『ミラベルと魔法だらけの家』の大ヒットは「ポップの拡張」が進む2022年の時代的必然?
Rolling Stone Japan / 2022年5月19日 20時50分
『ミラベルと魔法だらけの家』日本版オリジナル・サウンドトラック(CD・デジタル)発売・販売元:ユニバーサル ミュージック合同会社(© 2021 Disney Enterprises, Inc. All Rights Reserved.)
音楽メディアThe Sign Magazineが監修し、海外のポップミュージックの「今」を伝える、音楽カルチャー誌Rolling Stone Japanの人気連載企画POP RULES THE WORLD。ここにお届けするのは、2022年3月25日発売号の誌面に掲載された、ディズニー映画『ミラベルと魔法だらけの家』のサントラの記録的なヒットを考察した記事。ザ・ウィークエンドやカニエ・ウェストも凌ぐ特大ヒットは如何にして生まれたのか? 音楽的背景と産業構造的背景の両面から読み解く。
2022年最初の世界的メガヒットは、ザ・ウィークエンドでもカニエ・ウェストでもなかった。リン=マニュエル・ミランダとジャーメイン・フランコによるディズニー映画『ミラベルと魔法だらけの家』のサウンドトラックである。
2022年3月7日現在、このアルバムはビルボードで計8週1位を獲得。一週だけガンナに1位、ザ・ウィークエンドに2位を明け渡して3位に陥落したものの、すぐにトップの座を奪還して守り続けている。そしてアルバム収録曲「We Dont Talk About Bruno」は、3週連続1位だったアデルを蹴落とす形で5週連続1位を独走中。ディズニーアニメの曲が全米1位を獲得するのは『アラジン』の「A Whole New World」以来29年ぶり、そして『アナと雪の女王』の「Let It Go」でさえ最高5位止まりだったことを考慮に入れると、本サントラのヒットがいかに破格であるかがわかるだろう。これは間違いなく2022年初頭を象徴する事件のひとつだ。
We Dont Talk About Bruno (From "Encanto")
このヒットの背景には何があるのか。まずは何より、ミュージカルパートの作詞作曲を担当したリン=マニュエル・ミランダの手腕が大きい。ヒップホップミュージカルの『ハミルトン』、ラテン音楽とヒップホップが躍動するミュージカル『イン・ザ・ハイツ』を手掛けてきたミランダは、いまもっとも勢いがある映画音楽作家。プエルトリコ系の血を引く彼は、コロンビアが舞台の映画である『ミラベルと魔法だらけの家』にコロンビアやキューバ音楽などの影響を取り込んだ素晴らしい楽曲群を提供している。
ビルボードのラテン業界部門のトップであるレイラ・コボは、「(全米16週1位のラテンヒット)「Despacito」以前に「We Dont Talk About Bruno」の1位はありえなかった」と指摘。2010年代後半からスペイン語圏の音楽がUSメインストリームに浸透したことが、南米音楽色が強い『ミラベルと魔法だらけの家』のメガヒットの大前提にあるのは間違いない。
と同時に、昨年はプエルトリコ出身のラウ・アレハンドロやスペイン出身のセー・タンガナ、あるいは西アフリカのアフロビーツ勢など、非英語圏のアーティストへの脚光が一層強く当たり始めた年でもある。それを受け、ビルボードは2021年を「USメインストリームの中心が押し広げられた年」と総括したが、『ミラベルと魔法だらけの家』サントラの大ヒットはそんな「ポップの拡張」という2020年代的状況を反映したものだとも言えるだろう。
別の角度からも見てみよう。この映画の劇場公開は昨年11月末だが、サントラの人気に火がついたのは2021年末。つまり、クリスマスイブにディズニープラスで配信が始まってから本格的に広まりだした。
ニールセンの調査によると、2021年の配信映画トップ15のうち11作がディズニープラスの作品。本サントラのヒットの背景を考える上で、配信プラットフォームの強さはやはり無視できない。「We Dont Talk About Bruno」がTikTokでヴァイラルヒットしたことも要因として大きいが(映画の原題Encantoがタグづけされた動画はTikTokで224億回再生)、それも結局のところTikTokというプラットフォームがいかに強いかという話になる。
『ミラベルと魔法だらけの家』サントラのヒットは、あらゆる面で極めて現代的な事象である。まさにこれは2022年に生まれるべくして生まれたメガヒットだ。
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Edited by The Sign Magazine
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