サンダーキャット異次元のステージ 「世界を肌で感じられる」来日公演が帰ってきた
Rolling Stone Japan / 2022年5月27日 18時15分
サンダーキャットの東名阪ジャパンツアーが、さる5月16日〜18日にかけて開催された。ジャズ評論家の柳樂光隆は、彼のライブにどんな意義を見出したのか。恵比寿ガーデンホールで開催された東京公演1stセットの模様をレポート。
【画像を見る】サンダーキャット ライブ写真
「LOVE SUPREME JAZZ FESTIVAL」でヘッドライナーを務めたロバート・グラスパーは、ドラムのジャスティン・タイソンとベースのデヴィッド・ギンヤードのコンビネーションがすさまじく、特にジャスティン・タイソンの進化には誰もが驚いた。ビルボード東京にはコリー・ヘンリー・トリオが出演。超絶ファンク・グルーヴのなかで、プリンスにも認められた名手タロン・ロケットのドラムとコリーのインタープレイが炸裂した。その数日後、ホセ・ジェイムズはNYで注目されるカイル・マイルス&ジャリス・ヨークリーの2人の新鋭を日本に紹介しただけでなく、BIGYUKIや黒田卓也を迎えて、過去最上級のライブを見せてくれた。海外アーティストのライブは長らく途絶えていたが、この5月はアメリカの実力者たちが一気に来日して、それぞれのヴェニューを盛り上げた。
そんな怒涛の来日ラッシュのなかで、ひときわ大きな盛り上がりを見せたのがサンダーキャットだ。誰よりも来日を待望していたアーティストのひとりで、来日後もしばらく日本に滞在し、上坂すみれと会ったり、都内各所で目撃されたりと話題を振りまき続けている。とはいえ、久々に見せてくれたライブの衝撃にはどんな話題も及ばない。
本来であれば2020年に『It Is What It Is』をリリースしたあと、すぐに来日公演を行う予定だったが、2年間の空白期間を経てようやくジャパンツアーが実現した。サンダーキャット側は、あくまで「中止」ではなく「延期」であることを強調。そして今回のライブは、彼の右腕である鍵盤奏者デニス・ハムに加えて、まさかのルイス・コールが帯同するというおまけつきだった。
Photo by Tadamasa Iguchi
セットリストについては、キャッチーかつコンパクトにまとまっていた『It Is What It Is』収録曲が中心ではあったが、サンダーキャットのライブは演奏曲の一部をモチーフに、ゴリゴリの即興演奏を行うのが恒例。曲が始まり、アルバムで聴いていたヴァースやコーラスの印象的なフレーズを奏でたかと思えば、それらを素材にして即興へとなだれ込んでいく。
そこは過去に日本で見せてきたステージと変わらないが、今回はフレキシブルに暴れまくる(ジャズ出自の)ジャスティン・ブラウンではなく、ルイス・コールがドラマーを務めたのが大きな変化。それによってリズムはタイトかつミニマルになり、ファンク度も高め。つまり抽象性を多少抑えるかわりに、よりダンサブルなサウンドになっていたのは、久々のスタンディング公演にうってつけの変化だったかもしれない。
Photo by Tadamasa Iguchi
そして、固めでソリッドなリズムのうえで、サンダーキャットはベースというよりはギターもしくはキーボードのようなフレーズを自由自在に引き倒す。シンコペーションしながらもどこか前のめりでロック的な疾走感をもつサンダーキャットと、ルイス・コールの高速かつ変則的なファンクを聴いていると、かつてサンダーキャットがスーサイダル・テンデンシーズの一員だったことまで頭をよぎる。
そんな二人の隣で、ひそかに超絶パフォーマンスを行っていたのが鍵盤のデニス・ハム。ベース奏者がひたすらソロをとるトリオなので、ベースラインはほぼ鍵盤が担うことになる。そういう意味で、サンダーキャットのバンドは、オルガン・トリオ的なバランスで成り立っているとも言えそうだ。
Photo by Tadamasa Iguchi
ルイス・コールのマシーナリーな高速リズムに合わせて、デニス・ハムは左手のキーボード・ベースで的確にグルーヴを生み出す。そして、ひたすらにフレーズを紡ぎまくる主役のベース奏者に合わせて、時にコードを重ねたり、もうひとつの旋律を並べたりしていた。グルーヴを支えながら、ハーモニーを生み出し、楽曲の情感も膨らませる。二人の化け物の演奏を支え、彩り、その合間に自身の主張もさりげなく込める。2本の手でリズムもメロディもハーモニーも担当する様は、フュージョン寄りかつプログレ風味のBIGYUKIとも形容したくなる驚異的な演奏だった。
異次元のサウンドにぶっ飛ばされる体験
そのデニスがもっとも強烈だったのは、サンダーキャットが「チック・コリアに捧げる」とMCしてから始めた一連の演奏だ。最初は何の曲を演奏しているのかわからず完全な即興かと思われたが、中盤でチック・コリアの楽曲「Humpty Dumpty」の断片が提示され、ようやく同曲をモチーフにした即興だったことが(薄っすら)伝えられた。その直後に、チック・コリア・エレクトリック・バンドの「Got A Match?」のテーマを演奏し、それをモチーフにした即興が続いた。どちらもテクニカルなフュージョン期のチック・コリアによる名曲であり、腕利きのミュージシャンが挑みたくなる難曲としても知られる。ここからも70〜80年代のフュージョンをこよなく愛するサンダーキャットの志向がよくわかるし、テクニックやミュージシャンシップへの自負がある3人の音楽観を示していたと思う。
サンダーキャット本人に尋ねてみたところ、このややこしいアレンジはデニス・ハムが手がけたそうだ。「Humpty Dumpty」のテーマを観客にわかるようなフレーズを避けながら即興を行うという、謎のハードルを設ける自信と遊び心に、サンダーキャットが全幅の信頼を置く理由が詰まっている気がした。もともとジョージ・デュークの「For Love」をカバーしたり、世界最強のウェザー・リポート(ジョー・ザヴィヌル)マニアであるスコット・キンゼイをゲストに迎えたり、フュージョンへの愛を隠してこなかったサンダーキャットだが、チック・コリアのトリビュートで奏でた2曲もど真ん中で、そういう意味ではこれまでで最も興味深いライブだったとも言えそうだ。
Photo by Tadamasa Iguchi
ほかにはルイス・コールに捧げた「I Love Louis Cole」や「Dragonball Durag」、フライング・ロータスが手掛けたアニメ『YASUKE』のテーマ曲「Black Gold」、そして「Them Changes」まで、最高に楽しめる選曲で誰もが大満足だったはず。個人的には(2部制による時間の制約も理由にあったかもしれないが)サンダーキャットのソロがコンパクトでまとまりがよく、以前よりもポップな原曲と即興の破壊力のバランスが取れたことで、ライブの魅力や説得力もより増したように感じた。サンダーキャットはコロナ期間中に確実に進化していたみたいだ。
はっきり言って、こんなに複雑で、繊細で、濃厚で、大げさで、しつこくて、それでいてキャッチーでひたすらに楽しい音楽は、サンダーキャットのトリオでしか味わえないものだ。どこを切り取っても超絶、誰が見ても怪演、どこを聴いても卓越している。ついにこういうライブを体感をできる世界が戻ってきた。とんでもない異次元のサウンドにぶっ飛ばされるような体験が帰ってきた。世界を肌で感じられる日々が再び動き始めるのだ。僕はこの5月のことをずっと忘れない気がしている。
注目の来日公演
FUJI ROCK FESTIVAL 22
2022年7月29日(金)、30日(土)、31日(日)新潟・湯沢 苗場スキー場
詳細:https://www.fujirockfestival.com/
SUMMER SONIC 2022
2022年8月20日(土)、21日(日)
東京・ZOZOマリンスタジアム&幕張メッセ
大阪・舞洲SONIC PARK(舞洲スポーツアイランド)
詳細:https://www.summersonic.com/
!!!来日公演
2022年9月5日(月)SHIBUYA O-EAST
開場/開演: OPEN 18:00 / START 19:00
詳細:https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=12782
black midi japan tour 2022
2022年12月4日(日)東京 SHIBUYA O-EAST (1st Show / Late Show)
2022年12月5日(月)大阪 UMEDA CLUB QUATTRO
2022年12月6日(火)名古屋 NAGOYA THE BOTTOM LINE
詳細:https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=11891
WET LEG JAPAN TOUR 2023
2023年2月13日(月)愛知・名古屋CLUB QUATTRO
2023年2月14日(火)大阪・梅田CLUB QUATTRO
2023年2月15日(水)東京・渋谷O-EAST
詳細:https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=12763
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