銃を手に取ることはアメリカ人の美徳 共和党候補者たちが中間選挙を前に過激化
Rolling Stone Japan / 2022年4月21日 6時45分
2021年秋、次期ミシガン州知事の座を狙う米共和党候補、ギャレット・ソルダーノ氏が風変わりな選挙CMを公開した。CMに出てくるセリフは「誰が?」という問いかけと、それに対して2回繰り返される「WE THE PEOPLE!(我々国民だ!)」という掛け声だけ。あとの45秒は、ヘヴィなギターリフのループをバックに、ソルダーノ氏が射撃場で様々な武器を使用する映像だ。
【動画を見る】ライフル銃「AR-15」をぶっ放す
秋の中間選挙を控え、共和党候補者はあからさまなほどに銃一色だ。選挙CMやInstagramの投稿、果てはクリスマスカードにまで殺傷能力の高い銃を手にして発砲する自らの姿を盛り込み、有権者に向けて山のように発信している。もちろん保守派が選挙CMに銃を用いるのは今に始まったことではない。だがトランプ前大統領の任期後――とりわけ任期最後に起きた連邦議事堂襲撃の後で――の扱われ方は、共和党の未来に暗い影を落としている。もし連邦議会で共和党が再び支配を取り戻せば、国の未来も危うい。
インターネット上の右派活動を追跡する研究者ロン・フィリプコウスキ氏は、これまでにも共和党が選挙CMで銃に走る事例をいくつか指摘してきた。同氏いわく、2020年および2018年の大統領選挙サイクルと比較すると、今回の中間選挙では銃を利用するケースが「確実に」増加しているという。
「私も気になり始めて、『一体何事だ?』と思いました」と同氏。「アメリカファースト運動全体が(ローレン・)ボーバート議員や(マージョリー・テイラー・)グリーン議員化し、現在の共和党の原動力になっているかのようです。こうした候補者たちが共和党を動かしています。今では古参の候補者も、自分たちも同じことをしなくては、と感じていると思います」
ボーバート議員は2020年の選挙で銃問題を大々的に取り上げて当選し、昨年には連邦議事堂にグロック銃を持ち込むと誓うCMも公開した。グリーン議員は2020年の選挙CMでアサルトライフルを構え、「極左テロリスト」は選挙区から出ていけと警告し、昨年秋には50ミリのライフルでプリウスを撃破している。ベテラン共和党議員はこうした流れについていくのに苦労しているが、昨年カーキ色のパンツ姿で射撃場に現れた映像を公開したリンゼイ・グラハム議員のように、試してみるべきだと感じていることは確かだ。これが現在の共和党なのだ。
「国を守るためのライフル銃」使用を訴え
銃を中心にしたCMの増加にフィリプコウフスキ氏が本格的に気付き始めたのは2021年秋、候補者たちが選挙活動第1弾としてCMを撃ち始めたころだったそうだ。以来、この流れが続いている。
例えばトランプ前大統領の元補佐官で、アンソニー・ゴンザレス共和党下院議員の退任に伴うオハイオ州代表補欠選挙に出馬しているマックス・ミラー氏は、「国を守るためのライフル銃」使用を訴えている。
The Trump impeachment-vote revenge tour continues on. Here is the kickoff ad from Max Miller, his candidate against OH Rep. Anthony Gonzalez, who he says ”betrayed” the voters by voting for impeachment. Of course, he starts the ad shooting an assault rifle. pic.twitter.com/5g1eJdKLIJ — Ron Filipkowski (@RonFilipkowski) September 8, 2021
続いてジョージア州代表下院議員選のマイケル・コリンズ候補のCM。「ナンシー・ペロシのアメリカ計画」を撃破した後、大きなトラックに乗り込み、アメフトボールを投げ、再びアサルトライフルをぶっ放す。「私はためらうことなく、初日からトランプ派であることを公言する」とも語っている。
Im running for congress to get our America First agenda back on track. Ill not only fight the Democrats but the RINOs too. Help fuel the the fight. #SaveAmerica https://t.co/bchzxsgTjE pic.twitter.com/8Cr7UN47N6 — Michael Collins (@MikeCollinsGA) August 23, 2021
最後にアリゾナ州選出上院議員選に立候補しているブレイク・マスターズ氏。ワルサーPPKとサイレンサーへの熱い想いを語っている。
Ill be the most pro-2A Senator that Arizona has ever had. Ive got the guns to prove it. Every Monday, Ill tell you about one of them. This week: @waltherfirearms PPK/S with a @deadairsilencer mask. #mondaygunday pic.twitter.com/rvokb20Q0u — Blake Masters (@bgmasters) October 5, 2021
投機資本家のマスターズ氏は、トランプ氏も大好きな億万長者ピーター・ティール氏の秘蔵っ子で、予備選挙活動ではずっと銃を前面に押し出している。バイデン大統領は先日、入手ルートが追跡できない手製の銃、いわゆる「ゴーストガン」の取り締まりを公言したが、これに対抗して自ら組み立てた「ゴーストガン」の写真をツイートし、「非常に合法的でとてもクール」と投稿した。
「建国の祖はみな自ら銃を組み立てていました」とマスターズ氏はさらに続けた。「我々にも同じことを求めていたはずです――これこそ究極の政治行動、憲法修正第2条で守られている自由です。テクノロジーの勢いはとめられません。3Dプリント技術により、年を追うごとにますます簡易化するでしょう。”銃規制”に関しては私が政治的くさびとなるでしょう。ですがテクノロジーのくさびは避けられません」
憲法修正第2条が攻撃されていると訴え、銃改正政策の縮小を誓う共和党員はマスターズ氏だけではない――フロリダ代表下院議員選のアンソニー・サバティーニ候補がバイデン大統領の演説に反発し、アルコール・たばこ火器局(ATF)の廃止を先日呼びかけた――もし11月の中間選挙で共和党が連邦議会で過半数を取り返せば、全米レベルでの銃携行の承認や経歴チェック廃止など、次から次へと銃賛成法案の可決を図ってくるだろう。「極右政治家は、予備選挙で銃ロビイストにこびへつらっているんです」。銃反対を掲げる団体Moms Demand Actionの創始者シャノン・ワッツ氏はローリングストーン誌にこう語った。「議席を獲得すれば、間違いなくそうし続けるでしょう」
銃賛成のCMが突如あふれた背景
だが銃賛成CMが突如あふれた背景には、憲法修正第2条の問題だけではない。1月6日の連邦議事堂襲撃事件は共和党が信じている「理想」をイメージ化してしまったのだ。民主党政権下で指から零れ落ちてしまった古き良きアメリカの姿を再び取り戻すため――すなわちアメリカを再び偉大にするためには、暴力も辞さないことをあからさまに、またはそれとなく称賛する候補者が共和党には必要だ、と改めて知らしめている。
「まるで過激派の運動です」と言うのは、共和党戦略家でリンカーンプロジェクトの共同設立者でもあるマイク・マドリード氏だ。「共和党の支持基盤、少なくともその大半はすでに過激化しています。部族の問題に対して誰よりも熱心かつ積極的であることを示すには、大義のために戦う用意ができていることを陰に陽にほのめかすのが一番です。それが今起きている状況です。憲法修正第2条の問題ではありません。『私はこれだけ力を入れている、私はこれだけ熱心だ。喜んでこの問題に取り組み、部族のために戦う』ことを示す。それが全てです」
アイダホ州知事選に出馬しているジャニス・マクギアン候補も、CMでアサルトライフルを発砲しながらこう述べている。「憲法修正第2条は、鳥の狩猟をするために憲法に批准されたわけではありません」
Ill be the most pro-2A Senator that Arizona has ever had. Ive got the guns to prove it. Every Monday, Ill tell you about one of them. This week: @waltherfirearms PPK/S with a @deadairsilencer mask. #mondaygunday pic.twitter.com/rvokb20Q0u — Blake Masters (@bgmasters) October 5, 2021
「憲法修正第2条はこれまでずっと守りの姿勢でした」とマドリード氏は続けた。「常に『銃を取り上げるな』という形でした。それが今では根本的に違ったものになってきています。銃を所有すること、銃を手に取ることは美徳だと叫ばれています。権利ではなく、義務に近いと……この手の武器を中心とした社会の実現を望む声がもち上がっています。そこにはパライノアも多分に絡んでいますが、社会の構成員の感情がもはやコントロールできなくなっている社会の表れでもあります。彼らは『アメリカが消滅した』と感じている。過去の遺物となってしまった、奪われてしまった。悪者が誰であれ、そいつから身を守る唯一の方法は、金塊や缶詰、そして大量の武器を備蓄することだと考えているのです」
フィリプコウスキ氏同様、マドリード氏も政治広告で銃がますます「多用」されている現状に気づき、2024年までに共和党は混乱を引き起こすだろうと考えている。「銃を振り回し、銃文化にのめり込むことは”革命的”だと考えられています。ここでいう”革命的”とは、彼らの中では”アメリカ”を守る者としての最高の美徳ととらえられています」と同氏。「1776年当時のような、愛国者的な言い回しです。そこでは常にアメリカ国旗がはためいています。こうしたばかげた『アメリカらしさ』の定義は、選挙サイクルのたびに共和党内でますます激しくなっています」
過激化こそが目的
こうした過激化の傾向は共和党内部、それも共和党だけで見られることから、本選挙が近くなればCMのトーンも落ちつくだろう、と考える者もいる。えてして候補者は、選挙前にはより多くの有権者に媚びるために穏健なメッセージに方向転換するものだからだ。
昨年のバージニア州知事選では、共和党のグレン・ヨンキン候補者は予備選挙で銃や中絶、トランプ愛を振りかざしていた。だが本選挙直前には銃や中絶に対する態度を和らげ、トランプ氏からも距離を置き、結果として民主党のテリー・マコーリフ候補に大勝した。
だが銃への新たな執着は、ヨンキン氏のような頭の切れる億万長者から生まれたものではない。熱心なMAGA一派から生まれたものだ。そしておそらく予備選挙が終わっても根強く残るだろうし、さらにいえば政党のDNAにも深く刻み込まれるだろう。今の共和党は過激派思想や陰謀論に染まり、政治的目標の達成のためには暴力も正当な手段だという考えにどっぷり浸っている。
「変わることはないでしょう」とマドリード氏も言う。「予備選挙のための戦術ではありません。これが共和党主義の主流です。ひとたびその鎧を脱ぎ去れば、縮小しつつある共和党基盤から必要な支持や投票率を失ってしまうでしょう。過激化こそが目的なのです。銃を手にして目の前の敵や迫りくる敵を打ち倒す、大義のためなら喜んで暴力をふるう、とアピールするためです。これは一部少数派ではありません。こうした連中が共和党の予備選挙で勝利を収めつつあるのです」
from Rolling Stone US
ENTER OUR CONTEST TO WIN AN AR-15
Our team is giving away a brand new AR-15 rifle to the winner of our contest. Enter here --> https://t.co/fd4W5otRPL
WE THE PEOPLE must stay vigilant in defense of our Second Amendment rights and constitutional freedoms. pic.twitter.com/pcNlyCqJrN — Garrett Soldano For Governor (@GarrettForMI) October 5, 2021
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