ブロッサムズが語る「変化」への飽くなき挑戦、アークティックとThe 1975からの学び
Rolling Stone Japan / 2022年4月29日 18時0分
過去のアルバム3枚中2枚が全英チャート1位を獲得。絶大な人気を誇るUKロック・バンド、ブロッサムズが通算4作目となるニューアルバム『Ribbon Around The Bomb』を4月29日にリリースする。新鮮なサウンドの秘密を語った、メンバー5人の最新インタビュー。
「70年代のあらゆるものがここにぶちまけられたみたいだ!」とブロッサムズのドラマー、ジョー・ドノヴァンは冗談を飛ばした。
時は2月中旬、曇天の水曜日の朝。イギリスのストックポートにあるリハーサルスペース兼”非公式の司令部”にいるブロッサムズのメンバーは上機嫌だ。グレーター・マンチェスター南部に位置するストックポートは、メンバーが幼少期を過ごした場所。彼らは、いまもここを拠点としていることに誇りを抱いている。
建物の外観を見る限りは何の変哲もない工業団地の一棟のようで、それは洗車場と自動車修理工場の間に立つ。修理工場の整備士たちは、著名なご近所さんの居場所を嬉々として教えてくれた。
建物の中に足を踏み入れると、そこはまったくの別世界だ。ジョーが言ったように、メインのリハーサルルームの至るところに70年代の要素が散りばめられている。ダンスフロア向きのパーティーチューンで名を馳せたブロッサムズにはいかにもふさわしい。
幾何学柄のプリントに覆われた防音パネルが壁中に張り巡らされる一方、フローリングは寄せ気張り。こうした内装に囲まれながら、バンドメンバーのジョー・ドノヴァン(Dr)、トム・オグデン(Vo)、チャーリー・ソルト(Ba)、ジョシュ・デューハースト(Gt)、マイルス・ケロック(Key)は、部屋の隅にある座り心地の良さそうなベルベットのソファの上でくつろいでいる。アークティック・モンキーズのフロントマン、アレックス・ターナーが『Tranquility Base Hotel & Casino』のコンセプトを模索した際に思い描いたような空間、あるいはTwitterを通じて70年代風のラウンジエリアに感化されたミレニアル世代があこがれるような空間である。
Photo by Ewan Ogden for Rolling Stone UK
豪華な雰囲気のリハーサルルームは、2022年におけるブロッサムズの立ち位置を的確に証明している。ここは、2016年以降アルバム2作が全英アルバム・チャートの1位を獲得したことで、UK最大のギターロック・バンドとしての地位を確立した彼らにとっての”ホーム”なのだ。
デビューアルバム『Blossoms』(2017年)、2作目『Cool Like You』(2018年)、3作目『Foolish Loving Spaces』(2020年)という3作のアルバムが、シンセサイザーの音色が陶酔を誘うABBA風ディスコミュージックからトーキング・ヘッズばりのニューヨーク・ファンクに至るまでの多種多様な要素を取り入れてきたように、通算4作目となるニューアルバムでも彼らはふたたび新境地に挑んでいる。
4月29日リリースのニューアルバム『Ribbon Around The Bomb』は、現時点でブロッサムズにとってもっとも内省的なアルバムと言えるだろう。これまでふんだんに使ってきたシンセサイザーの音色が抑えられている代わりに、著名なシンガーソングライターへの愛が堂々と掲げられている。
「いままでは、僕が聴いたものはすべて僕らの楽曲に影響を及ぼした。前作に取り組んでいた時はトーキング・ヘッズにハマっていて、楽曲もその影響を大いに受けていた」とトムは語る。
「でも今回は、楽曲は楽曲として自立していた。それに、わずかながらもポール・サイモンのようなサウンドにすることにも成功した。本物のストリングスを交えながらレコーディングもしたよ。だから、サウンド的にも壮大なアルバムに仕上がっている」
影響を受けたシンガーソングライターはポール・サイモンだけではない。先日先行リリースされたシングル「Ode To NYC」の軽快さの秘密は「少量のハリー・ニルソン的な要素」にあるとトムは指摘する。この曲では、稀代のシンガーソングライターと称えられたニルソンのアメリカらしい楽曲を即座に想起させる、軽やかなギターが高らかに奏でられている。
曲名からもわかるように、「Ode To NYC」のテーマはニューヨーク・シティだ。そして現時点でもっとも観察的な楽曲であると同時に時折パーソナルな側面を覗かせる。
「新しいことを達成するには変化を追い求めなければいけない」
トムは、世の中がパンデミックに見舞われた頃に4作目のアルバムの曲づくりに着手した。パンデミック中は多くの人がそうしたように、人生についてじっくり考えたという。彼にとってそれは、ストックポート出身の幼なじみ5人組が、音楽業界で成功をつかむまでの道のりを図式化するというささやかなことでもあった。
「(ニューアルバムに収録されている)『Visions』という曲には、”23歳の時、僕は完成されていたのだろうか?”という歌詞があるんだけど、23歳の時に僕らは(全英アルバム・チャートで)1位をとり、後に僕の奥さんになるケイティと一緒になった。でも、そこからどうしていいかわからなかった。そんな時、プロデューサーのジェームズ・スケリーに『それをアルバムのテーマにするべきだ』と言われて——そこから少しずつ物事がつながりはじめたんだ」
「紋切り型の存在になることは何としても避けたかった。それにジェームズ(・スケリー)は、そうならないように徹底してサポートしてくれた」とトムは言い添えた。スケリーは、リッチ・ターヴェイとともにブロッサムズの全アルバムのプロデュースに携わっている。
このほかにも、ニューアルバムに収録されている最新シングル「The Sulking Poet」には思いもよらないインスピレーション源が登場する。ソルト曰く、どの曲よりもポール・サイモンの影響を堂々と掲げているのが「The Sulking Poet」だ。曲名は、ジョーが以前ソーシャルメディアで見つけた熱狂的なファンアカウントに由来する。
「『Ode to Ogden(オグデンに捧ぐ頌歌)』というファンアカウントをInstagramで見つけたんだ」とジョーは言う。「こりゃ傑作だと思って、すぐトム(・オグデン)に見せたよ。アカウントには『ふくれっ面の詩人(the sulking poet)の素晴らしさを称えるために』という紹介文が添えてあった」
実際トムは、バンドの主たるソングライターとして常に難しい役割をこなす。彼自身は、こうしたファンの期待に応えられていると感じているのだろうか?
「ソングライティングに関しては、必ずしもそうとは言えない。でも、ここ数年は『笑って』と言われることが増えたよ」とトムは言う。「ファンとの写真のほとんどで、僕は尻を叩かれたみたいな顔で写っているんだ」
ニューアルバムは2020年の前作『Foolish Loving Spaces』からの成長を表すと同時に、自らのサウンドに満足感と安心感を抱きながらも、最初の成功をもたらしたフォーミュラに手を加えることをいとわないバンドの姿を示している。
キャッチーなポップチューンに長けたおなじみのブロッサムズ節は健在だが、マイルスが手がけたジェームズ・ボンド風のストリングスのアレンジメントとともにニューアルバムが締めくくられている点は、それ以上のことを教えてくれる。聴いただけでそれとわかるキャッチーな旋律の弾き手は、普段であればマイルスだ。
「人々に戦いを挑みたい、という側面がある」とトムは言う。
「すべての人を喜ばせることは不可能だけど、挑戦することで僕らは新鮮な存在でいられる。変化は善だ。いつも同じことばかりしていたらダメなんだ。アークティック・モンキーズが最新作を通じて成し遂げたことを見て、僕らは脱帽した。バンドである以上、新しいことを達成するには変化を追い求めなければいけない」
「僕らは固い絆で結ばれている」
新たに見出されたこの自信は、パンデミック前に行われたバンド史上最大のライブとは対照的だとトムは明かす。ストックポート・カウンティFCのホームであるエッジリー・パークで1万5000人のファンの前で行われた2019年の大々的な凱旋ライブは、ブロッサムズのキャリアにおける頂点を飾るはずだった。だがライブを終えたトムは、成功を心から噛みしめることができずにステージを後にした。
エッジリー・パークでのライブ映像も収めた、ブロッサムズのドキュメンタリー作品『Back To Stockport』のトレイラー映像
「エッジリー・パークでライブをしたけど、僕は満足することができなかった」とトムは言う。「理由を分析しながらステージを降りたのを覚えている。完璧さにこだわりすぎるあまり、『あそこはもっと改善しないといけない、あそこでは少し音程を外した、観客は退屈そうだった』と思った。夏のあいだ中、僕は頭がおかしくなるんじゃないかってくらいこのことについて考えていたんだ」
著名なシンガーのパフォーマンスを見るにつれて事態は悪化した、とトムは言う。「僕はただ、フロントマンとしての自信が持てなかった。別のフロントマンと自分を比べていたんだ。The 1975を見ながら『(マット・ヒーリーは)本当に最高のフロントマンだけど、僕はクズだな』と思った。それは事実じゃないのに、自分で自分を追い込んでいた。だから前作をリリースした時は、『そうだ、これが僕のいるべき場所なんだ』と実感した。それなのに、ロックダウンときた!」
新たに手に入れた自信をトムがようやく試すことができたのは、満員のオーディエンスの前で行われたマンチェスターのAOアリーナ公演だった。公演はパンデミックによって延期されていた。
公演は大成功だった。だが、バンドにとってはさらに大きなことへの第一歩に過ぎない。メンバーは、来年ストックポートで開催される大々的な野外ライブの計画を明かしてくれたが、マンチェスター・シティの熱狂的なファンであるジョーは、まだまだここで終わるわけにはいかないと言う。
「エティハド・スタジアム(マンチェスター・シティのホームスタジアム、最大収容人数は約5万5000人)だってあるさ」とジョーは言う。「ザ・コーティナーズ(マンチェスター出身の4人組バンド)のようなバンドがエティハド・スタジアムでライブをしているのを見ると、『僕らにだってできるはず』と思わずにはいられないよ。僕らの行き先に限界なんて存在しないんだ」
Photo by Madeleine Penfold
未来の無限の可能性に対する自信は、メンバー同士を結びつけている力強い絆にある程度起因しているとあなたは感じるかもしれない。
ひとつの要因は家族の絆だ(昨年の夏にジョーのきょうだいのケイティさんと結婚したトムは、晴れてジョーの義兄弟となった)。だが、より大きな要因は、彼らの関係が友人からバンドへと発展したことかもしれない。
「僕らの友情は、ブロッサムズより年季が入っているんだ」とジョシュは言い添えた。「ツアーやバンドとしての経験は、僕らの関係をより強固なものにした。でも、ブロッサムズとして活動する前から、僕らは親密な関係を築いていたんだ。少なくとも、バンドを結成する前から互いのことを知っていた」
トムは次のように言葉を足した。「このバンドには本当の意味でのエゴがないんだ。いくらかのエゴは必要だけど、有害になるようなエゴはいらない。僕らはみんな似たような境遇で、同じ地域で成長し、同じようにクソみたいなことを経験した。僕らは固い絆で結ばれている。それを台無しにされたくないから、絶対に他人を立ち入らせない」
チャーリーは次のように言う。「ストックポートの水にはなんだか妙な振動が紛れていて、僕らはみんなその影響を受けているんだ」。この”振動”がストックポートから世界に向けて、いつまでも大音量で奏でられることを望んでやまない。
From Rolling Stone UK.
ブロッサムズ
『Ribbon Around The Bomb』
2022年4月29日リリース
視聴・購入:https://umj.lnk.to/Blossoms_RAB
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