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ポップスターたちが隠したい過去 ロシア新興財閥との蜜月

Rolling Stone Japan / 2022年6月3日 11時50分

左からダーシャ・ジューコワ氏とロマン・アブラモヴィッチ氏。カリブ海サン・ベルテルミー島でアブラモッヴィチ氏が開いた2011年の年越しパーティにて。(Photoo by SplashNews.com)

ロシアのウクライナ侵攻、そしてそれに伴うロシアの大企業に対する世界的バッシングを受け、大勢のアーティストが自問自答している。ベーシストのトミー・スティンソンは、ガンズ・アンド・ローゼズの一員として2010年、ロシアの電力会社のためにモスクワで行われたプライベートコンサートに参加した時のことを振り返る。

【動画】アブラモヴィッチ氏の私的パーティで歌うポール・マッカートニー

2010年にモスクワの映画撮影スタジオMosfilmで行われたガンズ・アンド・ローゼズのコンサートは、ロシア最大の国営電力会社Federal Grid Companyの副理事長だったアレクサンドル・チスチャコフ氏の主宰だった。「あれほど居心地が悪かったことはない」とスティンソンも言う。「酔っ払ったパーティ客の連中が、俺たちを呼べたことに喜んでいた。金メッキのトイレなんてのは見かけなかったけど、きっと会場のどこかにはあったと思う」

2014年にロシアが最初にウクライナに侵攻した後も、こうした私的なコンサートは後を絶たなかった。2016年にはサイード・グツェリエフ氏(制裁対象となっているロシアの石油王ミカエル・グツェリエフ氏の息子)の結婚式で、スティングとジェニファー・ロペスがそれぞれ別々に演奏した。結婚式にかかった費用はおよそ数十億ドルと言われ、ウェディングケーキは高さ12フィート。会場の天井は花で埋め尽くされていた。参列客にはお土産として、宝石が埋め込まれた箱が贈られた。ロペスはステージの最中に「今日一番大変なこと」は新郎新婦の名前の発音を覚えることだった、と冗談めかして言った。

その1年後にはエルトン・ジョンとマライア・キャリーが、モスクワのドモジェドヴォ国際空港の共同所有者であるロシア人大富豪ヴァレリー・コーガン氏の孫娘の結婚式で演奏した(同氏は現時点では西側諸国の制裁対象になっていない)。

戦争が勃発して以来、ごく少数のミュージシャンが関与を認めた。「オリガルヒ(新興財閥)はもうイギリス、ロシア、世界中のどこでも、ステージや結婚式やパーティを開く立場にはない」。例の結婚式でのパフォーマンスについて、スティングも最近こう発言した。「ああいう時代は終わりだ」 予定されていたロシア公演をキャンセルしたディープ・パープルのロジャー・グローヴァーも、「多くのアーティストと同じように、俺たちも何度か各国のファンのためにプライベートコンサートでパフォーマンスした」ことを公表した。

その他大勢のロシア人オリガルヒ同様、ロマン・アブラモヴィッチ氏もソ連崩壊後の混乱期に民有化された国有資産を安く購入し、購入価格の数倍の値で売りさばいて富を築いた――彼の場合、「不正操作」が行われたと言われるオークションで石油会社を2億5000万ドルで買い取り、10年後にロシア政府に130億ドルで売却した。

アブラモヴィッチ氏は公にはプーチン大統領やロシア政府と一定の距離を保ちつつ、チェルシーFCをはじめとする資産を手に入れた。西側諸国はこれを策略だと言う。イギリスやEUの当局によれば、アブラモヴィッチ氏はプーチン大統領との緊密な関係のおかげで財を成し、私腹を肥やすことが出来たのだという。EUの制裁書は同氏をプーチン大統領と「長きにわたる親交があり」「優先して面会できたロシア人オリガルヒ」とみなし、「ロシア元首との結びつきによって多大な富を維持した」としている。イギリスの制裁書にも、同氏がロシア政府から「優遇措置」を受けていたと記載されている(ローリングストーン誌のメールに対し、アブラモヴィッチ氏の代理人から返答はなかった)。


まるでロックフェス、アブラモヴィッチ氏の私的パーティ

ウクライナでの戦争が始まるずっと以前から、アブラモヴィッチ氏は大金をはたいてポップスターを招き、自分が主宰するイベントでフルセットのコンサートを開いた。2009年にはエイミー・ワインハウスに200万ドルを払い、当時付き合っていたダーシャ・ジューコワ氏が所有するモスクワのアートギャラリーGarageで、至近距離でのショウを開いたと言われている(当然ながらワインハウスはステージに立てるような状態ではなく、数時間遅れで始まったショウは散々たる内容だった)。ステージの頭上にはその後の富を象徴するかのように、ワインハウスの名前を金文字で綴った看板が掲げられていた。

翌年には、9000万ドルを投入してカリブ海に浮かぶフランス領サン・バルテルミー島に広大なヴィラリゾートを建設。やがて豪華なカウントダウンパーティを開くようになった。時には花火や巨大ヨット「エクリプス号」(複数のプールやヘリポートを併設し、潜水艦も備えられていた)の見学ツアーも盛り込まれた。2000年代後半からは、6桁は下らない金額でキングス・オブ・レオンやレッド・ホット・チリ・ペッパーズ、ザ・キラーズを招いた(2017年のカウントダウンパーティでは、ポール・マッカートニーもザ・キラーズに加わって「ヘルター・スケルター」を共演した)。2010年の大晦日イベントにブラック・アイド・ピーズをオファーした際には、ゴージャスな白い砂浜で有名なグヴェルヌール・ビーチ全体を貸し切った。チリ・ペッパーズ出演した2012年の年末パーティでは「アイランド・シック」というドレスコードが課され、招待客にはキャビアのブリヌイにウォッカとレモン風味のソースをかけたパンケーキがふるまわれた。

亡くなる数カ月前、晩年のプリンスがパフォーマンスしたステージのひとつが、2015年の大晦日にアブラモヴィッチ氏の所有地で行われたパーティだった。噂では、プリンスとサード・アイ・ガールは約100万ドルで、ヒット曲満載のステージを披露したという。観客の中にはレオナルド・ディカプリトとジョージ・ルーカスもいた(過去のパーティにはデヴィッド・ゲフィン氏やハーヴェイ・ワインスタイン氏、エレン・デジュネレスが出席していたと言われる)。地元のシェフ、パトリス・アブデラマンさんは自ら運営する会社Chef Dor St. Barthで高級イベントを数々手がけてきたが、プリンスが持っていた「ぴかぴかの銀のステッキ」が今でも目に浮かぶという(当時プリンスは腰の手術を受けたばかりだった)。「アブラモヴィッチ氏は素晴らしいパーティを開きます」とアブデラマンさん。「彼はとても太っ腹です」

プーチン大統領の上級顧問の受信メールからハッキングした情報によると、2014年にアブラモヴィッチ氏はモスクワのプライベートコンサートでロビー・ウィリアムズを招いた。ウラジスラフ・スルコフ氏は2020年2月に解雇されるまでプーチン政権の副首相を務め、プーチン大統領の右腕としてウクライナなどの諸問題について助言していた。匿名のハッカーがスルコフ氏の政府専用アカウントをハッキングし、2016年にその内容をネット上に公開したと言われている。


「オリガルヒや金持ち連中のために演奏するなんて、ヘドが出る」

ローリングストーン誌が検証したそれらのメールには、2015年にアブラモヴィッチ氏がスルコフ氏と家族をモスクワのパーティへ招待する招待状があった。ロビー・ウィリアムズや「その他アーティスト」が100人の親しい客の前で演奏し、その後花火が打ち上げられると書かれている。その後、ウィリアムズはロシア人オリガルヒをテーマにしたシングル「Party Like a Russian」をリリースしたが、この時のパーティにインスパイアされたものと見られる。

匿名を条件に取材に応じたイベント業界関係者は、アブラモヴィッチ氏のパーティに惹かれるのも理解できなくはないと言う。「この業界では、暇を持て余した人間がアーティストについて問い合わせしてきたり、大金持ちがわざわざ契約までしてイベントを開くんです」とその関係者は言う。「ですがアブラモヴィッチ氏の場合、ギャラが高額になるのは目に見えています。彼は金に糸目をつけません。それは確実でした。楽に稼げるいい仕事でした――誰にとっても美味しい話です」

その関係者は、アブラモヴィッチ氏が企業や土地を所有する国々に落とした金についてふれた――地元政府は何年も見て見ぬふりをしてきたことも。「アーティストに対しては『なぜ奴のために演奏するんだ?』と思うでしょうが、当然でしょう? 誰もがみな金をもらってるんですから」。業界全体の状況も、いつかは戦争前の状態に戻るかもしれないとその関係者は感じている。「保証はできませんが、戦争が終わって5年も経てばみな忘れてしまう。そうなればおそらく、これまで通りになるのではないでしょうか」

少なくとも現時点では、アーティストは金輪際この種の金は手を出さない。ウクライナでの戦争で、オリガルヒのために演奏することは好ましくないものになった。「今もあの地域の怪しい連中から大物アーティストの問い合わせが来ますが、シャットアウト一択です」と、アメリカを代表するイベントブッキング業者はこう語った。「関わり合いになるもんじゃありませんよ」。複数の大物ロックバンドを担当するマネージャーもこう付け加えた。「今の段階では、どのクライアントにもロシアでの演奏はおすすめできません。どんなに金を積まれても、最悪の事態になるでしょう」

「オリガルヒや金持ち連中のために演奏するなんて、ヘドが出る」とスティンソンも言う。「そうとしか言いようがないね」

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from Rolling Stone US





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