アイドルから新時代のロックスターへ ハリー・スタイルズが追求してきた「自由な愉しさ」
Rolling Stone Japan / 2022年5月25日 17時0分
ハリー・スタイルズの最新3rdアルバム『Harrys House』が、早くも2022年を象徴するヒット作となりつつある。ワン・ダイレクション時代から社会現象を巻き起こしてきた彼は、どのようにして世界最重要ソロ・アーティストとしての地位を築いてきたのか。ライター・辰巳JUNKに解説してもらった。
【画像を見る】「Apple Music Live:ハリー・スタイルズ」ライブ写真(全10点)
多様性に満ちたスター像
「ロックは死んだと言われるよそで、コーチェラ初夜のヘッドライナーはスパンコールのキャットスーツに身を包んでいた。その名は、ハリー・スタイルズ」――ケイト・ハッチンソン(The Guardian)
世界中の音楽ファンが中継視聴するコーチェラ・フェスティバルは、ヘッドライナーにとって、自身に関心が低いリスナーに才能を魅せる絶好の機会だ。それを見事に成功させたのは、2022年の場合、ハリー・スタイルズだろう。「レッド・ツェッペリンを超える泣きギター炸裂」とも語られたバンドサウンドを従えた彼は、世界に向けて、己が「新時代のロックスター」だと証明してみせた。
英The Guardianより「ロックの神の再誕」と評されたコーチェラでのステージは、歴史の序章に過ぎなかった。優雅に疾走する80sシンセな新曲「As It Was」はSpotify史上最速で5億再生を超えた。つづいてリリースされた3rdアルバム『Harrys House』も、1日で全曲500万ストリームを達成し同サービス初の記録を樹立。今、世界最大の音楽スターは、ハリー・スタイルズにほかならない。
ポップロックスターとして君臨するハリーだが、その存在の大きさゆえ、様々な顔を持っている。ウルフ・アリスやミツキを前座に据えるツアーには、BTSメンバーやSZA、リゾら若手スターが駆けつける。同時に、彼のメンターはロックの伝説であるフリートウッド・マックのスティーヴィー・ニックスで、ジョニ・ミッチェルやリアム・ギャラガーら大御所も称賛を寄せている。
パブリックイメージはさらに多様だ。人気ボーイバンド、ワン・ダイレクション休止後にソロキャリアを大成させた、いわば「元アイドル」。TikTokトレンドを巻き起こした着用カーディガンが美術館に収蔵されたほどのファッションアイコン。クリストファー・ノーラン監督映画『ダンケルク』やMCU『エターナルズ』に出演する新鋭俳優でもある。おまけに、大の日本好きとして知られ、新作は後述のとおり細野晴臣リスペクトだというのだから、まことに情報量が多い。
1D時代〜ソロデビューまで
成功の軌跡を振り返ろう。1994年、イギリスの小さな町に生まれたハリーは、エルヴィス・プレスリーやプリンスに憧れるロック青年だった。16歳ごろ、腕試し感覚で参加した音楽オーディション番組『Xファクター』にて、ボーイバンド、ワン・ダイレクションを結成。そこからのスターダムは、日本でもおなじみだ。計5枚のアルバムは、7000万枚以上のセールスを築き上げている。
ソロ転向後のライブでも披露している「What Makes You Beautiful」。原曲のギターは共同プロデューサーのカール・フォークによるもの
バブルガムな音楽性と思われがちなワン・ダイレクションだが、米国市場においては「予想外のヒット」とされたギター使いのポップロックでもあった。ただ、それを留意しても、バンド休止後の2017年に放たれたソロデビューアルバム『Harry Styles』は衝撃的だった。きらびやかな「アイドル」的人気を誇ったにも関わらず、ポップトレンドから逸脱した古風な70年代風ソフトロックだったのだ。
『Harry Styles』の1stシングル「Sign of the Times」
かのエルトン・ジョンからも「予想外の方向性」として称賛されたハリーは、早々に音楽的評価を確立した。同時に、彼が特異とされるのは、ボーイバンドの経歴を卑下せず、むしろ誇っている点だ。特にファンへの敬意は厚い。米ローリングストーン誌による当時のインタビューで、年配リスナーを惹きつける「シリアスなミュージシャン」であると証明するプレッシャーについて問われた際、若年女性ファンを多く抱える立場として反論に出ている。
「人気の音楽を好む女の子が、ヒップ気取りな30代よりも趣味が悪いって言いたいの?」
「ティーン女子のファンは嘘をつかない。自分が好きだったら応援するんだ。”クールに振舞おう”なんてしない。好きだったら好きと言う。それってシックなことだよ」
音楽ファン目線と「自由に愉しむ」姿勢
ソロ大成の一因には、純粋な好意を示しつづけてくれたファンの存在があるかもしれない。実のところ、高評価された1stアルバムは「成功しなくてはならない」プレッシャーのもと作られた「安全策」でもあったという。そこからの脱出として、彼が行き着いたのが、業界ウケから距離を置く「音楽ファン目線の音楽制作」だ。
「自由」な「大作」を志した2nd『Fine Line』は、まさしく音楽ファンとしての純粋な好奇心がきらめくアルバムだった。曲中でヴァン・モリソンが言及されるように、70sロックのアティテュードを参照した、陶酔的なソウルタッチ・サウンド。これが、重圧と緊張が張り詰めたコロナ禍の世界に安心と享楽をもたらした。キャリア初のグラミー賞にも届いたロングヒットの評判はさまざまだが、なかでも、師匠と制作仲間の評は、ハリーが奏でる「自由」の魅力を物語っている。
「ハリーは、昨日の出来事かのように実体験を歌う」「物語をつくらず、真実を語っている。私と同じように。『Fine Line』は、彼にとっての(フリートウッド・マックの名盤)『Rumors』」――スティーヴィー・ニックス(Variety)
「(大ヒットした「Watermelon Sugar」は)素晴らしさが詰まった曲だけど、際立ってるのは歌詞だね。隠れようとも、気の利いたことを発しようともしていない。ただ、シンプルに、歓びに満ち溢れたスイカの曲。このことが成功の大部分を占める」――キッド・ハープーン(Variety)
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音楽性と表裏一体なファッションにも触れたほうがいいだろう。Vogue誌初の男性単独表紙でロングドレスを纏った彼は、ジェンダーレスな装いで知られるファッションアイコンだ。メンズ、ウィメンズの境界を超えるカリスマ性はデヴィッド・ボウイとも比較されている。
ただ、スウィートな礼儀正しさで知られるハリーの場合、反逆のアイコンというより、気に入ったものをただ「愉しむ」姿勢が特徴だろう。ある面では、彼の「自由な愉しさ」を追求する姿勢こそ、さまざまな指標やプレッシャーに満ちた今日求められる「ロックスター」像なのかもしれない。
『Harrys House』で見つけた自分の才能
「やっと、”ヒットしなかったら人生終わり”と感じなくなったんだ」。「自由」を尊ぶハリー・スタイルズが、商業的プレッシャーから解放される境地に至ったアルバムこそ、3rd『Harrys House』だ。
はじまりは、パンデミック危機下、親元を離れた16歳以来はじめて得られた長期休暇。同居する友人たちと遊びの延長で制作が始まったため、あえて他作品を参照せず、まっしろな気持ちで紡いでいったという。実際、サウンドはリラクシングでグルーヴィー。マイケル・ジャクソン的な「Music for a Sushi Restaurant」から始まり、東京のホテルで制作した「Little Freak」、ジョン・メイヤーのエレキギターがセクシーな「Cinema」、ブラザーズ・ジョンソン「Aint We Funkin Now」をサンプリングした「Daydreaming」……ハリーと家のなかで一日過ごすかのような、親密な作品だ。
当初は物質的な意味としていた「家」コンセプトは、制作過程でより広範に、安全を感じられる精神的なものに変容していったという。ラストトラック「Love Of My Life」では故郷イギリスへの愛が歌われるが、彼が描く「家」のなかには、日本も含まれているかもしれない。前作の制作終盤、長期滞在した東京で耳にした細野晴臣『HOSONO HOUSE』を大層気に入り『Harrys House』コンセプトの参考にしたそうだ。
5月20日(土)にニューヨークで一夜限り開催、ライブ配信された「Apple Music Live:ハリー・スタイルズ」の模様。日本時間5月26日(木)午後6時〜アンコール配信を予定。
なにより、ハリーのホームはコンサートだろう。ミュージシャンとして変容を重ねる一方、ファンへの感謝は不変な彼は、見ず知らずの人々が集まり家族となるライブを人生最高の歓びとしてきた。むしろ、友人との共同作業を通してプレッシャーから解放された今作によって、はじめて音楽制作のことをパフォーマンスと同等に愛することができたという。
そのなかで、発見もあった。演奏にも歌唱にも秀でていないと自認するハリーだが「人を集めること」こそ自分の才能だと気づけたという。彼がもっとも輝ける場所は、形式的な決まりやプレッシャーから離れ、本能的につながる空間なのだ。ともなれば、ボーイバンド時代から育まれてきたであろう「人々と愉しむ」才覚が、制作、ステージの両方で結実した作品こそ『Harrys House』なのではないか。
商業的成功のプレッシャーから解放されたというアルバムがキャリア最大ヒットになりそうな向きは、矛盾しているようでしていない。「新時代のロックスター」、ハリー・スタイルズの魅力は「自由な愉しさ」にこそ宿っているのだから。
ハリー・スタイルズ
『Harrys House』
配信中(2022年5月20日リリース)
<国内盤CD>
2022年6月8日(水)発売 ¥2,640(税込)
ソフトパック仕様/初回仕様限定ポスター封入
先着購入者特典:メガジャケ(Amazon.co.jp)、ミニクリアファイル(リアルショップ限定)、ポストカード(ECショップ限定)
輸入盤・配信:https://HarryStyles.lnk.to/HarrysHouse_JPRS
国内盤:https://SonyMusicJapan.lnk.to/HarrysHouseRS
先着購入者特典 詳細:https://www.sonymusic.co.jp/artist/harrystyles/info/540482
<輸入盤>
●CD
●アナログ盤(12インチ)
●【Sony Music Shop 限定】イエロー・カセット
●【Sony Music Shop 限定】オレンジ・カセット
商品詳細:https://onl.sc/pWY6mxn
Apple Music Live:ハリー・スタイルズ
アンコール配信日時:5月26日(木)午後6時(日本時間)
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