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Open Reel Ensembleが語る、妄想ジャンル「マグネティックパンク」とは?

Rolling Stone Japan / 2022年4月13日 17時30分

Open Reel Ensemble、2022年3月27日にGinza Sony Parkにて撮影

唐突だが、オープンリールがどういうものか知っているだろうか。オープンリールは、1960年ごろに普及した、磁気テープを利用した記録媒体だ。では、そのオープンリールを楽器として演奏する者達が存在することはご存知だろうか。オープンリールを「磁気民族楽器」と呼び、独自に編み出した奏法で異国情緒あふれる不思議な音色を奏でる集団――それが、Open Reel Ensembleである。

3月25日に新曲「Magnetik Phunk」とともに、新たな試みとしてデジタルブックをリリースし、3月27日にはGinza Sony Parkでライブを生配信したOpen Reel Ensemble。「マグネティックパンク」という妄想世界を下敷きに、実験的でありながらどこかノスタルジーな気分を掻き立てるようなパフォーマンスを披露した。今回は、そんなライブ直後の彼ら(和田永、吉田悠、吉田匡)にインタビューを敢行。「マグネシア」、「オープンリールのダンスフロア」――独特の単語が次々飛び出し、予測もつかない方向に広がりを見せるオープンリールの世界を覗かせてもらった。


ライブ本番の様子はSony Park公式YouTubeチャンネルのアーカイブから視聴可能


オープンリールは「磁気民族楽器」

―ライブ拝見させていただきました! 正直、どんな内容になるのか予想がつかなかったのですが、異国情緒感もあり、ノスタルジーさもあり……「磁気民族楽器」の意味が少しわかった気がしました。基本的な質問になりますが、皆さんのオープンリールデッキとの出会いを教えていただけますか?

和田:まず僕がオープンリールデッキを譲り受けて、でもそのモーターが壊れていたから手で回したんです。その時に出た「ぎゅわーんちゅぴーんちゅぴょーん」という音で、時空を自らの手で歪めているような感覚になって、「マグニエキゾチックな音だな」と感じました。その瞬間から、音が出るなら楽器なんじゃないか、これは過去という異国からやってきた民族楽器だと確信しました。それで、当時高校生だったんですが、二人に「こういう民族楽器が過去からやってきたから触ってみてくれ」と。



―いきなりそう言われて、お二人は戸惑いませんでしたか?

和田:割と自然だった気がする。

匡:自然だった。「過去という異国」の部分はよくわからなかったけど、昔から和田君の発見はいつも奇妙だったし、おもしろそうだなと。

悠:当時から和田は民族楽器収集家みたいなことをしていたんですよ。それで、最初はおもしろ要素の一つとして、その頃組んでいたバンドで、オープンリールをエフェクターみたいに導入していました。でもいつのまにかたぎっちゃって、「他はいらないからオープンリールだけやろう!」ってOpen Reel Ensembleを結成したのが10年くらい前。

和田:その頃の奏法は、DJのスクラッチみたいな感じで剥き出しのリールをリズミカルに手で回す感じ。その場で録音した音をすぐに歪められるのが胸熱でした。

悠:そこから、もっと楽器としてのポテンシャルがないかっていうのを模索するようになりました。例えば竹竿にテープを張って弓のように使う「磁楽弓奏法」は、両手を塞ぎたくない、片手でテープを行ったり来たりさせたい、ていうのがきっかけで思いついたんです。

和田:それで徐々に回す、揺らす、引っ張る、はじく、叩く、担ぐっていうのを、ここ数年の間に発見してきました。

匡:あのデッキを触って音が出るっていうおもしろさが、いつまで経っても尽きないんですよ。わかりきらないし、追求してもしきれない何かがある。触り方によって打楽器、弦楽器、オルガン、サンプラー、エフェクター、SE生成機など全く違う顔を見せる。これを何と解釈したらいいんだろうってずっと考えてて、ある段階で「これは自分たちが知っている『楽器』とは全く違う、未知なる進化の歴史を持った民族楽器なんだ」って理解する事でかなりしっくりきました。





―その「民族楽器」という捉え方だったり、「マグネシア」という発想が独特ですよね。

和田:「これは磁気民族楽器だ!」って誤認した時点で、「オープンリール音楽文化」の妄想が始まったんです。現代って、インターネットやデジタルが発展してサイバーパンクな未来になるってみんな思っていますよね。でも、たとえば磁気テクノロジーが過剰発展した「マグネティックパンク」の世界になった場合、そこにはオープンリールのビルがあるかもしれないし、磁気メディアで舗装された道路や、巨大オープンリールの上で踊るダンスフロアがあるかもしれない。マグネシアっていう国でそれらが発展してると仮定すると、楽器としてのオープンリール、弓楽器的なものやパーカッション的なものなど、いろんな奏法が「あるはずだ」と。それで色々試してみたら、マグネシアンなサウンドが出てきたんです。

―音楽の話を聞いているはずが、考古学の話を聞いているような気分になります。

悠:でも実際、民族楽器の成り立ちとかを調べていくと、例えば西洋音楽として使われていた楽器が、異国に流れ着いた先で本来の想定とは違う使い方で解釈され、魔改造されて民族楽器として定着することがあるんですよ。

和田:インドだとバイオリンを縦に持ったりね。タイプライターとお琴が日本で合体して生まれた大正琴が、インドに渡ってめっちゃ速弾きされる伝統楽器になってたりとか。

悠:それと似ていて、オープンリールのリアルタイムでない世代の人間が、使い方がわからない状態でいきなり触って、間違った使い方で出した音がおもしろいっていう。

和田:そもそも、僕らは正しい使い方っていうのがあんまりよくわかってないし、普通に回ってる時よりも変な回り方をしている時の方にすごく関心があります。

マグネティック奏法を共有するために

―話が壮大になってきましたが、その理論は新曲「Magnetik Phunk」にどのように反映されているんでしょう?

匡:僕が作曲したんですが、あの曲は、「楽器が全部なくなってオープンリールだけが残った世界で彼らはどんな曲を作るのか?」っていうところから発想が始まってます。遺跡になった音楽スタジオにオープンリールテープが埋まってて、そこには今でいうエレキベースとかギターとか、誰かのラップとかの音の断片が残されてる。それらの音をもう一回組み立てた、っていう曲なんです。

和田:前提が全部おかしいんだよね(笑)



―「Magnetik Phunk」の説明にある「火星人が攻めてきた」というストーリーはどこから?

和田:遺跡で発掘されたオープンリールテープの一つに、「火星人が攻めてくる」っていうニュースを朗読した声が入ってるんですよ。

これはアメリカで実際にあった事件で、当時それをラジオドラマとして流したら、本当に火星人が攻めてくるってパニックになったっていう出来事があって。それと同じことがまた未来に勘違いで起こるんです。「『火星人が攻めてくる』と言ってる! でも僕らはオープンリールしか持ってない! どうやって戦おう!?」ってなった時に、オープンリールで演奏した曲を火星に向けて送信することを思いつく。火星人を磁気波で踊らせるべく、非暴力で戦おうとする「オープンリール楽団」が立ち上がる。そんな人達がいたとしたらこれを奏でるのかもしれないです。

匡:今話しててわかったと思うんですけど、最初のアイデアを出したのは僕ですが、途中から3人で一緒に考えてます。話していく中で、ああでもないこうでもないと設定が盛られていく。

―曲を作ろうと思ってそういうストーリーを考えるのか、それともストーリーが生まれてそれが曲になっていくのでしょうか?

悠:「オープンリール的にこういう演奏したらおもしろそう」っていう観点と、「このストーリーをベースに曲を膨らませよう」っていう観点の半々ですかね。表現を追求する中で奏法を模索するのはもちろんなんですが、ストーリーを考えることでその曲の"根拠"がハッキリしてきて、やるべきことが見えてくるイメージ。

和田:誰かしらが何かのアイデアを持ってきて、曲の大体の骨格を作ったら、まずは「せーの」で演奏してみる。セッションしていく中で、テープビブラートかけようとか、回転数を上げようとか、巻き戻そうとか、練り上げていく。奏法と音色と曲が行ったり来たりする感じです。



―ここまでコンセプチュアルなお話をお聞きできるとは思っていませんでした。みなさん、物語などを空想するのがお好きなのでしょうか。

和田:シンプルに、僕らはSF映画が大好きなんです。マグネティックパンクの映画が作られるというごくわずかな可能性がある以上、先にサウンドトラックを作っておこう、って。いつでもクリストファー・ノーランさん、ドゥニ・ヴィルヌーヴさん、リドリー・スコットさん、音楽オファーはもちろん、出演オファーもお待ちしています(笑)。

悠:ああだこうだと話してるうちに曲っぽくなったりして。曲を作る時も「さあ新曲を作ろう」っていうより「できちゃった」みたいなことが多いです。

匡:今日のライブの1曲目(「マグネシア舞曲」)もこないだ作った新曲なんですけど、マグネシアの民族音楽ってどんなもの?っていう話が発端になっています。

和田;マグネシア民謡ね。456年くらい伝わってるのがあるはず、だから今度のライブでやんなきゃ、ってなって作りました。ちなみに、2曲目(「NAGRA」)と4曲目(「Space Fushigi part 2」)は、マグネティックパンク界のクラブで流れてるはず、っていうところから生まれた曲です。

―今お聞きしてきたお話の一部は、今回刊行されたデジタルブックにも記載されていますね。本や文字の形にして出そうと思った理由はなんだったのでしょうか?

悠:曲だけじゃなくてストーリーや演奏の裏側も伝えたいっていうのがシンプルな理由ですね。

和田:音だけでは表現しきれなかったりして、テキストやイラストも一同で描き下ろしました。それと最近、「どうやって演奏してるの?」とか「こういうふうにやってるんじゃないかと考えてるけど、それは正しいのか」とか、「マグネティック奏法を学びたい、どうやったら弟子入りできるのか」という問い合わせが主に海外から結構くるんですよ。僕らは好きにやってくれって思うんですけど(笑)、それを一人一人に教えていくのは大変だなって。だから、「奏法 2022年版です」ってまとめた章もつくりました。オープンリールを演奏する人が現れたら、ビッグバンド編成で長時間演奏するようなマグネティック・ムカームができるかもしれない。

匡:オープンリールバンドとオープンリールバンドの対バンもいつかやりたい(笑)。


デジタルブックの紹介動画

和田:実際、デジタルブックはマニアックな内容ではあるんですが、僕らに興味を持ってくれた方に対して、色んな角度から楽しめるものとして間口を開きたかったんです。電子書籍だったら動画も埋め込めるので、レコーディング風景だったり、それぞれの楽器が出してるのはこんな音だっていうのがわかるように、演奏をセパレートした映像も収録しています。

悠:「オープンリールの弾き方」なんて多分誰も知らない、というか存在しないから(笑)、そもそも何やってんの?っていうことを紐解くだけでもコンテンツになる。僕らもそれを伝えることが楽しいし、それを読んで喜んだり、演奏してみる人が現れたら嬉しい。だからガンガン真似してもらっていいし、そうやって広がっていく現象自体がもはやマグネティックパンクだと思ってます。

ずっと真夜中でいいのに。への共感

―いま、自分達のことを「マニアック」とおっしゃいましたが、その一方で最近は、ずっと真夜中でいいのに。のライブに参加されたりしていて、単純にすごいことだなと感じます。最初はACAねさんの方からアプローチがあったんですか?

和田:そうですね。僕らの映像を見たACAねさんから連絡があって、ライブを観に来られました。そこからオファーをいただいて、ずとまよの楽器隊に、オープンリール奏者として参加することになって。「オープンリール楽器のサポートメンバー」って需要あるの⁉︎って、そのオファー自体が結構衝撃でしたね(笑)。

―サポートという立場で演奏してみていかがでしたか?

悠:どれだけヘンテコな要素を突っ込めるかっていう挑戦で、めちゃくちゃおもしろかったですね。ライブだけじゃなく、レコーディングでは「機械油」という曲にアレンジで参加させて貰ったんですけど、僕らが納品したものをほとんど丸々使っていただいてます。

和田:特に細かな指示はなくて、「好きなように〜」と言われました。じゃあ僕らは曲の中の「機械油要素」を担当しようと。で、レコーディングして「油マシマシです」って音源を返したら……。

悠:リアクションが「油どころか醤油でした! ありがとうございます」って昇格してた(笑)。

匡:気が合うんですよね(笑)。



―みなさんから見て、ずとまよの楽曲はいかがですか?

和田:ぐさりますよね。本来言葉にはならないような複雑な心の中の波を泳いでいくような歌詞世界も。でも曲の構成を覚えるのが本当に大変(笑)。
 
悠:単純なAメロ、Bメロ、サビとかじゃないんですよね。

和田:同じ曲の中で繰り返さない新たなメロディがどんどん出てくる。ポップミュージックの最新形態と言っても過言ではないと思います。でも、それこそ自分達も結構トリッキーなことをやってきてるので、1曲の中で次から次に色んなことをやることにはフィット感がありますね。

匡:あと、僕らと同じでずっと真夜中でいいのに。も、ものすごい濃い世界観を持ってるんですよ。

和田:ACAねさんも物語を妄想するんですよ。それがどわーと書かれたテキストが添付ファイルで送られてきたりするんですけど、そこに書かれてることが、マグネシアと同じバースなんじゃないかっていうくらい距離感が近かったりする。

例えば、そこはずっと夜みたいな国で、一回文明が発展して滅んでいたりするんですよ。その世界の廃れたコンビニに輩が集まって音楽をやろうとする。そうなった時に、残っている機械を集めてバーベキューしたり、演奏したりするんですよ。

匡:二つの世界観が、奇跡的にまったくぶつからずに融合したんです。

悠:遊び心に躊躇がない感じがするんですよ、ACAねさんって。だから僕らも同じ遊び心で参加できるし、全然一緒にいられる。

和田:最初に一緒にやったのが「彷徨い酔い温度」という曲なんですけど、マグネシアの音色と化学反応を起こして、これは100年後に奏でられている音頭かもしれないと思えて、自分達と近いものがあるなと。

匡:マグネシア移民として受け入れられたという(笑)。

―奇跡的な化学反応ですね。

悠:とはいえ音楽的な表現が全然違うので、ACAねさんは最初、どうやって僕らにアプローチしようか悩んだらしいんですよ。一緒にやりましょうと言ったって何も響かないかもしれない……と。だからどうやって好きって伝えようって悩んでくれたみたいです。

匡:単純に珍しい楽器だからやってみたいとかじゃなくて、本当に好きなんだって伝えてくれて。



―今後、他のところからもオファーが増えるかもしれませんね。

和田;基本的にはウェルカムです! オープンリールを楽器と捉えると、実は音楽性はすごく幅広い。僕らは自分達の妄想音楽を探求してますけど、また別の音楽家がこの楽器を認識した時にどんな発想をするのかなと思いますね。

匡:これをどう音楽に関連させるかっていうのは人によって全然違うからね。ずとまよとはまた違った参加の仕方をしてほしいっていう人がいたら、すごく嬉しいですね。

和田:「オープンリールの音が足りんな」と思った時は、ぜひ我々に(笑)。

―現状、唯一無二のオープンリール奏者ですからね。

和田:ターンテーブルと違ってあまり踏み込む人がいなかった未開の地ですね(笑)。でもオープンリールを入手して、デジタルブックを読んでいただければ、ある程度再現できますよ(笑)。

匡:僕らがやってるのは、音楽っぽい音と完全な効果音のちょうど中間みたいな音を出すこと。例えば、ギターを弾いた音をちょっとつまんで歪ませるようなことが、聴いた人が「おっ」となる部分なのかなと。そういった香りをどう出していくかですよね。

和田:それこそ、1970年代には、ビートルズがスタジオ機材としてオープンリールを使ってサイケデリックな音をつくったわけですし、キング・クリムゾンもピンク・フロイドもクラフトワークもレコーディングではオープンリールによる音響効果を駆使しています。ただ、基本的にはステージには出てこなかったから、裏方機材みたいな側面もあったかもしれない。僕らはそれをステージに上げて、楽器としてかき回したいんですよね。

―こんなディープな話はなかなかない!というくらいおもしろいお話を聞かせていただきました。

和田:マニアックな話をしてしまいました(笑)。でも、ミュージシャンにとっての機材がオープンリールに置き換わってるってだけだと思います。ミュージシャンはみんな、シンセとかギターのエフェクターの話を嬉々として話すじゃないですか。それが僕らにとってはオープンリールなんですよ!



Open Reel Ensemble
「Magnetik Phunk」
特典映像、イラスト、文章、奏法図解などを収録した電子書籍(全50ページ)も販売
試聴・購入:https://openreelensemble.bandcamp.com/

Ginza Sony Park公式サイト:https://www.sonypark.com/
Park Live 過去の全出演アーティスト一覧:https://www.sonypark.com/parklive/

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