フォンテインズD.C.が語る新たなグルーヴ、母国との繋がり、悪質なナショナリズム
Rolling Stone Japan / 2022年4月22日 17時0分
フォンテインズD.C.が通算3作目の最新アルバム『Skinty Fia』を4月22日にリリース。フジロック22での来日も控えている彼らが現在の心境を語る。
抑制を効かせたポストパンク調のギターと、グリアン・チャッテンのカリスマ性に満ちたヴォーカルが描く腐敗、宗教、そしてアイルランド人としてのアイデンティティというテーマを融合させた2019年発表のデビュー作『Dogrel』で、ダブリン発のフォンテインズD.C.は確固たる評価を得た。同作はマーキュリー・プライズにノミネートされ、翌年に発表された2ndアルバム『A Heros Death』はグラミー賞のベスト・ロック・アルバム部門にノミネートされた。
今月発表される最新作『Skinty Fia』は、彼らの現時点での最高傑作と言っていいだろう。過去2作で確立したグルーヴを軸にしつつ、本作には新たなアイデアや深みを増したパーソナルな視点が随所に散りばめられている。それはバンド史上最もストレートなラブソングでありながら、母国を蝕む闇の鎮魂歌のようでもある先行シングル「I Love You」にも言えることだ。
「それは俺たちの母国の深い部分に巣食っていて、様々な物事を悲劇的な結末へと導いてる。この曲を書いた時、俺はそう感じてた」。グリアンは同曲の発表時にそう語っている。
グリアンとギタリストのカルロス・オコネルが取材に応じ、ニューアルバムについて語ってくれた。
グリアン・チャッテン
―『A Heros Death』と比較して、フォンテインズD.C.のサウンドは『Skinty Fia』でどう変化したのでしょうか?
グリアン:余裕が生まれた一方で、グルーヴが強化されている。過去2作のグルーヴとは異なるけど、俺たちは今作で何かに傾倒したわけじゃないんだ。リスナーを惹きつけるムードを生み出すロジックっていうのはトロイの木馬のようなもので、一旦ゾーンに入ると俺たちのイデオロギーやアイデアが表面化し始めた。でも「Roman Holiday」のような曲は、最初は聴きやすいと感じるだろうね。あの曲はカート・ヴァイルの影響をかなり受けてるんだ。2年前に出演したクロアチアのフェスで彼のショーを見たんだけど、はっきり言って嫉妬したよ。ちょうど夕暮れ時で、彼のユルさがすごくマッチしてた。俺たちなんて、ライブ直前の10分間はメンバー同士で顔を引っ叩き合ってるのにさ。子供にショートメールを送ってからステージに立って観客を沸かせる、そんなことができる人が羨ましいよ。
―アルバム収録曲の「Big Shot」は、初めてカルロスが単独で手がけた曲となっています。
カルロス:ロックダウンのせいで時間はたっぷりあったし、出来に自信もあった。それぞれが書いた曲をメールに添付して送るっていう、ずっと前にやってたプロセスを再開する形になったけど、思いがけず新鮮だったよ。俺たちは一定の成功を収めたけど、実感としては何も変わっちゃいない。そういう実存的なことをテーマにした曲で、自分たちを影響力のある存在だと思い込んでいても、実際には何の価値も存在しないのかもしれないっていう考えを示してる。俺はあの曲に何の価値も見出していないけど、俺が無意味だと思うもの、そして俺が思っていたほど重要じゃないものが描かれてるのは確かだよ。
カルロス・オコネル
―深い闇を感じさせる部分もあります。「I Love You」はロマンチックでありながらも、ゴールウェイにあるBon Secours Mother and Baby Homeの集団墓地で800人の赤子の遺体が見つかった経緯について言及しています。
グリアン:ラブソングを書くつもりだったんだけど、感情の紐で結びついていたかのようにあのテーマに行き当たった。曲を書いてた最中のことは何も覚えていなくて、数時間後に仕上げた時、それが自分が書いたものだとは信じられなかった。アイルランドとイングランドの間に存在するロクでもない物事の嵐に自分自身が巻き込まれていくのを、側から眺めているように感じていたんだ。俺が問題視していることは皆気に留めているけど、誰もが目を逸らしてる。それらは全部死者の魂が一斉に発したもので、俺は自分なりの解釈を言語化しようとしたんだ。
―あなたはアイルランドを離れてロンドンに移り住んだことに対する罪悪感が、本作の制作に影響したと語っています。
グリアン:そんなつもりじゃなかったけど、過去数年間で散々アイルランドについて語ってきたから、それがバンドのアイデンティティの一部のようになってしまった。まるで俺たちがアイルランドという国を曲作りのインスピレーション源として利用しているように思えて、警笛を鳴らしたんだよ。ロックダウンが始まるまでは、北ロンドンのバルコニーのあるフラットでの暮らしを大いに楽しんでたんだけどね。
俺の弟なんて大学生になって数年経つのに、先週初めて実際に登校したんだ。恵まれた暮らしの中で、アイルランドが抱える問題に対する意識が薄れていくように感じてた。「I Love You」はその繋がりを取り戻そうとする曲なんだよ。
アイデンティティを見つめ直すために
―「In ár gCroíthe go deo」は、コベントリーのアイルランド系女性の親族が争いの末、彼女の墓標に刻んだケルト語のフレーズにちなんでいます。
グリアン:今はナショナリズムと大衆主義、そして愛国心を讃えるような風潮が世界中で見られる。船に見立てた国家が何か重大な出来事に見舞われたとして、集合的民族意識の片隅に生まれた羞恥心はその船を転覆させる。船尾が沈んでいくにつれて上昇する船頭、それはプライドの象徴だ。最近は歴史上の人物の像が破壊される事件がよく起きてるけど、言論の自由と国民意識が脅かされていると感じる人々が蜂起するケースは、今後さらに増えるだろうね。
そういうムードの高まりを、俺は実際に肌で感じてる。ロンドンに住むイングランド人の間で、アイルランドの人々がどう扱われてるかっていうのはあまり語られていない。もっと酷い扱いを受けている人々がいるからだ。イングランドの人間は何をやっても許されると思ってるような節があるんだよ。
長い間、アイルランドの人々は苦々しい思いをしていた。80年代や90年代とは違うっていうのはレトリックだよ。確かにそうだけど、そういう風潮は今も残っていて、アイルランドの人々は前に進むためにずっと耐え忍んでるんだ。
カルロス:悪質なナショナリズムの高まりはイングランドでも起きてるけど、歴史を正確に伝えていないことが根本的な原因だと思う。ハッとさせられる経験をしたことがあるんだ。追悼の日曜日に行われたディナーパーティーでのことなんだけど、誰かがイギリス軍の戦死者たちに乾杯しようとしたんだ。彼は俺の目の前でグラスを掲げたけど、俺はアイルランドで起きた悲惨な出来事に加担した人々を讃えることなんてできなかった。彼に悪気はなかったんだろうけど、それにどういう意味があるのかを理解していないんだろうと思った。正しい知識を持たない人々がそういう言葉を軽々しく口にする風潮って、すごく危険なことだよ。あの曲で描かれてるのはほんの2年前の出来事だけど、敵の民族の言語だと解釈されてたんだ。狂ってるとしか言いようがないよ。
―あなた方は多作で、2019年からの3年間でアルバムを3枚完成させています。
グリアン:いつまでも新人扱いされたくなかったから、『A Heros Death』を早い段階で完成させられたのはよかったと思ってる。アルバムを3枚出せば、さすがにもう新人じゃないだろうからね。でも実際には、単に必要だから曲を書いてるだけなんだよ。1stアルバムではダブリンについて言いたいことをぶちまけ、セカンドでは殺人的なツアー日程の中で平穏を見出そうと必死だった。今作の目的は、ロンドンという街の視点でアイルランド人としてのアイデンティティを見つめ直すことだった。それぞれ異なるチャプターの産物なんだよ。
今作の曲は全部去年に書いたものだけど、それは俺たちにそうすべき理由があったってことを意味してる。今はただ、自分が『Skinty Fia』を作ったバンドの一部だっていう事実を噛み締めていたい。このアルバムをすごく誇りに思ってるし、マジでこのバンドは最高にクールだからさ。いちいち理屈をつけたりしないで、ただこの状況を楽しみたいんだ。
―今のあなたは以前よりも落ち着いていると?
グリアン:ステージに立っていられる時間も長くなったしね。今は前よりも曲に没入できるようになったけど、以前はアドレナリンが出過ぎて自分をコントロールできなくて、危険なレベルにまでなりつつあった。アムステルダムでのショーでは、プラスチックのナイフで顔の血管を切ってしまった。当時の俺は不眠症になっていて、ツアー中はものすごく気が滅入ってたこともあって、パンにバターを塗る時に使うようなナイフを持ち出してそんな真似をしたんだ。傷はかなり深くて、最初の4曲の間は血を拭うだけで精一杯だった。もうあんな真似はしないよ、今はオーディエンスとの繋がりをもっと感じられるようになったしね。客を敵視して、喧嘩を売ってた以前の俺とは違うんだ。
From Rolling Stone UK
フォンテインズD.C.
『Skinty Fia』
2022年4月22日リリース
FUJI ROCK FESTIVAL 22
2022年7月29日(金)、30日(土)、31日(日)新潟・湯沢 苗場スキー場
※フォンテインズD.C.は7月31日(日)に出演
公式サイト:https://www.fujirockfestival.com/
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