ジャック・ジョンソンが語る新境地とブレイク・ミルズの貢献、家族や自然へ対する思い
Rolling Stone Japan / 2022年6月23日 18時0分
自然(海)と寄り添った暮らしのなかから生まれた波動を、シンプルなアコースティックギターの音色と、優しく語りかけるようなボーカルで表現。21世紀における「サーフ・ミュージック」のスタンダードを築き上げた存在である、ジャック・ジョンソン(Jack Johnson)。デビュー盤『Brushfire Fairytales』の発表から20年以上、時代に流されることなく、常に大切な家族や環境と共に過ごすことの大切さを訴えてきた彼が、パンデミックという予想もしなかった大波を乗り越えて、5年ぶりとなるオリジナル・アルバム『Meet the Moonlight』を完成させた。
「思わぬ事態に遭遇してしまったことで、ずっとハワイにこもりっきりの生活が続きました。でも、私にとってはとても良い時間で、大好きな地元で愛する人たちと過ごし、たくさん曲を書く時間が持てたのです。結果、友情、隔離、旅をするということ、他人への思いやり、信念体系など、さまざまなことを考えて、アルバムが出来るくらいのボリュームの楽曲が誕生しました。今のこの異常な状況のなか、人の本質はそう変わってはいないと思いますが、ソーシャルメディア含め、テクノロジーの性質は大きく変化している。本作の歌詞には、そんなことが表れていると思います」
代表曲のひとつ「Better Together」(2005年の2ndアルバム『In Between Dreams』収録)
本作は、フィオナ・アップル、ジョン・レジェンドなどを手がけているブレイク・ミルズと初タッグを組んで完成させたもの。ハワイの自身所有のマンゴー・ツリー・スタジオとLAにてセッションした1枚である。
「ブレイクの音楽は好きで、いつもアルバムを聴いていましたが、彼がプロデュースをする人だとは知りませんでした。教えてくれたのは私のマネージャーで友人のエメット・マロイ。それで興味を持ち、彼が手がけたものを聴いてみた。すると大好きだったアラバマ・シェイクスの数年前のアルバムも彼によるものだったし、他にも知らずに聴いていた作品がたくさんあるとわかった。自然に私が惹かれた音楽の多くが、彼のプロダクション、もしくは彼自身の楽曲だったのです。それで話を始め、流れでスタジオに入り、気づけば一緒に作業をしていた。私たちの関係は例えるなら、ベン図式(venn diagram)です。交差する部分がたくさんある一方で、私にはあまりない実験的で変わったジャズのような音楽性もブレイクにはあり、本当に幅広い引き出しがある。ゆえに、普段の自分の世界を飛び出し、新しい場所へ引っ張ってもらえたというか。それをスタジオに持ち込み、一緒に作業できたのは本当に良かったと思います」
ブレイク・ミルズが演奏/プロデュースした楽曲のプレイリスト
これまでのジャックのサウンドとの共通点がありながらも、全体的に不思議なエコーのかかった世界が広がっている。特にリード・トラックになっている「One Step Ahead」は、デビュー盤にあったような軽快なグルーヴ感に、独特の余韻を加えたような印象。
「この楽曲はユニークで、新しさがあると同時にデビュー盤を制作していた頃のようなスピリットが、呼び戻された印象がしました。また、たくさんの打楽器が入ってる曲でもあります。(ジャックのサポート・メンバーである)アダム・トポールや、ブレイクもドラムを叩き、私もパーカッションを演奏している。大勢の人間があの曲で集まって太鼓を叩いているのは、まるで小さなドラムサークル(円になっての打楽器の即興演奏)のようで、幸せな気分になりました」
幸福なグルーヴを表現していながらも、「一線を越えて」人や自然を敬う気持ちが薄れていってしまいそうな現代の状況を憂う表情がうかがえる楽曲だ。
「私の場合、例えば友人との会話やたまたま誰かと交わした言葉に対して、自問自問し続け、小さな種が植えられ、ずっと忘れられずにいると、その疑問を処理するために楽曲が作られるパターンが多い。曲を完成させたことによって答えが見つかることもあるけど、逆にさらに疑問が深まることもある。この楽曲で歌っているのは、今のこの悪くなる一方の世界の状況の中で、人々はSNSだけでなくメディア全体から発信される、ものすごい量の情報に常に晒されているってこと。あなたが世界が良くなると信じようが信じまいが、情報は押し寄せてくるし、残念なことにその情報の多くがネガティヴ寄りでシニカルなものばかり。でも闇が迫ってくるように感じられたとしても、一線を越えてしまったように思えたとしても、私たち自身がその守るべき一線なのであって、実際に越えてしまったら逆戻りはできない。だから、それを無視したり、そんなことは起きていないと否定するのではなく、世界の美しい部分に目を向ける余裕を頭の中に残しておくべきだという。少なくとも、私はそうありたいということを歌っている楽曲なのです」
家族や自然へ対する思い
タイトル・トラックである「Meet the Moonlight」も、日常に横たわる美しさについて綴った楽曲だ。
「夢を見るのは大事だが、それを見過ぎて、今目の前にあるコネクションを忘れてはならない。月明かりに出会う(meet the moonlight)、つまり美しい状況に自分がいるためには、扉を開け、扉を越えさえすればいいのです。私は外で過ごす夜が好きなのに、ここ最近しなくなってた。でもある夜、散歩に出かけ、月明かりに再会してみて”どうして忘れていたんだろう?”って。この楽曲では自分自身に、そのことを忘れるなと言っている。月に会うのは簡単なことで、外に出さえすればいい。人生において、シンプルな選択が大きな効果につながることもある、ということを伝えているのです」
そのほかの楽曲も、自身の生活において最も大切なものは何か?を問いかける内容になっている。
「日々、発信されている情報の数々は自分にとって有益なものなのか。どうやって、それを判断していけばいいのか。判断するためには何が必要なのか。アルバムでは、その逡巡をテーマにしている楽曲が多いと思います」
また、どんなに時間が経過しても変わらないジャックの家族や自然へ対する思いも伝わってくる作品に。
「私はどんな時も、自分の気持ちに忠実な曲を書きたいと思っている。1stアルバムで歌っていたのは、6人の人間との共同生活のことばかりだった。というのも、そのちょっと前に大学を出て、僕の経験は6人の大学の仲間との1軒の家での暮らししかなかったですから。周囲の人間関係もよく知らないし、世の中のことも模索してた時期でしたね。2ndになると、その頃よりは旅をし、他の世界を知り社会的な論評も増え、そして3rdをリリースした頃に初めての子どもが生まれた。今聴くと、そこ(3rd)にはキラキラとした明るさが感じられ、おむつをつけた1歳の子が私の隣でピアノを弾いてる姿が、今も目に浮かぶ。新しい世界、新しい生命に囲まれて自分は音楽を作っていました。そうやってアルバムは当時の自分自身の姿、さらには子どもたちの成長ぶり、世の中に対して問いを投げかけてくる彼ら(子ども)を見ている自分が映し出されていた。今も、嘘のない誠実な場所にいると思います」
Photo by Morgan Maassen
また、ジャックは音楽活動だけでなく、妻のキムと共に、環境団体『コクア・ハワイ財団』を設立。子どもたちに自然と「誠実に」共生することの大切さを教育している。
「財団をスタートさせてから、もう20年になります。その間、学校の花畑や菜園を作るのを助けたり、ハワイ島内の農場で子どもたちが学べる課外授業を企画したり、授業内プロジェクトのための助成金を援助したり、学校を中心に様々な取り組みをしてきました。現在、取り組んでいる『KOKUA LEARNING FARM』は、子どもたちが野菜を育てたりできる体験学習型の農園。幸い敷地内には、泉が沸いていて淡水がふんだんにあるので、kalo(タロイモ、古代ハワイの主食)を育てる伝統的農法も実践できる。また原生湿地帯を作ることで、消えていた在来の鳥や虫が戻るようになった。私が好きなのはそういう部分。決してポジティブとは言えない世界だとしても、そのなかでポジティブな曲を書くことの意義、というさっき話した話に繋がってくるのです。世界の気候状況を考えた時、流れてくるのはネガティブなニュースばかり。でも時々、私は小宇宙に目をやり、在来の鳥や虫たちに目を向ける時間を持ちたい。虫が戻ってくることで、鳥が戻る。そんなポジティブな連鎖、ささやかな幸せを見つけることの方が、ずっと楽しいと思えますから」
これからも、ささやかな幸せに寄り添いながら、独自のペースで活動していきたいと語るジャック。
「10年後もあまり変わらず、好きなだけサーフィンと音楽を続けられたらと願う。いつも自分で自分をつねってるのです。音楽が自分の生涯の仕事になるだなんて信じられなくて。家でも音楽をやっていると子どもたちに『それで仕事になるなんて、クレイジーだ』って言われますしね。いずれにせよ、今となるべく変わらぬ人生を送り続けることが、私のゴール。なるべくたくさんの音楽を作り、たくさんの波に乗りたいと思います」
ジャック・ジョンソン
『Meet the Moonlight』
2022年6月24日リリース
日本独自デラックス盤:CD+DVD (DVD: ”観るベスト・アルバム”
これまでのMVやライブ・ビデオ等10曲&最新インタビュー(20分)収録)
通常盤:CD
視聴・購入:https://umj.lnk.to/JJ_MeetTheMoonlight
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