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デンゼル・カリー大いに語る 死と暴動、日本文化と松田優作、ギャングスタと己の生き方

Rolling Stone Japan / 2022年4月14日 18時30分

デンゼル・カリー

デンゼル・カリーのニューアルバム『Melt My Eyez See Your Future』は、多彩なサウンドが混沌とし相互に影響を与え合っている今のヒップホップシーンを象徴するような、刺激的な作品だ。あらゆるジャンルの音楽へアプローチしながらも、うわべだけを掬うのではなく、それらが深い部分で血肉化されている。同時に、これまで以上に日本文化から大きなインスピレーションを受けたリリックも様々な読みができるだろう。コロナ禍で長きに渡って制作された今回の新作について、デンゼル・カリーは愛する日本文化についてのエピソードをまじえながらたっぷりと語ってくれた。


―ジャンルレスでメッセージ性の強い、意欲的な作品を聴くことができて非常にエキサイトしています。2年間にも渡った今作の制作において、最もこだわりぬいたポイントはどこですか?

カリー:今作の構想を練りはじめたのは2018年9月28日、『TA13OO』を作り終えた直後なんだ。最初に思いついたのが『Melt My Eyez See Your Future』というアルバム名だった。長くてクールなタイトルだと思ったよ。次にサウンドを考えた。アシッド・ジャズ、ブーンバップ、ドラムン・ベース、ネオソウル、ファンク、シンセ・ポップ、パンク、あとトラップ。これら全てのジャンルをこのプロジェクトに取り入れたいと思って、歌にしたいトピックスもリストアップした。取り組むにあたって『TA13OO』と同じものは作りたくなかったんだ。でも、実際の制作自体はすぐに取り掛かったわけじゃない。『ZUU』をまず作ったし、ケニー・ビーツとの『UNLOCKED』もあった。つまり、ロックダウンが起きるまでは手をつけてなかったんだけど、ご存知の通りその後家にずっといなきゃいけなくなったわけだよ。最初は2週間くらいで収まるだろうと思っていたら、2カ月続いて、さらに6カ月、気づいたら2年間自宅に閉じ込められていた。取り掛かるなら今だと思って着手したよ。それまでたった一人で自分と向き合うことがなかったから、最初は不安もあったんだけど。

―タイトルがまず思い浮かんだということですが、どういう視点が背景にあるのか改めて教えてください。

カリー:どうやって思い浮かんだかは俺にも説明できないんだ。普通に(ラップを)書いていたら「Melt My Eyez See Your Future」というフレーズが自分から出てきて、「なんだこれ?」って。めちゃくちゃかっこいいタイトルじゃんって思ったよ。

―なるほど。あなたは常に自己修練に励み、ストイックに音楽創作に取り組んでいる印象があります。今回も自身を追いつめたのでしょうか。新たなクリエイティビティを得ることはできましたか?

カリー:これまでのアルバムでは、リリックを書く前に「何小節あるからいくつ単語が必要だ」と考えていた。でも今回はその逆のアプローチをとったんだ。「今自分が何を考えているか」ではなく「何を感じているか」というのを大事にした。以前は自分の思考を元に言葉を綴っていたのに対して、今作では自分が感じたままに綴っているんだよ。

―興味深いです。なぜならリリックやサウンドからは、社会に対する「諦め」と「理想」というネガティブ/ポジティブの両極端な視点が複雑に同居している印象を受けたからです。非常にリアルに感じましたし、共感しました。そのような境地に至った象徴的・具体的な出来事はありますか?

カリー:どの曲もそれを書くに至った理由がある。1曲目から順に話すよ!「Melt Session #1」は、俺自身の苦しみや欠点について歌っている。隔離生活を通して、それまで自分では見えていなかったものと向き合うことができた。自分が内に抱えていたものだったり、これまでの自分の行いについて語っている。もっといい人間になるという、俺なりの宣誓のようなものだ。

「Worst Comes To Worst」は、周りで大勢の人が死んでいること、今にも戦争が起きそうだということを語っている。実際いまウクライナとロシアで紛争が起きていて、NATOも絡んでアメリカも関わっているだろう。でも俺の頭にあるのは、街中で起きている争いのことだよ。実際、LAでは暴動が起きている。これは、ジョージ・フロイド、ブリオナ・テイラー、アマード・アーベリーらの殺害をきっかけに起きた一連の出来事についての曲だ。

それに続くのが「John Wayne」。さっきも挙げたアマード・アーベリーの場合、ただジョギングをしていただけなのに3人の白人に殺された。黒人が次々と警察官によって殺されてる状況で、警察は何もしてくれない。助けを求める前に、殺されるのがオチだ。そうだろう? だから俺の主張としては、「殺される前にこっちから先に撃つしかないんだ」ってこと。相手が死ぬか、こっちが死ぬかだから。俺の命なんて何とも思っちゃいないのは分かってるし。だから俺たちは、ジョン・ウェインになったつもりで街を歩かなきゃいけないんだよ。





―ストーリーに連続性があることで、よりその残酷さや苦しみが伝わってきます。

カリー:続く「The Last」は、ロックダウンでの状況を語っている。業界に根強く蔓延るカラリズムからも分かる通り、有色人種のアーティストは依然として少ない。ヒットを飛ばすのは白人ばかり。彼らを貶しているわけじゃないけどね。BLMについてみんな発言しているけど、みんなが口にする革命や変革というのは結局SNSの投稿でしかない。ブラックパンサー運動のような革命とは違うんだ。みんな投稿して関心があるように振る舞うけど、6週間もすれば忘れて次の関心ごとに気落ちは移っている。それが「The Last」で言っていることだよ。

次の「Mental」は、俺が心に抱えていたこと、つまり「物事に対する考え方を変えなきゃ」という思いを語っている。物事は起こるべくして起こるんだよ。だから”My mental state is whatever happens happen /Im making it happen rappin/If I was in the forties, I wouldve been gasin, scattin/different practice created a diffferent habit”(俺の精神状態はなるようになる/俺はラップで実現させている/俺が40年代に生きてたらスキャッティングしていただろう/実践することが変われば習慣も変わるだろう)と綴っているんだ。 自分には悪習があって、そこから抜け出すことが大事だった。新しい習慣に慣れないメンタルとの闘いだよ。歌詞にも”I find it harder to make an action yet/Its all in my mental”(なかなか行動できずにいる/全部メンタルだ)とある。だから考え方を変えれば、悪習を断つことができるはずだ。ソウル・ウィリアムズが詩の朗読で参加してくれて、世界の問題にも触れている。

そこから「Troubles」に繋がるんだ。「Troubles」では、普通の人たちが日々直面する悩みに触れている。女性に話してもらえない、住む家を失った、生活費よりもドラッグに金を使ってしまった――。T・ペインも、彼自身の悩みを語っている。誰だって悩みを抱えているんだっていうのが「Troubles」だ。





―「Aint No Way」は多くの客演が参加していますね。

カリー:「Ain’t No Way」は、超イカした仲間とのコラボ曲で、アルバムにハマると思って入れた。リコ・ナスティーのパートを聴いてもらったら分かる。彼女はつい最近プレイボイ・カーティのツアーでブーイングをされたけど、この曲のヴァースはその前に書いている。このタイミングで彼女のヴァースが世に出るのは、意味のあることなんだ。さらに、疑念についても触れている。”Aint no way people still doubt me after this”(この後に俺のことを誰も疑えるはずがない)というフレーズは6LACKが書いた。J.I.Dは自分のバースで、何をするにも忍耐と努力が大切だって話をしている。俺は、「Aint No Way」というのが自分の生き方だと歌っている。そう生きるしかないからね。ブルース・リーが言った言葉なんだ。俺はブルース・リーのタトゥーを入れているんだよ。彼が言うには、「道がないことこそが進むべき道だ(No way is the way)」。つまり、決まった生き方はないから伝統は忘れるべきだってこと。”Over the years, friends turn to enemies/Bullets curvin left and right sort of like parentheses”(昔のダチが敵になった/銃弾が左右に曲がり、まるで丸括弧のようだ)と、自分の体験を語ってるんだ。そんな環境を、J.I.Dやリコ(・ナスティー)と同じようにずっと耐え抜いてきたってこと。



―中盤以降の「X-Wing」や「The Smell Of Death」といった曲は、非常にあなたらしいリリックに感じました。

カリー:「X-Wing」は比喩なんだけど、自分の夢や野望と出自について語っているんだ。「俺の新車のランボルギーニ」だったり、「新車のヘルキャット(ダッジ・チャレンジャーSRTヘルキャット)」、あるいは「イーロン・マスクのテスラの新車を手に入れたぜ」という自慢に対して、俺は「そんなのクソ食らえだ。俺が欲しいのはXウィングだ」って言ってる。大のスターウォーズ・ファンだから、あえてオタクなものを引用して、誰も手出しできないバースにしたんだ。”I dont want a car, I want an X-Wing/Im just onto the next thing”(お前が車を運転してるのに対して、俺は宙を浮いている。お前よりも遥か上だ)ってね。過剰な贅沢に対する俺なりの言い分だ。こんな贅沢品に囲まれた生活がしたいっていう物質主義な面も俺にはあるし、それ自体は問題だとは思わない。でも、その物質への欲求に振り回されないようにしなきゃいけない。

サンダーキャットが参加してくれた「The Smell Of Death」は、冒頭のリリックで”United they fall, divided I stand”というのがあるんだけど、これは有名な「団結すれば栄え、分断したら落ちる」(United we stand, divided we fall)というフレーズをもじっている。”Make sure the enemy can die in advance / I follow God, not the words of a man / I got blood on my sword and my hands / We go to war, I wont give you the chance / I ran, I mean evade”で「I ran」(逃げる)とあるけど、イラン(Iran)やアフガニスタンから軍を撤退させているという意味でこれはアメリカの話なんだ。俺はそもそも逃げたんじゃなくて、そもそも彼らと闘う理由がなく回避したってことだ。続いて”Then pick a time to engage so you can feel my rage / Like Naruto in the Sage”とあるだろう? 空気中に死の匂いがする、なぜなら俺の身近なところで実際に人が死んでるわけだから……ということ。コロナや暴動で命を落とす人、自分の恐怖に打ち勝つことができなくて死んでしまう人、人から盗んで死ぬ人。今は給付金が底を尽きてしまったし、それもあってまた俺の周りに死の匂いがするよ。LAでは一時、メルローズでも死人が出た。「メルローズ」じゃなく、「ヘルローズ」ってみんな呼んでた。




『カウボーイビバップ』と松田優作の影響

―丁寧な解説のおかげで、情景がありありと浮かんできます。非常に辛く苦しい現実を反映している一方で、続く「Sanjuro」では黒澤明監督の『椿三十郎』と思われる引用もあります。

カリー:「Sanjuro」では、サムライ魂について語っているんだ。この作品を作るにあたり、宮本武蔵のような武士道精神で取り組んだんだよ。俺は「五輪書」も呼んだし、適当なことを言ってるわけじゃないから。つまり、アルバム制作中ずっとアメリカにおける自分の状況を冷静にとらえながら、自分のスタンスとしては武士道精神に通じるものを感じていたんだ。それがアルバムの根底にある。だから「Walkin」という曲もある。映画『用心棒』の冒頭で主人公が通りを歩くシーンがあるだろう? リメイクされた『荒野の用心棒』でも同じだ。『ジャンゴ 繋がれざる者』もそう。冒頭に主人公が歩くシーンがある。つまり、この曲は「救いようのない世界に俺が歩いて入ってくる」ということなんだ。だから”Clear a path as I keep on walkin /Aint no stoppin in this dirty filthy, rotten/Nasty little world we call a home”(俺が歩く道を開けろ/この薄汚れた世界で立ち止まることはない/俺たちが家だと呼ぶこの酷い世界)というリリックがある。1曲目の「Melt Session #1」で俺がどんな人間かは宣言した。そこから歩き出すことで、周囲の汚れが明確になってくるんだ。アンチヒーロー的手法だよ。




―「Zatoichi」はいかがでしょうか。映画『座頭市』から受けたエピソードがあれば教えてください。やはり「盲目」という設定が今作の「Melt My Eyez」というテーマとつながってきたのでしょうか?

カリー:その通り。目を溶かしてしまったら、視覚を失うわけだから他の感覚に頼らないといけない。今回、座頭市を比喩として使ったのは「盲人が盲人を導くことはできない」という諺があるからだ。つまり、レイ・チャールズがスティーヴィー・ワンダーを指導することはできないということ。でも実際はみんなやっている。でも同じ現実に生きていて、俺だってどうすればいいか分からない。同じように盲目である俺がどうやって進むべき道を示すことができるっていうんだ? でも、俺たちはみんな盲目的に指導者に従っている。フランク・ハーバートの小説『デューン』が格好の例で、主人公のポール・アトレイデスは次第に視力を失ってしまう。そんな彼は盲目的に指導者に従うことについて語り始めるんだ。何が言いたいかというと、「ただ盲目的に自分についてきてほしくない」ということなんだよ。自分がどんな人間か見てほしいし、自分が全ての答えを持っているわけじゃないってことも知ってほしい。英雄視しないでほしい。でも、自分のコミュニティのことだったら俺はたとえ周りと同じくらい盲目であったとしても、現状よりもいい道を見出す努力はするつもりだよ。



―あなたはこれまでも様々な日本文化を引用されてきましたが、とりわけ今作は日本映画の影響が強いですね。他にインスピレーションを受けた部分があればぜひ教えてください。

カリー:松田優作は知ってる?

―はい。松田優作は日本人の誰もが知っている俳優です。

カリー:今作のビジュアルに関して、アルバムにまつわるプレス用の写真はどれも松田優作から影響を受けているんだ。彼が演じた役柄もそうだし、彼が影響を与えたキャラクターもそう。彼は『北斗の拳』のケンシロウのモデルになっただけでなく、『カウボーイビバップ』のスパイク・スピーゲルのデザインの元ネタでもある。コロナ禍の隔離生活で俺の楽しみと言えば、心理療法に通うのと、スタジオに行って武術の訓練をするのと、射撃場に行くことくらいだった。あとは家族や友達とつるむこと。それしかやってなかったんだ。家に帰ってからジョイントを吸いながら『カウボーイビバップ』を観ていて、ふと思ったんだ。「スパイク・スピーゲルがこんなにかっこいいのはなぜだ?」ってね。『ルパン三世』の影響があるのはわかっていた。そこでルパン三世と松田優作を掛け合わせたと知って、松田優作の出演作品を調べたんだ。『野獣死すべし』の動画を見つけた。『探偵物語』も。それから『ブラック・レイン』も見た。彼が癌で亡くなる前、最後の出演作だね。さらに、彼が漫画『ワンピース』のキャラクターのモデルになっていることも知った(註:クザンのこと)。そんなわけで、俺は彼にめちゃくちゃハマってるんだ。ファッションから仕草まで、彼はまさに日本のジェームス・ディーンだよ。そんな彼を俺は今作で体現したかった。今の「かっこいい」の真逆を行くことで、「超絶かっこいい」を演出したかったんだ。

―それにしても、あなたは想像を遥かに超える日本通ですね!

カリー:松田優作以外に、三船敏郎も武士道精神のヒントをくれたということで影響を受けている。サムライに関しても俺はかなり知っている。彼らはやたらめったら刀を振り回していたわけじゃなく、他の武器も持っていたんだ。刀を使う前に銃を使うことだってあった。俺は自分を浪人だと思っている。俺もかつては一門に属していて、レイダー・クランのメンバーだった。でも今は流浪している。刀を持った浪人だ。俺は今の自分の立ち位置をそう思っているんだよ。

―アルバムリリース後、SNS でソウルクエリアンズについて言及されていましたね。ヒップホップをベースにジャズやソウルを取り入れた作品というとある種の定型化/ひな形化された型があるように感じますが、本作にはそれらとは異なる新たな進化を感じました。ご自身で特に意識されたことはありますか?

カリー:俺は、Pitchfork制作のソウルクエリアンズのドキュメンタリー映像をきっかけに彼らを聴きはじめたんだ。スタジオに人を招き入れる時に見せる動画でもあるんだけどね。ちなみに、それとあわせて黒澤明監督の『Composing Movement』(註:黒澤作品がいかに動きでストーリーを伝えているかを分析した動画)も見せるんだ。今回アルバムを作るにあたって、ソウルクエリアンズで特に研究した作品がディアンジェロの『Voodoo』、ザ・ルーツの『Things Fall Apart』、それとエリカ・バドゥの『Mamas Gun』だよ。その後、内容がだいたい固まってきたところで「ヒット曲やみんなが踊れる曲が必要だ」ってことに気づいて、参考にしたのがカニエ・ウエストの『Graduation』。それ以外にも、ジャズでは菅野よう子のシートベルツ作品も参照したよ。特に『カウボーイビバップ』のサントラ。『COWBOY BEBOP SOUNDTRACK 1』も『BLUECOWBOY BEBOP SOUNDTRACK 3 - BLUE』も『Tank! THE! BEST!』も、さらにライブ・バージョンまで毎日聴いた!『FUTURE BLUES〜COWBOY BEBOP -Knockin on heavens door』も。今作における日本からの影響は計り知れない。しまいにはYouTubeで日本のヒップホップもひたすら聴いていたよ。Nujabesとかね。





―Nujabesの名前が出ましたが、たとえばアニメ『サムライチャンプルー』も時代劇とヒップホップを融合した画期的なアニメーション作品でした。

カリー:俺も大好きだよ!

―時代劇やヒップホップの、肉体的でアクロバティックな動きをベースに多くの要素を吸収していく今作の魅力は、まさに『サムライチャンプルー』のような作品に通じる部分があると感じます。

カリー:渡辺信一郎からはかなり影響を受けているよ。なぜなら『カウボーイビバップ』は俺が人生で一番好きなアニメ作品だから。彼は1930~40年代に出てきたビバップやジャズという「古い」とされている音楽を、未来を描くストーリーと見事に融合させている。彼は同様のことを『サムライチャンプルー』でもやっているよね。君の言う通り、時代劇とヒップホップが見事に融合しているし、俺が目指したのもまさにそこだ。俺は今回、アフリカにルーツを持つ人たちをこれまであり得なかった状況に置くという方法をとったんだ。だから「Walkin」のビデオを見ると、出ている大半の人がアフリカ系アメリカ人になっている。「Zatoichi」のビデオにしても、俺が闘っている相手は黒人女性だ。「Troubles」も、主要キャストは全員黒人。いろいろな世界を黒人で描きたかった。これは黒人による文化盗用ではなく、これまで見たことのない役柄を黒人が演じているだけのこと。なぜなら、黒人が演じる役柄と言えば泥棒、ぽん引き、殺人犯、ドラッグディーラーというステレオタイプが今も根強くあるから。俺はそんなのに迎合するつもりはないよ。

「ギャングスタ・ラップには共感できない」

―振り返ると、あなたの初期~中期作品はクラウド・ラップの代表作として、はたまた 2010年代のトラップやブーンバップの最高峰として、かたやフォンクのルーツとして、現在でも日本のヒップ ホップファンに根強い支持を得ています。一方で、近作の幅広い音楽性の折衷はヒップホップコミュニティにおさまらない支持層にも広がってきています。そういった自身のアーティストとしての歩みや功績について、今どんなことを思いますか?

カリー:自分が変わったことは確かだ。完全に変わったわけではないけどね。「Sanjuro」みたいな曲を作ると、「もっと昔みたいな曲を出してよ!」と言われる。そう言いたい気持ちは分かるよ。実際あの手の曲を作るのはお手の物だ。でも、あえて今は作らない。なぜなら、いつでも作れるって分かっているから。違うこともやらせてほしいよ。チャレンジがしたいんだ。上手くいかなかったら、それはそれで仕方ないと思っている。でも今のところは手応えを感じているんだ。『TA13OO』や『Imperial』みたいなアルバムをまた作ってほしいと願っているファンに言いたいのは、あのアルバムがこの世から消えてなくなるわけじゃないからいつでも聴きたい時に聴き返せばいいよ、ってこと。だから、俺には新しいアルバムを作らせてほしいんだ。自分の音楽をさらに拡大していきたいから。

―近年はフロリダからLAに移って活動されていますが、最近のヒップホップシーンについて何か思うところはありますか?

カリー:今はまさにギャングスタ・ラップ全盛期だね。クラウド・ラップの時代は終わったよ。過去、ギャングスタ・ラップの後にネオソウルの時代が到来した。俺はそこの可能性をもっと見出したいと思っているんだ。

―今のあなたは、ヒップホップのギャングスタ的な部分にあまり関心がないということでしょうか。

カリー:俺の兄弟は全員ギャングなんだ。一人は格闘家だったんだけど、警察の過剰な取締りが原因で他界した。ギャングの友達も大勢いて、その多くが命を落とすのを見てきた。俺自身はオタクであるがゆえに死なずに済んだってことなら、オタクで結構だよ。これまでマジで色んなものを見てきたし、仲間の葬式にも何度も出た。俺はギャングスタ・ラップには共感できないんだ。「先週人を撃った」と言う仲間とつるんで、翌週俺がツアーに出ている間にそいつが死んだってこともあったよ。そんな経験はもうしたくないし、自分の子どもにも見せたくない。だから俺は、オタクと呼ばれようがかまわない。自分のサウンドがピンとくるし、人から何を言われても俺は俺だ。無理にギャングスタ風を装わない人間をリスペクトするよ。でも、もし俺を試そうとしたら、誰に連絡すればいいかはわかってるし容赦はしないから。それが俺だ。



―2020年に、残り3枚のアルバムを制作し引退するという発言をされていました。その後小説や漫画を書きたいと。今でもその気持ちは変わりませんか? であれば、残りの音楽活動で、ミュ ージシャンとしてのあなたの創作意欲はどこへ向かうと思われますか?

カリー:アルバムをどう構築すればいいかは分かっているから、エグゼクティブ・プロデューサーとして裏方に回ることだってできるんだ。もうかなり長いことやってきているし、アイデアをどうやって最大限に概念化すればいいかを手助けできる。

―実際、本当に引退するんですか?

カリー:どうかな。このアルバムがどうなるか次第だ。一つ言えるのはこれから先、俺に子どもができたらその子を絶対に独りにはしたくないし、俺が今いる世界を見せたくないということ。イカれたことが蔓延っているこの世界を見せるくらいなら、いっそ「子どもができたから俺はちょっと抜けるわ。またいつか会おう。これまで支えてくれてありがとう。これから育児に専念する」と言って潔く辞めたほうがいいよ。それが今の俺のスタンスだ。

―今日はありがとうございました。日本のリスナーはあなたの音楽を、過去の作品も今の作品もともに愛しています。来日公演を心待ちにしています。

カリー:絶対にまた行く! 日本のファンにもそう伝えてくれ!



デンゼル・カリー
『Melt My Eyez See Your Future』
発売中
視聴・購入リンク:https://virginmusic.lnk.to/MMESYF

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