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米屈指の進学校でナチス式敬礼、街に潜む「差別」の悪魔

Rolling Stone Japan / 2022年4月15日 6時45分

ネットに拡散された問題のシーン ©Rolling Stone

米アラバマ州のマウンテン・ブルック高校はアメリカ屈指の実績を誇る進学校であり、現在は州で2番目にレベルの高い公立高校だ。2021年1月、同校の歴史の教師がクラス全員にナチス式敬礼をしながら「忠誠の誓い」(訳注:星条旗を前にしてアメリカ合衆国への忠誠を誓う儀式、アメリカの公立小学校では毎朝行われる)を唱えさせたとして全米の注目を集めた。

【動画を見る】ナチス式敬礼をする教師

建前上、生徒たちはかつて「ベラミー式敬礼」と呼ばれた片腕を上げる敬礼方法について議論していたことになっている。ベラミー式敬礼は1940年代までアメリカで行われていたが、それ以来使用されなくなった。理由は説明するまでもないだろう。だが学校側の主張は、大量虐殺を行ったファシズム体制と永遠に結びつけられている敬礼方法をなぜ教師が生徒たちに再現させたのか?という疑問には答えていない。教師の呼びかけに応じて、ほとんどの生徒が言われるがまま席を立った。「ショックを受けました。それと同時に、どうしてみんながこんなことをするのか理解できませんでした」と、クラス唯一のユダヤ系の生徒であるエップス・タイテルさんは言った。彼はただただ驚き、動くこともできなかった。

1月18日、歴史の授業を終えて教室を後にしたエップスさんは、母マリヤさんにショートメッセージを送った。「息子の言うことには半信半疑でした。真実ととらえるには、あまりに常軌を逸していましたから」と彼女は振り返る。エップスさんのクラスメートのひとりは持っていたスマホを取り出し、事件を録画していた。動画を見た後でさえ、「夫と私は、努めて教師の行為を大目に見ようとしました。先生の行為は愚かだけど、それは誰にでもあることだ、と思ったのです。その教師とは面識がありましたし、私たちは彼のことが好きでした。今回の件はなかったことにしようと思いました——翌日までは」

その翌日、エップスさんは授業中に呼び出され、教頭と敬礼を促した歴史の教師と面談させられた。例の動画がネット上に拡散していたのだ。そこで彼らは、クラス唯一のユダヤ系の生徒であるエップスさんが犯人に違いないという誤った結論を導き出した。「教頭先生から、僕がマウンテン・ブルック高校の面目をつぶしていると言われました」とエップスさんは詳細を語った。「歴史の先生に謝罪しなさいと、教頭先生に言われました。僕は謝りませんでした。謝る必要なんてないと思ったからです」。エップスさんは、動画を撮影したクラスメートの名前は明かさなかった。「学校側の対応は、被害者が悪さをした張本人に謝罪することを要求するようなものです」とマリヤさんは言った。「それに加えて私たちは、息子の口からこうしたことを聞かなければいけませんでした。あの子はひどく動揺し、傷ついていたというのに」。教師との面談は、マリヤさんにとって学校側が一線を越えた瞬間だった。学校側の粗末な判断は、単なる”偶然”ではなかったのだ。

【写真を見る】事件が起きたマウンテン・ブルック高校



マウンテン・ブルックという街の秘密

それもそのはずだ。マウンテン・ブルックは、偶然とは縁遠い場所なのだから。2017年にニューヨーク・タイムズ・マガジンに寄稿された「The Resegregation of Jefferson County(ジェファーソン郡における人種差別の復活)」という記事の中で、『The 1619 Project: A New Origin Story(1619プロジェクト:新たな起源の物語)』の著者でジャーナリストのニコール・ハンナ・ジョーンズは、アラバマ州の周辺地区の中で真っ先にブラウン対教育委員会裁判(訳注:1954年、公立学校における人種分離を違憲とするアメリカ合衆国連邦最高裁判所の判決がくだった裁判)に反応したのがマウンテン・ブルックだったと指摘した。マウンテン・ブルックはバーミンガム市から分離し、白人系の裕福な周辺地区は新たな街を併合することで人種差別を撤廃するための取り組みを回避することができる、という独自のプレイブックを考案した。今日のマウンテン・ブルックは同州きっての高級住宅街であり、住民の97%以上は白人だ。

要するにマウンテン・ブルックは、人種的ないし社会経済学的な多様性が理論上の概念としてしか存在しない場所であると同時に、あえてそのように設計された街なのだ。そしてここは、過ぎし日の多くの学校と同様に、あからさまな人種差別主義という礎のもとに建てられた学校が、生徒に反人種差別教育を提供しなかったことの悪影響が証明された場所でもある。マウンテン・ブルック高校のナチス式敬礼は、危惧すべき最初の事件ではなかった。それは氷山の一角に過ぎなかったのだ。

2020年5月、私は地元の友人たちからネット上に拡散されたある動画の話題を耳にするようになった。動画では、マウンテン・ブルック高校の男子生徒の裸の背中にふたつの大きなかぎ十字とドイツ語で万歳を意味する「ハイル」の文字が描かれていた。地域住民は危機感をあらわにし、学校側はこうした事件を回避する目的で多様性委員会を発足した。最終的に委員会は、学校側が名誉毀損防止同盟(Anti-Defamation League、以下ADL)と協力することを推奨した。ADLとは、1980年代から反人種差別的なリソースを教育現場に提供しつづけているアメリカ最大のユダヤ人団体であり、その反バイアス教育はアラバマ州の多くの学校をはじめ、全米の多くの学校現場で採用されている。2021年2月、マウンテン・ブルック高校のトップはADLと契約を交わし、6月半ばには少なくとも500名の教師が「No Place for Hate(憎しみは、ここにはいらない)」というADLワークショップに参加した。


学校側の対応

エップスさんは多くのクラスメートにナチス式敬礼は間違っていたと白状させることに苦労していた。「みんなが完全な反ユダヤ主義者だとは思いません。でも、問題だと気づかずに、ただ言われた通りにするなんて」と彼はため息をついた。「ほかの子たちに話しても、みんな『先生はただ教えようとしてるだけだよ』としか言いません。誰も問題点に気づいていないんですよね」

人種差別のみならず、存在を否定されること、ひいては取り組むべき問題があるという事実を否定されることがどれだけ自分を傷つけるか、彼はわかっているのだ。ナチス式敬礼事件後、2週間以上が経ってから校長はようやくエップスさんの両親との面談に応じた。「校長先生は、多忙で私たちと面談する時間がないと言いました」と母のマリヤさんは言った。「彼の言葉には、ひどく傷つきました。クラスでナチス式敬礼が行われているというのに、対応する時間がないと言うのなら、この学校は果たしてほかにどれだけ重大な問題を抱えているのでしょうか?」
 
エップスさんの一家は、ナチス式敬礼事件を最初に報道したメディアに接触した覚えはない。いったい誰がどのようにしてメディアに伝え、なぜ全国的に取り上げられるようになったかは不明だ。だが事件が報じられた当日、住民の中には彼らに詰め寄る者もいた。夕方には、エップスさんの家をリンチして家を燃やすという脅迫を受けた。その日の夜、エップスさんは「彼らは、僕がマウンテン・ブルックの評判をおとしめていると言うのです」と語ってくれた。その声は小さいながらもしっかりとしていた。「ある時、知らない人に『自分がやっていることの意味をわかっているのか? あんたのせいで大学の友愛会に入れなくなるじゃないか』と言われました」

新たな法律により、アラバマ州の学校でナチス式敬礼のような行為が今後は禁止されることは間違いないだろう。事件後にマウンテン・ブルック高校がとった唯一の対策は、クラスでのスマホの使用禁止だった。

【関連記事】カナダ発、3人殺害の10代容疑者2名はヒトラー、プーチン、トランプに心酔

from Rolling Stone US



Seems a little inappropriate for a Mountain Brook Alabama high school doesn’t it? pic.twitter.com/cOf1OL7vdF — _Imposter_ (@Imposter_Edits) February 8, 2022


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