ウェット・レッグ、2022年最注目バンドが語る「ルーズな軽やかさ」の秘密
Rolling Stone Japan / 2022年4月8日 11時0分
左からへスター・チャンバース、リアン・ティーズデイル。2021年12月、ニューヨーク州ブルックリンのユニオン・プールにて。(Photo by Griffin Lotz for Rolling Stone)
イギリス・ワイト島出身のデュオ、ウェット・レッグ(Wet Leg)は、すでに海外では誰もが口ずさむほどの人気だ。性的な暗示とウィットに富む歌詞が光るポストパンク風の名曲の数々。デビューアルバム『Wet Leg』を発表した2人にアメリカでインタビュー。
リアン・ティーズデイルとへスター・チャンバースは、自分たちのことを重く受け止めるタイプではない。「ウェット・レッグ」というバンド名でさえ、パソコンのキーボードで適当な絵文字を組み合わせているうちに思いついたものだ。「バンド名探しにはうってつけの方法」と、27歳のチャンバースは太鼓判を押す。
時は2021年12月初頭で、ティーズデイルとチャンバースはNYのエースホテル ブルックリンのロビーの椅子に腰掛けている。ロビーの写真ブースでおどけたフォトセッションを終えたばかりだ。イングランド南岸に浮かぶワイト島出身のティーズデイルとチャンバースにとっては初めてのニューヨークで、『セックス・アンド・ザ・シティ』でしか目にしたことがない大都会での体験は、いまのところ彼女らの期待を超えていた。「とにかく、街中を闊歩したいな」と28歳のティーズデイルは言う。「映画の登場人物みたいにね」
ダイナーで出されるボリューム満点の朝食(「かなり強烈だった」とティーズデイルはコメント)から、ニューヨーカーにとっては迷惑極まりない、クリスマス前の恒例イベント・サンタコン(「本物が見たい!」とチャンバースは言った)に至るまで、ふたりは大都会が見せる多彩な顔に衝撃を受けた。だがそれよりも彼女らは、突如として手にした成功を未だに噛みしめきれずにいた。筆者と落ち合うと、ふたりは米トーク番組「レイト・ナイト・ウィズ・セス・マイヤーズ」に初めて出演した時のことを話してくれた。「なんだか自分じゃないみたい」とティーズデイルは言う。「だってヘアスタイルもあんなに素敵だし」
「The Late Late Show with James Corden」でのパフォーマンス映像
アイロニーをたたえたウェット・レッグのイギリスらしい魅力とは、正にこのことだろう。ウェット・レッグは、イギー・ポップ、デイヴ・グロール、俳優のマイケル・ガンドルフィーニをはじめ、あらゆる人々から注目を集めている。滴り落ちるようなポストパンク風のリフとウィットに富んだきわどい歌詞が印象的な「Chaise Longue」や「Wet Dream」といったシングルによって、ふたりはまったくの無名バンドからたった数週間でもっとも期待される新人アーティストとなった。驚いているのはあなただけではない。当の本人たちも同じくらい戸惑っているのだ。
2020年11月にドミノ・レコーズと契約を交わしたことを指摘すると、ふたりは独特のコミュニケーション方法で次のように語った。「でもライブをする機会がなかったから、自分たちを披露することができなかった。すごく変な感じだった」とチャンバースは言う。「いつも不安だった。本当はギターが弾けないって思われたらどうしようって。もしかしたら『すみません、契約は……』」
「……なかったことにしましょう」とティーズデイルが口を挟み、一枚の紙を破るしぐさをした。するとふたりは大声で笑い出した。チャンバースは、指輪だらけの指で三つ編みをもてあそんだ。
ブルックリンのライブハウス、ベイビーズ・オールライトで先日行われたライブでは、歌詞をそらんじたファンたちが「Chaise Longue」を大合唱した。この曲は、2019年のクリスマス休暇中に帰省先で書かれたものだ。チャンバースは夕飯の支度をしていて、ティーズデイルはクッキーを食べていた。自由気ままに学園コメディ映画『ミーン・ガールズ』の名言(「誰かにマフィンにバターを塗ってもらう?」という、実際にはかなりきわどい意味のセリフなど)を言い合ううちに”Excuse me”と”What?”という「Chaise Longue」の掛け合いが生まれた。
ティーズデイルとチャンバースがカントリー調の白いロングワンピースに麦わら帽子という装いで登場する「Chaise Longue」ミュージックビデオのYouTubeの視聴回数は300万回を超える。「意識的に何かを書く、という努力をしたわけではない」とティーズデイル語る。「お泊まり会に来た13歳の少女の頭の中から生まれたものなの」
ウェット・レッグがここまで来ることができたのは、ティーズデイルが言う「13歳の少女の頭の中」と、すべての物事に対するクールで無関心なアティテュードのおかげだ。「ここまで気楽でリラックスしているように振る舞うのも、結構大変なの」と笑顔を浮かべながら彼女は言う。まるでウェット・レッグの歌詞に出てきそうな皮肉な言い回しだ。
ウェット・レッグが生まれるまで
ワイト島で幼少期を過ごしたティーズデイルとチャンバースは、音楽フェスに行ったり、浜辺で友人たちとのんびり過ごしながら青春時代を送った。「ものすごく狭い島に押し込まれていた」とティーズデイルは言う。「バーベキューもいっぱいしたし、友人たちとたくさんキャンプもした。あと、かなりの未成年飲酒も」
チャンバースは音楽一家で育った。幼い頃からピアノを習うかたわら、ムーディー・ブルース、ヴェルヴェット・アンダーグラウンド、ニック・ドレイク、アレサ・フランクリンといった音楽の好みを母親から受け継いだ。デヴィッド・ボウイもたくさん聴いた。
ティーズデイルとチャンバースには、それぞれ3人のきょうだいがいる。そのおかげで音楽に詳しくなったとティーズデイルは語る。「iTunesが流行っていた頃、こっそりアクセスした」と彼女は言った。「きょうだいのiTunesを通してビョーク、レディオヘッド、ジョアンナ・ニューサム、デヴェンドラ・バンハートを知ったの」
ティーズデイルとチャンバースは、アイル・オブ・ワイト・カレッジで出会った。イギリスの職業資格制度であるBTECのパフォーミングアーツの資格を取得するため、各々が音楽業界について学んでいたのだ。「知り合った当初は、いつも一緒にいるってわけではなかった」と、チャンバースはティーズデイルのほうを見ながら言った。「どちらかと言うと、かなり威圧的だったよね。あなたはすごくクールだったから。私は超内気だったし」
「私はグループBにいて、あなたはグループAにいた」とティーズデイルは応じた。「イケてる子たちのグループにいたのはあなたよ」
ウェット・レッグのふたりがかなりクールであることは言うまでもない。だが、結成当初はそれを狙っていたわけではないそうだ。「始めたばかりの頃は、絶対に真面目なバンドにはならないっていう固い決意みたいなものがあった」とティーズデイルは言う。そんな彼女は、結成当時はギターの弾き方さえわからなかったと明かした。「ゲームの目的は、ただ楽しむこと。誰かに評価されたとしても、関係ない。ただ楽しむ。だってそうしちゃいけない理由なんてないじゃない? そう思えるまで、かなり時間がかかった」
「間違いなく怖かった」とチャンバースは言い添えた。「20代半ばになって年をとるにつれて、『みんなに笑われるかしら? これっていいのかな?』と思いはじめるけど、でも実際はそうだから、ただやってみればいいの」。デビューアルバム『Wet Leg』には、シングル「Wet Dream」も収録されている。生意気でセクシーなこの名ポップチューンには、”あなたがそう思う根拠はどこにあるの?/自分で自分を触りながら、私のことを考えてもいいなんて”という挑発的な問いかけも含まれる。
「Wet Dream」は「Chaise Longue」と同様におのずと生まれた楽曲だとティーズデイルは語る。”ベイビー、私と家に帰らない?/『バッファロー66』のDVDもあるの”という「Wet Dream」の歌詞には、彼女が14歳だった時に観た映画が登場する。「DVDということばを使いたかった。だって、もう誰もDVDなんて観ないから、面白いでしょう?」と彼女は言う。
加速する人気、変わらない自然体
ウェット・レッグの珠玉の作品は、これだけではない。「Being in Love」がニューアルバムのオープニングを堂々と飾る一方、11曲目の「Supermarket」はコロナ禍に友人のドラッグの売人から得たインスピレーションに基づいている(サビの”めちゃくちゃハイになりすぎた”に注目)。
「まさに乾期のような時期だった。だって誰もパーティーしたり外出したりしないから」とティーズデイルは言う。「そんな時、彼らから『ファビュラス・フライデー! 1個買ったら2個目はタダ!』のように、素敵な宣伝文句と特別価格を謳うメッセージが送られてくるの」
全12曲のニューアルバムに入りきらなかった楽曲もある。「I Want to be Abducted (By a UFO)」はそのひとつだ。「(この曲を)復活させることを考えている」とチャンバースは言う(「やっぱり括弧のほうがいいかな。なんかダークな意味合いがあると思われそうだし」とティーズデイルが言い添えるように、タイトル表記はひとつの争点になっている)。
2022年3月、テキサス州オースティンで開催されたSXSWで演奏を披露するウェット・レッグ(Photo by Griffin Lotz for Rolling Stone)
3月11日から20日にかけて開催されたサウス・バイ・サウスウエスト(SXSW)では、ウェット・レッグはどのアーティストよりも注目されていた。会場の外には長い行列ができ、イベント期間中は熱狂的な投稿がソーシャルメディアを賑わせた。ふたりは、比較的リラックスした時間をテキサスで過ごした。「大好きなササミとセルフ・エスティームを観ることができた」と、ティーズデイルは後からメールをくれた。「食事のことを忘れてしまいがちだけど、トーチーズ・タコス(オースティン発祥のタコスレストラン)にも数回行ったわ」
ウェット・レッグのファンベースが常に成長していることを理由に、彼女らは初の北米ツアーの会場を格上げせざるを得なかった。650人が収容できるブルックリンのミュージックホール・オブ・ウィリアムズバーグではなく、約3倍のキャパシティを誇るブルックリン・スチールで満員の観客の前でふたりは先日パフォーマンスをした。今週は、カリフォルニア州ロサンゼルスのフォンダ・シアターでの公演を控えている。
ティーズデイルは、私たちがウェット・レッグの楽曲に惹かれるきっかけとなったルーズで軽やかなオーラにすべてをまとめ上げた。「(会場の)格上げは、自分には大きすぎるサイズの靴を履きながらヨタヨタ歩こうとしているような気分」と彼女は言う。「変な歩き方をしてるって、誰かにバレないといいんだけど」
From Rolling Stone US.
ウェット・レッグ
『Wet Leg』
発売中
国内盤CD:ボーナストラック2曲収録
詳細:https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=12264
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