チャーリーXCXが語る、弱さと強さ、絶望と希望、すべてをさらけ出すポップスターの覚悟
Rolling Stone Japan / 2022年4月6日 20時0分
最新アルバム『CRASH』で描かれる失恋、セックス、憤り、自己破壊願望、そしてそれらを乗り越えるまでの軌跡。
【写真を見る】House of Harlotのボディスーツを着たチャーリーXCX
前作『how im feeling now』は誰もが内側から少しずつ崩壊していくように感じていたパンデミックの最中に生み出された内省的な作品だったが、今作はその対極にあるようなアルバムだ。チャーリーXCXことシャーロット・エマ・エイチソンは、それは彼女の現在の心境を反映しているという。
「今作のタイトルには自己充足的予言のようなところがあると思う。今の私は爆発寸前だから。時にはいい意味で、時には悪い意味で、私は崖っぷちにいる」。声を震わせながら、エイチソンはこう続ける。「ツアーのリハーサルで体を動かしていると気分がいいの。ここが私の居場所なんだって思えるから。でもそれ以外のことをしている時の私は……まるで時限爆弾みたいな感じ。何が言いたいのか自分でもよくわかんないけど……」
その前週に北ロンドンで彼女と会っていなければ、筆者はエイチソンの心が乱れていることには気づかなかったに違いない。ベースボールキャップ、ブリーチした眉とサングラス、北極あるいは南極の探検家が着ていそうなダウンジャケットという出立ちで撮影現場にやってきた彼女は、スーパースターならではの不思議なオーラを放つと同時に、どんな色にも染められる空白のキャンバスを思わせた。ワーカホリックであることを公言している彼女は、プロフェッショナルであり礼儀を重んじる。ラテックスのパンツとボディラインを強調するレオタード姿で臨んだ写真撮影は数時間に及んだが、彼女は一度も集中力を切らさなかった。Rolling Stone UKのマイクを手渡されると、彼女はシニカルなユーモアのセンスを披露した。「ポップアイコンの人生は波瀾万丈で当然なの。いい時は最高だし、悪い時は最低。アイコンは常に憧れの対象でいなくちゃいけないから、時々死ぬほどくたびれるけど」
撮影終了から50分後、彼女は今後しばらくTwitterから距離を置き、おそらく彼女が下書きした内容をマネジメントチームが投稿することになるとツイートした。「過去数カ月間、私はメンタルヘルスの問題に悩まされていて、ネガティブな内容や批判にうまく対処できなくなってた」と投稿した上で、彼女はシングル曲のチョイスや新作のキャンペーン、そして「史上最高のツアー」を実現させる上で必要な資金の調達方法が批判の対象となっていることを明かした。
彼女がやむなく同意したこと、それはNFTのフェスティバル「Afterparty」への出演だ。それは多くのファンの反感を買ったが、後に彼女は筆者とのプライベートなビデオ通話の場で、その話がなくなったことを明かした。「出演を辞退したの。自分で決めたことだけど、正式に発表する必要はないと思った。でも出演をキャンセルしたのは事実」
ごく一部のファンは、大幅な編集が加えられた「Beg for You feat. Rina Sawayama」を容赦なくこき下ろした。「正直に言って、2022年に入ってからずっと気が滅入ってる。メンタルヘルスが極端に悪化してると思う」と話すエイチソンの目には、うっすらと涙が浮かんでいる。「世間が私の曲を好きか嫌いかなんて、一度も気にしたことがなかった。嫌いなら聴かなかなきゃいい。でも既に気分が落ち込んでいる時にそういうのを目にすると、すごく精神的にダメージを負ってしまうの。有名人はどんな批判にも免疫を持ってるように思われがちだけど、そんなの大間違い。この世界で生きていく以上、ネガティブな意見や批判に対処する方法を身につけないといけないのは事実だけど、そういう人たちだって生身の人間なの。そのことを口にしたあの日、私は自分がかつてなく人間らしく思えた」
極めてオンラインなアーティストである彼女は、それが自身と作品をソーシャルメディアで宣伝する上で不可避なものであることを理解している。「自分に対するネガティブなコメントを見た瞬間、脅威や潜在的危険から身を守るためのサバイバルモードに入って、動物みたいな防衛本能が働くの」。マクロなレベルでは、チャーリーXCXのような存在は一般人の意見を気にかけないだろう。決意に満ちた表情で、彼女はこう付け加えた。「楽しみたきゃパーティに加わればいいし、そうじゃないなら参加しなきゃいいだけの話。私は別にどっちだっていいんだから」。彼女がそう言って悲しそうに笑ったのは、ツイートしたそのステートメントについてこの場で質問されることは確かだからだ。多くは語らなかったものの、彼女は不用意にそのトピックを持ち出したことを後悔しているようだった。「公の場では何も口にしないこと。それが私が得た教訓」
Photo by Jack Bridgland
「私はファンのことを本気でリスペクトしてる」
辛辣で容赦ないが、ファンは彼女にとってかけがえのない存在だ。パンデミックの最中に発表された、日記のような親密さを宿した『how im feeling now』のビジュアル面や収録曲の選定、そしてプロモーションに至るまで、彼女はファンに助言を求めた。「私はファンのことを本気でリスペクトしてるし、みんながいてくれることにすごく感謝してる。少し独善的なくらいじゃないと、チャーリーXCXの真のファンとは言えない。時にはものすごく手厳しいけど、それも含めてありがたく思ってる」
彼女が口にしたファンへの感謝の気持ちは、決して単なるリップサービスではない。チャーリーXCXのファンアカウントである「Charli XCX Updates」の運営者は、まだ発表されていなかったパンデミックアルバムの企画について彼女から直接メッセージをもらった時のことをはっきりと覚えている。それ以来、2人は頻繁にやり取りを交わしているという。「仕事とプライベート面の両方で、彼女からはアドバイスをもらっています」とその人物は話す。「私が何かについて意見を求めると、彼女は回答の内容をじっくりと考えてくれるんです」。エイチソンとファンの持ちつ持たれつの関係は、パンデミックの最中に話題を呼んだアルバムの1つである同作を生み出したが、それは彼女とファンの距離を著しく縮め、結果的に彼女はファンの様々な声に対して脆く敏感になってしまった。
Versaceのジャケット、House of Harlotのビキニを着たチャーリーXCX(Photo by Jack Bridgland)
数日後にTwitter上でファンによって気分を害されたにも関わらず、彼女(マネジメントチームによる投稿ということになっているが、ソーシャルメディアから距離を置くと公言する人の大半と同じように、彼女もまたこっそり使い始めているのかもしれない)は新たなグッズの写真を投稿した。チャーリーXCX肛門洗浄液というそのアイテムは、あるゲイのファンがミート&グリートの場で彼女に洗浄液へのサインをねだったという内輪ネタにちなんでいる。ポップスターは数いれど、ゲイのファンベースをこういった方法で楽しませるユーモアのセンスを備えているのは彼女くらいだろう。インターネット言語に関しては、エイチソンは自身の役目を理解しており、世間の期待に応え続けている。ポップ愛好家たちは認めないかもしれないが、そういった人々は基本的に彼女のビジョンから5歩(あるいは5年)遅れている。
「パリス・ヒルトンやリンジー・ローハンが圧倒的なカリスマだった2000年代初頭は最高だった。それはミュージシャンにも言えることだと思う。大好きなミュージシャンには衝撃を与えて欲しいし、驚かせ、苛立たせ、脳内を思いっきりかき乱して欲しい」
彼女のビジョンは常に複雑だった。キャリア初期、エイチソンは実験的なポップアーティストと単純明快なヒットメーカーの狭間で揺れ動いていた。問答無用にキャッチーな「I Love It」や「Boom Clap」、そして「Fancy」でのボーカルパフォーマンスによって、彼女は一般的なポップリスナーの間で認知されるようになった。その一方で、彼女は1stアルバムではハウスに傾倒していたし、「ポップの未来」と言われたロンドンを拠点とするアンダーグラウンドのレーベルPC Musicにいち早く目をつけていた。同レーベルを率いるA.G.クックは彼女のクリエイティブディレクターとなり、彼女は彼の周辺のアーティストと幾度となくコラボレートしている。現在でこそカルトクラシックとして認知されているソフィーとの共作、『Vroom Vroom EP』に対する評価は2015年時点では大きく分かれ、実験色が強すぎ理由もなく尖っているという見方もあった。だがファンからの人気は高く、クィアの人々向けのメディアは彼女のことを「『Vroom Vroom』で知られるシンガー」と表現することも多い。
リゾ、クリスティン・アンド・ザ・クイーンズ、トロイ・シヴァンをゲストに迎えた2019年作『Charli』には、アーバンポップをメインストリームに持ち込もうという意図が明確に見てとれた。キャリアの最初の10年間でスマートで反体制的な存在というイメージを確立した後、彼女は『how im feeling now』で世界を驚かせた。来る最高傑作にして最も親しみやすい最新アルバムは、彼女のキャリアにおけるターニングポイントとなるだろう。
セレブレティ・カルチャーの面白いところ
これまで彼女は、メインストリームで成功するには先鋭的過ぎると考えられ、見くびられている節があった。パンデミックの間にハイパーポップがジャンルとして定着したことは、時代がようやく彼女に追いついた証拠の1つであり、彼女は2020年代における同ジャンルの代表的存在と見なされている。「多くのアーティストがハイパーポップとしてカテゴライズされるようになったことは、ああいうサウンドがより広い層に認知されるようになった証拠。それまでは単に形容不可能なものでしかなかったから」とエイチソンは話す。「他のどんなジャンルにも当てはまらないから、これまでそういうアーティストの曲はプレイリストに入らなかった。でもカテゴリーが認知されるようになった今は、Spotifyプレイリストのガイダンスなしではそういうサウンドに触れる機会のなかったリスナーが、特定のアーティストやスタイルを受け入れやすくなった。そういう背景のおかげで、私の音楽も少しだけ理解されやすくなってると思う」
Photo by Jack Bridgland
表面的で遊蕩なものを時にアートとして昇華させてきたからこそ、それは多くの人々に愛されてきた。彼女の音楽は虚無的な笑いを愛し、資本主義が崩壊へと向かう中で身を粉にして働きつつ、全力で遊び続ける人々に捧げるものだ。そのユーモアセンスと同様に、彼女のペルソナは退屈だったりセクシーだったり、時には分裂症的だったりする。しかし彼女の不穏な歌詞は、自身の欠点を赤丸で囲んでいるかのようだ。彼女は頻繁に、自分自身に対して極端に批判的であろうとする。フェミニズムのエンパワーメントが叫ばれる時代に、高飛車な自画自賛や自己嫌悪は受け入れられにくいだろう。イギリスらしい女性ポップスター、あるいはグローバルなスーパースターとなるには、彼女はあまりに支配的で複雑で不真面目な存在だ。
Photo by Jack Bridgland
エイチソン自身は、セレブレティが身近で”リアル”な存在であるべきだという考えに否定的だ。それは彼女がキャリアを築いてきた2010年代にピークを迎えたセレブレティ・カルチャーの在り方だった。「パリス・ヒルトンやリンジー・ローハンが圧倒的なカリスマだった2000年代初頭は最高だった」と彼女は話す。「正直、それはミュージシャンにも言えることだと思う。大好きなミュージシャンには衝撃を与えて欲しいし、驚かせ、苛立たせ、脳内を思いっきりかき乱して欲しい。そういうアーティストに安心できるようなものは求めていないし、次に何をするのか読めなくて油断できない存在であってほしい」。彼女にとってはカニエ・ウェストやヤング・リーン、トミー・キャッシュ、そして彼女のコラボレーターであるキャロライン・ポラチェックがそういう存在だ。「芸能人、セレブ、アーティスト、ミュージシャン、パフォーマー、肩書きは何でもいいいけど、人々を魅了するのは予測不可能な存在だと思う。それがセレブレティ・カルチャーの面白いところ」
「今こうして電話で話してる最中も、自分が築いてきたものを壊したいっていう無茶な願望を抑えようと必死なの。自分自身を押さえつけ、コントロールすることに今はすごく苦労してる」
完全に突き抜けるために
ニューアルバムにエキサイトするために、エイチソンは自分自身を驚かせる必要があった。閉鎖的な環境で急ピッチで進められた『how im feeling now』の制作から、彼女はあることを学んだ。「フレッシュな気分になるためには、完全に突き抜けたポップスター級のものじゃないといけなかった」。本来であれば、『CRASH』の方が先に世に出るはずだった。「New Shapes」「Good Ones」「Every Rule」 「Twice」の少なくとも一部は前作の制作に着手する前から存在していたが、パンデミックの到来によって制作が中断されていた。彼女はこのビッグで豪快なポップアルバムには自己資金を投入する価値があり、一流のポッププロデューサーを訪ねてコラボレートすることや、キャリア史上最大級のツアーを組むことができないという状況が、プロジェクトを頓挫させてしまうであろうことを理解していた。
『how Im feeling now』が世に出た後、2020年の9月か10月の時点で彼女のフォーカスは『CRASH』に移っていた。「このアルバムはもともと『Sorry If I Hurt You』っていうタイトルにするつもりだった。文体が過去形とも現在形とも未来形とも取れるところが気に入ってた」と彼女は話す。「過去に傷付けた相手に語りかけているようにも、今まさに誰かを傷つけようとしているようにも解釈できる」
現在や未来よりも、今作の視点は主に過去に向けられている。制作を進めている間、彼女はジャネット・ジャクソンの『Control』やカメオの曲をよく聴いていた(フォーカスがブレてしまうからという理由で、基本的には自身の作品の制作期間中はあまり音楽を聴かないようにしているという)。彼女がレトロなクラシックにインスピレーションを求めるようになったきっかけは、マドンナのライブ映像や80年代のインテリアデザイン、『ファスタープッシーキャット キル!キル!』等の映画に惹かれたことだった。そういったテイストは、自身の墓石にまたがる「Good Ones」のミュージックビデオの俗っぽさや、同曲のジャケットに見られるボリューミーなヘアスタイルや無表情ぶりにも現れている。アルバムのビジュアル面にはセックスプロイテーションムービーや映画『エルヴァイラ』、そしてパット・ベネターからの影響も見られる。
Photo by Jack Bridgland
広大なランドスケープ、雷雲で覆われた空、原色、そして悲しい物語の舞台となる半分ほど埋まっただだっ広いダンスフロアなど、『CRASH』は歌詞とサウンドの両面で80年代の音楽のドラマ性を体現している。セプテンバーの2006年作「Cry for you」(ブロンスキ・ビートによる80年代のクラシック「Smalltown Boy」を模倣した曲)をサンプリングした「Beg for you」等のトラックには、そういったムードが顕著に現れている。「昔のヒット曲をあからさまに意識するのって、今のポップミュージックのトレンドになってる。ノスタルジーをよしとする人には喜ばれるけど、フューチャリズム指向の人には却下される。私はその中間が面白いと思っているし、自分の曲がそういう風に受け止められて欲しい」と彼女は話す。彼女が見せる感情の昂ぶりもまた、80年代を想起させるところがある。ヒット曲を詰め込むという昔ながらのアルバム戦略とは無縁の、チャーリー史上屈指の出来の曲の数々を収録した『CRASH』は、性欲と愛と傷心の物語が織りなすクライマックスへと突き進んでいく。
最新シングル「Baby」は「一言で言えばセックスアンセム」だという。スマートな印象さえ受ける同曲は、快楽には痛みが伴うという事実を描く。ファンキーでセクシーな小気味のいいこのシンセトラックの冒頭で終わらない肉体的満足を約束する人物は、やがて相手のハートを木っ端微塵に砕いてやると宣言する(”あんたをズタボロにしてやる / あんたをズタボロにしてやる /あんたをズタボロにしてやる / あんたをズタボロにしてやる – 絶対に!”)。「スタジオであの曲を書いた日、私はまさにああいう気分だったの。セクシーで自信がみなぎってくるようなあの曲は、このアルバムの核の一部になってる」と彼女は話す。「1stアルバムの『True Romance』でもすごくいい仕事をしてくれたジャスティン・ライセンとの共作なんだけど、彼とまた仕事ができたのもよかった」
「自分自身を押さえつけ、コントロールすることに今はすごく苦労してる」
続く「Lightning」はハイライトの1つであり、悲しみに暮れながらダンスフロアに飛び込んでいくようなムードはロビンの代表曲を彷彿とさせる。”失恋の痛みならもう知ってる、同じ思いをすることはないって聞いてたのに”と嘆く彼女は雷に打たれたかのような衝撃を味わう。同曲をプロデュースしたのは、同じく『True Romance』にも参加していたアリエル・レヒトシェイドだ。次曲の「Every Rule」では、『ツイン・ピークス』のBGMに使われていそうなトラックをバックにある恋愛の行く末を描く。『how Im feeling now』の制作を始める「はるか昔」にA.G.クックとワンオートリックス・ポイント・ネヴァーと共作した同曲は、長い交際の末に別れたパートナーとの関係を歌ったものだ。「出会いの衝撃について歌うのは変な気分だった。真摯で美しいラブストーリーだけど、もう終わった恋だし、聴くたびに当時のことを思い出して傷口をえぐられるような気分になるから。お互いが出会った時に感じた、全身に電気が走ったような衝撃が表現できてると思う。自分が経験したことをありのままに描いた偽りのない曲だから、すごく思い入れがあるの」
他の曲群では、ある瞬間を境に惹かれていた相手への想いが急速に醒めてしまい、それが長期的な恋愛関係を終わらせる理由として正当なものだったのかと悩んだり、あるいは性懲りも無くまた自分自身を傷つけてしまったことに対する罪悪感など、誰もが身に覚えのある経験がテーマとなっている。
Givenchyのイヤリングを身につけたチャーリーXCX(Photo by Jack Bridgland)
当初このアルバムは、狡猾で腐敗したメジャーレーベルの犠牲者にされてしまうポップスターというコンセプトを掲げていた。アルバム5枚分のレコード契約を交わしたAtlanticからの最後のリリースとなる本作で、彼女はアーティストとして自律性とクリエイティブ面における自由を訴えるつもりだった。流血しているビキニ姿の彼女がボンネットに這いつくばっているというジャケットからも、『CRASH』がJ.G.バラードの同名の小説へのオマージュであることは明らかだ。同作では、過去に交通事故に遭った主人公が事故の状況を再現することで性的興奮を得ようとする。
「メジャーレーベルのお決まりのやり方でアルバムを作ったことは一度もない」。エイチソンは『CRASH』についてそう話す。「16歳の頃からメジャーレーベルにいながら、常に自分のやり方を貫いてきた私がこのアルバムで契約を満了することには意味があると感じてる」。その道のりは決して平坦ではなかった。各ストリーミングプラットフォームに積極的にピッチしつつ、ビジュアル面のイメージを徹底的に管理し、質問に対する返答から作品のリリースまで、あらゆるプロセスの遅さに焦りを覚えながらも辛抱強く待った。「我慢することと時間をかけるってことを学んでるところ。だからネットを見てる時間が長くなっちゃうんだと思う。プロモーション活動やインタビューを山ほどこなしてる私はそういうのが得意だと思われてるかもしれないけど、本当は大嫌い」
過去のアルバムキャンペーンにおけるカバーストーリーの取材では、夜遊びの場をセッティングしたり、スパでシャンパンを飲みながらジャーナリストのインタビューを受けていたのに対し、今回の取材は30分間のビデオ通話だ。取材を受けるが嫌になったのか、それとも世間から誤解されることを危惧しているのかと訊くと、わずかな沈黙を挟んで彼女はこう言った。「気分がいい時や、考えがまとまってる時は取材を受けるのは楽しい。でも正直、メデイアのことはあまり信用してない。最近は自己破壊願望をはっきりと感じてる。今こうして電話で話してる最中も、自分が築いてきたものを壊したいっていう無茶な願望を抑えようと必死なの。自分自身を押さえつけ、コントロールすることに今はすごく苦労してる」
若いアーティストはチャーリーのアティテュードを見習うべき
それが『CRASH』やアーティストとしてのプロジェクトに関することなのか、それともエイチソンがこの場で積極的に明かしている現状についてなのかは定かでない。とどのつまり、そんなことは重要ではないのだろう。彼女が憧れのアーティストに想像力を刺激する絵に描いたようなポップスターダムを求めるように、今のエイチソンもまたそれをファンに提供している。2014年のComplex誌のカバーストーリーで、彼女は記者に対し「ポップミュージックの歴史を塗り替えたソングライターとして認知されること」が究極の目標だと語っている。その後の8年間で、彼女がそれを達成したことは疑いない。
彼女とコラボレートしたリナ・サワヤマにとって、チャーリーXCXは現代で最高のポップ・イノベーターだという。その素顔について、彼女はこう語っている。「愛すべきキャラクターでありながら恐れ知らず。彼女が成功しているのも、一個人としてもアーティストとしても人々を魅了しているのも、そういう部分が少なからず関係していると思う」。チャーリーと音楽業界の一筋縄ではいかない関係性から、サワヤマは自身のキャリア構築において大切なことを学んだ。「若いアーティストたちは、予定調和をよしとしないチャーリーのアティテュードを見習うべきだと思う。奇妙なことをやってみたり、とことんポップになってみたり、ただやりたいことをやればいいの」
取材終了間際、エイチソンは自分がネガティブすぎなかったか、あるいは筆者にそういう印象を与えなかったかを危惧しており、彼女が『CRASH』のリリースとそれがもたらすであろうものにエキサイトしていることを強調していた。「頑固だし人を食ったような態度をとってるけど、私はすごくポジティブな人間だし、ツアーに出てこのアルバムの曲をプレイすることを、死ぬほど楽しみにしてる」と彼女は話す。今年はキャリア史上最大規模となる、ロンドンのAlexandra Palace公演も控えている。「Hoxton Bar and Grillでライブしてた頃なんか客はママとパパだけだったから、何万人もの前で自分の曲を歌えるなんて本当に夢みたいで、とにかく待ちきれない」
自分がすべきこと、そして自分が何者であるかを唐突に再認識したかのように、チャーリーXCXは操縦桿をしっかりと握りなおし、再び本気モードに入った。「私には成功を享受する資格がある。身を滅ぼすくらい必死で頑張ってるし、決して自分に嘘をつかずにやってきたから、成し遂げたことを心底誇りに思ってる。それをステージで思いっきり見せつけてやるつもり」。何かを吐き出すかのような大きなため息の後、彼女の声にポジティブさが戻った。わかりやすさを拒否すること、それがチャーリーXCXの生き方だ。
from Rolling Stone UK
<INFORMATION>
『CRASH / クラッシュ』
Charli XCX / チャーリーXCX
ワーナーミュージック・ジャパン
配信中 / 輸入盤発売中
発売中
ダウンロード/ストリーミングはこちら:
https://CharliXCXjp.lnk.to/CRASHMe
トラックリスト
1. CRASH / クラッシュ
2. NEW SHAPES (FEAT. CHRISTINE AND THE QUEENS AND CAROLINE POLACHEK) / ニュー・シェイプス(feat. クリスティーヌ・アンド・ザ・クイーンズ&キャロライン・ポラチェック)
3. GOOD ONES / グッド・ワンズ
4. CONSTANT REPEAT / コンスタント・リピート
5. BEG FOR YOU (FEAT. RINA SAWAYAMA) / ベッグ・フォー・ユー(feat. リナ・サワヤマ)
6. MOVE ME / ムーヴ・ミー
7. BABY / ベイビー
8. LIGHTNING / ライトニング
9. EVERY RULE / エヴリ・ルール
10. YUCK / ヤック
11. USED TO KNOW ME / ユースト・トゥ・ノウ・ミー
12. TWICE / トゥワイス
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