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ピンク・フロイド復活 デヴィッド・ギルモアが語る28年ぶり新曲、ウクライナへの想い

Rolling Stone Japan / 2022年4月11日 18時0分

ピンク・フロイド(Courtesy of Pink Floyd)

ウクライナ国民の勇気に心打たれたデヴィッド・ギルモアとニック・メイソンが、ピンク・フロイド名義では1994年以来となる新曲「Hey, Hey, Rise Up」を発表。なぜ28年ぶりにピンク・フロイドを甦らせたのか、ギルモアが米ローリングストーン誌に真相を語った。

ロシアのウクライナ侵攻から数日後、シンガーから兵士に転向したアンドリーイ・クリヴニュークは「ああ、草原の赤きガマズミよ」(原題:The Red Viburnum in the Meadow)――敵を前にした祖国の強さを歌ったフォークソング――を熱唱し、その動画をInstagramに投稿した。キーウで活動するグループ、ブームボックス(Boombox)のボーカルは、3月にアメリカでライブをしようと計画していた。だがロシアが母国に攻め込んだというニュースを聞き、国を守るために帰国した。戦争が勃発すると、彼は世界のために戦うウクライナを支えるのが自分の務めだ、とローリングストーン誌に語った。「(西欧を)守る盾として、私たちは必要とされている」

その動画の中で、迷彩服姿の彼はマシンガンを肩からぶら下げ、人気のない通りに向かってこう歌っている。「我らが輝かしいウクライナよ、さあ、さあ、立ち上がろう、勝利の喜びを」

ピンク・フロイドのデヴィッド・ギルモアはこの動画を見て驚嘆した。「義理の娘はウクライナ人なんだが、彼女が動画を送ってくれた。『ワオ、これは素晴らしい』と思ったよ」とギルモアはローリングストーン誌に語った。「その時ふと思いついたんだ、自分たちはここにいる、(ピンク・フロイドという)名声も地位もある。これをもっと利用できるはずだと。歌っているその動画を見てすぐに、ここから何か作れないだろうかと考えた」。彼はすぐさまスタジオにこもり、クリヴニュークの力強いボーカルを支えるコードを作り上げた。そうして書き上げたのが、約30年ぶりのピンク・フロイドの新曲「Hey, Hey, Rise Up」だった。



「自分たちの地位を大きな大義のために活用できるものにしたいと思った」とギルモア。「それで(ピンク・フロイドのドラマー)ニック(・メイソン)に電話して『参加したいか?』と尋ねたら、彼は『ああ、喜んで』と答えてくれた」 先週2人はベースのガイ・プラット、キーボードのニティン・ソーニーとともに、ギルモアの自宅のスタジオでクリヴニュークの動画を流しながら、フォークソングの伝統的なメロディーに忠実に(いくつかやるせないギターソロはあるものの)レコーディングした。ギルモアとメイソンがピンク・フロイドの新曲をレコーディングするのは、1994年の『対(TSUI)/The Division Bell』以来のことだった。

『対』のレコーディング音源から生まれた2014年の『永遠』の後、ギルモアはピンク・フロイドの物語に幕を下ろした。だが「Hey, Hey, Rise Up」で考えが変わった。ウクライナの民間人の苦境に対する世間の関心を高め、同国の人道支援基金を集めるべく、ピンク・フロイドはすぐさまこの曲をリリースした。

「この曲がいくらか役に立てればいいと思う」とローリングストーン誌に語るギルモアは、ピンク・フロイド復活を決断した理由を説明してくれた。「この曲で何かを成し遂げられたらと思うよ」

アンドリーイ・クリヴニュークへの共感

ーアンドリーイの動画のどんなところにインスパイアされて、ピンク・フロイドの新曲を書こうと思ったんでしょう?

ギルモア:この動乱のさなか、アンドリーイがキーフの広場に立ち、ひとっこ1人いない中で声のかぎりにこの感動的なウクライナの歌を歌う姿は、ただひたすら感動的だ。

ーなぜ個人名義ではなく、ピンク・フロイドとしてこの曲をリリースすることが重要だったのでしょう?

ギルモア:もちろん、ピンク・フロイドとしての支持――発言力の大きさだ。ニックに話を持ちかけた時、彼もピンク・フロイドとして出したいと言った。それが当然だと思えた。自分たちはこの平和のメッセージを広めたい、ウクライナで祖国を守る人々の士気を高めたい。ならやろうじゃないか。

この投稿をInstagramで見る Андрій Хливнюк(@andriihorolski)がシェアした投稿
ーアンドリーイの楽曲は以前から知っていましたか?

ギルモア:2015年、ベラルーシ・フリー・シアターを支援するチャリティコンサート出演の打診があった。(シアターのメンバーは)ベラルーシ国内で絶えず嫌がらせを受け、投獄され、それはひどい扱いを受けていた。それで意識向上と募金のために一役買った。ブームボックスも共演者だった。残念ながらアンドリーイは直前にビザの手違いがあって来られなかったが、コンサートでは(ブームボックスを)バックバンドに迎えて一緒に4曲演奏した。みな素晴らしいミュージシャンだった。最近になって、アンドリーイがツアーを離れ、ウクライナに戻って国のために戦うという記事を読んだ。心を打たれたし、鳥肌が立った。彼は勇気のある男だよ。



ー彼の曲をレコーディングしたいと伝えた時、アンドリーイはどんな反応でしたか?

ギルモア:彼は興奮している様子だった。なんとか彼の電話番号を入手して、電話をかけた。彼はこっちが本物かどうか少し疑っていたのだろう、「FaceTimeのビデオ通話にしてもいいかい?」と言ったので、「もちろん」と答えた。本物だとわかると、現実だとわかって安心していた。その後は大喜びだった。彼も曲を気に入ってくれた。非人道的なことが現地で起きている中、彼と一緒に自分たちも人道にささやかな貢献ができて、とても嬉しいよ。

ーレコーディングが行われたのはわずか1週間前でした。どのぐらいのスピードで完成したのですか?

ギルモア:アイデアを膨らませ始めたのがまさに2週間ぐらい前で、それから今に至っているよ。

ーニック・メイソンと再びレコーディングした心境は?

ギルモア:最高だ。ニックは他のどのドラマーとも違う。素晴らしい意義をもった曲を一緒に演奏できるなんて、最高だ。

「Hey, Hey, Rise Up」が生まれるまで

ー「Hey, Hey, Rise Up」は合唱から始まりますが、歌っているのは誰ですか?

ギルモア:キーウの広場でアンドリーイが歌っているのを最初に見てから、他の動画にも目を通した。ひとつ動画を見ると、別の動画を勧められるだろ。たまたま出てきたのがVeryovkaというウクライナの民族合唱団だった。自分が見た動画では(「ああ、草原の赤きガマズミよ」を)バージョン違いでいくつも歌っていた。冒頭の部分がとても美しくて、出だしに入れたらどうなるだろうと思ってやってみたら、最高だった。それで連絡を取って、使用許可をもらった。



ー曲のアレンジはどんなコンセプトで完成したんでしょう?

ギルモア:そうだな、まずやらなきゃいけないのは、彼が歌っている時に頭の中でどんなコードが流れていたのかを突き止めることだ。相当な時間をかけて推測し、他のバージョンとチェックする作業になる。まずボーカルパートのコードから取りかかって、何度か通しで演奏した。彼の声を抜き出してレコーダーに入力し、クリックタイムで再生して、その後ギターの演奏と合わせてみた。ボーカルパートが片付いたら、同じ作業を繰り返して、ギターを弾きながら新しいギターコードや曲の他のパートを作っていく。(そうしたコードは)同じ曲に入れてもおかしくなかったが、まったく新しい感じだった。テーマにもピッタリ合っているし、他のバージョンにもフィットすると思う。

ーギターソロの部分は即興ですか?

ギルモア:自分がよくやるのは、即興で演奏した後で手直しするという方法だ。ミスをしたら――ミスはしょっちゅうだが――いったん手を止めて、そのパートをやり直す。たいていの場合、思いつきをそのまま形にしたものが一番出来がいい。

今回ソロで使っているコードは、アンドリーイが歌っていた音楽から引っ張ってきた。だから自分の演奏もそこからヒントを得ている。ウクライナや自分の考えがかなりダイレクトに、即興で盛り込まれていると言ってもいいだろう。だが自分の場合、演奏しているときはあまり考えていない。心を空っぽにして、気の赴くままに任せるんだ。

ー今後もピンク・フロイドとしての音楽活動を考えていますか? 今回の楽曲は、現在取りかかっている他の作品とどうつながるのでしょう?

ギルモア:ピンク・フロイドとしてやるのはこれ1度きりだ。自分はいつも気が向くままに作業している。どこかの時点でアルバムを完成したいと思っているが、今この瞬間に力を入れているのはこの曲だ。

ロシアの侵攻に対して望むこと

ーあなたは戦争当初からロシアのウクライナ侵攻に反対の声を上げていました。今回の戦争は、個人の生活にどう影響していますか?

ギルモア:どんな戦争でもそうだが、とりわけ世界の超大国が独立民主国家に対して始めた戦争は、とてつもなく大きな怒りと苛立ちを募らせる。さっきも言ったように、自分もちょっとしたつながりがある。義理の娘はウクライナ出身で、前から知っていた――懇意というわけじゃないが、少し前から知っていたブームボックスもウクライナ人だ。1人の人間が権力を手にし、別の独立民主国に侵攻して人々を殺しにかかるなんて、ものすごく理解に苦しむし、苛立ちや怒りが沸き上がる。理解不能なほど卑劣だ。

自分も、何もできないことに苛立ちを感じていた。そこへアンドリーイの歌が現れて、ある程度こうした気持ちから解放してくれた。自分の力や名声で、今この瞬間、特定の国のために、具体的なことができると感じた。これは今起きている物語。この物語を語り続け、できる限りの手を尽くして、巻き込まれている人たちの士気をあげたいと誰でも思うだろう。ニュースに取り上げ続けて、世間の良心をこの問題に向けさせ続けたいとね。

Russian soldiers, stop killing your brothers. There will be no winners in this war.

My daughter-in-law is Ukrainian and my grand-daughters want to visit and know their beautiful country. Stop this before it is all destroyed.

Putin must go pic.twitter.com/VE4oMsUIRf — David Gilmour (@davidgilmour) March 1, 2022
(ツイート訳)
ロシアの兵士たちよ、同胞を殺すのはやめてくれ。この戦争では誰も勝利しない。
私の義理の娘はウクライナ人だ。孫は美しい国をいつか訪れて、もっと知りたいと思っている。すべてが破壊される前にこんなことはやめよう。
プーチンを退かせなければ。

ー3月にはロシアとベラルーシのストリーミングサービスから、ご自身やピンク・フロイドの楽曲の一部を削除しました。そうした決断に至ったのはなぜですか? ピンク・フロイドの楽曲全てが削除されたわけではないようですが。

ギルモア:一般の人々から権利を奪うことは一番やりたくない。ロシアは恐ろしい人たちばかりじゃないからね。ただ指導部が恐ろしく間違った方向に進んでしまっただけだ。だが実際のところ、これが制裁というものだ。自分がこういうことをすれば、ロシアにいる人たちも実際に起きていることに気が付いて、国に変化を起こそうと立ち上がろうとするかもしれない。

まずニックの承諾を得て、すぐにシド・バレットの遺族からも承諾をもらった。それでできる限りの措置に踏み切った。

ー楽曲を削除したことに対する反応についてはどう感じましたか?

ギルモア:嫌がらせをしてくる奴なら山のようにいるさ。そういうのはいつも構わないようにしているんだが、今回に関してはあちこちから賛成の声や歓迎、感謝のコメントが寄せられた。人々が行動を起こし、彼らのために立ち上がって、彼らが味わっている苦しみに団結を示してくれているのを見て、ウクライナの人たちも喜んでいるよ。

ーロシアの侵攻に対して、世界には他にどんな対応を望みますか?

ギルモア:世界中が正しい反応を示している。怒りに震え、苛立ちを感じている。他の国々の首脳の言動にも苛立ちがにじみ出ている。君たち(ローリングストーン誌)の国の大統領、バイデン大統領もそうだ。彼も何度かうっかり心情をあらわにしているだろう。他の世界の首脳も同じだ。世界中の声が高まっていると思う。こんなことは起きてはならない。本来あってはならない。だが自分たちがいる世界は、21世紀も1/5を過ぎたというのに、いまだにこうした卑劣な状況が起こりうる。とても信じられない。理解に苦しむよ。

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From Rolling Stone US.



ピンク・フロイド feat. アンドリーイ・クリヴニューク(ブームボックス)
「Hey, Hey, Rise Up」 
購入・再生:https://SonyMusicJapan.lnk.to/PinkFloydHHRU
※収益はウクライナ人道支援募金へ寄付される

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