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バッド・バニー最新作 「2022年に最も聴かれたアルバム」が夏の訪れを告げる

Rolling Stone Japan / 2022年5月11日 10時30分

Photo by Eric Rojas

現代最高峰のラテン・スター、バッド・バニー(Bad Bunny)の最新アルバム『Un Verano Sin Ti』が大ヒットを記録中。ラテン・インディ勢とのコラボも注目の本作、米ローリングストーン誌のレビューをお届けする。


レゲトンはどこまで大きくなれるのか? この疑問は、ここ数年でメインストリームへと急浮上し、地球上で最も普遍的なサウンドのひとつとなったこのジャンルにつきまとい、常に物議を醸してきた問いだ。このジャンルを否定する者たちは、それがいまにも弾け消滅する厄介なバブルとみなし、一方でファンやアーティストたちは、この音楽には成長を続けるための無限のスペースがあることを証明しようと躍起になっている。しかし残念ながら、現在のラテン音楽の人気、収益性、商業性の高さに後押しされた人気アーティストたちは、大量生産・工場生産スタイルのトラックを詰め込んだアルバムを無限に生産し続けることで市場を飽和させ、シーンを退屈なものにしてしまっている。



食料品店の配達員からスーパースターへと転身したバッド・バニーは、プエルトリコを飛び出した瞬間から、レゲトンの未来指し示す愛すべき変人として知られてきた。彼は2年連続で地球上で最もストリームされてきたアーティストであり、2018年のデビュー作『X100Pre』、2020年の『YHLQMDLG』、2021年の『El Último Tour Del Mundo』のいずれのフルアルバムにおいて、オールドスクール・レゲトンからトラップ、ポップパンク、ロック、エレクトロポップを織り交ぜ、杓子定規な表現を打ち壊してきた。その結果、バッド・バニーのプロジェクトは、膨れ上がる希望と期待を背負うようになり、その期待はしばしば圧力鍋のようにすぐさま沸点へと達する。バッド・バニーは、最新作の『Un Verano Sin Ti』でそうした緊張を解きほぐすことを試みた。ジャンルの規模がますます拡大し、次はどのような頂きを征服するのか、といった憶測に流されることなく、キャリア最長となる23曲のトラックリストをもって、レイドバックして開放感を楽しむことにしたのだ。

バッド・バニーはインタビューで、子どもの頃に訪れたプエルトリコの海岸に思いを馳せたことがインスピレーションになったと語っているが、それが本作のカリビアンサウンドとレイドバックした雰囲気に影響を与えている。海にたゆたうようなその開放性は、彼がオルタナティブシーンの海に飛び込み、ボンバ・エステレオ(「Ojitos Lindos」)、ブスカブラ(「Andrea」)、ザ・マリアス(「Otro Atardecer」)といったインディーズシーンの人気アーティストを引き込んだとき最高の効果を発揮する。「Party」でラウ・アレハンドロ、「Tarot 」ではジャイ・コルテッツ、さらに「La Corriente 」ではパイオニア的存在のトニー・ダイズの参加といった嬉しいコラボもあるが、期待に見合うほどの出来栄えとは言えないかもしれない。また長尺の本作にはかつてないほど自由にジャンルと戯れる時間が与えられ、「Despues De La Playa 」ではマンボ、「Dos Mil 16」ではスローなトラップなどを用いることで、アルバムを活気づけている。




歌詞には失われたものへの憧憬と心の痛みが加わり、夏の気分とサッドボーイのバイブスを巧みにバランスしている。その一方で政治的、社会的な深みが顕著に表れてもいる。ファンたちは、『Andrea』が、元恋人が危害を加える危険を裁判所に訴えたが何の手も下されることなく、プエルトリコの路地で半焼けとなり元恋人がその犯行を自白した、35歳の女性アンドレア・ルイズについて書かれたものだと推測している。この曲は、ブスカブラのRaquel Berriosによるエモーショナルなボーカルを通して、DVや女性殺人が増加しているプエルトリコについて女性の視点から語りかけるものとなっている。また、「El Apagón」は、ハリケーン・マリアによってプエルトリコの電力網が壊滅的な打撃によって起きた停電を意味している。この曲は停電によって人びとが溜め込んだエネルギーとフラストレーションを描いた荒っぽいエレクトロ・バンガーだ。曲のアウトロではガールフレンドのGabriela Berlingeriを起用し、プエルトリコがアメリカの新興富裕層の植民地もしくはタックスヘイブンと化していることに言及する。”Lo que me pertenece a mí se lo quedan ellos/Que se vayan ellos/Esta es mi playa, este es mi sol”(私のものは私たちのもの/彼らの手から解放しよう/これは私のビーチ、私の太陽)。

『Un Verano Sin Ti』には現代のレゲトンが抱える落とし穴も見られる。バッド・バニーがとりわけドミニカ共和国から本作のインスピレーションを得ているにもかかわらず、ドミニカ人がひとりもフィーチャーされていないことをすでに多くの人が指摘している。また、アルバムの長さのせいもあって、中途半端な曲が含まれ、中だるみしているところもある。驚くべきことではないが、最もメインストリームなレゲトン曲が、とりわけ面白みに欠けている。それでも、本作はストリーミングの基準では、すでに圧倒的な成功を収めている。『Un Verano Sin Ti』が金曜日にドロップされるやいなや1億8300万回再生を達成し、それまでドレイクがもっていた記録を超えてバッド・バニーはSpotifyで1日に最もストリーミングされたアーティストとなった。また本作はすでに2022年にSpotifyで最も聴かれたアルバムとなり、現在Spotifyのデイリー・トップソング・グローバルチャートでは本作の楽曲が7曲ほどが競い合っている(「Moscow Mule」は2位、「Ojitos Lindos」は3位)。これらの数字は、バッド・バニーに「休暇中」の看板を掲げさせ、その間好き勝手に制作してもらうだけで、どれだけのことが成し遂げられるのかを思い知らせてくれる。

From Rolling Stone US.

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