバル氏は私に言った。「そこでは、あなたのためにAK-47(カラシニコフ・アサルト銃)またはモロトフ爆弾(火炎瓶)が用意されているはずです」

私がウクライナにたどり着いた時点では、独立して行動する外国人部隊を結成するためにウクライナ政府がどれだけ尽力し、どれくらいの進展があったのか、あるいはハンニバル氏のチームがこうした構想に含まれているのかはわからなかった。実際、政府は義勇兵を募り、世界中から応募者が殺到した。政府によると、志願者の数は数千人にのぼる。だが、ハンニバル氏はこうした取り組みに関与しているのだろうか? それとも彼は、フリーランスとして戦争に加わろうとしているのだろうか?


外国人部隊の顔ぶれ

ハンニバルの大義のもとに集まったアメリカ人の少数精鋭部隊をどのようにとらえるべきか、私は迷った。安全上の理由から、彼らを偽名で呼ぶことにする。誰も助けてくれない時に救いの手を差し伸べてくれる人々と聞いて私たちの世代が真っ先に思い浮かべるのが、1980年代に放送された大人気テレビドラマ『特攻野郎Aチーム』だ。よって、ここでは『特攻野郎Aチーム』の登場人物たちの名前を使用する(訳注:ハンニバルという名前はAチームのリーダー、ジョン・スミス大佐の通称)。

フェイスマンは2度のイラク派遣を経て、ミュージシャン兼俳優として第2のキャリアを確立した。人気テレビドラマに出演し、出番は多くないものの、記憶に残る役柄を演じた。初対面の印象としては、歩兵連隊の戦術よりもソファにだらりと寝そべる燃え尽き症候群に詳しそうだ。功績をあげた海兵隊将校と聞いて、私は驚いた。現在は、ミシガン州の田舎にある農場でロックアルバムのレコーディングに取り組んでいる。ちなみに、マリファナはやったことがないそうだ。

元騎兵隊将校のB.A.もイラク派遣の経験者で、反乱軍を標的とした情報収集活動に従事していた。現在は小説家で、いくつかの書籍を出版している。B.A.という偽名をつけたものの、本物の彼はミスター・Tにそっくりで、その思慮深くゆったりとした物腰は強面のB.A.とはかけ離れている。

一流マラソンランナーの肉体と何事にも動じない禅僧のオーラを併せもつマードックは、スパイさながらの風貌をしている。フランスで暮らしたことがあると言っていたので、ひょっとしたらフランス外人部隊に所属していたのだろうか? そうではない。軍隊での経験はなく、パリで複数のレストラン事業を立ち上げ、成功させた起業家だ。ハンニバルのチームに参加する前は、瞑想法を学ぶためにネパールに滞在していた。瞑想によってクリアになった彼の頭脳は、ロジスティクスのコーディネート業務を任されている。

要するに、シェフ、小説家、俳優、イェールOBの4人組というわけだ。

中年のはみ出し者4人組と行動をともにしているのがハンニバル氏の妻、ターニャだ。雑務担当の彼女は、ウクライナ政府に接触するための窓口となっただけでなく、チームのスケジュール管理もこなす。夫の計画をサポートするためにウクライナの官僚組織のナビゲーター役を務めながらも、高齢の両親をキエフから避難させようとしていた。

ハンニバル氏のチームが借りたアパートメントの一室に身を寄せ合いながら、私はターニャに避難の進捗を訊ねた。空襲警報が石畳の通りに響く中、ここが私たちの避難所だ。

兄弟が車で両親をキエフから退避させようとしていると彼女は言った。「まもなく到着するはずです。2日後かしら? わからないわ。至るところで道路が遮断されています」

「ご両親が到着したら、『よくも娘を戦闘地帯に連れてきたな』とお義父さんに激怒される」とハンニバル氏は言い添えた。

ウクライナ紛争の前から、私はリヴィウの街を知っている。この街はいま、異常事態の最中にある。街への入り口には検問所が設けられ、兵士、警察、市民の安全を守るために組織された雑多な集団が銃を携え、黄色い腕章をつけて街をパトロールしている。公共の場は、支援物資を集める場へと姿を変えた。営業している飲食店や商店は数えるほどだ。ロシアの破壊者あるいはパラシュート部隊が急に空から襲ってくるのではないかという恐怖に人々は苛まれていた。

ハンニバル氏のチームは、大学の前で地元の連絡係と落ち合った。「タラス・ワンです」と通訳者のひとりが自己紹介をした。

「私はタラス・スリー」ともうひとりが言った。「ウクライナの詩人(タラス・シェフチェンコ)の名前を拝借しました」。「タラス・ツーはポーランドにいます」と、タラス・ワンは申し訳なさそうに言った。「(ロシアによるウクライナ)侵攻の直前にCTCが移動した場所です」

CTCこと戦闘訓練センターは、ウクライナ侵攻以前は西部リヴィウ近郊を拠点としていた。そこでは、北大西洋条約機構(NATO)と同盟国がウクライナ軍と合同で軍事訓練を行なっていたのだ。タラス・ワンとタラス・スリーの両者は、ローテーションを組みながら移動するアメリカ軍の分隊と緊密に働き、多国籍軍に戦術を教えたり、ウクライナ軍の近代化計画を支援したりしてきた。その背景には、2014年にロシアがクリミアを併合した際にウクライナ軍の弱さが露呈したことがある。

「プーチンは、風車を追いかけ回しています」と、タラス・ワンは言った(訳注:スペインの小説家セルバンテスの『ドン・キホーテ』では、主人公が風車を化け物と勘違いして襲撃するエピソードがある)。「ウクライナを『非ナチ化』したいとプーチンは言いますが、本当はウクライナを崩壊させたいと思っていることを国民は知っています」
 

訓練に参加する10代から60代までのウクライナ市民

戦闘訓練を円滑にするため、ふたりの英語話者が加わった。ステーシーと名乗るひとりは、侵攻開始当時に最前線にいた現役の陸軍将校だ。社交的でエネルギッシュな赤毛の彼女は、何日間も地下シェルターに避難していた時のことを語ってくれた。ステーシーによると、彼女の部隊を壊滅させるためにロシア軍が集中砲火や空爆を仕掛けてきたのだ。「全然楽しくありませんでした」と彼女は言った。

全貌が明らかになっていないこの作戦には、ある程度の安心感と多義性が必要だった。それを体現しているのがもうひとりの英語話者のミキータだ。見事なヒゲをたくわえた彼は、おしゃれなベースボールキャップ、カーゴパンツ、ブーツ、パーカーという出立で、いくつもの小袋を持っている。彼の役割や経歴を詳しく知っている人は誰もいないが、与えられた仕事は確実にこなした。

「訓練に使える建物が必要です」とフェイスマンは言った。

「了解」とミキータは言い、電話をかけた。

「志願者たちに必ず武器を持参するようにと伝えてもらえますか?」とハンニバルは訊ねる。

「了解」と言って、ミキータはメールを送信した。

武器、乗り物、食料……ミキータは無表情でうなずくと、スマホに何か打ち込んだ。すると、問題は解決した。まもなくしてハンニバル氏のチームは、旧ソ連時代の崩れ落ちそうな産業複合施設の工場の屋上に立っていた。

「これで軍隊があれば完璧ですね」と、打ち捨てられた建物を見ながら、フェイスマンが満足そうに言った。

「女性と子供たちを安全な場所に避難できるように、”回廊”の作り方を教えてくれるのでしょうか?」というのが志願者からハンニバルに向けられた最初の質問だった。

これで状況がクリアになった。彼らは、自分たちを守る方法を学ぼうと必死なのだ。大虐殺を目の当たりにした彼らは、その波が近づいていることを知っていた。誰でもいい、とにかく生き延びるための術を誰かに教えてほしかったのだ。

「みなさんの中には、このような状況になるとは夢にも思っていなかった人もいるでしょう」とB.A.は志願者に語りかけた。「でも何よりも重要な点として……敵がここに来ても、みなさんが有利な立場にあることをわかっていてください。なぜなら、ここはみなさんのホームだからです。レジスタンスは勝ちます。重要なのは、その勝利がいつ訪れるかです」

B.A.の言葉とは裏腹に、集まった40名そこそこのウクライナ市民を見る限り、その勝利は確約されたものとは程遠いように思える。最年少の志願者は、いずれかのタラスが「14歳くらいにしか見えない」と言った少年で(のちに16歳であることが判明)、最年長は60代といったところだ。商店の経営者、事務員、給仕係、倉庫のマネージャーなどだ。志願者の大半は大学生だった。
 
「アサルトライフルを入手することができません」と大学生のひとりが私に言った。店では、22口径の小型拳銃しか売っていないと彼は言う。大学生の中には、長さ4フィートのモーゼル式のボルトアクションライフルを使う者もいた。刻印を見ると、「1933年製」だ。

翌朝になると、3名の講師は室内掃討訓練に備えて志願者たちを分隊に分けた。

「この訓練のねらいは、反撃するためのベストプラクティスをみなさんに伝授することです」とハンニバルは彼らに言った。

丸一日にわたって小隊・分隊の戦術と武器の扱い方を学んだあと、ハンニバル氏のチームはアパートメントに戻り、マードックがこしらえたタコスを食べた。ターニャは、口コミが広がりはじめ、別の地方の副知事から同地の市民たちを訓練してほしいという要請があったと言った。そこには原子力発電所がある。

「正真正銘のレジスタンス・アカデミーだ」とB.A.は言った。

「まさか、ここを離れるつもりじゃないよな?」とフェイスマンはハンニバル氏に言った。

ハンニバルは作り笑いを浮かべ、妻を見やった。両親の避難を成功させようと、電話越しの会話に集中している。

4名で構成されたふたつのチームが下車歩兵部隊の動きとともに注意深くダイヤモンド型に並ぶ様子を、フェイスマンはじっくり観察していた。

「あまり寄りすぎないで」とフェイスマンは言う。「広がってください。非言語コミュニケーションを使って。誰かが自分たちの防衛区域をチェックして、分隊のリーダーに異常がないことを伝えてください」


バリケードを築き、奇襲を仕掛けることもできる

訓練がはじまってからまだ数日だが、どうやら志願者たちはコツをつかんできたようだ。ハンドサインだけを使って屋外の危険区域を移動することもできるようになった。互いの距離を保ちながら、仲間の前進と後退をカバーした。バリケードを築き、奇襲を仕掛けることもできる。

B.A.は、自分が担当する分隊を教えていた。彼の分隊には、従軍経験のある年配の男性も数名いた。B.A.は、侵略者たちの手を焼く方法を解説していた。

「あなたも、私たちと一緒に戦うんですよね?」と志願者のひとりが質問した。

B.A.は、彼らが生き延びるために必要なツールを積極的に提供すると慎重に答えた。だが結局のところ、これはウクライナの人々の戦いだ。答えが「ノー」であることは言うまでもない。

ハンニバル氏は、アメリカの政府当局者たちとの会話に基づいて次のように述べた。彼のチームが「領土防衛隊」と呼ばれるウクライナ市民軍のために志願者を訓練するという活動の範疇を超えない限り、場所がどこであれ、法律的には裁くことができないグレーゾーンにいるそうだ。
 
戦時下では、中立的な参加者であり続けることは容易ではない。ベトナム戦争からシリア内戦、さらにはニジェール内戦に至るまで、最終的には戦闘に巻き込まれてしまった「トレーナー」の事例にアメリカ史は事欠かない。

それに加えて、ナチスの問題もある。2014年以来、ウクライナ東部では「dobrobaty」と呼ばれる30以上もの国家主義的ないし愛国主義的な「志願者による軍事組織」がロシア軍と戦ってきた。その一部は、新興財閥・オリガルヒの私兵組織だ。これらの多くは、ウクライナ国防省および内務省の管轄下にある。その中には、海外からの志願者を受け入れるものもあれば、部隊全体が旧ソ連出身の「外国人」で構成されているものもある。こうした軍事組織のひとつである極右組織・アゾフ大隊は、2014年にウクライナ南東部マリウポリ解放において決定的な役割を果たしたが、のちにネオナチ思想に傾倒した隊員がいたと批判された。実際、彼らは戦争中毒者であり、白人至上主義者でファシストだ。こうした思想の持ち主が紛れ込んだ結果、アメリカがウクライナの軍事支援を強化する中、アゾフ大隊は支援対象から除外された。

極右過激主義者が逃げ込む場所としてのアゾフ大隊の評判は、ウクライナをナチスまみれの国家(プーチン大統領がウクライナ侵攻を正当化する主な理由のひとつ)として描くロシア側のプロパガンダとも好相性だ。ハンニバル氏のチームが訓練地を見て回っていたとの同日、ロシア国防省のイゴール・コナシェンコフ報道官は、ウクライナとの戦闘中に捕らえられた「傭兵」は戦争捕虜としての扱いを受けることはないと、国営タス通信に述べた。「せいぜい、犯罪者として起訴されることを覚悟しておいてください」

ロシア政府がどれだけ法律を使って警告しようとも、エスカレートする戦争の物語の変曲点としてのアメリカ人の介入(彼ら自身の定義や役割はさておき)を防ぐのは、不可能であるかのように思えた。2014年を振り返ると、ロシア政府はクリミア侵攻の際に暗躍した「リトル・グリーンメン(訳注:親ロシア派武装勢力)」とは一切無関係であると主張した。こうした作り話を信じる人は誰もいないが、プーチン大統領が目的を達成するための後ろ盾となったのも事実だ。我らが特攻野郎たちも、プーチン大統領のプロパガンダの一翼を担うことになるのだろうか?


スパイの恐怖

その日の午後、ハンニバルたちが志願者を分隊に分けて複合施設全体を使ってハンドサインの練習をする中、タトラス・スリーは無断で敷地内に入って講師たちの様子を撮影する男の存在に気づいた。男はすぐに姿を消した。いったい何者で、なぜそこにいるのか、訊ねる間もなかった。

この出来事は、ハンニバルたちとウクライナの人々を動揺させた。それも当然だ。このチームのように駆け足で結成されたイレギュラーな軍事組織は、昔からスパイの格好の標的なのだから。軍事訓練がはじまる2日前、ふたりのロシア人密告者がキエフの領土防衛隊に潜入したとステーシーは言った。武器が配られると密告者たちは即座に発砲し、14名を殺害した。命を奪われた隊員たちは、戦闘に加わるチャンスさえ与えられなかった。

昼食のために志願者たちが解散すると、ハンニバルのチームは訓練地を離れ、ステイシー、ミキータ、タトラス・ワンとタトラス・スリーとともに先ほどの不審者について話し合った。出来事の意味と対処方法について繰り広げられる会話に耳を傾けながら、B.A.の不安はますます募った。皿の上のチキンキエフ(訳注:バターを鶏肉で巻いたウクライナの伝統料理)は手つかずのままだ。ついに彼は怒りを爆発させた。「俺はいま、ものすごく気が張ってるんだ」と言うと、その日の訓練をすべてキャンセルし、安全性の懸念に対処するべきだと主張した。「俺たちのことを(ウクライナで)活動するアメリカ軍だと触れて回る動画が拡散されているかもしれない。それにこれは、地政学的な問題でもある」。バイデン大統領は、アメリカ軍のウクライナ派遣を否定している。その理由は明白だ。アメリカ軍とロシア軍が戦うことは、第3次世界大戦を意味するのだから。

B.A.は、トレーナーである彼らと訓練を受けている人々の安全を守るための一連のプロセスを提示した。「これは話しにくいことだけど、いま何とかしなければ、その影にずっと怯えることになる」

ステーシーも同意した。「これはゲームじゃない。軍事訓練よ」

どんな時もポーカーフェイスのミキータはこくりとうなずき、電話をかけはじめた。その瞬間から、施設は装填済みのライフル銃を抱えた物々しい表情の男たちが警備をするようになった。敷地内に入る者は誰であれ、身分証を提示し、武装を解き、手荷物を検査される。

その日の夕方、私はなぜウクライナに来たのかとB.A.に訊ねた。いったいなぜこの戦争に関与しようと思ったのだろう?

「どう見ても正当なことだと思ったからです」と彼は思案しながら言った。「化学兵器や部族問題といった長い迷路に巻き込まれる心配はありません。ウクライナは民主主義国家です——たしかに、問題を抱えていますが。でも、俺たちだってそうです。主権国家が侵略された。これは間違っている。それだけで十分な理由になります」。かいつまんで言うと、次のようになる。戦争に端を発する仲間意識、アドレナリン、使命感。そこには、占領者であることの中核をなす道徳的なブラックホールは存在しない。

「私たちが独立した市民軍を結成しているなんて、考えもしませんでした」とフェイスマンは言った。「(政府と)連携していると思っていました。でも……自ら選んでしたことです。実際、私たちは軍隊をつくっているのです」

法学生、起業家、若い男女……アマチュア戦闘員の分隊が訓練中に通りを移動するのを見ながら私は、彼らの軍隊について考えた。機関銃を携えた正真正銘のロシア人兵士の分隊と彼らの対決を想像する。私には、土の上に横たわる遺体が見えた。


アメリカの元軍人たちが介入する意味

その日の夜遅く、私は「今回の計画がロマン的な冒険とは違うという根拠はどこにあるのか?」という意地悪な質問をハンニバル氏とフェイスマンに投げかけた。彼らは、アメリカの”汚い戦争”の償いをしているのだろうか? 「私は戦いに対して一切幻想を抱いていませんし、アフガニスタンでの行いの正当性を示す必要もありません」とハンニバル氏は力を込めながら言った。

でも彼は、アメリカの元軍人たちがウクライナ市民の戦闘訓練を指導していることはNATOとロシアとの戦争を引き起こす直接的な理由になるのでは?と懸念を示していたではないか。

「NATOが大々的に行なっていないことは、私たちも一切行なっていません」とハンニバル氏は言った。「志願者たちは、今後戦うことになるでしょう。彼らは訓練を受けずに、またはある程度訓練を積んでから戦うことになります。いずれにしても、彼らが戦うことは避けられません」

フェイスマンも口を挟んだ。「命を落とす子供たちもいるでしょう。ロシア人兵士も、ウクライナ人兵士も命を落とすでしょう。何よりも最悪なのは、これが誰かひとりの”静かなる戦い”ではないということです」

軍事訓練が続く中、私はウクライナの「外国人部隊」が本当に軍事組織として結成されるのか、それともハンニバルが行なっているような民間人志願者のための軍事訓練的としての限定的な外国人の関与に終わるのかを突き止めようとしていた。

ターニャの連絡係のひとりは、外国人戦闘員のウクライナ入国が認められたことを彼女に伝えた。その数日後、「キエフ防衛」を謳う戦闘服姿の数名の外国人の写真がソーシャルメディアで拡散された。ウクライナを守るため、一部の外国人が武器をとったことはどうやら事実らしい。

ハンニバルは、多くの軍関係者および”準関係者たち”が複雑な計画を携えて彼らに接触してきたと語る。

「たとえば、『この人に接触して、あの人に会って、アパートメントの鍵をもらって、輸送手段を手配して……』という内容のメッセージを送ってくれます。でも、彼らはアメリカにいます。私たちは現場にいるのです」
 
速やかに軍事訓練を行なうほかに長期的な計画を立てるには状況はあまりに流動的だ、とハンニバル氏は言った。だが、使命感とモチベーションのある人であれば、必ず参加できると確信している。

「これが戦争の真実です。大きなリスクをとって現場に行ったとしても、拒絶されることはありません。戦争に加わりたいなら、そうすることができます」。ハンニバル氏は、次のように締めくくった。「それによって、戦争がリアルなものであることを実感するのです」

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