プロレス界の超新星、清宮海斗が創る方舟の未来
Rolling Stone Japan / 2022年4月27日 17時0分
三沢光晴を中心として、2000年に設立されたプロレスリング・ノア。20年を超える団体の歴史を通じ受け継がれる「ノアらしさ」を体現する存在として、デビュー以来大きな期待を集めるのが、デビュー5年目の”超新星”清宮海斗だ。
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武藤敬司や藤田和之、そして船木誠勝といったレジェンドたちが「新しい景色」をみせる現在のノアマットでは後塵を拝する形勢だが、その輝きは決して失われていない。両国国技館でのビッグマッチを控えた”方舟の申し子”は何を思うのか。清宮の言葉から、彼の現在地点、そしてひとつ先に待ち受ける未来を探る。
●デビュー3年目で頂点に立ってしまった方舟のスーパーノヴァ
清宮海斗がプロレスラーになることを決意したのは13歳のときだった。
清宮海斗:小学校の頃にレンタルビデオでプロレスの試合を観たのが、ハマったきっかけだったと思います。GHCヘビー級(プロレスリング・ノアのシングル王座)の初代決定戦で、三沢光晴さんと高山善廣さんの試合でした。互いに何度打ちのめされても立ち上がる姿に、子どもながらに圧倒されてしまって。その三沢さんが事故で亡くなられたのが、僕が13歳のときだったんです。ニュースを知って、まず思ったのが「自分が三沢さんに勇気や力をいただいたように、次は自分が誰かの、いや、ノアの力になりたい」ということでした。
以来、プロレスラーになるためのトレーニングを自己流で続けた。実は、ノアの大先輩である丸藤正道を輩出したレスリングの名門校、埼玉栄高校に合格していたのだが、敢えて公立校へ進学したのだという。
清宮:ノアに入ってプロレスラーになりたいという気持ちは固まっていたんですが、埼玉栄は私立なので学費が高かったんです。親に迷惑をかけてまで、自分の我儘を通そうとは思えなくて。とはいえ、さすがに入門テストを受ける前には何かしておかなきゃと思いキックボクシングのジムに通い始めたんですけど、入門テストの時期を勘違いしていて、結局半年も通えなかったという(笑)。
何気ないエピソードではあるが、このあたりに清宮海斗というプロレスラーの”個性”の一端が垣間見える。ともあれ、格闘技経験はほぼゼロという状態で、清宮はノアの門を叩いた。高校を卒業してすぐ、19歳のときだった。
入門半年後には、早くもデビュー戦。先輩の熊野準に新人らしく逆エビ固めで敗れはしたものの、ファンの印象に残ったのが、エメラルドグリーンのタイツだった。三沢光晴が着用していたコスチュームのキーカラーであるこの色は、言うまでもなくノアの象徴だ。これだけでも清宮に対し、団体がかける期待の大きさが伝わった。
事実、デビューしてから2年弱という速さでカナダへ半年間の”武者修行”に送り込まれる。2018年1月の帰国後には、敗れはしたもののGHCヘビー級王座に挑戦。デビュー2年の若手がノアの頂点に挑むなんて、異例どころの話ではなかった。さらに同年4月には、グローバル・タッグ・リーグ優勝(パートナーは潮崎豪)、11月にはシングルのグローバル・リーグ優勝と、立て続けに結果を出し、12月には杉浦貴が保持していたGHCヘビー級王座を、史上最年少記録で奪取する快挙を成し遂げた。
スーパーノヴァ(超新星)。気が付けば、そんなニックネームが付けられていた。
自らに課した「エメラルドグリーン」という使命からの脱却
清宮:(デビュー3年で団体の頂点に立てたのは)出逢いに恵まれていたからだと思います。格闘技経験のない人間に、プロレスの基礎の基礎から教えてくれた大先輩の小川良成さんとの出逢いもそうですし、海外遠征で広い世界を知ることができたのも、自分にとっては貴重な出逢いでした。杉浦さんの下について学べたことも大きかったですね。
プロレス界では間違いなく”天才”のひとりに挙げられる選手だが、その一方、彼の言動には、常に爽やかな優等生的印象が付きまとう。そんな清宮の”個性”に対し、とある選手から「アクが足りない」との厳しい指摘を受けたのも、記憶に新しいところだ。現在のノアマットは藤田和之をはじめ、武藤敬司や船木誠勝といったレジェンドたちがヘビー戦線を席捲しているのに加え、ジュニア戦線もEitaやYO-HEYなど、アクの強いレスラーが鎬を削りあっている。いずれも中心に立つのは、いわゆる”生え抜き”ではない選手たちだ。残念ながら、そこにスーパーノヴァの姿はない。
もちろん「新たな血」が現在のノアを盛り上げ、ファンの増加につながっているわけだが、それだけに現状に対し歯がゆい想いを抱くファンも少なくはない。なにより、生え抜き中の生え抜きであり、常に「ノアの中心に立つ」、「ノアを盛り上げる」と公言している清宮自身、忸怩たる想いを抱えている。
清宮:(アクが足りないと言われたことに対して)気持ちはあっても、それを伝える力が足りないというのは感じています。面白くない答えかもしれないですけど、結局は自分が信じていることを言い続け、体で示し続けていくしかないんですよね。周りからどういわれても、しつこく続けていくことが「アク」になるんじゃないかって思います。もちろん現状には満足していません。藤田さん、船木さん、そして武藤さんといった外から来た人たちはもちろん、杉浦さんや丸藤さんのようにノアを守ってきた人たちを含めた「とてつもなく分厚い層」を自分がぶち抜かなければ、本当にノアの中心に立つことができないと思っていますから。
その決意は、現在のコスチュームにも示されている。三沢光晴の遺志を継ぐ”ノアの申し子”の証として身にまとっていたエメラルドグリーンを、さっぱりと脱ぎ捨てたのだ。
清宮:この1、2年の間は、ほとんど結果も出せず、自分のプロレスがわからなくなっていたんです。「ノアの中心に立つ」、「ノアを盛り上げる」という気持ちは変わらないけど、それが変に重たくなりすぎていたのかもしれません。これも出逢いの話になってしまうんですけど、そんな時期に武藤さんと闘う機会を得て、プロレスの”豊かさ”を知ることができたんです。まず「自分のため」に闘うことが、巡りめぐって「ノアのため」になるということを教えてもらったというか。思い切ってコスチュームを変えたのは、そうした気持ちの変化のあらわれでもありますね。
以降の清宮は、文字通り”吹っ切れた”ファイトを展開。優勝こそ逃したものの、昨年の「N1-VICTORY」でも感情をあらわにした好試合を連発する。蛹が蝶になるように、プロレスラー清宮海斗はエメラルドグリーンを脱ぎ捨てることで、新たな”個性”をリング上で爆発させたのだ。
清宮の”個性”が明日の「ノアらしさ」となる日
そこに待ち構えているのが、2022年4月29日、30日の2日間にわたり開催される両国国技館でのビッグイベント「MAJESTIC2022」である。その対戦カード群は、まさに清宮の前に立ちはだかる「とてつもなく分厚い層」だ。
勢いに乗るジュニア戦線にスポットを当てた29日に対し、階級を問わずノアの最前線を示す闘いが盛り込まれた30日。そのうち、清宮の試合が組まれているのは30日の1試合のみ。しかも、セミファイナル前のノンタイトル戦だ。さらに対戦相手のうち1名は、試合開始までわからない「X」となっている。
清宮:悔しいですね。要するに「X」の存在が、この対戦カードの話題の中心にあるってことじゃないですか。実際、ファンの反応も「X」の正体についての考察ばかりになっていますし。でも、この試合で大切なのは「X」じゃないんです。
清宮が言うように、実はこの試合はノアの未来を占ううえで特に重要な意義を持っている。何故なら2日間全21試合のうち、「X」を除けばという条件付きながら、生粋のノア育ちだけで構成されているのは、この一戦のみなのだ。しかも対角には、ノアの顔である丸藤正道がいる。
清宮:2日間にわたる両国国技館でのビッグマッチという、現在のノアでは最大規模の大会で、自分と同じ生え抜きの稲村愛輝と組んで、これまでノアを背負ってきた丸藤さんと闘うわけですから、本当に重たい試合だと思っています。勝ちにこだわるのはもちろんですが、それ以上に丸藤さんのプロレスに対し、真正面から向き合って、そのすべてを吸収したい。僕が次のステージに進むためには、それしかないんです。願わくば「X」もノアに縁のある選手であってほしいというのが正直な気持ちですが、相手が誰であっても、この試合で「ノアらしさ」をみせるというテーマは変わりません。
ここで注目したいのが、清宮が口にした「ノアらしさ」というキーワードだ。2000年の団体設立以来、ノアのリングに立つ選手たちは「ノアらしさ」を持つ闘いにこだわり続けてきた。ノアを愛するファンもまた、「ノアらしさ」を求めて会場へと足を運んでいる。ところで、「ノアらしさ」とは何なのだろうか?
団体の祖である三沢光晴は、それを「スポーツライク」という言葉で表現した。ファンの間では、ゴツゴツと激しく限界を超えてぶつかりあうスタイルを評し、「ノアだけはガチ」という言葉が用いられた時期もあった。最前線に立つ選手の言葉を借りるなら、30日に行われるGHCヘビー級選手権試合の挑戦者である潮崎豪が記者会見で何度も繰り返した「泥臭さ」が、現在まで継承された「ノアらしさ」を端的に示しているともいえる。
では清宮海斗は、「ノアらしさ」をどのようにとらえているのだろうか?
清宮:(しばらく熟考してから)言葉にするのはとても難しいんですけど、本当は定義できる「ノアらしさ」なんてない、っていうのが、今の僕にとっての「ノアらしさ」かもしれないです。もちろん技術的な部分や精神的な面で、三沢さんの時代から脈々と受け継がれているものはあります。でも、それだけが「ノアらしさ」なのかと言えば違うのかなって。単に受け継ぐだけじゃなく、ノアのリングに立つ選手一人ひとりの”個性”が現在進行形の「ノアらしさ」を創り出すべきだと思うんです。その中で、僕は自分が信じる「ノアらしさ」を見せたいですね。
先に行われた記者会見では「ノア史上最大の超大物」との発表があった「X」。入場曲を聴けば誰なのかがわかる、という触れ込みだっただけに期待が高まる。いずれにしても「とてつもなく分厚い層」をぶち抜き、清宮が真にノアの中心に立つための大一番となることは間違いない。清宮の新たな”個性”が「ノアらしさ」となる、その瞬間を両国で目撃したいところだ。
<プロレスリング・ノア大会情報>
WRESTLE UNIVERSE presents MAJESTIC 2022
2022年4月30日(土)
東京・両国国技館
開場13:30 開始15:00
アリーナ席: 15,000円
1階マス席S: 10,000円
1階マス席A: 8,000円
2階イス席S: 7,000円
2階イス席A: 5,000円
レディースシート:4,000円(限定発売)
エキサイトシート:3,000円(限定発売)
学生シート(当日販売のみ)2,000円
※WRESTLE UNIVERSEにて独占生配信を予定
【清宮選手参戦カード】
タッグマッチ
丸藤正道・X(当日発表)vs清宮海斗・稲村愛輝
【その他主要カード】
GHCヘビー級選手権試合
藤田和之(第37代王者)vs潮崎豪(挑戦者)
GHCタッグ選手権試合
杉浦貴・鈴木秀樹(第38代王者組)vs拳王・中嶋勝彦(挑戦者組)
GHCナショナル選手権試合
船木誠勝(第8代王者)vsサイモン・ゴッチ(挑戦者)
他全11試合予定
ABEMA presents MAJESTIC 2022~N Innovation~
2022年4月29日(金)
東京・両国国技館
開場15:30 開始17:00
アリーナ席: 15,000円
1階マス席S: 10,000円
1階マス席A: 8,000円
2階イス席S: 7,000円
2階イス席A: 5,000円
レディースシート:4,000円(限定発売)
エキサイトシート:3,000円(限定発売)
学生シート(当日販売のみ)2,000円
※ABEMA、WRESTLE UNIVERSE(英語実況版)にて生配信を予定
【主要カード】
GHCジュニアヘビー級選手権試合
Eita(第48代王者)vs HAYATA(挑戦者)
GHCジュニアヘビー級タッグ選手権試合
小峠篤司・YO-HEY(第49代王者組)vs 小川良成・クリス・リッジウェイ(挑戦者組)
敗者リングネーム剥奪マッチ
覇王 vs 仁王
他全10試合予定
【大会公式サイト】
https://www.noah.co.jp/MAJESTIC_2022_day1/
https://www.noah.co.jp/MAJESTIC_2022_day2/
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