人喰いモンスター「ハギーワギー」に保護者は騒然、米英で通報相次ぐ
Rolling Stone Japan / 2022年4月14日 6時45分
青色の化け物「ハギーワギー」が米英のSNSを騒がせている。子どもたちに悪影響を与えるとして、この不気味なキャラクターに関するヒステリックな通報が相次いでいるという。
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通報の内容は、ハギーワギーの動画――「息絶えるまで」抱きしめてやる、といった歌も出てくる――を見ていた子どもたちがよからぬ考えを抱く、というものだ。こうした動画がきっかけで、子どもたちは動画の内容を再現しようと公園でギュッと抱き合い、身の毛もよだつ歌詞をささやき合っているらしい。
こうした噂が最初に出始めたのはイギリスだった。1人の心配性の母親が公開したFacebookの投稿(すでに削除されている)がきっかけだと言われている。情報サイトSnopesによると、3月22日付のその投稿には学校からのメールと思しき内容が記載されていて、「とても怪しげな(テディベア風の)キャラクター」が「ハグして殺すという気がかりな歌を歌っている」と警告していた。投稿によれば、子どもたちはTikTokやYouTubeだけでなく、未就学児から12歳までを対象にしたYouTube Kidsでもこうした動画に遭遇していたそうだ。
最近イギリスの放送局Sky Newsに語ったある母親の話では、兄がRobloxでハギーワギーのゲームで遊んでいるのを見て、3歳の息子が窓から飛び降りようとしたそうだ。イギリスのメディアDorset Liveも「見たところ動画のタイトルには怪しげなところがないので、YouTube Kidsにも紛れ込む可能性がある」として、こうした動画が非常に幼い子どもの目に触れている、というドーセット警察の警察官の発言を報じている。
それからというもの、ネットトロール(荒らし)がハギーワギーを利用して子どもたちを標的にしている、という噂は保護者の間で絶えず聞かれている。母親たちは、幼児向けのおすすめ動画の中にハギーワギーが紛れ込んでいる、と主張し、中には「ネット上の不気味なキャラクターが、親を殺せと子どもたちをそそのかしている」という見出しつきのものもある。ごく最近では、米ウィスコンシン州ラファイエット郡保安官事務所が(コメントを求めたが返答はなかった)Facebookの投稿で懸念を表明し、保護者に注意喚起を促していた。このキャラクターをテーマにした一連のYouTube動画には「暴力的な文言や、アルコール摂取を表現したアニメーション、血、死傷、頭部切断、殺人未遂、殺人、血まみれの自動車事故現場」に加え、別のキャラクターを息絶えるまでハグする場面も登場する、というのだ。
その正体はTVゲームのキャラクター
真実はというと、ハギーワギーというキャラクターは実在する――ただし、性悪なネットトロールが幼い子どもをトラウマに陥れようとしたわけではない。これはMOB Gamesが開発した(成人向け)人気TVゲーム『Poppy Playtime』に出てくるキャラクターで、おもちゃ工場の元従業員がかつての職場に戻ったところ、ハギーワギーや恐ろしいおもちゃに追いかけられる、というストーリーだ。『Poppy Playtime』は幼い子ども向けではなく、iOSでは12歳以上が対象(他のゲームレビューサイトでは8歳以上と記載)とされている。ふわふわの青い毛や満面の笑みなど、子ども向けエンターテインメントのキャラクターに見えなくもないが、冷静に見ればどこか恐ろしく、明らかに子ども向けではない。
また本家YouTubeにこのキャラクターを扱ったファン動画がたくさんあるのも事実で、その大半は小さな子どもをいたく怖がらせるだろう。その中のひとつ、ローリングストーン誌が見つけた2021年10月のファン動画では、ハギーワギーがおどろおどろしい音楽をバックに子どもに人気のペッパピッグを追いかけていた。だが動画にははっきり「13歳以上」と分類されており、表向きは同プラットフォームで子どもの目に触れることはない(YouTubeの規約では13歳以上しか閲覧できない)。
他の動画にも、キャラクターをテーマにしたファン自作の「歌」が出てくる。「彼の名前はハギーワギー/ハグされたら逃げられない/みんなの友だちハギーワギー/目玉が飛び出るほど締め付ける」といったような歌詞だ。だがこうした動画はMOB Gamesとも『Poppy Playtime』とも関係がない。同社のTVゲームのクリエイターのうち少なくとも1人は、拡散されたママ友Facebook投稿に名前を挙げられたが、Snopesによれば自作動画をYouTubeにアップロードする際に、「子どもには不適切です」と断りを入れたそうだ。また実際にこの動画がYouTube Kidsに表示された例は見たことがない、とも語っている。
確かに、ハギーワギーの動画がYouTube Kidsで子どもの目に触れたという通報とは裏腹に、ローリングストーン誌もYouTube Kidsでハギーワギーの動画を見つけることはできなかった。検索ワードの段階でブロックされたと思われるが、この点に関してYouTubeに確認のコメントを求めたものの、返答はすぐに得られなかった。一方で13歳以上のユーザーを対象とし、保護者が閲覧コンテンツを制限できるオプションを提供しているTikTokでは、コンテンツ制限をかけていてもハギーワギーの動画が表示される。ただし、ハギーワギーを扱った人気動画の中には、報告されているような有害行為や親殺しをそそのかす動画はひとつもなかった。TikTokにも13歳未満向けのアプリがあるが、広報担当者によればそちらのではハギーワギーのコンテンツは表示されないそうだ。
インターネットの都市伝説
ハギーワギーの動画がインターネット上で子どもを食い物にしているといるモラルパニックは、一見すると「モモチャレンジ」に酷似している。日本の不気味な幽霊がよからぬ連中によって子ども向け動画に加工され、子どもに自傷行為を促すというデマは、2019年に拡散した。ハギーワギー同様モモチャレンジも、動画を子どもに見せないようにと保護者に警告する警察の投稿から始まって、その後地元メディアに拡散した。だが、実際にそうした動画がYouTubeに存在した証拠はなかった。懐疑主義的研究のための委員会(CSI)の研究員で民俗学者のベンジャミン・ラドフォード氏も、ハギーワギー現象は「子どもがらみの他のモラルパニックの特徴をすべて備えています」と言う。「現代の子どもたちはインターネットで何をしているだろうか、という考えです。隠れた危険に対する懸念はつねに存在します」
モモチャレンジと同じように、ハギーワギーをめぐるパニックの原因も「クリーピーパスタやそれに類似するインターネット現象のフィードバックループ」だと思われる。こう語るのは、データに基づいてインターネットの偽情報を研究する団体Logicallyのジョー・オンドラック捜査主任だ(シェフィールド・ハラム大学で、オンライン・ホラーフィクション研究の博士号取得の候補にも名前が挙がっている)。オンドラック氏の説明によれば、クリーピーパスタとはweb2.0やソーシャルメディアで使われるオンライン・ホラーフィクション用語で、「現実とフィクションの間をさまよい」、情報元があやしい1人称で語られる話を介して広まるものを指す(ハギーワギーが大々的に取り沙汰される発端となったイギリスの心配性の母親によるFacebookの投稿がまさにその一例)。
「世間はそれをきっかけに、いたいけな幼い子どもを蝕む悪質なキャラクターがYouTube Kidsに存在する、という考えを額面通りに受け止めてしまったんですね」とオンドラック氏。「そうした考えは必ずしもオンラインカルチャーに精通していない人々や、YouTubeのアルゴリズムに詳しくない人々を通じて、瞬く間に広がっていきます」
もちろんモラルパニックをめぐる多くの都市伝説のように、アルゴリズムの不具合と保護者の監視の欠如が重なれば、子どもたちがうっかり悪質なコンテンツに出くわす可能性があるのも事実だ。2017年にMediumで拡散した作家ジェームズ・ブリドル氏の投稿では、ペッパピッグやミッキー・マウス、ドナルドダックといったキャラクターを利用した子ども向けの低俗かつ悪質な動画が、アルゴリズムによっておすすめされるという「奇妙な子ども向け動画」の存在を指摘している。またハギーワギーの「現象」が話題になればなるほど、よからぬ連中がこうした動画を利用して、本当に子どもを標的にする可能性も高くなる。実際にネットトロールはOmegleといったプラットフォームに潜入し、モモで子どもたちを震え上がらせたではないか。
「悪質なオンラインメディアは事実とフィクションのギリギリの境界で、行動に移すかはさておき、ファン層を構築します。それらは無防備な人々に広がって影響を及ぼし、フィクションと現実を見誤る危険をはらんでいます」とオンドラック氏は言い、2014年にウィスコンシン州で起きたスレンダーマン死傷事件を例に挙げた。この事件では、2人の少女が友人を殺してインターネット上の架空のキャラクターに生贄として捧げようとした。「そうなれば悲劇になりえます」
だが一方で、そうした可能性がずっと低い場合もある。「適正年齢ではない時に、悪質な画像に出くわしただけ、という場合もあります」とオンドラック氏。ソーシャルメディアやアルゴリズムの仕組みに詳しくない保護者も十分理解しているだろうが、ネットの世界か否かにかかわらず、こうした危険は子どもたちの生活のいたるところに潜んでいる。
【関連記事】子どもをターゲットにした欧米の自殺ゲーム「Momoチャレンジ」、警察が保護者へ警告
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