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クーラ・シェイカー伝説を辿る ブリットポップ異端児の新章とサマソニ来日の展望

Rolling Stone Japan / 2022年6月15日 18時0分

クーラ・シェイカー

クーラ・シェイカーが6年ぶり最新アルバム『1st Congregational Church Of Eternal Love And Free Hugs』を6月15日に日本盤リリース。8月にはサマーソニック出演も決定。クリスピアン・ミルズ率いるバンドの歩みと最新モードを、荒野政寿(「クロスビート」元編集長/シンコーミュージック書籍編集部)に解説してもらった。

miletからクーラ・シェイカー新作へのコメント到着、記事の末尾に掲載。

ブリットポップの時代を象徴する”ブラーVSオアシス”が盛り上がったのは1995年のこと。その余韻が続く中、ゲームチェンジャー的に忽然とUKロック・シーンに出現したのがクーラ・シェイカーだった。1996年のデビュー・アルバム『K』からは、「Grateful When Youre Dead」(35位)を皮切りに、「Tattva」(4位)、「Hey Dude」(2位)、「Govinda」(7位)と、全英シングル・チャート上位にランクインするヒットを連発。アルバムも全英1位を獲得し、ダブル・プラチナムを記録するベストセラーとなった。

制作陣にストーン・ローゼズの1stアルバムと同じジョン・レッキーを迎えて臨んだ『K』では、フロントマンであるクリスピアン・ミルズの嗜好をダイレクトに反映し、”1967年のロック”とインドへの憧憬を隠さない現代版サイケデリック・ロックを展開。しかしその直球なアプローチと、有名女優の息子というクリスピアンの出自、中産階級出身のバンドであったことが英国のシニカルな音楽メディアから嫌われる要因となり、急速な成功と同時に批判の洗礼も受けている。クラシック・ロックの影響を昇華する上で、わかりやすいサムシング・ニューの付加が求められ続けた90年代のUKロック・シーンにおいて、ジョー・サウス作の「Hush」を初期ディープ・パープルのヴァージョンをなぞったアレンジでカバーする彼らの姿勢が、あまりにも異質だったのは確かだ。しかし、その「Hush」(1997年)もUKシングル・チャートで2位まで上昇。賛否渦巻く中で、大衆からは絶大な支持を得ていく。プロディジーの『The Fat Of The Land』に収録された「Narayan」にクリスピアンが客演して話題になったのもこの頃だ。




先行シングル「Sound Of Drums」(1998年:全英3位)が予感させた通り、2ndアルバム『Peasants, Pigs & Astronauts』(1999年)では前作のハードさと疾走感が弱まり、サイケ・ポップ色がますます濃厚に。制作の初期段階でジョン・レッキーが離脱、続いてジョージ・ドラクリアスとリック・ルービンにプロデュースを依頼するも相性が悪く、結果的に名匠ボブ・エズリンを迎えてようやく完成に漕ぎ着けた多難なアルバムだった。フォーキーで内省的な曲も含む、表現の深化を示した粒ぞろいの力作だったが、シングル・カットされた「Mystical Machine Gun」「Shower Your Love」はいずれも全英14位止まりと苦戦。アルバムも9位までしか上がらず、前作を大きく下回るセールスにとどまった。そしてこの年の9月、バンドは解散を発表する。



その後、クリスピアン・ミルズはリリースされずに終わったソロ・アルバムの制作を経て、元ストローのメンバーと新たにザ・ジーヴァズを結成。クーラ・シェイカー登場時のグルーヴ感を彷彿させる痛快なロックンロールを鳴らした『1,2,3,4』(2002年)、『Cowboys And Indians』(2003年)は、本国では苦戦するも、日本のファンには歓迎された。

再びクーラ・シェイカーが動き始めたのは2004年のこと。ライブ活動を再開、2006年にEP『Revenge Of The King』を出すタイミングで出演したフジロックでは入場規制がかかるほどの盛り上がりを見せ、ファンの期待を裏切らない出し惜しみ無しの名曲オンパレードで圧倒してくれた。

3枚目のアルバム『Strangefolk』を2007年に発表(全英69位)。制作陣にチャド・ブレイクを迎えて心機一転を図った本作リリース後、バンドはセルフ・プロデュースで4枚目の『Pilgrims Progress』(全英117位)に取り掛かるが、契約上の問題で制作が中断してしまう。このアルバムがようやく世に出たのは2010年だった。同作リリース後のツアーでは再び来日も果たし、フジロックのグリーンステージに登場、大舞台に相応しい熱演で健在ぶりを示した。

その後クリスピアンが映像プロジェクトへの集中を宣言、バンドしての活動は停滞を余儀なくされる。2016年に通算5枚目、『K2.0』をリリースすると全英アルバム・チャートで32位まで上昇、久々のトップ40入りを果たした。この年もフジロックに出演、アンコールに応じて披露した「Hey Dude」で爆発的な盛り上がりを見せ、日本での根強い人気を再確認させてくれた。


『K2.0』のシングル曲「Infinite Sun」

ニューアルバムで取り戻した確信

まだ手探りなところがあった『Strangefolk』、楽曲の幅は広いがアルバムとしてはやや散漫な『Pilgrims Progress』、タイトルが示す通り気負いが感じられた『K2.0』……これら3枚の佳作が長いリハビリだったのではと思えるほど、最新作『1st Congregational Church Of Eternal Love And Free Hugs』は迷いがなく、集中力の高いアルバムだ。クーラ・シェイカーとは何ぞや?という長い自問自答の日々からようやく抜け出して、「結局俺が好きなものを好きなようにやったらクーラ・シェイカーになるのでは」という確信をクリスピアンは得たのではないだろうか。

『K』から彼らを追いかけてきたファンなら、まず「Whatever It Is (Im Against It)」で心を鷲掴みにされるはず。反骨心むき出しの歌詞と煮えたぎるようなグルーヴに、聴きながら”これだよ、これ!”と思わず笑みがこぼれる。続く「Hometown」の吹っ切れ方も痛快で、『Ogdens Nut Gone Flake』の頃のスモール・フェイセズや、ザ・スモークの「My Friend Jack」をモロに思い出させる、60s趣味全開の電撃的ロック・チューン。しかし豪快なリフに乗るのは「僕のホームタウンでは 誰もが夢を見ている/悲劇 暴政 世の中は変わってしまった!」と都市の荒廃を嘆くリアリスティックな詞だ。



サイケデリック・ロックのマニアなら「Gingerbread Man」に思わず膝を打つだろう。LAのラヴと、シド・バレット在籍時のピンク・フロイドが合体したようなヴィンテージ感満点のトリップ・サウンドは、XTCの変名ユニット、デュークス・オブ・ストラトスフィアもかくやという本気度の高さ。「捕まえようったって無理さ 僕はジンジャーブレッド・マンだからね!」とお菓子人間キャラを演じ切るクリスピアンの脳内には、きっとピンク・フロイド「Vegetable Man」の残像があったはず……その曲の録音現場にエンジニア見習いとして居合わせたのは、初期クーラ・シェイカーのプロデューサーでデュークス・オブ・ストラトスフィアも手掛けたジョン・レッキーだった。





ドノヴァンが歌ったら似合いそうな、フォーキーで牧歌的な佳曲「Farewell Beautiful Dreamer」も強く印象に残る。一度聴いたら耳にこびりつくポップなコーラスは、ライブでシンガロングを誘うのにうってつけだ。もっと煽情的なロックンロールを求める向きには、『K』の爆発力を思い出させる「108 Ways To Leave Your Narcissist」が喜ばれるだろう。

スキットや小曲を挟みながら進む構成のコンセプチャルな大作ながら、純度の高いメロディが続き、最後まですんなり通して楽しめてしまう。収録曲数こそ多いが、退屈する瞬間がなく、繰り返し聴くほどにじわじわと効いてくる、中毒性が高いアルバムだ。収録曲を選りすぐって慎重に曲順を決めた痕が窺える。



「作っていくうちにコンセプトが見えてきたんだ。たくさんいい曲ができたことに気づいたから、アルバム1枚分まで曲を絞りたくないと思ってね。で、2枚組にするなら印象深い2枚組にしようという話になった。そうしたらなかなかシアトリカルなストーリーを思いついてね。いいコンセプト・アルバム……いい”2枚組の”コンセプト・アルバムにするんだったら、誰も覚えられないような長~いタイトルにしようと思ったんだ(笑)」(以下、発言は全てクリスピアン・ミルズ)

「満足できる曲が25曲もできると思っていなかったし。20曲に絞るだけでも大変だったよ」と言うクリスピアンは、バンドの活動と並行して長編映画を2本作った経験が曲の書き方に影響を及ぼした、と自己分析する。これまでも興味を惹くキャラクターやストーリー性を度々歌詞に持ち込んできた彼は、映像制作を通して「曲がビジュアルにどういう風に作用するかをより理解できるようになった」という。

「でもクーラ・シェイカーがまたアルバムを作ることになった一番のインスピレーションは、激変する世界だった。と言うのも正直言って『K2.0』の後は……あれはひとつの周期の終わりを意味する作品だったからね。クーラ・シェイカーのストーリーが『K2.0』で終わるのは間違いない。僕たちは旅に出て、大人になって、成長して、アルバムを作って……そこで終わりだった。クーラ・シェイカーというフランチャイズが(笑)『1st Congregational Church Of Eternal Love And Free Hugs』でリブートしたような感じ。新しい章、新しい命が始まったんだ」

2020〜2021年にかけて、パンデミックの最中に制作を進めた本作は、自宅からベルギーのスタジオへ移動するだけでも煩雑な手続きを経る必要があったそう。「たくさん書類を作らないといけなかったし、ルールもコロコロ変わるし、ほとんど冗談みたいな感じだった」と苦笑まじりに語るが、人里離れた森の中にある「中世の雰囲気がそのまま残っているような村」で集中的にレコーディングしたことが吉と出た。状況が状況なのでスタジオ内でもメンバー間のディスタンスを守る必要があっただろうし、スムーズには進まなかったはずだが、不思議とライブでの彼らを思い出させる躍動感が本作には満ちている。クリスピアンは本作をクーラ・シェイカーの”オルター・エゴ(分身)”と位置付けているそうだ

「ザ・ビートルズが『Sgt. Peppers Lonely Hearts Club Band』を作ったときも分身が必要だった。その分身があったおかげで、彼らは過去から自分たちを解き放つことができたんだ。『1st Congregational Church Of 〜』は僕たちの”分身”のような気がしている。バンドとして今までとは違ったマニフェストを掲げている感じ。クーラ・シェイカーというファミリーを僕たちなりに反映させているつもりだよ。心が軽やかな人ほどクーラ・シェイカーや僕たちのロックンロール愛、スピリチュアルなものへの愛着を理解してくれている気がするしね。僕たちの”健全な反逆者 (healthy rebellion)”のスピリットも。反逆者と言っても、ホテルの窓からテレビを投げ捨てるとか(笑)そういうのじゃなくてね。みんなが一定の考え方を強制してくることに抗って、この暗闇を照らすスピリットになろうとしているんだ。それは、最高のショウをやってロックで人々の頭をとろけさせることを意味することもあれば、愛を分かち合うことを意味することもある」

新作の充実振りに背中を押されたのだろう、現在のクリスピアンは非常にポジティブなモード。2016年以来行なっていない来日公演に対しても前向きで、「(6年も日本に行っていないなんて)クレイジーだよね。コロナ禍のせいで間が余計に開いてしまったし。でもクーラ・シェイカーは今こそさらに力を入れて、ショウをやったり新しい音楽を届けたりする時だと思う。自分の声を活かして、音楽をやる時なんだ」と意欲に燃えている。彼らの新たな黄金期は本当にここから始まるのかもしれない……そう素直に思わせてくれる強力なアルバムの誕生を祝いながら、久々の来日となるサマーソニックを待ちたい。





クーラ・シェイカー
『1st Congregational Church Of Eternal Love And Free Hugs』
2022年6月15日日本盤リリース
視聴・購入:https://SonyMusicJapan.lnk.to/CCELFHRS

SUMMER SONIC 2022
2022年8月20日(土)/ 21日(日)
千葉 ZOZOマリンスタジアム&幕張メッセ / 大阪 舞洲SONIC PARK(舞洲スポーツアイランド)
※クーラ・シェイカー出演:8月20日(土)大阪会場 、21日(日)東京会場
公式サイト:https://www.summersonic.com/




かねてからクーラ・シェイカーの大ファンであることを公言しているmiletから、新作についてのコメントが到着。

この声、歪み、ハーモニーやミックスされたカルチャー。
「おかえりなさい」が溢れる懐かしい安心感と、より洗練された世界の解釈。胸が熱くなる。同じ時代に生きてこの夢を生で感じられる奇跡を噛み締める。
「全て変わったけど私たちは変わらないまま」あなたたちが奏でるその音楽が、私たちの居場所になっているのです。

miletがクーラ・シェイカーについて語った記事はこちら

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