「ロザリアは未来だ」とファレルが断言する理由 革新的ポップスターが併せ持つ二面性
Rolling Stone Japan / 2022年4月28日 19時0分
「2022年最重要作品」との呼び声が高い、ロザリアの最新アルバム『MOTOMAMI』。今最も注目されるスペイン出身のポップ・アイコンについて、ライター・辰巳JUNKが解説する。
実験サウンドのポップスター
「ロザリアは未来だ」――ファレル・ウィリアムス(Vogue)
2022年、もっとも勢いのあるアーティストの一人は、間違いなくロザリアだ。新作『MOTOMAMI』は、リリースされるやいなや大手レビューサイトMetacriticにて「2022年最高の高評価アルバム」に君臨。セールス面も絶好調で、Spotifyではスペイン語女性アーティストとして史上最高記録デビューを達成している。日本でも「HENTAI」「CHICKEN TERIYAKI」といった日本語タイトル曲が話題となったが、時期とサウンド、どちらをとっても、今がロザリア入門の絶好のタイミングと言えるだろう。
革新的な実験派ソングライターとゴージャスなメガポップスターという二面性を持つロザリアは、少し特異な位置にある。まず『MOTOMAMI』にも登場するジェイムス・ブレイクやフランク・オーシャン、そして盟友アルカといった、最前線プロデューサーたちと密な創作仲間だ。同時に、J・バルヴィン等のラテンスターはもちろん、ザ・ウィークエンドやトラヴィス・スコット、ビリー・アイリッシュ、ハリー・スタイルズといったメガスターともコラボを果たしているし(※)、BLACKPINKメンバー、LISAがダンスカバーを披露したこともある。リアーナのランジェリーブランドSAVAGExFENTYのショーに出演し、Vogueの表紙やNike広告を飾るなど、きらびやかなファッション界からのオファーも絶えない。
音楽評価の高いメガスターは珍しくない。しかし、ロザリアの場合、国際的にはブレイクスルー期でありながら、米国式ラジオヒットとは相反するような実験サウンドを貫く点で異彩を放っている。
※ハリー・スタイルズ「Adore You」MVでロザリアがナレーションを担当
ジェイムス・ブレイクがボーカルで参加した「DIABLO」
LISAによるダンスカバー、曲は後述の『El Mal Querer』収録「MALAMENTE (Cap.1: Augurio)」
音楽のあり方を変えうる「二面性」
”私は私と相反して 変身する”――「SAOKO」
振り返ると、ロザリアは頭角をあらわした頃より相反的な二面性が際立っていった。フランク・オーシャンなど、ポピュラー音楽のカバー歌唱をYouTubeに投稿しながら、長い歴史を持つフラメンコの専門教育を受けていたのだ。つまり、デジタルな先進性と歴史的な伝統性、その両方を象徴していた。
1993年バルセロナに生まれたロザリアは、ローティーンの頃フラメンコに魅了され、稽古を始めた。17歳ごろ大物プロデューサーにスカウトもされたというが、ポップ路線を求められたため断り、じっくりと学習に時間をさき、1stアルバム『Los Ángeles』制作に専念したという(2017年リリース)。音楽大学時代の逸話も残されている。フラメンコ公演を行った際、50人の観客のなかには、コロンビアのロックスター、フネアスもいた。ふだんは感情的でない彼は、涙を流しながら熱弁したという。「50年間聴き継がれるであろう最重要アーティストだ。唯一無二の存在……この子は音楽を変えようとしている」。
フランク・オーシャン「Thinkin bout you」のカバー動画(2015年投稿)
バルセロナのタブラオ(フラメンコを鑑賞できるレストラン)で即興歌唱を披露するロザリア
フランケンシュタインを恐れない
”私はヒット曲作りをキャリアのベースにしたことはない ベーシックそのものを形づくったからヒットした”――「BIZCOCHITO」
在学中、ロザリアは「ソウルやブルースといった伝統的音楽をポップにしたビヨンセやリアーナのように、フラメンコも現代大衆化できないか」つねに意識していたという。その野望を成就させたのが、メジャー契約を果たして2018年に放たれた2ndアルバム『El Mal Querer』。フラメンコとエレクトロ、トラップ、現代ラテンサウンドを融合させた同作は、評価と売上を両立するかたちで「ネオ・フラメンコ」ジャンルを世界に知らしめた2010年代重要作だ。
というわけで、ロザリアは、作曲やプロデュース、演奏をこなすインディ系シンガーソングライターとして世に出たアーティストである。「BIZCOCHITO」で強気に宣言されたように、ポップスター的イメージは、音楽業の結果にすぎない。
「ただ、聴いたことのない何かを聴いてみたい。それをつねに意識してる」――ロザリア(NYタイムズ)
「ロザリアは、仕切りや境界線をまったく作らないタイプだね。(怪物を創り出してしまった)フランケンシュタイン博士になってしまいかねない曲づくりを恐れない。”気持ちいいなら何でも”という感じ。音楽はそうあるべきだ。偉大な曲はそうやって作られる」――ファレル・ウィリアムス(Vogue)
ロザリアの音楽が革新的な理由は、さまざまなジャンルサウンドを斬新なかたちで合成する作家性だろう。今やジャンルブレンディングなヒット曲は珍しくないが、彼女の場合、「ジャンルを混ぜる」というより「各ジャンルを解体してつなげる」スタイルで、未知なる音をチャートに送り込んでいる。
『MOTOMAMI』のカオスとユーモア
ファレルが言うところのフランケンシュタイン的な曲づくりは、3rd『MOTOMAMI』でも一貫している。しかし、今作の場合、敷居は低くなっているはずだ。単純に、これまでのアルバムよりも伝統的サウンドが減少し、キャッチーになっている。女性のパワフルさ、自然なしなやかさという二面性をコンセプトとした『MOTOMAMI』は、アグレッシブビートと情緒的メロディの二軸を展開させる。噛み砕いて言えば「ノれて踊れる曲」と「浸って泣ける曲」が多いのだ。幼少期の遊び心に戻った「音楽的自叙伝」と語られただけあり、思春期に愛聴したレゲトン、そしてリル・キムやM.I.A.といったラップ、さらにはハイパーポップ、そしてもちろんフラメンコと、幾多ものジャンルサウンドがジェットコースターのように押し寄せていく。
シリアスな過去作から一変、ユーモアにも富んでいる。その筆頭は、海外でも話題を呼んだ「HENTAI」だ。この場合の「HENTAI」は、英語圏における日本アニメ、漫画文化における「誇張された性的作風」を指す。そうした言葉をフランク・オーシャン的メロディに組み込むアイデアは、さまざまなジャンルサウンドが混在するカオスをより豊かにしている(補足すると、一般的レーティング作品よりも明け透けではないHentaiジャンルのほうが面白く官能的、という真面目な考えにも基づいているらしい)。
女性軽視文化との闘い
アルバムタイトルそのものにも日本語の要素がある。造語「MOTOMAMI」における「MOTO」は、アグレッシブな女性性ニュアンスと日本語の「もっと」をかけたダブルミーニングなのだ。バイカーであった母親のような女性像をコンセプトにした同作には、音楽的仕掛けが施されている。
オープニングトラック「SAOKO」は、Wisinとダディー・ヤンキーによる2000sレゲトン「Saoco」における女性バックボーカルをサンプリングしている。つづいて「BIZCOCHITO」では”私は、これからもずっと、あなたのビスコチートにはならない”とラップされるが、これも、女性を甘味に例えてセクシーに誘う「Saoco」のリファレンス。ファンのあいだでは、レゲトンへのリスペクト表明であると同時に、音楽業界の女性軽視文化に従わぬ宣言と解釈されている。
女性バイカーが連なる「SAOKO」ミュージックビデオで強烈に示されるように、ロザリアの一貫した目標は、女性クリエイターの力の発信、そして地位の向上だ。音楽家として評価されるために闘わなければいけなかったビョークを見て育った彼女は、ヴィクトリア・モネやミッシー・エリオットといった女性たちの作曲およびプロデューシングの認知と評価が足りていないと語っている。米国市場においても女性プロデューサーの割合はたった2%というから、道は険しい。ただ、実験的作風を維持しながらメガポップスターとなったロザリアの存在そのものが、女性のクリエイティビティ、その無限の可能性を証明している。
散ることのない永遠
”さくら さくら ポップスターは決して長続きしない”
”永遠に輝くスターではいられない”――「SAKURA」
「CHIKEN TERIYAKI」にてニューヨークの豪遊がラップされるように、『MOTOMAMI』は、故郷から離れ米国を拠点にした時期、ある面では、世界の頂点に立つ寸前のプレッシャーのもと芸術を爆発させたアルバムだ。まさしく絶頂期のにふさわしい内容だが、相反するように、栄華の儚さも歌われている。クロージングトラック「SAKURA」は、日本文化における「儚く散る桜の美しさ」概念とポップスターの短命を被せたアカペラ調だ。見事な儚さだが、ここにも、相反するであろうことが一つある。呼び名が「ポップスター」であろうとなかろうと、ロザリアが音楽シーンに与えた影響は、散ることのない永遠として音楽史に刻まれるのだから。
ロザリア
『MOTOMAMI』
発売中
視聴・購入:https://ROSALIA.lnk.to/MOTOMAMI_ALRS
〈収録曲〉
1. SAOKO / サオコ
2. CANDY / キャンディー
3. LA FAMA feat. The Weeknd / ラ・ファマ feat. ザ・ウィークエンド
4. BULERÍAS / ブレリアス
5. CHICKEN TERIYAKI / チキン・テリヤキ
6. HENTAI / ヘンタイ
7. BIZCOCHITO / ビズコチート
8. G3 N15
9. MOTOMAMI / モトマミ
10. DIABLO / ディアブロ
11. DELIRIO DE GRANDEZA / デリリオ・デ・グランデーサ
12. CUUUUuuuuuute / キューーーーーーーーーート
13. COMO UN G / コモ・ウン・G
14. Abcdefg
15. LA COMBI VERSACE / ラ・コンビ・ヴェルサーチ
16. SAKURA / サクラ
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