エイドリアン・シャーウッドに学ぶレゲエ伝説、ホレス・アンディを輝かせたプロデュース術
Rolling Stone Japan / 2022年5月2日 20時0分
『Midnight Rocker』は新しいマスターピースだ。2022年に生まれたホレス・アンディの新たな代表作と言っても過言ではないと思う。
彼は70年代から活動し、レゲエの名門レーベルのスタジオ・ワンからの『Skylarking』(1972年)など数々の名作を残してきた。80年代にもNYの先鋭的なダブ・レーベルのWackies(後にミニマルダブの中心的存在、ベーシック・チャンネルにも大きな影響を与えることになる)と組んだ『Dance Hall Style』をリリースするなど意欲的な活動を続け、その評価の高まりは留まることを知らなかった。
90年代に入ると、活動の場をUKに移したこともあり、レゲエの枠を超えて新たな文脈を獲得し始める。マッシヴ・アタックに起用されたのをきっかけに新たなファンを獲得し、UKプロデューサーのジャー・シャカから、DJのアシュレ―・ビードルまで様々なコラボを展開。そこから過去作にも再び光が当たり、1977年の傑作『In The Light / In The Light Dub』がBlood & Fireから再発されて話題になったりもした。
そして2022年、『Midnight Rocker』でタッグを組んだのは、On-U Soundの総帥エイドリアン・シャーウッド。かなりシンプルかつオーセンティックなサウンドでありながら、On-U印の尖った要素も盛り込まれるという、大御所とのコラボワークにおける理想的バランスを実現させた本作からは、過不足のない美しい均衡が聴こえてくる。
UKレゲエ/ダブの革新的プロデューサーは、レジェンドを輝かせるためにどんなヴィジョンを描いていたのか。エイドリアン・シャーウッドが語り尽くすホレス・アンディ論、最高の入門編になったと思う。
エイドリアン・シャーウッド(Photo by Masataka Ishida)
―あなたがホレス・アンディを初めて聴いたときのことを教えてください。
エイドリアン:70年代の初頭、俺が13歳の頃だったと思う。曲は「Skylarking」だったね。誰かのハウスパーティで聴いたんだ。今振り返ってみると、彼は当時、サウンドシステム界隈では最も人気のあるシンガーだったんじゃないかな。そこで初めてホレス・アンディを知ったんだけど、特に何か感じたというより……自分もまだ13歳だったし、パーティでかかる曲のどれもが新鮮だったというか。とにかくヘヴィで包み込まれるような感じの曲だとは思ったけどね。
そこからホレス・アンディという名前を意識するようになると、どのパーティに行っても、どのサウンドシステムも必ず彼の曲をかけていることがわかってきた。その後のダンスホール時代も変わらず彼の曲は人気があったね。ニュー・エイジ・ステッパーズでもカバーした「Problems」のオリジナルを聴いた時は「なんだ、この曲は。すげえな!」って思ったよ。「Rock To Sleep」もサウンドシステムがよくかけていたな。これまでに聴いたどの曲よりもヘヴィだった。このベースラインが、「Welcome To Jamrock」(ダミアン・マーリーのヒット曲。元ネタはアイニ・カモーゼによる1984年の楽曲「World A Music」)の系譜に繋がっていったんだね。とにかく、ホレスは素晴らしいアーティストだ。彼と一緒にアルバムを作ることができて、本当にハッピーだよ。
左から『Skylarking』、『In The Light』(「Problems」収録)ジャケット写真(discogsより引用)
―ホレス・アンディの特徴を4つの分野にわけて、それぞれ聞かせてもらえますか。まずは「歌」について。
エイドリアン:歌が上手な歌手はそれこそ星の数ほどいるけど、一聴してすぐわかるようなスタイルを持った歌手というのはそれほど多くない。俺のなかではバーニング・スピア、グレゴリー・アイザックス、それにホレスくらいしか思いつかない。彼らの声は、個性的な楽器のようなもの。ボブ・マーリーの声は素敵だし、彼らしい個性もあるけど、なんというのかな……曲の中に溶け込んでいる感じがする。ホレスの声は”エンジェル・ボイス”とも表現されるけど、曲の中で際立っていて、心にひっかかる感じがするんだ。それだけの個性的なスタイルがあるからこそ、彼自身の曲はもちろん、彼なりの解釈を添えたカバー曲も素晴らしいんだと思う。特に「Every Tongue Shall Tell」とか「Dont Let Problems Get You Down」(ともに『Skylarking』収録)とか……曲名をもっと挙げようと思えば出来るけど、あまりにも多すぎる。理解してほしいのは、彼は”生ける伝説”だということ。今も新しいものを作り続けているんだから。
―「歌詞/アティテュード」についても話してもらえますか。
エイドリアン:彼はキングストンの出身で、今でもキングストンの治安の良くないエリアに住んでいる。キングストンでの生活が、彼のアティテュードに反映されているのは間違いないと思う。彼の声は、キングストンで何が起こっているかを表現しているんだ。彼のアティテューに込められているのは、過去に起こったことや未来への希望というものに対する彼なりの解釈なんじゃないかな。だからこそ、彼の曲はアップリフティングで明るいものが多いんだと思う。彼の歌には、社会の持つ問題や人々の思いが反映されているんだ。「This Must Be Hell」(名プロデューサーのタッパ・ズーキーとの曲。デイヴ・ブルーベック「Take Five」がサンプリングされている)や「Materialist」はその好例だね。人々が、見えないものに対して闘っている姿が描かれている。上手く言えないけど、彼のキングストンに於けるアティチュードに対する解釈というものは、理にかなっていると思うな。
ここで挙がった「This Must Be Hell」と「Materialist」は、今回の『Midnight Rocker』でも取り上げられている
―「作曲」についてはいかがでしょうか。
エイドリアン:彼は決して多作な人ではない。今回の『Midnight Rocker』でも何曲か彼の過去作品を焼き直したものを収録しているけど、そうしたのはどれも俺がすごく好きな曲だからだよ。あとは「You Are My Angel」とか、マッシヴ・アタックとやったものとかは素晴らしいと思う。彼は多作ではないけど、赫赫たる輝きを放つ作曲家なんだ。
ホレス・アンディが参加したマッシヴ・アタック「Angel」(1998年作『Mezzanine』収録)は「You Are My Angel」を下敷きに作られた曲
―最後に、「人柄」についてお願いします。
エイドリアン:彼は愛すべき好人物で、一緒にいると本当に楽しいんだ。一方でどこか突出したキャラクターがあるというか(笑)。彼は30人の子どもの父親なんだよ。先日も電話で話した時に、『今日は何をする予定?』って訊いたら『子守をしてる』って言うんだ。『お孫さん?』『違うよ、僕の30番目の息子だよ! 4歳になるんだ』って(笑)。彼はアフリカ系のフリオ・イグレシアスだね(笑)。
プロデューサーから掘り下げるホレス・アンディ
―あなたが特に聴き込んだホレス・アンディの作品を教えてください。
エイドリアン:『Midnight Rocker』を作って良かったと思うのは、俺が持っている彼の作品のほとんどがシングルだったからなんだ。ホレスの曲は全部聴いているけど、アルバム全体を通してしっかり聴くということはしてこなかったから。もちろん、アシュレー・ビードルとやった作品や、他のプロデューサーと一緒に作ったアルバムもすごく好きだけどね。このアルバムのこの曲とこの曲が素晴らしくて、こっちのアルバムはこの曲が良くて……っていうふうにピックアップ出来るのは素晴らしいけれど、『Midnight Rocker』は彼にとって初めての、頭から終わりまでひとつのアルバムとして通して聴ける作品になっているはずだよ。
―では、これまでに繰り返し聴いた曲は?
エイドリアン:これまでに挙げた曲はどれも繰り返し聴いたし、キース・ハドソンと作った「Dont Think About Me」(70年代にMafiaレーベルからリリースしたシングル)もすごくいいね。
―ホレス・アンディは70年代にクレメント ”サー・コクソン”・ドッド、タッパ・ズーキーなど、ジャマイカの素晴らしいプロデューサーたちと制作をしてきました。70年代の作品において特に感銘を受けたプロデューサーは?
エイドリアン:全員だよ。特に誰とか言えない(笑)。それぞれが素晴らしい仕事をしたと思ってるし、影響を受けているからな。タッパ・ズーキーとの「Natty Dread a Weh She Want」(1978年の同名アルバム収録)なんかはとても良い曲だしね。(コクソン・ドッドのレーベル)Studio Oneにはホレス初期の頂点というべき作品が集まっているから、これらを聴けば彼らの素晴らしさが分かるよ。キース・ハドソンは俺の友人だけど、とてもクレイジーですごい才能の持ち主だね。エヴァートン・ダシルヴァもそう。どのプロデューサーも完璧な仕事をする人たちで、とてもリアルなんだ。演奏のスタンダードも、プロダクションも、その全てが完璧と言っていいだろう。ホレスと関わったプロデューサーは俺も含めて、みんな真剣だし本気で良いものを作ろうと取り組んできたんだ。
『Natty Dread a Weh She Want』ジャケット写真(discogsより引用)
―80年代以降は、NYのブルワッキー、UKのジャー・シャカ、マッド・プロフェッサー、マッシヴ・アタックというふうに、ジャマイカ人以外のプロデューサーと制作しています。この時期についてはいかがでしょう?
エイドリアン:ブルワッキーはすごく良い仕事をする人だよね。ホレスが彼らとやっていた頃は、新しいサウンドシステムがちょうど台頭してきて、マイクを手にしたDeejayが加わるようになった時期だ。ホレスもサウンドシステムのリズムに合わせて踊ったりして、Deejayのような役割をしていたこともあったね。NYでの彼の素晴らしい映像が残ってるんだけど、サウンドシステムに自分の生歌を乗せたパフォーマンスをしているんだ。ほとんどサウンドクラッシュ(レゲエのサウンドシステム同士が競い合うもの)っていう感じで。こういうことをやっている人は当時はほとんどいなかった。
それに、70年代のミュージシャンは、上手く80年代のダンスホール・シーンを取り込むことが出来なかったけど、ホレスはそれをやってのけた数少ないミュージシャンのひとりだと思う。初期の頃、(ダンスホールの)リズムはすべて生演奏でプレイされていて、今見てもすごいと感じるね。Deejayは、想像力を働かせてその世界観を表現する存在になった。ホレスは、ブルワッキーのシーンをすごく柔軟に取り込むことに成功したと思うんだ。「Cuss Cuss」(1983年作『Dance Hall Style』収録)はその好例だと思うよ。生のリズム隊と、Deejayシーンで歌うことはシンガーにとって難しい挑戦だったように感じるね。ケン・ブースなんかも苦労していたように思う。ホレスはサウンドシステムのカルチャーを生き抜く智恵を身につけていたから、それがNYでの彼の作品で結実したんじゃないかな。
1986年、サウンドシステムとともに歌うホレス・アンディ
『Midnight Rocker』の制作背景
―では改めて、『Midnight Rocker』がどういう経緯で実現したのか聞かせてください。
エイドリアン:ホレスのことは本当に長いこと知っていて、しょっちゅう色んな人に「一緒にやるべきだよ」って言われ続けてきた。彼の奥さんであるキャロラインと俺は、イギリスのハイ・ウィッカムという街で、一緒の学校に通っていた幼なじみなんだ。実際、ホレスと俺が一緒にレコードを作れるように、マッシヴ・アタックがオーガナイズに奔走してくれたこともあったけど、お互い色々あってそのときは実現しなかった。でもしばらくして、ジャー・シャカやジョニー・クラークのマネージャーでもあったニッキーに「ホレスと一緒にやりたい。すごく良いアイデアがいくつかあるんだ」って声を掛けたんだ。それで、ようやく4年ほど前に一緒にやり始めることになったんだよ。
だから、このアルバムはかなりの時間を掛けて制作したんだ。途中でロックダウンになって行き来が出来なくなったから、彼がジャマイカのスタジオで録音したファイルを送ったり、俺も自分の住んでいるラムズゲートで録音したものを送って……そういうやりとりを重ねながら作っていった。とても楽しい作業だったよ。この作品が実現するまでに本当に長い時間がかかったけど、”Good things come to those who wait(待てば海路の日和あり)”って言うじゃない? まさにその通りになった。うん、このフレーズが見出しにぴったりだな(笑)。
―(笑)ホレス・アンディの作品を手掛けるにあたって、どんな青写真を描いていましたか?
エイドリアン:青写真はとてもシンプルなものだったね。「Materialist」と「This Must Be Hell」という隠れた名曲が2つあったから、まずはこれを世に出すことが頭にあった。他の曲については、よい作曲家を抱えたプロダクションも色々あるけど、そういうところに依頼する代わりに、ジェブ・ロイ・ニコルズやリー・ケニーといった素晴らしい作曲家たちに曲を書いてもらうことができた。そこにスキップ・マクドナルドが、完璧なホーンのアレンジやハーモニーを担当してくれた。つまり、俺のやりたいことを完全に理解してくれる人たちがいたから、俺自身も自分が何を作りたかったのか道筋が明確になったんだ。
さらに友人が「マッシヴ・アタックの曲をやるべきじゃない?」って提案してくれて、「Safe From Harm」(『Blue Lines』収録)をやろうと思いついた。(同曲のオリジナルで歌っている)シャラ・ネルソンは元々On-U Soundからデビューした縁もあるからね。今回のバージョンでは、ダグ・ウィンビッシュが最高のベースを弾いてくれたし、ループじゃなくて生演奏でレコーディングできたのも良かった。このアルバムは、チームワークこそが鍵になる作品だと思うよ。
シャラ・ネルソンが1983年にOn-U Soundからリリースした「Aiming At Your Heart」
―ホレス・アンディの新たな代表作になると思います。今回のアルバムについて、オーセンシティという観点から解説してもらえますか?
エイドリアン:自分でこんなこと言うなんて信じられないけど、彼の最高傑作と言えるだろうね! ハハハハ、本気だよ。もちろん、俺たちは日々「今回のアルバムが過去最高傑作になるのは間違いない」って思いながら作品づくりをしているし、そう思えなくなったら潮時だと思う。以前、リー・ペリーと『Rainford』『Heavy Rain』(共に2019年)を作った時も、うわべだけリー・ペリーっぽいようなレコードは作りたくなかった。彼のキャリアを明確に定義づけるような完璧な作品を作りたいと思ったんだ。今回、ホレスがマイクの前に立った時、「なんてこった、これまでで最も素晴らしい歌声じゃないか!」って感動したんだよね。それが大きな原動力となって、とにかく集中して一枚の作品を作り上げることができたと思う。
ここまで充実した作品になった大きな理由のひとつが、じっくりと時間をかけて作ることができたところにあると思う。プロデューサーの多くは、金銭的な制約もあって、とにかく急いで仕上げなければとアーティストを急かす必要がある。でも、俺たちはそこまで焦る必要がなかった。ある意味では、新型コロナがその手助けをしてくれたところもあるね。物理的に急いで作ることができなくなったから。
このアルバムにはたくさんの愛と優しさと思いやりが詰まっている。俺は、このアルバムを表現するのに「オーセンティック」という言葉は使いたくない。ただ「Great」の一言に尽きると思う。もちろん、70年代から脈々と受け継がれているオーセンシティを感じることはできるだろうけど、同時にとても現代的なアルバムだと思うから。
「Try Love」はエイドリアン、ジェブ・ロイ・ニコルズ、ジョージ・オーバン(2022年死去)の作曲。『Midnight Rocker』にはガウディ、スキップ・マクドナルド、クルーシャル・トニー、アイタル・ホーンズ、スタイル・スコット(2014年死去)というOn-U Soundを代表する精鋭ミュージシャンが多数参加。
―では、「これまでのホレス・アンディの作品では聴くことができない、あなたならではのサウンド」があるとしたら、どんなところだと思いますか?
エイドリアン:これまでのホレスのレコードに関わってきたプロデューサーはみんな素晴らしいし、これまでのホレスの音楽があったからこそ、このアルバムがあるわけだし……難しいな。彼のこれまでの作品の延長にあることは間違いないんだけど。最高のミュージシャンがプレイしているし、70年代から受け継がれている彼の作品の良さは全部受け継がれている。ただ、とても現代的な作品だと思うね。このモダンな雰囲気は、これまでのホレスのレコードにはなかったかもしれないね。もちろん、どの曲もある意味ヴィンテージで、クラシックなホレスのサウンドを持っているんだけど、使っている技術が非常に現代的ということかもしれない。
例えば「Watch over Them」とか「Try Love」「This Must Be Hell」を聴いてもらえばわかると思うけど、歌い方にしろリズムにしろ、特に何かおかしな効果を使っているわけじゃないよね。俺がこれまで手掛けた作品で使ってきたようなサンプリングにも頼っていない。ただ、演奏が完璧であることだけに集中したんだ。ジョージ・オーバンにしてもそうだし……彼はずっと病を患っていて最近亡くなってしまったんだけど、素晴らしいベーシストで、(アーニー・スミスの)レゲエ作品『Country Mile』(2008年)でも弾いている。ジョージ・オーバンの遺作という意味でも、このアルバムは俺にとって特別な意味を持っている。彼がプレイしてくれた部分はもう何年も前にレコーディングしてあったんだけどね。ジョージ・オーバンとダグ・ウィンビッシュ、これ以上ない最高のベースプレーヤーを2人もフィーチャーしたアルバムはこれまでになかったんだから。
Were devastated to receive the news that the great George Oban has passed on, a huge figure in On-Us history who played on many classic sides.
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Photo by Kishi Yamamoto pic.twitter.com/5n38C32mo4 — On-U Sound (@onusound) January 20, 2022
エイドリアン:このアルバムはクラシックなスピリットとともにレコーディングされ、それをホレスがひとつにまとめてくれた。そこにキラキラとしたプロダクション面での要素がプラスされて、ひとつの作品としての輝きを放つものになったんだ。その過程は、決して簡単なものではなかったけどね。ここにマエストロのガウディが加わって……このあとに『Midnight Rocker』のダブ・バージョンがリリースされるんだけど、まだまだ続きがあるっていうね(笑)。とにかく、このアルバムは、レゲエのトラディショナルな歌唱スタイルとホレスの歴史のすべてが詰まっている上に、現代のものとしてアップデートされている。ここ数年でリリースされたモダン・レゲエ作品のなかでも頂点と言えるだろうね。
レジェンドを輝かせるプロデュース術
―あなたはホレス・アンディだけでなく、プリンス・ファーライやリー・ペリーのようなレジェンドの作品も手掛けてきましたよね。
エイドリアン:プリンス・ファーライの最初のレコードは俺がリリースしたから、晩年になってレジェンドになったという感じだけどね(笑)。1983年に殺害されてしまったから。彼は一緒にキャリアをスタートしたという意味でも特別な存在だし、その声は本当に素晴らしくて、今でも心の中に生き続けている。彼の素晴らしい音楽は人々の中にも永遠に生き続けると思う。リー・ペリーは、俺の人生に最も影響を与えた人物のひとり。彼とはプライベートでも家族ぐるみの付き合いをしてきた。お互いの子ども同士も仲が良いし、彼の奥さんとも友だちなんだ。リー・ペリーやホレス・アンディのようなレジェンドと仕事をさせてもらったのは本当に名誉なことだ。もし13歳、14歳のレゲエファンだった頃の俺自身に、将来君は彼らと仕事をすることになるなんて言っても、絶対に信じて貰えないだろうね。夢が現実になったんだ。
On-U Soundの人気シリーズ最新作『Pay It All Back Vol. 8』(5月20日リリース)に収録される、リー・ペリーの未発表曲「The Many Names Of God」
―そんなレジェンドたちと仕事をすること、そこでプロデューサーがやるべきことは、いったいどんなことでしょうか?
エイドリアン:まずはじめに、俺が真剣に最高の作品を作るつもりだということを信じてもらって、信用を勝ち取ることだと思う。リーにしろホレスにしろ、リスペクトという言葉は使いたくないけど……ある意味、俺が彼らを決して急かしたりせず、じっくりと作品に向き合う姿勢を評価してくれたように思うよ。たかが数ポンドを節約するために、彼らに対するリスペクトを忘れなかったことに対してね。リーとは、とにかくたくさん話をして、笑い合って、いい時間を共有したことが大きかったね。彼は本当に楽しいユーモアの持ち主で、たくさん一緒に時間を過ごしたんだ。彼自身も、スキップ・マクドナルドやスタイル・スコットといったOn-U Soundファミリーとリラックスして付き合えていたんじゃないかな。リーも残念ながら亡くなってしまったけど、そういったミュージシャンたちのことが好きだったし、彼を取り巻く人々みんなのことを好きだったと思う。
あとはもう一つ、プロデューサーとしてやるべきなのは、とにかく雑音みたいなものを取り払うことだった。レゲエのレコードというのは、短い期間で慌てて作るようなものじゃない。ホレスにしてもそうだと思う。彼はこのアルバムのためにいくつかインタビューを受けているけど、ありがたいことにいつも「時間をじっくりかけて作ったから、とても良いものになった」って答えてくれている。嬉しいことだね。この歳になって、とにかく作品を作ってリリースすることだけを考えるのは意味がないから。自分の納得の行く基準を満たしたものだけを作りたいんだ。このアルバムは、クラシックであると同時に、とても素敵な隠し味もあって……アイヴァン・チェロマン・ハッセーのストリングスとか、そういったディテールが、アルバム全体の大きな炎の中の火の粉みたいに輝いているんだよ(笑)。
―今回はホレス・アンディに光を当てたわけですが、レゲエの歴史には他にも重要なレジェンドがたくさんいますよね。あなたがもっと注目されるべきだと思う存在は?
エイドリアン:レゲエの世界には、本当にすごいレジェンドがたくさんいて……俺もこれまでに仕事をしてきたビム・シャーマンとか。あとはボブ・アンディ、もちろんジョー・ヒッグスにボブ・マーリーに……あまり耳にしたことのないレゲエ・アーティストを挙げろと言われたら、永遠に挙げ続けるけど(笑)。ウィンストン・マカナフもそうだね。彼らは俺の血肉になっていると言っても過言じゃない。
―個人的に、一緒に作品づくりをしてみたいと思うレゲエ・アーティストはいますか?
エイドリアン:みんな歳を取ってしまって、今も変わらない歌声を持っている人はあまり残っていないからね。今でも大好きなのはバーニング・スピアーかな。あとはミスター・ウォブルズ(ジャー・ウォブルと思われる)とはレコードを作ってみたいね。
【関連記事】ホレス・アンディ レゲエ界の伝説が振り返る50年の歩み、マッシヴ・アタックとの邂逅
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