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WONK、ロバート・グラスパーという「青春」を振り返る

Rolling Stone Japan / 2022年4月28日 18時0分

WONK(Photo by Chiemi Kitahara)

5月14・15日に開催される「LOVE SUPREME JAZZ FESTIVAL」で、ロバート・グラスパーと同じ15日の出演が決まっているWONK。ジャズとヒップホップを背景に持ちつつ、ジャンル横断的で「エクスペリメント」なその音楽に対する姿勢は、間違いなくグラスパーと共振する部分がある。それもそのはず、彼らは2012年に発表された『Black Radio』の直撃世代で、今の日本のバンドシーンでは同じようにグラスパーからの影響を受け取った世代が多数活躍している。『Black Radio Ⅲ』が発表されたこのタイミングで、長塚健斗(Vo)、井上幹(Ba)、江﨑文武(Key)、荒田洸(Dr)の4人にグラスパーについて語り合ってもらった。

【画像を見る】WONK撮り下ろし(全6点)

4人とグラスパーの出会い
音楽の現場にもたらした影響

―みなさんそれぞれがどのようにグラスパーに出会い、どんな部分に惹かれたのかをお伺いしたいです。

荒田:最初の出会いは『Double Booked』(2009年)ですね。でも、どう出会ったんだっけな……。

江﨑:横入りして申し訳ないんだけど、当時は高校生だから、クラスの友達だけだとグラスパーに出会わなくない?

荒田:一人そういう話ができる友達がいたんだけど……でも、そいつから教わったかは定かじゃないです。それから大学に入って、ビートを作るようになって、 J・ディラとかを掘り進めていって、それくらいのタイミングで『Black Radio』が出たのかな。


荒田洸(Photo by Chiemi Kitahara)

―入口は『Double Booked』だったんですね。

荒田:僕はグラスパーの一番の名盤は『Black Radio』じゃなくて『Double Booked』だっていう派閥なので(笑)。あれはマジすげえなと思いました。

―どんなポイントが大きかったですか?

荒田:(前半6曲はジャズ、後半6曲はヒップホップ寄りの楽曲を収録した)コンセプトも面白いし、クリス・デイヴのドラムが意味わからなくて衝撃で。新しすぎだろうって。エリカ・バドゥとかの流れも汲み取られてるんだけど、それが上手い具合にジャズの中に入っていて、その塩梅もいいし、ホントにすごいなって。


グラスパー、クリス・デイヴ、デリック・ホッジによる2008年の演奏

―『Double Booked』の後半があったからこそ、その後のエクスペリメントの活動〜『Black Radio』に繋がったわけで、間違いなく重要作ですよね。江﨑さんはいかがですか?

江﨑:僕は『In My Element』(2007年)くらいで知りました。中学生のときにジャズバンドをやってて、そのときAnswer to Remember(石若駿が率いるプロジェクト)にも参加しているピアニストの海堀弘太とメル友だったんですよ。

―メル友(笑)。時代を感じますね。

江﨑:SNSはまだなくて、YouTubeが出始めたのが中1の頃なんですけど、僕はその頃から演奏動画をアップしていて。それを見た海堀くんからメールが来て、情報をやり取りするようになったんです。その中で、大阪で同世代の面白いジャムシーンが形成されてると教えてもらって、そこには(石若)駿だったり、早川唯雅くん(サックス奏者、Seihoの弟)とかもいて、そこで『In My Element』がすごい話題になってるって聞いたんですよね。僕はずっと地元の九州にいて、ジャズバーに行っても基本ハードバップしか流れてなくて、新しい音楽に出会う機会がほとんどなかったんですけど、その界隈から海堀くんを通じて情報を又聞きして、それで聴いたのが最初でした。で、東京藝大進学にあたって上京をして、早稲田のジャズ研に入ったら、東京の同世代はみんなグラスパーを当然のように知ってて、大学2年で『Black Radio』が出たときもみんな聴いてて、グラスパーっぽいボイシングを遊びでやったりしてました。


江﨑文武(左から3番目:Photo by Chiemi Kitahara)

―ジャズ研の音楽仲間の間では、すでに教科書みたいなものになっていたと。

江﨑:そうですね。しかも、早稲田のジャズ研は部室をR&B、ソウル、ファンク、中南米の音楽をやるようなサークルと一緒に使ってて、そういう人たちとの架け橋にもなっていたというか。ジャズ研はテーマだけ使って、自分たちでいろいろアドリブしながらカバーするけど、同じ部室を使ってる他の人たちは完コピしたりして、「そっちもグラスパーやってんの?」みたいな。

―面白いですね。荒田さんも早稲田のジャズ研に出入りしていたそうですが、当時のグラスパーにまつわる思い出ってありますか?

荒田:ジャズ研とは別に、(井上)幹さんとは慶応の「クロスオーバー研究会」で一緒で。そこはドラムで言うと「いかに何回もキメを決めるか」みたいなサークルだったんですけど(笑)、その中でストイックにブラックミュージックを攻めてる先輩がいて、それが井上幹だったんです。それで僕もJ・ディラとかを研究して、いろいろカバーをするようになって。

江﨑:早稲田のジャズ研に荒田が初めて来たその日に、ジャズ研内でのあだ名が「慶応のクリス・デイヴ」になってましたからね。

―あははははは。

江﨑:ジャズ研って、基本的にはナードのたまり場なんですよ。で、荒田は同い年だけど学年は一個下で、僕が2年のときに荒田が1年で入ってきたんですけど、ドアをガシャって開けたら、キャップを斜めに被って、ジャラジャラした金属のネックレスをつけていて、部室に入るといきなりスネアの音を変え始めて。ジャズ研のセッションで普通音作りはやらないんですけど、荒田はめちゃめちゃ作ってて。本かなんかを(スネアに)置いてた気がするんだよね。

荒田:よく覚えてるね(笑)。

江﨑:「ただのジャムなのに、めちゃめちゃミュートしたりするやん!」って(笑)。そのセッションでは「Softly, As in a Morning Sunrise」(1928年に書かれたジャズ・スタンダード)を演奏したんですけど、あの曲をグラスパー風にやるのが流行ってたんです。そのときにジャズ研のみんなが「何だあいつ? ジャズ研で見たことないタイプのドラマーだ」となって。


井上幹(Photo by Chiemi Kitahara)

―それで「慶応のクリス・デイヴ」を襲名したと。井上さんはいつグラスパーと出会ったのでしょうか?

井上:大学1年のときに出会った先輩が、プロもアマも来るようなジャムセッションに連れて行ってくれて。そこでみんなが「Festival」(『Double Booked』収録)を演奏しだして、「こんなの無理!」ってなったのが最初です。それまでもディアンジェロとかエリカ・バドゥは大ファンで、QティップとかATCQ(ア・トライブ・コールド・クエスト)もめっちゃ好きだったんですけど、自分の楽器的側面と、ヒップホップとかソウルミュージックを結び付けて聴いたことがなくて、自分がやるモチベーションでヒップホップを聴いてはいなかったんです。



―でも、そのジャムセッションでプレイヤーとしての自分と結びついたと。

井上:ジャムセッション界隈では、「NYから帰ってきた人が偉い」みたいな空気があって(笑)。そういう人はすごく物知りで、「NYではこういうアレンジが主流で……」みたいな感じで、日本のセッション界隈に教えてくれてたんですよね。ジャズのセッションだとどうアレンジするかはその場の空気次第だけど、クロスオーバーな感じのジャムでは本場のアレンジを再現するみたいな感じ。そういう経験を通じて、自分がもともと好きだったQティップなどの音楽と、自分のベース演奏が結びついて、もっとこういうことをやりたいと思って。でも、まだ大学ではそういうのをやろうとしてる人は少なかった。

江﨑:僕も(グラスパーの)完コピは、幹さんや荒田と出会ってから初めてやりました。

井上:サークルではスクエアな演奏のほうが盛り上がるなか(笑)、僕は一人でいろいろ違うことをやってたんだけど、4年生になったときに荒田が入ってきて。「こいつだ!」と思いました。当時は楽器奏者とヒップホップってなかなか結び付かなかったんですよね。「ケンドリック・ラマーの曲でベース弾いてるの誰?」みたいなのって、一昔前だと話題にならなかったと思う。それが今や当たり前になっているのは、グラスパーみたいな存在が現れたことがすごく大きかったなって。

江﨑:グラスパーより前だと、(1993年にアルバムデビューした)ザ・ルーツも生演奏でヒップホップをやってたわけじゃないですか。あれを見て楽器でやりたいとは思わなかったんですか?

井上:ザ・ルーツはそんなにモダンじゃなかったっていうか……僕のなかでは ディアンジェロが率いるザ・ヴァンガードとかに近くて、グルーヴを持ったバンドというか。グラスパーみたいに、「ここのコード進行が短三度上がってモダン」みたいな感じじゃなくて。

江﨑:確かになあ。グラスパーの場合は、さっきのみんなで「Festival」をやるみたいな、ジャムセッションで使ってもいい余白みたいなものがあるかもしれないですね。


長塚健斗(Photo by Chiemi Kitahara)

―長塚さんはどうでしょう?

長塚 僕はもともと、ジャズ・スタンダードのカバーをするおっちゃんたちのバンドで歌ってきた時間が長くて。大学生のとき荒田や井上と知り合い、ディアンジェロの『Brown Sugar』とか、あの辺のカバーをいろいろやってたんです。僕はその頃にブラックっぽい音に出会い、のめり込んで行って、その流れでグラスパーとも出会いました。レイラ・ハサウェイとか、グサッと刺さるシンガーとたくさんコラボをしていて、それがすごく魅力的でしたね。



―歌い手にとっても、グラスパーの音楽は惹かれるものがあった。

長塚 そうですね。グラスパー周りのシーンでいうと、最初はまずホセ・ジェイムズにどハマりして。彼のアルバム 『No Beginning No End』にグラスパーが参加してたり、そういうところから僕のなかで繋がっていきました。



江﨑:最初に長塚さんの情報を荒田から聞いたときは、「見た目がいい感じで、声の感じはホセ・ジェイムズみたいな人がいるんだよね」って(笑)。まあ、僕らの同世代は間違いなくみんなグラスパーからメチャクチャ影響を受けてます。「青春だなあ」って感じがしますね。

『Black Radio』は最高の入門書
プレイヤー視点で魅力を紐解く

―『Black Radio』という作品の魅力に関しては、どのようにお考えですか?

井上:僕のなかでは、最高のビギナー盤というか……。

―入門編として最適?

井上:そう、入口として最高品質っていう感じ。『Double Booked』とか『In My Element』から聴いてる人からすると、「そうだよね」って感じもあったと思うけど、これを入口にする人は、その後に最高の体験が待ってることがわかるというか。インストだけに終始しないコンセプトだから、どっちとも知り合えるんですよね。ジャズの人からすれば、ソウルミュージックのすごい人と出会えるし、それまで「歌=音楽」だと思ってた人からすると、バンドアレンジの面白さと出会える。そういう意味で、僕の中では最高の入門書って感じですね。



江﨑:僕はまず『In My Element』でジャズ・ピアニストとしてのグラスパーを知って。誰がパイオニアかはわからないけど、ブラッド・メルドーが7拍子で「All The Things You Are」(1939年に書かれたジャズ・スタンダード)をやるみたいなのって、当時の僕のなかでは革新的だったんです。グラスパーもジャズ・スタンダードを演奏するうえで、そういう拍子や小節に挑戦するタイプの鍵盤弾きっていう認知がまずあって。その後に『Double Booked』を聴いたときは、「後半で変なことやってるな」と思って、あんまり理解できなかったんです。というのも、僕はヒップホップをまったく通ってなくて、その文脈がさっぱりわからなかったので。でも、『Black Radio』が出たタイミングで荒田と出会い、J・ディラを聴いたりして、初めていろんなものがバシッと紐づいたんですよね。

―背景や文脈を知ることによって、聴き方がわかった。幹さんの「入門書」という例えともリンクするエピソードですね。

江﨑:そうですね。やっぱりヒップホップの曲って、楽器奏者からすると自分でやろうとは思わないというか。物理的に人間の身体では再現不可能な音の飛びもいっぱいあるわけで。でも、グラスパーはあくまでそれを生楽器でやるっていうフォーマットに書き換えてくれたというか、「楽器でやるならこんな風にやればいいんだ」というのを示してくれて。「ピッチがおかしいループでも、鍵盤だとこう積むとかっこよさそうだな」とか、そういう補助線をわかりやすく引いてくれた。僕みたいなちょっと偏った音楽遍歴の人からすると(笑)、そういう印象があります。

長塚 僕にとって『Black Radio』は「ボーカリストの教科書」みたいなところがあって。毎回カバーもあるじゃないですか? 実力者ぞろいで、グラスパーもレコーディングでは「好きに歌って」みたいな感じだと思うし、何度聴いても「この人たちホントすげえな」と思える。特にレイラ・ハサウェイとビラルはヤバすぎて、グラスパーが楽曲に求める「歌力」みたいなものをしっかり理解して、それを表現するという意味では、あの2人がダントツかなって。



―レイラ・ハサウェイはシリーズ3作全部に参加していて、そこからも信頼が伺えますよね。

長塚 あともうひとつ、僕がジャズと初めて出会ったきっかけがブラッド・メルドーの『Highway Rider』(2010年)で。

江﨑:長塚さんのジャズの入口ヤバいですね。めちゃめちゃ尖ってる(笑)。

長塚 めっちゃハマって、飛行機のジャズ・チャンネルでずっと聴いてました(笑)。で、メルドーもいろんなカバーをやってますけど、グラスパーも(ニルヴァーナの)「Smells Like Teen Spirit」とかをカバーしてて。そういうのがジャズ初心者にとって聴きやすかったっていうのもあります。

―そういう「入口」も用意していると。荒田さんはいかがでしょうか?

荒田:ゲームチェンジャー感がありますよね。10年に1度くらいそういう人たちが出てくるもので、ブラックミュージックの流れにおいて、2000年代は間違いなくソウルクエリアンズがゲームチェンジャーだったと思うんですけど、グラスパーはその流れも汲みつつ、2010年代における新たなゲームチェンジャーになった。2000年代のネオソウルがこの人を中心にまた動き始めた、そのきっかけが『Double Booked』から『Black Radio』への流れだったんじゃないかなって。

―『Black Radio』以前・以後で変わったことを言語化していただけますか?

荒田:ひとつはサウンドですよね。ハイエイタス・カイヨーテやジ・インターネット、ムーンチャイルドとか、現在フューチャーソウルと呼ばれてるものの源流は間違いなく『Black Radio』から来てると思います。ドラムのサウンドに関しても、クエストラヴ以降でこんなに研究したいと思ったのはクリス・デイヴが初めてで。『Black Radio』はやっぱり1曲目(「Lift Off / Mic Check」)がすごかったじゃないですか? 変拍子な感じのイントロに、4拍子で延々叩き続けるあの根気(笑)。今回の『Black Radio Ⅲ』もドラムの音がめちゃめちゃよくて、やっぱりすごいなって。ベースに関しても、デリック・ホッジによる重心の低いサウンドがトレンドになったと思いますし。



井上:デリック・ホッジはかなりのトレンドセッターですよね。(ジャズの世界で)日本で認知されてるベースヒーローって、僕のなかではジャコ・パストリアスまでで止まってる印象なんです。でも、ベーシスト界ではそのあとにピノ・パラディーノのブームがあって、さらに デリック・ホッジが出てきた。表立ったブームにはなってないけど、実際はみんな隠れて参考にしてたという(笑)。特に、僕らと同世代はみんな参考にしてると思います。

江﨑:和輝(King Gnuの新井和輝)はベースアンプにデリック・ホッジの絵が描いてあるもんね。

荒田:明言してるよね、一番好きって。

井上:デリック・ホッジは職人タイプが好きなベースヒーローというか。器用で、サウンドメイクにこだわりがあって、裏でいろいろ工夫してる。ピノ・パラディーノもそうですね。逆に、ジャコ・パストリアスに続くのはサンダーキャット。みずから前に出て、オラーってベース弾きまくって、歌も歌ったりピアノも弾いたり。

江﨑:楽器をやってない人から見ても「ヤバい」ってなるタイプ。

荒田:普通のベーシストは『スター・ウォーズ』には出ないからね(笑)。


デリック・ホッジの演奏が冴え渡る、NPR収録のパフォーマンス映像

―グラスパーをプレイヤー視点で語っていただくとしたら?

江﨑:難しいですね……。『In My Element』を聴いたときは、ものすごく鍵盤が上手やなって思いましたけど。今はもっとプロデューサーっぽい感じですよね。

―プロデューサーであり、コンセプターでもあるというか。

江﨑:当時の僕にとっては、鍵盤のボイシングとかがジャズの文脈とは全然違って。ピアノという楽器から考えうるボイシングとは別物だったんですよね。同じ和音の積み方で、そのまま並行移動しちゃうみたいな、ともすれば初心者がやっちゃうようなボイシングをしていたので、「こんな積み方でもかっこよくなるんだ」と思って。あとから音楽の歴史を振り返ると、ヒップホップのビートメイカーは鍵盤じゃなくてサンプラーで作ってるから、同じ和音の積みでピッチが変わって動いてるっていうのを自動的にやっていて、グラスパーはそれを楽器でやってるんだっていうのがわかってきたんです。頭を使ってサンプリングから作られた音楽を、もう一回楽器で弾いてみるっていうのは、プレイヤーとしてすごく面白いなと思って聴いてました。

―プレイヤーとしての基礎がしっかりありつつ、開かれた発想の面白さもあるという。

江﨑:ジャズ・ピアニストの文脈で言うと、技巧的になっていく人が多いから、そうじゃない方向でかっこいいっていうのは、かなり貴重な存在だと思っていて。自分の周りでも技術的に速く、上手に弾けることを目指す人が多かったなか、もうちょっと音楽全体を俯瞰で見るグラスパー的な方向性は、当時の僕からすると「そんな道もあったか」っていう希望の光になったところもありました。

『Black Radio Ⅲ』は原点回帰?
更新されるシリーズの普遍性

―では、新作の『Black Radio Ⅲ』を聴いた印象を教えてください。

荒田:最初の『Black Radio』は圧倒的にゲームチェンジャーだったと思うんですけど、翌年(2013年)に出た『Black Radio 2』を聴いて、個人的には迷走してると思ったんです。同時期にハイエイタス・カイヨーテがすぐ出てきたじゃないですか。こんなに短いスパンで影響力のある人がまた出てくるってなかなかないと思うけど、それに若干飲まれてる感じを『2』で感じて、『ArtScience』(2016年:ロバート・グラスパー・エクスペリメント名義の次作)のときは完全に持って行かれてた。そういう流れがあり、いろいろ葛藤もあった末、今回の『Ⅲ』で原点に帰ってきたというか。(2019年に)NYのブルーノートでJ・ディラのトリビュート公演をやったりしていたし、実際『Ⅲ』でも一発ループで攻めるぜって感じの曲が多くて、そこにJ・ディラ味を感じたりもして。その戻ってきた感じがいいなと思いました。


Photo by Chiemi Kitahara

―『Black Radio』シリーズを久々にリリースするということ自体、ある種の原点回帰的な印象もありますもんね。長塚さんはいかがでしょうか?

長塚 まずはゲストが豪華だなって(笑)。あとは歌詞を読みながら、黒人としての尊厳というか、そういう部分をいつも音楽を通じてしっかり表現している。そこがいいなと思いました。日本人のミュージシャンはそういうことをあまりやらないので、そういう意味でもグッと来ました。

インタビューでもニーナ・シモンを例に挙げて、時代を記録することの意味を語っていました。BLMの世界的な動きがあったうえでのリリースというのも重みを感じますよね。江﨑さんはいかがでしょうか?

江﨑:みんなで荒田の家に集まって『Ⅲ』を聴いたんですけど、そのとき荒田は偶然イエバを聴いていて。僕もSpotifyのお気に入りに何曲か入れてたけど、しっかりは認識してなかった。そしたらアルバムにイエバが参加していると知って、みんなで盛り上がりました。「時代を記録する」という話とも繋がると思うんですけど、ネクストムーブメントみたいな人をちゃんと混ぜてるのもいいですよね。僕はD・スモークとか全然知らなかったけど、Netflixのオーディション番組出身だと聞いて、そういう人とも一緒にやるんだなって。そんなふうにマーケティングの視点を持っているのは大事というか、見習いたい部分でもありますね。自分の音楽をたくさんの人に届けようとする姿勢は絶対必要だと思うので。



イエバ
クラーク・シスターズを影響源に挙げ、レトロな響きの歌声を持つアーカンソーのシンガー。2021年のアルバム『Dawn』は、ヒップホップやジャズ、R&Bなどをミックスしサイケデリックな味も加えた良作。エド・シーランやサム・スミスの楽曲にも参加、グラスパーとは『Fuck Yo Feelings』で先に共演済み。(文:アボかど、Photo by Rick Alvarez)

―井上さんはいかがでしょうか?

井上:やっぱり今回も『Black Radio』だなって。もちろん細かい部分は違うんだけど、『Ⅲ』も大枠のサウンドは変わっていない。グラスパーを昔から聴いてるファンからすると、「一緒だな」と思う部分もあるとは思うんです。でも、そこに意味があるというか。さっき『Black Radio』を「最高の入門書」と言いましたけど、「最高の入門書」で実験的にならないのは当然だと思うんですよ。グラスパーはいろんな作品を出してるけど、そのなかで『Black Radio』シリーズを定期的に出すことで、より裾野を広げていく狙いもあるのかなって。なので、僕の印象は変わらず今回も「最高の入門書」で、グラスパーのことをあまり知らない人にこそ聴いてほしいです。

―『Black Radio』のリリースから10年が経ち、リアルタイムでは経験していない世代も増えているわけですもんね。

井上:最初の『Black Radio』が出たときは、まだ(アメリカの)ヒットチャートもR&B/ヒップホップ一辺倒じゃなくて、ロックバンドもギリギリいましたよね。でも今は、そういう音楽がチャートをほぼ占めてるから、そのなかでこれを出すのもすごくいいというか。今のメインストリームを聴いてるような人たちにも響きそうだし、なおかつ楽器で弾いていて、アレンジも凝っている。そういう音楽の裾野が一番広がりやすいタイミングでもあるのかなって。

―グラスパー自身も、『Black Radio』はラジオフレンドリーな歌ものであることを意識しているみたいです。

江﨑:ちゃんとポップなものを作ろうっていう姿勢で一貫してるのはいいですよね。



井上:やっぱり『Black Radio』というパッケージングがすごいと思います。自分たちがかっこいいと思うこと、人に聴いてもらいたいと思うこと。その二つのバランスをどう考えるかは、ミュージシャンなら誰だって考えることだと思うけど、そういう意味で『Black Radio』の手法はかなり賢いなって。「広く届けるためのアルバム」というコンセプトを貫いてるから、コアなジャズファンに「前と一緒じゃん」と言われても、何とも思わないと思うんですよ。「だってこれは入門書で、みんなに聴いてもらうための作品なんだから」ってことですよね。コンセプトに強度があって、悩まずそっちにつき進める。そういうパッケージングはすごくいいと思います。

―もちろん、単にセルアウトするわけではなく、音楽的な強度と音楽への愛が根底にあるからこそできることですしね。

江﨑:そうですね。やっぱりジャズのシーンにいると、どうしてもマーケット的な視点が薄くなってしまう場合が多いと思うんです。でもグラスパーは音楽的にぬかりなく、なおかつちゃんとポップなものを作っていて、ものすごいバランス感覚だと思いますね。

WONKの新曲とバンドの現在地
グラスパーとのフェス出演に向けて

―最後に、WONKの近況についても聞かせてください。新曲「Pieces」が3月初めにリリースされましたが、バンドは現在どんなモードで、どのような着想から「Pieces」が作られたのでしょうか?

江﨑:「Pieces」は荒田が軸で作ったんですけど、僕は今のモードを「楽器」じゃないかと思っていて。一時期はシンセサイザーとか打ち込みの音源をいろいろ入れてたけど、「Pieces」には凝ったホーンセクションも入ってたりするし、今は楽器で表現することに回帰するモードかなと思ってます。

―たしかに、後半のドラムも非常に印象的です。

荒田:この曲を作ってた期間はめちゃめちゃ長くて……作り始めの記憶がもうないかもしれない。




井上:インタビューで明かすべき話じゃないかもしれないけど、「Pieces」は悩める一曲なんですよね。

江﨑:本当は去年の夏くらいに出したいと言ってたのが、半年以上も遅れちゃって。

井上:その間、作っては消してを繰り返してたから、「Pieces」の枠になったかもしれない曲が3~4曲くらいあって。

江﨑:『EYES』(2020年発表の4thアルバム)の後に何をするのか話し合ったときに、みんながプロデューサー的な立ち回りをする作り方ではなく、それ以前の荒田が軸になって作るやり方に戻そうという話になって。それで、荒田が中心になって作った曲「FLOWERS」を去年の春にリリースしたんですけど、その次に何をしたらいいかわからなくなって、作っては消してを繰り返して……。

―そうやって試行錯誤する時期を経て、現時点での着地点になったのが「楽器」だと。

荒田:だから、グラスパーの話とちょっと似てるかもしれないですね。原点回帰みたいな意識はあったかもしれない。


Photo by Chiemi Kitahara

―グラスパー自体がWONKにとって原点のひとつでもあると思うし、このタイミングで同じ日に「LOVE SUPREME JAZZ FESTIVAL JAPAN」出演を果たすのは、何かの巡り会わせのようにも感じます。

江﨑:グラスパー以外の出演者は全員友達なので、これを機にグラスパーとも友達になりたいですね。和輝のマネして、鍵盤にグラスパーの顔を描こうかな(笑)。

井上:そういうのめっちゃ嫌いそうじゃん。インスタのストーリーに上げられそう。「こういうやつはマジでクソだ」って(笑)。

江﨑:グラスパーに怒られた音楽家、周りに何人かいるからなあ。ブルーノートで来日公演があったときに、手書きの完コピ譜を持って行って、「ここのボイシングがどうしてもわからないから教えてください」と聞いたら、めちゃくちゃキレられたらしいです。「自分でやれ! 人の真似をするな!」って(笑)。

―以前、「譜面がほしいと連絡する前に、まず自分の耳で聞け」とグラスパーが叱咤する動画がバズってましたが、長く地道な試行錯誤を重ねてきたから『Black Radio』も生まれたわけで。

江﨑:そうですよね。純粋にお客さん目線でフェスが楽しみです。



WONK
『artless』
2022年5月11日リリース
CD予約:https://virginmusic.lnk.to/artless_CD

最新シングル「Migratory Bird」
再生・購入:https://virginmusic.lnk.to/MigratoryBird

WONK「artless tour」
2022年6月17日(金)北海道 cube garden
2022年6月24日(金)福岡県 BEAT STATION
2022年7月8日(金)宮城県 Rensa
2022年7月10日(日)東京都 恵比寿ザ・ガーデンホール
2022年7月15日(金)愛知県 ElectricLadyLand
2022年7月16日(土)大阪府 Billboard Live OSAKA
2022年7月18日(月・祝)神奈川県 Billboard Live YOKOHAMA
2022年8月5日(金)東京都 Billboard Live TOKYO
詳細:http://www.wonk.tokyo/live


LOVE SUPREME JAZZ FESTIVAL JAPAN 2022
2022年5月14日(土)、15日(日) 埼玉 秩父ミューズパーク
5月14日(土)
出演:DREAMS COME TRUE featuring 上原ひろみ, Chris Coleman, 古川昌義, 馬場智章 / セルジオ・メンデス / SIRUP / Ovall - Guest : SIRUP, さかいゆう, 佐藤竹善(Sing Like Talking) / aTak /チョーキューメイ / kiki vivi lily
DJ:YonYon / 松浦俊夫 / 沖野修也(KYOTO JAZZ MASSIVE / KYOTO JAZZ SEXTET) / Licaxxx
5月15日(日)
出演:ロバート・グラスパー - Robert Glasper (key) / David Ginyard (b) / Justin Tyson (ds) / Jahi Sundance (DJ) / SOIL&”PIMP”SESSIONS - Guest : SKY-HI、Awich、長塚健斗 / Nulbarich / Vaundy / WONK / Answer to Remember - Guest : KID FRESINO, ermhoi, Jua, 黒田卓也 / Aile The Shota
DJ:柳樂光隆(Jazz The New Chapter) / DJ To-i(from DISH//) / DJ Mitsu the Beats / みの
チケット購入:https://eplus.jp/lovesupreme/
公式サイト:https://lovesupremefestival.jp


LOVE SUPREME presents DREAMS COME TRUE featuring 上原ひろみ, Chris Coleman, 古川昌義, 馬場智章、WONK
2022年5月21日(土)神戸ワールド記念ホール
2022年5月26日(木)東京ガーデンシアター
詳細:https://lovesupremefestival.jp/presents/

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